転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
まず、因習村ってのはあくまで俗称だ。
人里離れた村で発生しやすいから、因習村と呼ばれているだけで。
退魔師の用語だと「神隠しの郷」と呼ばれているように。
人が神を隠す”郷”であれば、因習村は成立する。
「東京ってのは、とにかく人が多くて孤立しやすい。個人の孤立しやすさは、横のつながりが深くなりがちな片田舎の村よりよっぽど酷いだろう」
「言われてみるとそうですね。そんな人間が神に攫われていなくなったら、因習村以上に気づきにくいってことですか」
まぁ、概ねそんなところ。
因習村の成立要件は他にもあって、神が人の信仰で力を取り戻そうとすること。
そんな神によって人が神を信仰することで発生する。
「たとえばだが、学生の間でだけ流行している噂みたいなものがあったとする」
『あー、神に祈ると願いが叶う的な的な?』
「概ねそんな感じ」
『ジェイ! ケイ!』
なんて?
「とにかく、そういう噂が広がって、実際に神に祈りを捧げると信仰が発生するわけだ。けど、それには落とし穴があって、願いは叶わない上願った人間は連れ去られたりする」
「ひっどい話ですねぇ」
正確には、願いをかなった”夢”を見せられて異界の間で眠らされるのだ。
その夢を見ている間は、神様のことを信仰するから。
『……逆に言えば、その夢を見ている間はその子は幸せってわけだ』
「どうかな、夢ってのは所詮夢だ。突拍子もないことは起きるけど、本人の想像をこえることは起こらない」
なんだかシオンちゃんは、少しだけ思うところがあるようだけど。
今は踏み込んで欲しくなさそうなので、スルーしておく。
「んで、そうやって発生した都会因習村の現場に、俺達がたまたま居合わせたんだよ」
「そしてまた、いつものようにサトルがめちゃくちゃにしちゃったわけ」
「一体何やったんですか……」
めちゃくちゃにはしてない、いつも通り解決しただけだ。
それがめちゃくちゃにしてるってことだって?
そんなぁ。
「そもそもどうして巻き込まれたんです?」
「五年前ってほら、俺その時高三だったろ? 大学のオープンキャンパスに来てたんだよ」
「霊媒師さん、地元を出る気あったんですか!?」
ミクモちゃんがめちゃくちゃ驚いていた。
いやまぁ俺はリツと契約してるしな。
でも、当時はリツと契約してるからこその悩みがあったんだ。
「当時は、リツに人並みの幸せってやつを感じてほしくてな。大学でリツと東京生活ってのも悪くないかと」
『ど、同棲だー!』
「それはいつもでは?」
神棚を部屋に置けば、リツも遊びに来れるしな。
悪くはないかと思ったんだが、結局実家から通える大学になった。
まぁそこら辺の話は置いておいて。
「それで、大学を歩いてたら、学生が行方不明になってるって噂をれーばいしさんが聞きつけるじゃない?」
「解決しないとまずいだろ、流石に」
『で、東京因習村はめちゃくちゃになりました、と』
何もそこまで言う事ないだろ?
みんなも、ウンウンと頷かないでくれ。
「ちなみに、何したんですか?」
「えーと、まずはネットで情報を検索した」
『まぁ、それは普通じゃない?』
「え? 検索したんです?」
『普通じゃなかった』
まぁ、実際普通ではない。
何故ならそういった噂は、ネット上でも認識阻害が発生するからだ。
でも、俺に認識阻害は通用しないから、その妨害は無意味。
「つまり、俺がネット上で情報を集めると必要な情報が正確に集まるんだよ。他の人ならそもそも情報を集めようとしなかったりするだろうけどな」
『ず、ずるい!』
そうは言っても、使えるものは使わないとな。
ともかく、もし俺以外が情報を集めようとしたら、神のいいように誘導されてしまうだろう。
なんかこう、SNSのタイムラインが運営の一存で弄られているように。
そして、SNSでは自分のタイムラインに存在しない情報はまさに異世界の情報だ。
これもまた、因習村を発生させる要因になる。
「インターネットって、退魔師は全然使いこなせてない上に、広大で無限に広がってるイメージと裏腹にローカルな場所も多いですからね」
「それだけ、因習村が発生しやすいんだよな。……あの事件も、そうやって発生した因習村が原因だった」
なんでも、東京の裏路地にある社に祈ると、”迎え”が来てくれるのだとか。
その迎えは大地の揺り籠のような存在で、普段の悩みを忘れさせてくれるらしい。
二回までは悩みを忘れさせてくれた後帰してくれるけど、三回揺り籠にその身を委ねるとかえって来れなくなるのだとか。
「よくあるやつですねぇ」
『よくあるやつだ! ちなみにどうして一回目でパックンチョしないん?』
「一回目でやったら、SNSで情報をシェアしてくれないだろ」
『げ、現代的ー!』
とまぁ、概要としてはそんなところなわけだが。
ここまでの情報から、わかることが一つある。
敵は東京のどこかにある社にいる、ということだ。
なので――
「んで、この情報を知った俺は、東京の裏路地にある社を全部調べた」
そう、全部調べれば、どこかで問題の社を見つけることができる。
「え、全部ですか!?」
「そう、全部よ。ほんと、大変だったんだから」
『それ、一体終わるまでに何日かかるんスかぁ?』
いやいや、地道に足で探したわけじゃないから。
秘策があったんだよ、秘策が。
◯
