転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
「朽土果って……あの朽土果ですか!?」
「その朽土果だよ」
『……どちら様?』
朽土果。
この国には何柱かの零号神魔がいるが。
その中で、”祟り神”と呼ばれる神魔は一柱だけである。
他の祟り神は、大抵零号に昇格するまでにどこかで別の神に合一化されるのだ。
危険だからな。
そもそも、多くの零号神魔は神として多くの側面を持っている。
祟り神としての側面を持っている神魔も多く、大抵の祟り神はそういった側面と同一視され、信仰と力を失っていく。
最終的には、祟り神の方から合一化を願われたりもするのだ。
力を失い自然の一部になるよりは、ずっと自分の価値を証明できるから。
そう考えると、祟り神ってのは普通の神よりも俗だよな。
悪意が存在の成り立ちにあるからだろうか。
ともかく。
――その例外が、朽土果だ。
「この世の大地に根を生やし、人々を死へと誘う滅びの象徴です」
「黄泉――つまりあの世は根の国って呼ばれる世界と同一視されることがあるんだが。この根の国”そのもの”が朽土果じゃないかって説もあるな」
『……わかった!』
おっとこれはわかってないやつだ。
まぁ、漫画の設定の一つとして流したんだろう。
実際、来歴とかはそこまで関係ないしな。
どれだけすごい来歴の神でも、分体が東京でSNSとか駆使してハイテクな方法で人を集めてたことには変わりないわけだし。
『しかしどうして、危険な神様が零号になるまで放置されてたんスかね?』
「朽土果は最初、そもそも存在を認識されてなかったんだよ。大地の奥深くに根を張るからな。その癖、人の死に関わる神だから信仰を集めやすい」
気がついたら、手を付けられない神になっていたわけだ。
「それでも何とか人はその朽土果を封印し、今まで何とかやってきています」
「いやまぁ、ほんと良く封印できたよな」
「なにせ、
『強いやつには、強いやつをぶつけるんだよ!』
シオンちゃんが元気に言い放った。
なにそれ、とリツがシオンちゃんを視ている。
「ただまぁ、朽土果は常に封印を破るために暗躍してるんだ。この分体もその一つ」
「大地の揺り籠に人を集めて、それを自分の封印を破るための楔にしたかったみたいね」
とまぁ、このあたりが五年前に起きた東京因習村の概要か。
はっきり言って、朽土果は厄介な神だ。
分体を封印することしかできないせいで、各地に封印された朽土果の分体がいる。
人柱が必要ないことだけは救いだが、それでも各地の負担は大きい。
『にしても……どうして朽土果は外に出ようとするんすかね』
「さぁ、神の考えることなんて誰にもわからないわ、神そのものにすらも。側面が変われば思考も変わってしまうのだから」
リツは、俺との交流でかなり人に近付いている神だ。
それでも時折、気まぐれに俺を殺してしまうのではないか、と思うような行動を取る。
今回みたいなじゃれ合いではなく、視線で人を殺してしまうような。
人ならざる気配を、のぞかせる。
それがましてや、人と交流の一切ない神であればなおさら。
『……例えばこれがアタシなら、外に出たいって気持ちもあるのは当然だと思うんだけどさ』
「そりゃまぁ、な」
シオンちゃんはそれこそ、生まれた頃から因習村に囚われていた。
外に憧れたまま、外に出ること叶わず殺されてしまった。
今でこそ、こうして自由に出歩けてはいるが。
『アタシは、もう人じゃないから』
自嘲気味に、シオンちゃんは言う。
時たま、シオンちゃんはナーバスになることがある。
今、この瞬間がどれだけ楽しくても、明日にはそれが終わってしまうのではないかと恐怖している。
畏れている。
「だ、大丈夫ですよ! 東京観光は楽しいですし、シオンちゃんは明日も元気にシオンちゃんです!」
『……ありがとね、ミクモちゃん』
俺がなにか、言葉をかけることはできるだろう。
俺自身、一度死を経験したことでシオンちゃんの考えを理解できないわけではないのだから。
でも、だからといって寄り添うには俺は多くのものを手に入れすぎた。
事務所も、リツも、この世界での立場も。
『でもさ、ほら。アタシがミクモちゃんに返せるものって、そんなにないじゃん?』
「そんなことはないですよ! この東京旅行だって、シオンちゃんが提案してくれたものですし!」
苦笑するシオンちゃんに、ミクモちゃんがフォローを入れる。
そんな様子を眺めながら俺はリツに声をかけられていた。
「……なにか、してあげないの? 大人として、見ているだけってよくないと思うわ」
「そうだな。……かけるべき言葉はある。でも、それは今じゃない」
「れーばいしさんって、本当にかっこつけよね。もったいぶって、こっちの気持ちを弄ぶんだわ」
なんだか、失礼なことをいいつつリツは耳元で、俺にだけ聞こえるように囁く。
「
ああ、それは。
わかっているさ。
とても傲慢なことだって。
それでも、シオンちゃんにとって今の幸福は今だけのものなのだ。
それを邪魔することは――きっと神にだって、許されない。
◯
二日目の観光を終えて、俺達は夕飯を食べるためにコンビニへやってきていた。
基本的に、これまでの旅の道中は全てコンビニなどの弁当で済ませている。
理由としては非常に単純で。
『ごめんね、アタシがご飯を食べれないせいで二人にも我慢させちゃて』
「いえいえ、東京にこれたってだけでも私としては一生物の宝物ですよ!」
シオンちゃんが、ご飯を食べられないからだ。
霊魂なのだから当然と言えば当然だけど。
今まで何とか挑戦して、そのことごとくが失敗している。
例えばその一つが、食材に呪符を張ってみるというものだ。
この世には食べれる呪符というものが存在していて、それを利用したのだ。
なんでそんなモノがあるかといえば、そのものズバリ霊魂に食事をしてもらうためだ。
生前の未練として、美味しいものが食べたいという霊魂は結構いる。
そんな霊魂を除霊するため、俺が開発したのである。
取り出したらミクモちゃんに引かれたけど、たまにロウクがおやつとして食べてるんだぞこれ。
で、結果は失敗。
食べ物を口に入れたはいいものの、味を感じることができなかった。
食事とは味覚を楽しませるためのもの。
これを成功とは呼べないだろう。
ただ、口に含むことには成功したのだから、あとは何とか味をつければいい。
という考えに至り、食材にリツの神力をちょっと混ぜて調理を行ったりした。
しかしこれも失敗、口の中で神力がパチパチしてる感覚を覚えるだけに終わった。
わたパチかな?
