転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第41話 温泉ではしゃぐリツ様

 繰り返しになるが、リツは温泉が好きだ。

 当然、全国の温泉にも目がない。

 時折俺を足に温泉旅行へ出かけては、そこで温泉を堪能するのがリツの最近の趣味になっていた。

 

 そもそも、今回の東京旅行でリツが同行していないのは、別途東京で朽土果について調査をするためという理由もあるが。

 泊まるホテルに温泉がないから、という理由もある。

 まぁ、そんなことは関係なく、今回は必要あっての温泉旅行だ。

 

 あの後、東京観光を満喫して少し。

 ミクモちゃんに予定調整をしてもらいつつ、リツの早く温泉に生きたいオーラを何とか躱し。

 ついにその日がやってきた。

 

「今日はサトルの車でいくわよー!」

「テンション高いですね……! こんなにテンション高いリツ様始めてみましたよ」

「温泉! 旅館! サトルと相部屋! こんなに素敵な旅行、他にないと思わない?」

「と、東京もいい場所でしたよー」

 

 楽しげなリツが、俺の車の前ではしゃいでいる。

 それに、バッグに荷物を詰め込んだミクモちゃんが外からやってきて、相手をしているところ。

 そこに、俺とシオンちゃんが事務所から出てくる。

 こちらもまた、色々と荷物を抱えていた。

 俺が。

 

「もう、遅いわよサトル! あんまり遅いと置いてっちゃうから!」

「この中で、運転ができるのは俺だけなんだが……」

 

 いや、車以外の方法ならみんな移動はできるけどさ。

 退魔の術による身体強化や、転移や疲れ知らずのすり抜け霊魂走法とか。

 風情がないので誰もやらないけど。

 

「ふふふーん、ふふふふーん」

「リツ様が鼻歌を歌っている……!」

『すごい……!』

 

 君たちはリツを何だと思ってるんだ? 

 ともあれ、リツが助手席に、ミクモちゃんとシオンちゃんを後部座席に乗せたら出発だ。

 道中は8割位リツの温泉トークだった。

 最近は色々と温泉関係の資格を取って、ただ楽しむだけではすまなくなっているリツ。

 果たしてリツはどこへ向かうのか――

 

「そういえば、霊媒師さんが初めて破壊した因習村って、どんなところでしたか?」

 

 ふと、話が一度終わったところで、そんなことをミクモちゃんが聞いてくる。

 多分道中、これが唯一の真面目な会話だった。

 後は温泉と、馬鹿話だ。

 

「どんなところか……そうだな」

「つまらないところよ、本当に……なにもない村だもの」

 

 そう言って、肩を竦めるリツ。

 まぁ、実際その通り、その村は多分初めての因習村でありながら。

 東京因習村並に、特殊な因習村だった。

 

「人が住んでないんだよ」

『廃村ってこと?』

「まぁ、そんなところ」

 

 普通じゃ入り込むことのできない山奥に、かつて人の済んでいた形跡があった。

 なんてことは、この国なら多少起こり得る自体だ。

 その一つが、どういうわけか朽土果の因習村となっていた。

 理屈としては、それだけの話。

 

「だからまぁ、やることは単純だったよ。そこにあった朽土果の社を破壊して、それから封印を施した」

「その後は、現地の神のところへ社を遷座して、管理を任せたのよねえ」

 

 朽土果は、今でも時折そうやって分体の社が発見される危険な”魔”と認識されているから。

 頼めば管理をしてもらうことは、そこまで不思議じゃない。

 東京因習村の社をリツが管理してるのは、東京の社事情は結構複雑で、縄張り争いが激しいからだ。

 外部の零号神魔であるリツにまかせておくのが、一番丸かったのである。

 リツとしても、一つくらい自分で監視する朽土果の封印が欲しかったのもあるだろう。

 

「正直、あそこを調査してもなにか得るものがあるとは思えないわ。だから、温泉旅行のついでと思えばいいのよ」

「はぁ……そんなものですか」

「私に言わせてもらえればね、朽土果をわざわざ霊媒師さんが対処する必要はないのよ」

 

