転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
まさか、神そのものを踏んだんじゃないだろうな?
いや踏んだなら踏んだで話は早いんだが。
それはそれとして、いくら俺でもそんな決着なかなか見たことないぞ!?
本当にやったのか!?
やっちゃったのか!?
『むむ、なんだぁ』
「――妖鬼を踏み潰したのよ」
「えっ、大丈夫なんですかそれ!?」
訝しむロウクを他所に、すでにこのことを察知していたリツが告げる。
び、びっくりした、神を踏み潰したわけじゃないみたいだ。
こういう探知能力はリツが一番優れているな。
「問題があったら止めてる。……相手は一号妖鬼みたいね」
『む、おお……? よく見たら天角と地角の兄弟ではないか! このような場所で何をしているのだ!?』
そしてどうやら、ロウクの知っている妖鬼だったようだ。
まぁ、妖鬼の社会は狭い。
一号妖鬼同志なら、面識はある可能性が高いし。
そうでなくとも名前くらいはしっているだろう。
『鬼の妖鬼兄弟だ。我とはあまり関わりはないが、強さで名のしれた連中よ』
「外から洗脳して連れてきたんだろうな。自分の護衛として」
一号妖鬼を、それも二体。
こうしてロウクをリツが支援すればなんてことのない相手だが。
もし仮にリツのいない状態で、俺とロウクとミクモちゃん。
三人で戦えばそこそこ苦戦するだろうな。
今回の場合、被害者だから殺しちゃいけないってのも面倒な条件だ。
『それにしても、あの天角地角兄弟を踏み潰してしまうとはなぁ。我も強くなったものだ!』
『ロウクっち調子乗ってるー』
「私から力を借りておいて、面の皮が厚いったら」
調子に乗らせると、無限に乗っていくのがロウクだ。
あまりにも調子に乗らせすぎると油断してしまうが、その油断さえこちらで気をつければ。
ロウクは調子に乗らせたほうが強い。
「よし、ロウク。その調子で神の元へ向かうぞ」
『ああ任せておけ。神も同じように踏み潰してくれるわ!』
というわけで、調子よくロウクに声をかけて先を促す。
洗脳した一号妖鬼に守らせていたということは、そろそろ社が近いのだ。
それにしても――
『無用』
と、その時。
鈍い地響きとともに、声が聞こえてくる。
若干ロウクが体勢を崩し、小屋が揺れた。
「わわわ」
『ミクモちゃん、大丈夫?』
ミクモちゃんとシオンちゃんが、お互いを支え合う。
なお、リツはすでに空中を浮遊して退避していた。
ちゃっかりしているなぁ。
さて、声の主が誰であるかは、今更語るまでもないだろう。
『ぬ、なんだ……』
『神は、ここに、いる』
神だ。
それは、ゆっくりと。
地面をかち割って現れた。
黒ずんだ蛇だ。
『退け、狼の子よ。貴様では、我に勝てぬ』
『む、ぅ……』
そしてそれは――今のロウクよりも更に大きい。
とんでもないデカさだ。
ロウクが萎縮してしまうのも、解らなくはないな。
「――穢土蛇ね」
『えどへび……? なんスか? 神の名前……であってる?』
「あってるよ。しかし穢土蛇かぁ」
穢土蛇。
前にリツから、少しだけ聞いたことがある。
生と死を司る神の一柱で、今はもう忘れられて等しいというけれど。
「昔は、そこそこの地域で信仰されて、力を持っていた神。でも、今の時代は忘れられて久しいと思っていたのだけど」
『――龍神よ、貴様には分からないだろう』
ロウクが萎縮してしまい、場の空気は穢土蛇に支配されている。
そんな中、リツのつぶやきを目ざとく聞きつけた穢土蛇が叫んだ。
『力を失い、忘れられていく恐怖を! その中で、再び力を手に入れられると知った時の歓喜を!』