こういう問題は、なんだかんだ解決してきた俺だが、めずらしく行き詰まってしまった。
試せる方法は概ね試したし、理由も色々考えたのだが。
答えは出なかったのだ。
そもそも、味覚
他の五感は問題なく機能しているというのだから、なにか理由があるのだろう。
「――それに、私決めました」
力強く、コンビニで購入したフライドチキンを食べながら、ミクモちゃんは宣言する。
「シオンちゃんが、美味しいご飯を食べれるようにしてみせます! これが今の私の最大目標です!」
『えへへ、ありがとねミクモちゃん。……期待してる』
ミクモちゃんの力強い宣言に、シオンちゃんはお礼をいいながらもどこか寂しそうだ。
自分がミクモちゃんとは違う存在なのだと、突きつけられてしまうからか。
俺も何かをいいたいけど、きっと俺はこの後シオンちゃんとミクモちゃんに、酷いことをする役割になる。
シオンちゃんに、あまり優しくしすぎるべきではないのだ。
「それに、ですよ。シオンちゃんはどうしても他人とは違って、そのことを寂しく感じてしまうかもしれませんが……」
『……』
「一緒に食卓を囲んで楽しく食事をすれば! きっとその寂しさも埋まると思います!」
そして、ミクモちゃんもまた――
「……私が、そうでしたから」
少しだけ、寂しそうに語った。
ミクモちゃんの家は、厳格な退魔師の家。
食卓を”楽しく”囲んだことは、俺の事務所にやってくるまで無かったのだという。
学校で友人とテーブルを囲んでも、ミクモちゃんは退魔師としての用事で欠席しがちだ。
時折、話題についていけず疎外感を感じるのだとか。
現代の流行に触れる手段がない、というのもあるしな。
『……アタシも、家族と食卓を囲んだことってないんだよね』
「シオンちゃん……」
『だから、そう言ってくれると……うん、嬉しい』
ミクモちゃんの言葉で、少しだけシオンちゃんも元気になったようだ。
それを見ながら、俺は考える。
――昼間にリツの分社を点検したときのこと。
あの分社には、朽土果を封じるために、朽土果にまつわる意匠も組み込んでいる。
建物の”クセ”とでもいうべきものを。
建築様式を似せている、といっても言いかもしれない。
なのでリツの社には見られない作りをしている部分があるのだが――
海士蜘蛛、シオンちゃんの村で信仰されていた神。
こうして、社を直接確認したことでわかった。
あの蜘蛛の神も、朽土果に関係している。
とすれば、ここ最近俺達が関わっている因習村は、全て朽土果に関係するものと言えるだろう。
ならば――
「二人共」
俺は、ミクモちゃんとシオンちゃんに声を掛ける。
ちょうど、二人の会話が終わったタイミングだった。
「東京に旅行している最中にする話ではないかもしれないけど、この旅行が終わったら俺はまた別の場所へ行こうと思ってるんだ」
『っていうと?』
「――俺が破壊した因習村の中に、朽土果の分体が作った因習村がある。それを調査しようと思う」
「おおー」
それは、リツが初めて破壊しようといい出した因習村。
つまり、俺にとって最初に破壊した因習村である。
「これが結構遠くの場所にあってな、一泊しないと行けない。つまり――」
じゃあ、なんでそもそもその因習村を破壊しようということになったかというと。
「つまり――温泉旅行ね! 次は私も最初から同行するわよ!」
突如現れたリツが宣言した通り。
温泉旅行の最中だったからだ。
なんでそんなことをしていたかというと、これも単純。
「うわぁ! リツ様急にどうしたんですか!?」
「温泉、温泉はいいわよ! さぁ温泉に行くわよ!」
『……リツ様、温泉好きなんスか?』
リツが温泉に目がないからだ。
水神だからな。
書籍発売も近いのでテンポよく投稿していきたいですね