 タツメの時は、こちらの領域にタツメが侵入してきたから対処する必要があった。

 だけど今回は違う。

 因習村は国のあちこちにあって、その中に朽土果の関わっている案件があるのなら。

 対処するべきは国、もしくは妖鬼達だ、と。

 基本的に、俺が危ないことをするのを推奨しないリツらしい考えである。

 

「妖怪因習村は、相当に緊急性の高い案件だった。東京は定期的にやってること。そして今回は温泉が主目的だから許すけど」

『……あまり深入りはしてほしくないんスね』

「当然よ。サトルはすぐに無茶をするから」

 

 ――お互いに、色々と言いたいことは口に出したので。

 以前と比べれば俺とリツの関係はそこまで危うくないとは思うけれど。

 それはそれとして、何時どこで爆発してもおかしくないのが神様なので。

 こうやって心配されてることは、あまり無茶したくはないのだが。

 

『……上手くいくんスかねぇ』

「多分無理だと思います」

 

 周囲からの評価は、まぁ概ねそんな感じなのだった。

 

 

 ◯

 

 

「こっち、こっちよ! 早く来なさい!」

 

 山中を歩いて、先で待っているリツを追いかける。

 対する俺達は、道なき道を歩いてへっとへとだ。

 いや、シオンちゃんは疲れないしミクモちゃんも強化の術があるし。

 その術を俺も使ってもらってるんだけど。

 精神的に、道なき道を数時間歩くのは疲れるのだ。

 なお、リツは転移でもいいのに俺達を先導する形で歩いていた。

 

「ほら、早く終わらせて宿にチェックインするのよ! これさえ終われば今日はやることもないんだから!」

「テンション高すぎですよぉリツ様ぁ。やっぱり一度旅館にチェックインしてからの方が良かったんじゃないですか?」

「チェックインが15時からだからなぁ。面倒な調査だし、先に終わらせてからじゃないと。リツのテンションは気にしないでいいから」

 

 アレはあくまで、リツの中で最もテンションの高い側面というだけだ。

 冷静に振る舞おうと思えば即座に冷静な側面が顔を出すし、変なことをロウクが言うと即座にお仕置きされる。

 

 あれから俺達は三時間くらいかけてとなりの県にある山奥までやってきて。

 昼飯を済ませてから二時間くらいかけて山道を歩き。

 なんとか村があった場所までやってきていた。

 帰りはリツが、車に置いてきてある簡易神棚を目印に転移してくれるからそこまで問題はないのだが。

 行きは特にビーコンもないので、歩くしかない。

 正確には前回因習村を破壊したときに簡単なものは設置したのだが。

 雨などの要因で吹き飛んでしまった。

 もう少しちゃんとした社を用意するべきだったなぁ。

 そういえば。

 

『アタシ、霊魂になってからずーっと足がないのに生前と同じ感覚で歩いてたんスけど。……山の中だと歩く時の負担全っ然違う! 超ラク!』

「そういえば、シオンちゃんって山奥の民だから、山の中歩き慣れてるんですね」

『慣れてるけど、舗装されてない道は二度と歩きたくない! 足が痛いんだよアレ!』

 

 どうやらシオンちゃんは色々と苦労があったみたいで、山道の歩きやすさに感動している。

 かくいう俺も、ミクモちゃんの身体強化はすごいと実感しているところだが。

 精神的にはともかく肉体的には全く疲れない。

 すごいなこれ。

 

「ふふふ、もーっと褒めてくれてもいいんですよ」

「すごい! ミクモはすごいわ、よく頑張ってるわ! さぁ、先に進みましょう!」

「うわあ予想外のところから大絶賛です!」

 

 なんて話をしつつ、俺達は目的の廃村へと到着した。

 そこは今から数十年前まで、数軒の民家が立っていた地区だ。

 土手(つちて)という地名がついていたそうで、一応マップにもその名前が見られる。

 土手というのは、それこそ朽土果から来ていたのだろう。

 この集落から人がいなくなった原因は不明、軽く地域の資料を漁ってみたが答えは出なかった。

 

