転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
「――私が作った異界の中で、私の許可無く活動できる存在は本来いないわ」
「けど、シオンちゃんは動けている」
「考えられる理由は幾つかある。中でもいちばんわかりやすい理由が――」
旅館の部屋を、ずんずんとリツが進む。
俺達の部屋とシオンちゃんとミクモちゃんの部屋は、少し離れているからな。
なお、転移で移動すれば楽なのに、とか言ってはいけない。
「――私より、シオンの方が特別な存在だった場合よ」
ちらりと、視線がシオンちゃんに向く。
だが、その後すぐにそれを逸らして、リツは先に進んだ。
『……さっきのことを、説明でゴリ押ししてなかったことにしようとしてないっすか?』
「こら、いくら本当のことでも言っていいことと悪いことがあるんだぞ」
『個人的には霊媒師さんが泰然自若としすぎてる気がする』
それはほら、いつものことだから。
なお、このひそひそ話はリツも本来なら聞いているはずなのだが。
あまりに恥ずかしすぎて誤魔化したいからか、聞かなかったことにしているのでお咎めはない。
「……いい加減、シオンちゃんの正体にも答えを出すべきだよな」
「そうね、でもその前にまずはミクモを起こさないと行けないわ」
現在、異界は今も展開している。
これには色々と理由があるのだが、一番の理由が――
「この状況を利用して、作戦会議をしないとな」
今はまだ異界を展開していたほうが、都合がいいからだ。
なにせ、この異界に朽土果の影響は及ばない。
リツに干渉したりしたことから、俺達のことは監視していたはずだが。
流石に、リツの異界の中にまでは入ってこれないのだ。
シオンちゃんというイレギュラーが気になるが、今のところ少し調べた限りではシオンちゃんを介して朽土果がこちらに干渉するルートはなさそうだ。
詳しくは、シオンちゃんの正体を明らかにすることで、判明するだろう。
そこら編も含めての、作戦会議だ。
「ただ、一つ問題があるんだよな」
『問題? えっと……?』
「朽土果はリツを暴走させた。でも、リツを暴走させた理由は俺を抑え込むためだ。つまり、朽土果の本命は俺でもリツでもない」
「そして、本命になりそうな貴方は、今もこうして無事でいる」
多分、朽土果はリツが因習村を作るとまでは思っていなかったのだろう。
だから本来の狙いは、俺をリツが抑えている間に、シオンちゃんに何かをすることだと思うのだ。
だが、それはリツの因習村で上手く行かなかった。
『……朽土果のやろー、なんもいいところなくない?』
「それでも、何の手も打てなかったわけじゃないはずだ。ようするに――」
そうして、俺達はミクモちゃんが寝ているはずの部屋へとやってきて、リツが扉に手をかける。
「――ミクモちゃんに対して、何かしら手を打っている可能性がある」
『……そんな!』
俺の言葉で、慌てた様子でシオンちゃんが壁をすり抜ける。
俺達も合わせて扉を開くと――
「ぐおごごご、すぴー、すぴー、もうたべられません……むにゃにゃ」
すごいイビキをかきながら、ミクモちゃんが寝ていた。
『ミクモちゃん! ……アタシがでていく前と同じだ』
少しだけ、安堵した様子のシオンちゃん。
まぁ、絵面は普通にアレだし、見た感じ何も問題ないように思えるかもしれない。
でも、違うのだ。
「……ミクモちゃんは、異界が発生した時からこんな感じだったんだな」
『え、そう……だけど。なんかいきなりストンって寝ちゃって、後はずっとイビキ掻きながら寝言言ってる……』
「寝言を言ってるってことは、夢を見てるってことよ」
「んひひ、ロウクもっふもふですねぇ……すぴー」
いいながら、ミクモちゃんの前で腰を下ろすリツ。
そのまま、ぺちちちちちち、みたいな感じで頬を叩き始めた。
「でもね、私の異界で夢を見る人間はいないの。全員、永久にただ闇の中で眠るのよ」
『え、こわ……待って? それじゃあ今のミクモちゃんは、
「ふおごごごごご、リツさまぁ、そんなに高く飛んでると、見えちゃいけないもんが見えちゃいますよぉ」
――ミクモちゃんは、起きない。
寝言を言って……あ、変なこと言ったからリツに高速ビンタされてる。
『……ミクモちゃんは起きるんだよね? このままずっと眠ってたりしないよね!?』
「……方法はある。シオンちゃんの特性を考えれば、おそらくミクモちゃんを目覚めさせることは容易い。でも、それは――」
「しぴー、しぴー、れいばいしさーん、しぴー」
俺は、ためらう。
朽土果によって眠りにつかされたミクモちゃん。
