転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第36話 妖鬼たちを釣り上げろ

「あの、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だって、安心してくれ。俺は問題ないから」

『わ、私の手に霊媒師さんの命がかかってるって……怖すぎだよお!』

 

 御札を命綱に、これから俺は妖鬼の回収へと向かう。

 今はミクモちゃんとシオンちゃんが心配する中、孔へと飛び込もうというところだ。

 

「まぁまぁ、考えても見てくれシオンちゃん」

『な、何かいい考えがあるんですか?』

「リツが止めに来ないってことは、まあなんとかなるってことだ」

「呆れてものも言えないだけじゃ……」

「そうともいう」

 

 俺の言葉に、二人が「ちょっと!?」となる。

 とはいえ、リツが出てこないというのは、それだけ俺のことをリツが心配していない証。

 確かに呆れてはいるだろうが、問題があるとは思っていないだろう。

 

『……霊媒師』

「どうしたんだ、ロウク。そんな神妙な面持ちで」

『はっきり言って、無茶だ。いくら貴様が霊媒師だろうと、黄泉から妖鬼を救出するなど』

 

 そしてロウクが、真剣な様子で俺に呼びかけてくる。

 ロウクがここまで真剣に話しかけてくるのを見たことがなかったミクモちゃんが、目を丸くしていた。

 

『だが――そのうえで、頼む。妖鬼たちを、助けてくれ』

 

 それくらい、ロウクにとって黄泉還りで妖鬼が失われることは避けたいことなのだ。

 俺もそれは、重々承知している。

 

「――わかった」

 

 ここまで真剣に、ロウクから頼まれて。

 それを嫌だとは言えないだろう。

 ミクモちゃんもシオンちゃんも、覚悟を決めた様子。

 俺の視線に二人が頷く。

 かくして、俺は孔の中へと降りていった。

 

 

 ◯

 

 

 ――しばらくは、重力を感じながら降下していって。

 あるところでふと、それを感じなくなる。

 そこからは黄泉――この世ならざる場所の境界だ。

 海を潜るように、俺はその中を進んでいく。

 

 周囲には、死の気配があった。

 かつて俺は、これを強く感じたことがある。

 前世から、今の人生へと生まれ変わる時。

 俺は確かに死の中にいたのだ。

 

 最初のうちは畏れがあったのかもしれないが、やがて感じなくなり。

 生まれ変わった頃には、俺は今の体質になっていた。

 すくなくとも、この場で俺が死の畏れを感じることはない。

 

 持ち込んだリツの鈴を反響させる。

 周囲に、か細いけれど気配がある。

 そこにむかって、俺は前進を開始。

 やがて――弱った妖鬼を見つけることができた。

 

「大丈夫か」

『……ぁ、ぇ』

 

 妖鬼は、死の畏れを直に浴びて弱っている。

 かなりギリギリと言った様子だ。

 俺は御札を引っ張って、シオンちゃんに回収を頼む。

 まずは一匹、これをあと十回だ。

 

「おい、しっかりしろ。もう大丈夫だからな」

『……ぅぅ』

 

 それにしても、これだけ弱っていると後のことが心配だ。

 多少荒療治でも、気付けが必要か。

 

「しっかりするんだ!」

『え? ……ぁ、ああああ!?』

 

 方法は単純に、大声で呼びかけてこっちを認知させること。

 死への恐怖を別の感情で塗り替えるのだ。

 

『え!? 何!? 俺はどうして!? なんだお前!?』

「落ち着け、俺はお前を助けに来たんだ。もうすぐ脱出できる!」

『ここ……黄泉!? なんでこんなところに!? っていうかなんでお前は平気な顔してるんだよ!?』

 

 妖鬼達は、穢土蛇に洗脳されて黄泉に落とされている。

 正気に戻れば、自分がどうして黄泉にいるんか疑問に思うのは当然だ。

 それはそれとして、なんか黄泉にいることより俺の存在の方が畏れられてない?