流石に虱潰しで探していたら、時間なんていくらあっても足りない。
だから、俺が頼ることにしたのは神の横のつながりだ。
「神魔って、結構横のつながりがあるんだよ」
『そうなん? 神ってくらいだからみんな偉そうで、自分一番みたいな感じかと』
「そういう神もいるっちゃいるけど、神って同一視されやすいんだ」
信仰の方向性が被ってると、まとめて一緒に信仰されることがある。
なのでそれを利用して、お互いに信仰を融通し合う神もいたりするのだ。
「ただまぁ、それと同時に神ってのは絶対的な年功序列制だ。古い方が常に、新しい方より偉い」
「神魔の号数って、存在してる年月で決まりますしね」
だから、同じ号数の、つながりのある神同士には独自のネットワークがある。
これを利用した。
「訪れた神社の神に聞き込みをしたんだよ。現在東京で起きてる因習村事件の犯人を探してるけど心当たりはあるか、ってな」
そうすると、その神社の神とつながりのある神は全てまとめて犯人候補から外れる。
神は嘘を嫌うから、隠し事はしないだろう。
隠し事ができない理由もあったしな。
「そして、東京にはいろんなところに社があるから、つながりのない神の社の場所も、近ければその神は知ってる。こうやって一つずつネットワークを潰していけば、一日もあれば東京中を網羅することは可能だよ」
「一日……それでも結構かかりましたね」
「まぁ、流石に広いからな」
というわけで、俺は犯人の社を特定することに成功した。
インターネット上でも、暗号みたいな言い伝え形式のヒントはあったんだけど。
詳しい場所に関しては裏でやり取りしているのか、解らなかったんだよな。
こういうところでやり取りをされると、追いかける方法がなくなるのはリアルよりやっかいだ。
「しかし、よく神様が協力してくれましたねぇ。中には人を憎んでる祟り神とかもいたと思うんですが」
「裏路地の社にいる神は、まぁ格が低いからな。こっちにはそういう相手に言うことを聞かせる最高の切り札がいる」
そう、リツだ。
零号神魔のリツは、当然ながら東京の裏路地にいるような神より圧倒的に格が高い。
歴史が古い、ともいう。
「――ねーえ、れーばいしさん?」
「うおっ!」
そんなリツが、俺の首元に手を回して抱きついてきた。
その声はどこか甘ったるく――
「――今、私が古ぼけたおばあちゃん、みたいなはなし、したぁ?」
「し、してないが」
歴史が古いって思っただけじゃないか!
口にもだしてないんだぞ。
「こんなに、わかくて、可愛くて、素敵な、神様を! なんだと! おもってるの! かしらぁ!」
「うぐお! 首を、首を絞めるなリツ! 俺は物理攻撃には弱いんだぞ……!」
ぐいぐい。
『また唐突なイチャコラが始まったね。……なんで?』
「多分、調査の最中に神魔にリツ様がええと……お年を召してる、みたいな煽りをされたことがあるのではないかと。年功序列が絶対いっても、中には生意気な神もいますから」
正確には、それを俺が強く否定できなかったことだな。
なにせ実際に古いんだもの、今は結構馴染んでるけど。
当時のリツはゲームをピコピコと呼称していたんだぞ……!
ぐええええ。
「で、問題の神を見つけたところまではいいとして、その後はどうなったんですか?」
「うぐ、ぐお……まぁ、色々と妨害は受けたよ。一番やばかったのは捕まえた人間を洗脳してけしかけて来たことかな……」
リツに締め付けられながら、当時のことを思い出す。
いや、一般人をけしかけてくるくらいなら、本来は問題ないのだ。
普通の因習村と違って、俺のそばにはリツが最初からいる。
リツに洗脳を解除して貰えればいいのだから。
「問題は、そのけしかけてきた一般人が全員女性だったことかな」
「しかも! やたら! 顔のいい! ああ、今思い出しても口惜しい!」
『……リツ様の方を攻撃したってことかぁ』
犯人の神は、リツに俺を嫉妬で攻撃させようとしたのだ。
神というのは気まぐれないきものだから、それでうっかり契約者を殺すこともあるだろう。
リツは特に、力のあって俺以外の人間と契約した経験のない神だからなおのこと有効な手段だ。
「……どうやって突破したんです?」
「今と、同じ……だよ」
つまり。
「……リツ様抱きつかせて、我慢してもらった、と」
はい。
迫りくる美女より、後ろで俺の首を絞めてくるリツのほうが厄介だったことを今でもよく覚えている。
まぁ、そこを突破してしまえば、相手は裏路地に潜むような神だ。
問題はない、と思っていたんだが――
「んで、最後に一つ厄介なことがあって、結果としてこの社ができたんだ」
『結構飛ばした! ……何があったん?』
「その神が、零号神魔の分体だったんだ」
分体、すなわち零号神魔の一部を切り離して独立させたもの。
これの厄介なところは、力自体は本体と分離しているからそこまでではないのだが。
格自体は本体と変わらないところ。
つまり、リツが合一化できない。
合一化には、むりやり上位の神が合一するか、合一化される神の了承がいるからな。
同格相手では、こうも行かない。
「だから、この分社にはその神が
「なるほど、それで一年毎のメンテナンスをしてるのですか」
『ちなみに、その神の名前って?』
ふと、シオンちゃんがそんなことを聞いてくる。
俺は少しだけ口に出すか迷って――リツが止めなかったので、その名前を口にした。
「零号神魔”
そしてその名は、俺が黄泉に片足を突っ込んだ時。
俺を