「ええそうね、私は人の信仰などどうでもいいし――今はもっと大切なものがあるのだから」
そう言って、俺に抱きついてくるリツ。
真面目な話をしているので、ここは何も言わない。
突っ込むとギリギリ締め上げてくるからな、このまま。
「――神よ、この集落には二十の妖鬼がいたはずだ! 今、村には十の妖鬼しかいない!」
『そうだな、貴様が非道な手段で制圧した、奴らしかおらぬ』
「非道……って、何をしたんですか」
そこは反応しなくていいから、ミクモちゃん。
「残りの妖鬼はどこにいった!」
『呵々――奴らは、自らの意志で試練に挑んだのだ』
「洗脳しておいて、よく言う!」
試練に挑んだ。
その言葉から、嫌な予感がする。
こいつのしでかしたことが、
『洗脳ではない。我は道を示したに過ぎぬ! この里の妖鬼たちは弱い。
「……そ、それで私まで洗脳されちゃったんですね!」
頭の犬耳を撫でながら、ミクモちゃんは恥ずかしそうに叫ぶ。
なるほど、穢土蛇の洗脳には条件があったのだ。
その条件を満たしたものに、強く効果を発揮するという。
蛇は脱皮により、輪廻転生と成長を司る。
強さへの渇望を条件に洗脳することは可能だろう。
とはいえ……それ、この神の発想か?
「とにかく、もういいだろう神よ! お前は詰んでいる! これ以上抵抗してもより苦しむだけだ!」
『詰む? 何を言っている。見よ、この姿を! その狼が萎縮する姿だ! 我は貴様らをここで喰らい――』
「――それは不可能だ」
何にせよ、早くこの神をどうにかしよう。
俺には畏れが通じない。
だからこいつの、真の姿も見えているんだ。
「ロウク! よく聞け!」
『れ、霊媒師……』
「
『――――!』
神が、途端に目を見開く。
そう、ロウクよりも巨大化しているように”見せている”あの姿は幻覚。
ロウクが萎縮しているのは、神の洗脳によるものだ。
『や、やめろ』
「本来の神は、先程の鬼兄弟より更に小さい。今のお前なら……踏み潰せる!」
『やめろ!!』
――そして。
『ク、ハハ……ハハハ! そういうことか! ビビらせおって!』
俺の言葉に、ロウクは正気に戻る。
そして――
ぷち。
神は先程の鬼の妖鬼と同じように。
ロウクの巨体に、ぷちっとされた。
◯
その後、リツが直接神を取り込んで合一させ。
今回の因習村破壊は完了した。
幸いだったのは、やってることの規模に対してそこまで力が強くなかったところ。
一応、穢土蛇は一号神魔だけど、信仰を失って力を無くしてたんだろう。
危険度でいうと、先日の海士蜘蛛よりは厄介なので高。
邪悪度は……さて、この後次第だが、激高まで行くかもな。
「これで、今回の一件も一段落でしょうか」
『まだだ。妖鬼たちの半分がどこかへ消えている。それを見つけないといけない』
現在、ロウクは元のサイズに戻って、小屋は元あった場所に戻してきてある。
そのうえで、俺達は再び穢土蛇が現れた社の辺りまでやってきていた。
途中、天角地鬼兄弟を起こして、里の妖鬼のことを兄弟に任せる。
最初は混乱していたが、状況を説明したら快く引き受けてくれた。
俺がやむなく妖鬼達を制圧したことを話したら、めちゃくちゃ怯えていたが。
まぁ、それは置いといて。
「恐らく、社で何かをしているはずだ。まずはそれを見つける」
『そもそも社がどこにあるのかわかんないよーっ! 急造で建てられてるだろうから、絶対立派な感じじゃないよね』
仕事は終わったとばかりに、先に事務所へ帰ったリツ以外の面々で、穢土蛇が出現した場所を探すことしばし。
シオンちゃんの言う通り、社は急ごしらえの適当なもののはずだ。
実際、ロウクとミクモちゃんが破壊した祠も、石を積み上げた簡素なものだったという。