 

「おちつけ! もうすぐ助かるから、このままジッとしててくれ!」

『うわああああ怖いよおおおお! 頭のおかしい人間が黄泉で平気な顔して俺を連れ去ろうとしてるよおおおお!』

「頭はおかしくない……おかし……いいから!」

 

 ちょっと否定できなくなって、俺はなんとか妖鬼を落ち着けるのに終始した。

 とはいえこれなら、黄泉の畏れにやられることはもうないだろう。

 無論、中途半端に冷静になっているから、黄泉還り自体は失敗しているが。

 黄泉還りははっきり言って歪んだ方法なので、失敗するならそれにこしたことはない。

 

 やがて、俺はそれからあの世とこの世を十回往復して、妖鬼の救出に成功した。

 そして十回中十回、頭のおかしい人間判定された。

 解せぬ。

 

 ――さて。

 

 このとき、俺は敢えて存在を無視していたのだが。

 確かに感じていることがあった。

 ”何か”の視線だ。

 一つの視線が、常に俺を見ていたのである。

 向こうから接触してこなかったのは、こっちがその視線を意識しなかったからか。

 目が合わなかったのだ。

 こういう視線は、目を合わせることで呪いが発動することがある。

 俺に呪いは効果がないが、向こうの狙いに乗るのも癪なので、無視しておいた。

 

 これに関して、言えることは一つ。

 穢土蛇は、すでに力を失って久しい神だ。

 だが、今回の方法は穢土蛇ならば何時でも試すことのできた行為。

 結果として、俺がいなくとも周囲から袋叩きにあって失敗することは間違いないが。

 本命はこの黄泉還りだったはずだ。

 俺が半日で攻略してしまったせいで、結果をみることはできなかったが。

 本来ならば、黄泉還りの結果くらいは確認できたはず。

 

 穢土蛇は、勝算があって黄泉還りを試したのか?

 それとも()()()()()()()、黄泉還りを()()()()()()のか?

 答えはわからない。

 だがこの視線が示唆するものは――穢土蛇に知恵を貸した黒幕の存在だった。

 

 

 +

 

 

 それから、事後処理は結構どたばたした。

 事前に目覚めていた天角地角兄弟がいたとは言え、洗脳されていた二十の妖鬼はまさしく大混乱。

 突如洗脳されたり、突如突き落とされたり、突如後ろから気絶させられたり。

 散々だったという。

 最後はごめんなさい。

 

 その後、ロウクの母君が事態の収拾にやってきたり。

 退魔寮にもミクモちゃんの親父さんを介して説明をしたり。

 兎にも角にも、被害の割に注目度は高い事件だった。

 いや実際には被害が大きくなる前に俺が何とかできたってだけで。

 事件の規模としてはこないだのタツメ事件に匹敵しうる事件だっただろうけど。

 

 その後もしばらくは色々と、後処理の対応に追われた。

 一番の問題は俺を”視ていた”何者だが、それに関しては今のところ情報はない。

 妖鬼達も退魔寮も、独自に調査を進めているというところだ。

 こういう時、独自のコネが宗屋さんしかいない俺は、受け身に回らざるを得ないのが弱点だな。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。

 そのミクモちゃんだ、今回一番の問題は。

 いや、事件の最中は一番ではなかったと思うけど。

 いろんな問題が無事に解決した結果一番になったというか……ようするに。

 

「ううー、それにしても。この犬耳と尻尾は一体いつになったらなくなるんです?」

「あら、似合ってると思うわよ?」

「もー、リツ様は自在に尻尾出し入れでいるからそんなふうに言えるんですよ! 大変なんですからね、うっかり尻尾を座るときに踏み潰しちゃうときとかあって!」

 

 ――そう。

 妖怪因習村突入時に生えたミクモちゃんの犬耳と尻尾は、未だ健在だった。

 普通こういうのって、神を倒した時か里を抜けるときに消えるものじゃないのか? と思うのだが。

 何故かそのままなのである。

 

『いいではないか、ほれ、お手』

「わふっ……って何させるんですかロウクー! 自分だってお手って言われたらお手するくせに!」

 

 しかも、なんか若干習性が犬っぽくなっている。

 鼻が敏感になったり、感情と尻尾が連動したり。

 

