転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第40話 霊媒師さんは優しい人

 リツは水神だから、風呂に入るのが好きだ。

 昔から「龍河市」には、リツが作らせた温泉があったのだが。

 それに毎日入浴するくらい、リツは温泉が好きだ。

 だからああいう場に現れたわけだが、今すぐ温泉に行くわけじゃないとわかると、またいなくなってしまった。

 自由な神様だなぁ。

 

 ともあれ、東京旅行はまだ後一日ある。

 社の点検という目的を果たしたことを考えれば、最後の一日はただ遊ぶだけの一日。

 しかし、それは同時に午後になったら帰路につかなくてはならないということでもあり。

 ミクモちゃんやシオンちゃんにとっては、なかなか名残惜しさとワクワクがないまぜな感じだろう。

 そんなことを考えながら、出先でもできる簡単な仕事を終わらせていると――

 

『――霊媒師さん、起きてる?』

「うお、急にどうしたんだ。シオンちゃん」

 

 にゅっと、壁を貫通してシオンちゃんが現れた。

 

『わ、霊媒師さんが驚いてるところ、初めて見た』

「俺だって、別に何事にも動じないわけじゃないよ。こういう突然のことには驚いたりするんだ」

 

 いわゆる、ジャンプスケアは普通に驚く。

 それでも仕事で”魔”と対峙する心づもりができていれば、早々のことでは驚かないが。

 今回見たいな不意打ちだと、少し驚く。

 

『なかなかレアな霊媒師さんだってことは解った』

「ま、そういうことにしておいてくれ。……それで、急にどうしたんだ。こんな時間に男の部屋に入ってくるのは、色々とまずいぞ」

『えー、霊媒師さんが変なことするわけ無いじゃん』

 

 それは流石に信用しすぎ……というには、普段から事務所にシオンちゃんと二人でいても俺は何も行動を起こさないが。

 それはそれとして、まずいのは別にシオンちゃんだけじゃない。

 

「俺がリツに殺される」

『うっ……話が終わったら、早めに退散するよ』

 

 俺が殺される想像ができてしまったのか、シオンちゃんは納得した様子で頷いた。

 いやまぁ、実際にはリツが俺をからかっているだけなのだが、それはそれとして本気で殺意を抱いているのは事実だからな。

 

「それで、話って?」

『ええと、……まずは、東京に連れてきてくれて、ありがとうって話』

「なんだ、そんなことか。元々用事があったんだから、何もおかしいことはないだろ」

『それでも、だよ』

 

 なんとも、シオンちゃんは律儀だ。

 ミクモちゃんに着せていたコスプレも、自分がもらった報酬から出している。

 ただ、これは律儀というだけでなく。

 後腐れを残したくない、という意味もあるのかもしれないが。

 

『後ね、霊媒師さんのことを、この際だから色々聞いてみたいな―って』

「聞いてみたい……って、どうしてまた急に」

『いや、事務所でそんなこと聞いたらリツ様が怖いじゃん』

「ああ……」

 

 まぁ、それはそうだな。

 俺のパーソナルに踏み込むってことは、リツを警戒させるってことだ。

 

『そもそも、霊媒師さんって何で霊媒師してるの?』

「なんで、と言われると。……まぁ、それが楽だからだよ」

 

 なにせ、俺には霊媒師の適正があるんだから。

 霊的存在が見えて、それを畏れないという適正が。

 

「前にも言ったけど、俺って転生者なんだよ。前世の記憶がある」

『それ、ほんとお?』

「信じてる人はいないけどな」

 

 リツすら、多分半分くらいは信じてない。

 何より、俺はこの事実を敢えて吹聴してるからな、胡散臭く聞こえるのは当然だ。

 

「そういう、特殊な経歴だから特殊な職業が性に合ってた……ってところかね」

『……霊媒師さんって、やらかしてる時以外は案外普通?』

「俺はそもそも凡人だよ、どこにでもいる普通の男だ」

『えっ』

 

 いやいや、本当に凡人なんだって。

 畏れを抱かないってのは、間違いなく俺のチートみたいなスキルだけど。

 いわゆる俺の「やらかし」って、畏れを抱かないがための大胆な行動が要因として大きいだろう。

 

『……それだけじゃないと思うけどなぁ』

「少なくとも、俺にとってはそうなんだよ」

『それに、アタシは霊媒師さんの普通じゃないところ、もう一つ知ってるよ』

 

 もう一つ? と首を傾げる。

 

『――優しいところ』

「……」

『アタシみたいな、得体のしれない霊魂にここまで優しくしてくれるなんて、霊媒師さんが優しいから、以外に理由なんてないでしょ』

 

 まぁ、それは。

 俺が他人より、人に優しくする人間であることを証明している。

 

『ミクモちゃんから聞いたよ、霊魂を除霊する時って、基本的には対話による除霊がほとんど何でしょ?』

「……まぁ、そうだな」

『それを、優しいって言うと思うんだよ』

 

 なんて。

 最もなことを指摘されたり。

 色々と、シオンちゃんから根掘り葉掘り俺のことを聞かれた。

 趣味だとか、普段どんな仕事をしてるのかだとか、何を考えてあんなことやらかすのか、とか。

 最後のはともかく。

 いろんなことに、答えているうちに――

 

『……ふああ、うん。いい感じに眠くなってきた。ごめんね、遅くまでつきあわせちゃって』

「なに、別に問題ないさ。明日もよろしくな」

『うん、おやしゅみぃ……』

 

 そうして、シオンちゃんは部屋に戻っていく。

 それにしても――

 

「……やさしい、か」

 

 言われて、俺は少しだけ天井を見上げる。

 それから、吐息をこぼして、続けた。

 

「全然、そんなことないんだけどな」

 

 ああ、だって。

 俺はシオンちゃんに伝えていないことが多くある。

 たとえば――

 

 ()()()()()()()

 

 とか。

 いわゆる”魔”と呼ばれる存在で睡眠を取るのは妖鬼だけだ。

 霊魂も神魔も、睡眠は必要ない。

 眠るように意識を休めることはできるけど、それは人間や妖鬼が行う睡眠とは違う。

 生物の行う睡眠は、体力を回復させるために行うのだ。

 もし、霊魂が睡眠を行うのだとしたらそれは、体力を回復させるのではなく――

 

 ()()させるという方が、正しいのだろう。




ちょっと短いですが、尺の調整をミスったので今回はここまでです。
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