転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
何とかあの後、ミクモちゃんとロウクにも納得してもらって。
俺達は妖怪因習村へとやってきていた。
「今回妖怪因習村に改造された土地は、複数の動物系妖鬼からなる里だそうです」
『我等や退魔師共とも多少ながら交流があり、それ故に我らの察知も早かったのだ』
「それはつまり……向こうも遅かれ早かれ外部にバレることが解ってる、ってことだな」
どういう意図で里を乗っ取ったのかはしらないが、向こうも相応の準備をしていると思っていいだろう。
対してこちらは、ほとんど対策もなしに急行する形でここまで来ている。
最大限の準備はしてきたが、それでも迎え撃たれるこっちは圧倒的に不利だ。
『とはいえ、一号妖鬼に退魔師、それから何をやらかすかわからん霊媒師。これだけの戦力を集めてこの短期間でここにたどり着くことができるのは我々だけだ』
「そうですよ、現状集められる最大戦力で攻めようってんです、なんてことはありません」
君たち、俺に対する当たりは相変わらず強いね。
それはそれとして。
「大丈夫かい、シオンちゃん」
『うす、問題ないっす』
「……きつそうだったら、ここで待機してなにかあったらリツ様に連絡するっていうのも、ありですよ」
『ううん、いいのミクモちゃん。――アタシはここに行くべきなんだ。アタシの直感が、そう告げてる』
少しだけ緊張した様子だったシオンちゃんに、声を掛ける。
すると覚悟を決めた様子で、鋭い視線を里の入口に向けた。
俺の直感も、シオンちゃんを連れて行くべきだと言っている。
ここは、それに従うとしよう。
さて、里の入口は一つの鳥居だ。
これを結界とし、中に妖鬼たちの集落が築かれているらしい。
「ここに至るまで、雨や思考誘導の類はなかった。俺達をおびき寄せることそのものが思考誘導の可能性はあるが、それは考えても切りが無い可能性だ」
『……行くしかない、ってことだよね』
「そうですね。だからこそ、準備は万全にして行きましょう」
とりあえず、移動中に解ったのは里がどのような妖鬼達の集まりか。
そして里で暮らしている妖鬼の数はどれくらいか、だ。
数は二十、一号妖鬼は存在せず、全て二号妖鬼の集落らしい。
『つまるところ、制圧するだけなら我だけでも容易ということだ。最悪里の妖鬼を制圧し、本丸を落とせばいい』
「いやいやいや、それはダメですって」
ロウクの言うことはともかく、村の規模としてはかなり小さい。
シオンちゃんの村でも、もう少し住人の数は多かった。
というか、シオンちゃんの村くらい人数がいないと、因習村として成立しないのだ。
神としての力を高めるのに、数が足りないのである。
そう考えると、今回妖鬼の里を支配した神の意図がいまいち読めない。
何か狙いがあるなら、ともかく。
これでは信仰を得るには数が足りないだろう。
「ともあれ、今は中に入ろう」
「はい、準備バッチシです!」
『ふん、行くぞ』
『は、はいっす!』
ミクモちゃんが最後の準備を完了させるのを待って、俺は声をかける。
荷物を改めて確認したミクモちゃんが、手を上げて元気よく返事をして。
皆もそれに続いた。
さて、中に入ると――
『あ、外の人だ。
近くにいた、狐の妖鬼がそう声をかけてくる。
にこやかに、こちらを視認すると歓迎ムードでぱたぱたとよってきて。
待ってました、と。
これは――まずい。
『わぁ、こんなに一杯外の人が来るなんて、いつ以来でしょう。歓迎しますね!』
好奇心旺盛な様子で、俺達を歓迎してくれる狐の妖鬼。
だが、それは明らかにおかしい。
因習村に囚われている者たちは、多くの場合他者を拒絶する。
歓迎するということは――それだけ神の支配が強いという証拠。
『あ、あの霊媒師さん……』
「大丈夫、歓迎されてるうちは危害を加えてきたりはしないから」
恐る恐るといった様子で、こっそり声をかけてくるシオンちゃんにそう告げながら。
俺は周囲を見渡す。
すると――
『おお、それはありがたい。この一号妖鬼ロウク、貴様らの歓迎を受けてやろうではないか』
『本当ですか!? 一号妖鬼の方が来てくださるなんて。嬉しいなぁ!』
まぁ、こいつがこうなることは想定済みなので問題ない。
仮に向こうへ支配されても、ロウクは特殊な能力とか持ってないからな。
物理だけなら、俺一人で割とあっさり対処できる。
だからこそ、支配される可能性を考慮しても問題ないと判断してロウクをここに連れてきたわけだし。
んで、問題は――
「わぁ、歓迎ですって。えへへ、ここまできたかいがありましたね、霊媒師さん」
それはつまり、ただ妖鬼の特性を利用して支配しているのではない。
純粋にここにいる神の支配力が高いという証。
想像以上に厄介な相手だぞ、こいつは――
それはそれとして。
『そっちの子も、すっごく可愛らしいですねぇ。特にその
「ええそうですかぁ? なんで生えてるのかわかりませんけど、可愛いですよね。ワン!」
何故かミクモちゃんの頭に、犬の耳が生えていた。
ロウクみたいな狼のそれとは違って、ぺたっとへにゃる感じの可愛らしい犬耳だ。
……なんで?