「で、調査をするわけだけど……」

「……何かあると思います? 完全に家も朽ち果ててますし、社は木っ端微塵になってますし」

「後者は俺がやりました……」

「ふん、サトルにちょっかいかけようとしたんだから、当然よ!」

 

 家に関しては、もうほとんど原形しかとどめていないような状態だった。

 木造で、腐り果てて内部は自然が覆っており、当時の生活の様子は望めない。

 以前来たときより、自然は家屋を覆っているはずだが、記憶の中との違いを判別できなかった。

 リツが何も言わない当たり、本当に対して違いはないのだろう。

 

『ん? ってことはその朽土果の分体って、霊媒師さんを直接狙ったの?』

「まぁそうだな。俺達が宿を出て辺りを散策してたら、急に道に迷ったんだ」

 

 俺達は異界に囚われてしまったのだ。

 俺は精神干渉を受けないけど、流石に現実そのものを改変されたらどうしようもない。

 リツの転移と同じ要領で、知らない異界に放り出されてしまったのである。

 

「とはいえ、その時朽土果が狙ってたのはリツだと思うぞ。もし仮に朽土果が封印を破って復活したいなら。リツの神体を分体が乗っ取るのはいい方法だ」

「問題は、分体じゃ私に影響を与えることなんてできないってことだけどね。乗っ取るなんて問題外よ」

 

 要するに、たまたま寂れた分体の社の近くを零号神魔なんていうでかい獲物が通ったから。

 ダメ元で狙ってみたというだけの話。

 そして案の定、失敗に終わったわけだ。

 

「ミクモちゃん、なにかわかることはあるか?」

「なにもないですよぉ、社も別の場所に移されてますし。霊的な痕跡は皆無です」

 

 ようするに、無駄足だったわけだ。

 

「やっぱり、明日地方の図書館で資料を探すほうが、成果を期待できそうだなぁ」

『へへへ、図書館って人生で初めて行くんスよね、楽しみー』

 

 シオンちゃんの場合は、あらゆることが人生において初めての経験だと思うが。

 まぁ、それを言うのは野暮というもの。

 

「……っ」

「っと、リツ。どうした?」

「……なんでもないわ。戻りましょう。そんなことより、温泉よ温泉!」

 

 何やら、手首を抑えている様子のリツに視線を向ける。

 とりあえず、さっさと宿に行くとしよう。

 リツの転移で、俺達は車へと戻るのだった。

 

 

 ◯

 

 

「いい? まず最初に入る前に身体の汚れを落とすのよ。汚れさえ落ちてれば身体を洗う必要はないわ。むしろ身体の老廃物とかが温泉の濃い泉質から皮膚を守りつつ、ついでに温泉が老廃物を落としてくれるのよ」

「な、なるほど」

 

 でもリツ様って身体に老廃物とかないですよね? とミクモは口に出さなかった。

 本人の気分的な問題が大きいので、そっとしておくべきだろう。

 

『ああああ、あったかあああ』

「リツ様が温泉に入ってると、その神力が温泉にも影響を与えるんですね……」

 

 そしてシオンは温泉を堪能していた。

 原理はミクモの言った通りだ。

 出汁が取れてる……とか言ってはいけない。

 今のリツ様ならゆるしてくれるだろうが。

 

「ああ……鉄さびの香りが……染みるわ……」

「温泉、真っ赤ですごいですね……」

「それは含鉄泉と言ってぺらぺらぺらぺら」

 

 リツ様は早口になった。

 現在、温泉にはミクモ達三人以外の姿はない。

 現在霊媒師一行が泊まっている宿は、山奥のひっそりとしたところにある宿だ。

 旅行シーズンではないということもあって、泊まっている客は霊媒師たちだけとのこと。

 外観から、建物の作りから、温泉まで。

 全てを取って”秘湯”という言葉がこれほど似合う温泉旅館は他にないだろう、というような旅館だった。

 具体的に言うと、館内に独特だけど不快ではない匂いがした。

 ホテル特有のアレとも、また違うものだ。

 

「それにしても……アレよね」

「なんですか?」

『次はどんな温泉トークを?』

 