「いや、本当に何なんですか?」

「わからん……俺もこんなことは初めてだ」

「霊媒師さんのことですから、犬耳が生えた経験くらいあると思ってました」

「君は俺を何だと思ってるんだ」

 

 流石にそんな経験ないぞ。

 というか、あったらリツがもっとすごいことになってる。

 多分事務所の神棚か社にその時の写真飾ってるだろうな。

 

「ただ、この耳尻尾が消える条件が”神を倒したら”消えるものだとしたら。理由には心当たりがある」

「と、いいますと?」

「厳密にはあの神は死んでない。リツと一つになっただけだからだ」

「あ、ああー」

 

 そう、あくまで神は合一化されただけ。

 現在もリツの内部に存在してはいるのだ。

 

「そもそも神って、殺すことはできないしな。自然現象の一部だから殺すと大変なことになる」

朽土果(くちはて)みたいに、封印するのが限界ってことですか」

「それは零号霊魂も一緒だけどな。神の場合は三号神魔ですら封印か合一化以外に選択肢がない」

 

 なんにせよ、その場合ミクモちゃんの犬耳出し入れ権を握っているのはおそらく――

 

「あの、リツ様ぁ」

「……なにかしら?」

「さっきからスマホでパシャパシャ私を撮ってますけど、できればこの犬耳しまっていただくってっことは――」

「――だめよ」

 

 ぴしゃり。

 リツは我儘だった。

 

「こんなにかわいいのに、引っ込めるなんて勿体ないじゃない」

「おいこらリツ、そろそろいい加減にしたらどうだ?」

『そこで遠慮なくその神を叱れる貴様が一番こわ……ひぃ!』

 

 余計なことを言おうとしたロウクが、リツにお仕置きされる。

 それにリツは一瞥してから、ため息を付いた。

 

「……はぁ。そもそもね、私も引っ込め方なんてわからないわよ。あくまで私は神の力を支配下においただけなんだから」

「その神が、自主的にこの犬耳を引っ込めるまではそのままってことか」

「そういうこと。まぁ、害はなさそうだしいいんじゃない? そもそも神を倒すことが犬耳消滅の条件かもわからないのだし」

 

 まぁ、それもそうだな。

 今のところ、色々試したけれど犬耳はそのまま。

 同時に、日常生活に問題はなさそうなので放置というのが結論だった。

 そして、ここ最近の話題はもう一つ。

 

 

『ミックモちゃーーん! 写真撮らせてーーーーーっ!』

 

 

 資料室につながる扉を開け放ち、シオンちゃんが入出してくる。

 すり抜けることも可能なのだが、手に荷物を持っているので扉を開けないと中に入れないのだ。

 その荷物は――

 

「うわお、またコスプレ衣装が増えましたよ。買いすぎじゃないですか?」

『他に使い道もあんまりないから……』

 

 コスプレ衣装だ。

 メイド服だの、スク水だの、オタクっぽいものは大体揃ってる。

 これらの購入資金はシオンちゃんが先日の妖怪因習村で手に入れた報酬から出ていた。

 大活躍だったからな、当然と言えば当然だ。

 が、結果としてシオンちゃんはミクモちゃんのコスプレにハマっていた。

 犬耳美少女は、絶対にコスプレするべきとは本人の談。

 

「うー、構いませんけど、絶対にSNSとかに上げちゃだめですよ」

『上げないよぉ! そもそもアタシ、アカウントもってないし!』

 

 そんな二人のやり取りに、リツからするどい視線が飛んでくる。

 ミクモちゃんが俺に色目を使うんじゃないかという警戒と、そろそろシオンちゃんを落ち着かせたらどうかという呆れの視線だ。

 別に俺は好きにすればいいと思うんだが。

 どうにかする方法があるので、俺はその話題を切り出すことにした。

 

 

「はい、というわけで全員集まったから、東京行の相談を始めるぞー」

 

 

 その言葉に、

 

『とうひょう!?』

「とうひょう!?」

 

 ミクモちゃんとシオンちゃんは、全く同じ反応をするのだった。




というわけで、いざ進めや東京です。
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