俺はシオンちゃんと二人で、何故か生えたミクモちゃんの犬耳に疑問符を浮かべていた。
◯
「やばい」
『やばいっすね』
俺達は現在、歓迎してくれた狐妖鬼の案内で、古ぼけた民家に通されていた。
シオンちゃんとこの村みたいな、過疎村の古い家屋という感じではなく。
時代劇に出てきそうな古い家だ。
「ちなみに、ここでの会話は聞かれてると思ってくれ」
『……それ、そもそも喋っちゃ不味くない?』
「向こうは俺達が侵入者であることは既に気づいてるはずだ。やばいやばいと右往左往してる分には問題ない」
そもそも、向こうが今の時点で仕掛けてこない当たり、向こうにも何かしら仕掛けられない事情があるはずなのだ。
であるなら、ここで悠長にしている分には向こうも行動を起こさないはず。
とりあえず、状況を確認して作戦を立てる時間くらいはある。
――なお、ここからの俺とシオンちゃんの発言は全て筆談だ。
ややこしいので普通に話している体で進める。
「まず、状況としてはそこまで切羽詰まってはいない。そもそも向こうがこっちの侵入に合わせて襲撃してこない時点で、向こうにも襲撃できない事情があるからだ」
『なんか、向こうは向こうで悠長すね』
「多分、本来なら全員洗脳してそれで詰みなんだよ。俺とシオンちゃんっていう洗脳が効かない奴がいたから、向こうも焦ってるはずだ」
『霊媒師さんはともかく、アタシも洗脳効かないの意外だね』
それは確かに。
俺の場合は、畏れを感じないからなのだが。
シオンちゃんは別にそんなことはない、というのは事務所で暇だったときに確認済み。
というか、事務所の三階で遊んでたシオンちゃんが、入ってきた二号霊魂にビビって逃げてきたことで把握できていた。
「ただそれでも、厄介なことに違いはない。向こうはこちらの因習村破壊について対策を打ってきている」
『例えば?』
「雨などの誘導が必要ない場所に因習村を構えたり、とかな」
天候による誘導は、木っ端神魔の常套手段だ。
それを使う時点で神魔の格というのがある程度知れてしまう。
「加えて、妖鬼を村人に選んだのも厄介だ。相手の思考誘導のレベルがわからない」
『前にも言ってたよね。妖鬼の特性を利用した、とかなんとか』
「妖鬼はこういう思考誘導の影響を受けやすいんだよ。思考誘導は魔の能力だが、妖鬼は魔そのものだからな」
人と”魔”は水と油の関係だ。
だが、妖鬼と”魔”は同じカテゴリ。
水と油を混ぜるよりも、ずっと混ぜやすい。
「ミクモちゃんが洗脳されたのも、霊力をその身にやどしてるからだろう」
『それ、なおのことアタシが洗脳されなかった理由がわかんねッス』
「だなぁ。それにしても……」
そこで、俺達は話が一旦煮詰まったので視線を移す。
視線の先には――
『ワン! ワン!』
「うううううっ、ばうっ!」
『キュウン……』
なにやら犬語で会話するミクモちゃんとロウクの姿があった。
というか、ミクモちゃんがロウクを威嚇していた。
ロウクお前……
『見ている分には、ミクモちゃん超かわいいっすね』
「正気に戻ったら、見たことは忘れてやるんだぞ。ミクモちゃん多分一生引きずるから」
『うす』
ミクモちゃんとロウクは完全に犬と化していた。
一応ミクモちゃんは今もまだ犬耳美少女のままなのだが、挙動は概ね犬である。
俺達の案内をしてくれた狐は知性を保ってたのに、ミクモちゃんとロウクは野生に帰ってるのは神が意図してそうしてるんだろうな。
「わうっ」
『あ、こっち見た。おいでおいでー』
と、そこでミクモちゃんが俺達に興味を示し、駆け寄ってくる。
そして手を差し伸べているシオンちゃんをスルーして、俺の元へやってきた。
『なんでー!』
「くうーん」
「よしよし。……実際なんでだろうな?」
ミクモちゃんがシオンちゃんを認識できていないのは、先程からのことだ。
なんとなくだが、その様子には違和感がある。
『やっぱ付き合いの長さ……?』
「いや、そういうわけじゃないと思うんだよ。なんというか、さっきから結構違和感があるんだ。狐妖鬼に案内された時からなんだが……」
ミクモちゃんを撫でながら、思案する。
その横にシオンちゃんがやってきて、ミクモちゃんに触れた。
『うーん、かわいいなぁ。写真に残したりしない?』
「しない。ミクモちゃんの尊厳を守るんだよ、俺は保護者だからな」
『真面目だなぁ』
なんて話をしつつ、シオンちゃんがなんかこう、あちこちをサワサワし始めた。
「こらこら」
『うーん、やっぱミクモちゃんって、でかいよね……アタシそこそこだから羨ましいな』
「そろそろやめなさいって……ん?」
シオンちゃんを引っ剥がして、ふと、俺は違和感を感じる。
――いくらなんでも、反応しなさすぎじゃないかミクモちゃん。
「……シオンちゃん、ちょっと少し離れてもらえるか?」
『え? あ、あいっす』
「……んで、このボールペンを、取ってきてもらえるかミクモちゃん」
シオンちゃんを少し離し、コロコロと筆談に使っていたボールペンを床に転がす。
するとボールペンはシオンちゃんの足元を通り過ぎて、奥の方へ転がっていった。
そして、ミクモちゃんがそのボールペンに興味を示し――
「受け止めてくれ、シオンちゃん」
『お、おお!?』
シオンちゃんが、突っ込んでくるミクモちゃんを受け止めた。
「わ、わう!? わうわう!」
「――やっぱりだ」
『え、これってもしかして――』
そして、俺達は確信する。
「ああ、ミクモちゃんは――というか、この妖怪因習村の思考誘導を受けた存在は、
シオンちゃんが思考誘導を受けないのは当然だ。
思考誘導を行うはずの存在に、
――なるほどこれなら、反撃の糸口が見えてきたな。
ひどいこと開始ー!
あとこれはネタバレですがミクモちゃんの犬耳は永続します。