最終的に、俺達は里のハズレにかなり深くまで空いている”孔”を見つけた。
そこから少し神力が漏れていて、これではないか……というのがミクモちゃんの弁。
『本当にあっているのか? こんなみすぼらしい孔が社などと』
「穢土蛇は死を司る神です。だからこういう、黄泉につながっている孔は社として機能するはずです」
『――黄泉だと?』
ミクモちゃんの言葉に、ロウクが反応する。
ああ、やはりか。
あたってほしくはない推測だったが。やはり穢土蛇の狙いはこれだったらしい。
黄泉、というのは言うまでもなくあの世ということだ。
『どういうことだ、あの蛇神、何をしようとしている!』
「お、落ち着いてください。どうしたんですかロウク」
「ロウクには色々あってな。……残念ながらロウク、穢土蛇は洗脳した妖鬼で
『……グウウゥォオオオ!!』
俺の言葉に、怒り混じりの咆哮を上げるロウク。
事情を知らないミクモちゃんとシオンちゃんは困惑していた。
『
『え、ええと……霊媒師さん。黄泉還りっていうのは……』
怒るロウクから距離を起きつつ、シオンちゃんが問いかけてくる。
「黄泉還りっていうのは、零号じゃない妖鬼が零号になるための方法だ」
零号妖鬼には最初から零号だった奴と、途中から零号になった奴がいて。
後者の方法に必要なプロセスが、黄泉還りである。
前者はロウクの父親。
後者は……様々な事情が重なって、ロウクのお姉さんがこの方法で零号に
まぁ、それに関しては今はおいておいて。
「こういう黄泉につながっている孔に入ってから帰還したり、自分から仮死状態になって蘇生したりすると、零号――一番強い妖鬼として蘇れるんだ」
『そ、蘇生するって……』
なにやらシオンちゃんが引いているが、今回の場合は前者の方法だ。
この孔から妖鬼を
『なんてことをしてくれたのだ、あの神は! ええい、我が喰らい殺してやろうか……!』
「落ち着けロウク。神はすでにリツが合一させた。今は黄泉に落とされた妖鬼たちを助ける方法を考えるべきだ」
『助ける!? 無茶を言うな、黄泉に落ちた妖鬼は死の畏れに晒される。人であればそもそも戻ってこれん! どうしろというのだ!』
黄泉還り最大の問題は、死に対する畏れだ。
黄泉はあの世だ。
故にそこへ足を運べば、死への畏れを直接その身に感じる。
人であればそのまま畏れによって殺され、妖鬼であっても精神が保てるかは微妙なところ。
というか、黄泉還りを試した大半の妖鬼は死の畏れを克服できず帰ってこれない。
とはいえ、見込みがないわけではないのだ。
「妖鬼たちが落ちてから、まだ半日も経ってない。俺達が早くに妖怪因習村を破壊できたことで、落ちた妖鬼が助かる見込みはある」
『だからとて、如何に妖鬼たちを引き上げるのだ。蜘蛛の糸でも足らせというのか?』
問題は、やはりどうやって妖鬼を引き上げるか、だ。
まず、妖鬼達は死の畏れで精神を衰弱させているはず。
そこに救いの糸を垂らしたとて、彼らがつかめるかどうかは、賭けになる。
でも、方法がないわけではい、と俺は思うのだ。
故に、一つの前提を俺は口にする。
「俺は死の畏れを感じない」
その言葉に、この場にいる全員がうわ、みたいな顔をした。
何もそんな顔しなくても……
「……まさか、黄泉に落ちるつもりですか、霊媒師さん」
「孔が空いてるんだ、紐で身体を括って降りていって、回収してもらえれば戻ってこれる」
『ええと……もしかして回収するのって』
「ああ――頼めるか、シオンちゃん」
というわけで、俺は再びさっき作っておいた御札の紐を身体に括り始めた。
皆が止めようか、止めまいか、微妙な空気を出し始める中。
妖鬼達の救出作戦が始まる――
ここでタイマーストップ。でもまだ遠足は終わりません。