 なんだかんだ、リツ様の温泉トークには結構耳を貸している女子中学生二名である。

 単純に、美容にいいという部分が二人を引き付けているのだろう。

 健康はまだ意識する年ではない。

 そんな二人に対して、なんとリツ様は違うわよと首を横に振り――

 

 

「……ミクモの胸って、結構デカイわよね」

 

 

 突然セクハラを開始した。

 

『え? この流れで!?』

「いやだって、デカイでしょ。普段は服で隠れてるけど……こういうところだとよく分かるわね」

「ええと……」

『リツ様! ミクモちゃん困ってるっす! 答えにくい質問っす!』

 

 慌てるシオンを他所に、感心した様子でミクモを眺めるリツ様。

 シオンは一体どうしたものか、と困惑しきりだ。

 そんなシオンの胸は平坦だった。

 

「……いやぁ、なんというか」

『なんというか?』

「…………霊媒事務所と関わるようになって、初めて私の胸に言及されました」

 

 そしてミクモは、なんだかしみじみとそう語った。

 ええ、とシオンは更に困惑する。

 

「だって霊媒師さん、まったく私の胸に興味がないんですよ!」

『興味もったらリツ様にガチで殺されるからじゃ……』

「興味持ったら私が本気で殺すからよ? 子供の頃から躾けてきたんだから、今更他の女の胸になびいたりしないわ」

『怖っ!』

 

 もともと霊媒師は転生者だ、幼い頃から他の同年代よりは間違いなく理性がある。

 加えてリツが反射レベルまで躾けてきたかいがあって、霊媒師はどんな女性にもなびかない誠実な青年となっていた。

 

「それでも、こう……ちょっとくらいは異性として意識してほしいじゃないですか!」

「ダメよ、ちょっとでも異性として意識したら殺すわ」

『結果として出来上がる、鈍感難聴系主人公……アタシも時折感じるけど、霊媒師さんってそういうの鈍いよね』

「鈍くなるように育てられてたんですね……」

 

 少なくとも、ミクモのそれを純粋な大人へのあこがれと思っている辺りはだいぶ鈍い。

 実際にはそれが一番の感情だとしても、乙女心はもっと複雑なのだが。

 

「なんだかリツ様が、最高の男子を逆光源氏して育てたように思えてきました」

「育てたわよ。最高の男子よ」

『逆光源氏?』

「ええと、源氏物語っていう古典がありまして……」

 

 それから、三人は色々と話に盛り上がる。

 途中で一度リツ様が湯船から上がって、入浴は休憩しながらするといいとか講釈をしたり。

 ミクモとシオンが今ハマっている漫画の話で盛り上がったり。

 それを案外リツ様も読んでいることが判明したり。

 

 ――ミクモにとっても、シオンにとっても。

 その時間はあまりに貴重だ。

 そもそも他人との裸の付き合いを経験するのが初めてなシオンもいるし。

 ミクモだって、知り合いとこうやって肩を並べて湯船で話をすることなんてほとんどない。

 実家の広い浴槽を、一人で入るのがミクモの習慣。

 だからこそ、こんな時間が何時までも続けばいい、と二人は思う。

 そうならないことなんて、二人が一番良くわかっているはずなのに。

 

「……アレ? リツ様それ、虫刺されですか?」

「これ? ……よく解らないけど、いつの間にかこうなってたのよ」

 

 ふと、そろそろ湯船から上がるか、となったところで。

 ミクモがリツの手首にある虫刺されのような腫れに気がつく。

 

『神様でも、虫刺されってなるんスかね』

「さぁ、気にしたことないし、知らないわ」

「まぁ、()()()()()()()()()()()って。ほら、上がりましょう」

「身体はちゃんと拭いてから上がるのよ」

 

 結局、このとき誰も、それが異常であることには気が付かなかった。

 朽土果の社を調べた時に、リツが霊媒師に報告していればこの後の事態は避けられたのだろうが。

 残念ながら、そうはならなかった。

 かくして、新たな事件の幕が開く。

 

 

 その名も、リツ様霊媒師押し倒し事件。

 

 

 物語は、加速していく。




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