リツの神力がこもった――しぴーが好きに聞こえたためだと思われる――高速ビンタでも起きることはなく。
おそらく、起こす方法は一つだけ。
しかし、それは――
『ミ、ミクモちゃんを起こすためならなんでもするよ、アタシ! どんとこい、だもん!』
「……けどな」
「――いいんじゃない、やらせてあげれば。そもそも、貴方が隠しすぎなのよ」
「あ、リツ――」
俺がためらっているところに、起こすことを諦めたリツが立ち上がって視線を向ける。
鋭く、射抜くような視線で。
「そのためにシオンに力を使わせたら、
『――え?』
真実を、シオンちゃんに告げた。
「ふおごごごごごごごごーーーーーっ!!」
ミクモちゃんのイビキがうるさい、部屋の中で。
◯
――ああ、やはりこうなってしまったか。
シオンちゃんにとって、消滅は避けては通れない問題だ。
しかし、それを告げるのはあまりにも残酷すぎる。
だけど、いつかは口にしなくてはいけない事実を。
結局俺は、リツに言わせてしまった。
鋭い視線をシオンちゃんに向けるリツ。
その言葉に、絶句して目を見開くシオンちゃん。
そして、
「ふおごごご、すぴー! すぴーーーーーーっ!」
イビキがめちゃくちゃ大きいミクモちゃん。
「…………」
『…………』
「ええと……真面目な話は、外でやろうか」
「そうね」
『あっす』
俺が言葉をためらったのは、ミクモちゃんのイビキも理由の一つだったんだけど。
まぁ、いいか。
――そうして、俺達は一度部屋の外に出て。
『あー、……えっと』
「……シオンちゃん」
『いや、なんていうか。解ってはいたんすよ。霊魂って眠らないんだよね? ……アタシがねるのはおかしいって、なんとなくそんな気はしてたんだ』
――それは、多分。
俺の事務所の三階で屯している霊魂を見ていて、気づいたのだろう。
霊魂は眠らない。
それがどれくらい、今の自分と矛盾しているか。
『それに気づいたら、あーなんか、霊媒師さん隠してるな……って』
「……隠し事は得意なつもりだったんだけどな」
『それ、悪いやつを騙すためにやる時っしょ? 霊媒師さんってさ、優しいんだよ』
「優しい嘘は苦手……か」
そんなとこ、とシオンちゃんが苦笑する。
リツからの呆れたような視線が俺に向けられた。
アレだな、リツはシオンちゃんがちゃんと状況を理解していると解っていたんだろう。
俺だけが、勝手に悩んで色々とためらってたってことか。
……少しだけ、情けないな。
「そんなことよりも、今の話をするわよ。……それで、どうすればミクモを起こせるのか。その子に説明しなさいよ」
「……わかった。まず、シオンちゃんには”魔”に触れる力がある。これはいうなれば、”魂”にふれる力なんだ」
俺の言葉に、シオンちゃんが胸に手を当てながら『魂?』と首を傾げる。
まぁ、概ねそんな感じ。
「そもそも、”魔”っていうのが肉体を持たない特殊な魂みたいなものなんだ。だから、魂に触れるシオンちゃんは、”魔”に触ることができる」
『……よっくわからんっす!』
「ミクモちゃんは魂が朽土果の影響で眠りについているんだ。シオンちゃんなら、直接魂に触れて揺り起こすことができるんだよ」
本当かなぁ、とシオンちゃんは首を傾げている。
「まぁぶっちゃけ俺も、これは単なる推測でしかないから、断言はできないんだけどな」
『できないの!?』
「試すわけにも行かないし、そもそも試す必要もなかったしな」
ただ、シオンちゃんが物体にふれることはできないのに、御札などを貼り付けることで物体にサワれるようになるのは、これ以外に説明できる理由がない。
仮に間違っていたとしても、魂そのものであるシオンちゃんが、ミクモちゃんの肉体をすり抜けて直接ミクモちゃんの魂に触れることは理論上可能だ。
問題はないだろう。
ただし――
「……とはいえ、魂に直接接触する行為は霊力を大きく消耗する。御札を貼り付けた物体に触れてる時は、物体の方がエネルギーを消耗している状態だったからシオンちゃんの負担にはならなかったんだが」
『今回、私が能動的にミクモちゃんと接触するのは、大きな消耗が伴う?』
「そういうこと」
受動的に触れる分には、何も問題ないのだ。
能動的に触ろうと思うことが、シオンちゃんの消滅を早めてしまう。
「――そして、朽土果の目的はシオンの消滅でしょうね」
そこで、俺達の会話を聞いていたリツが付け加える。
『アタシの……?』
「まず、東京での一件で、貴方のところの神と朽土果のつながりが明らかになった。ということは、貴方のその状態に朽土果は間違いなく絡んでるわ」
シオンちゃんの村の祟り神、海士蜘蛛は朽土果を”信奉”する神だ。
穢土蛇がそうであるように。
「そして、朽土果から干渉を受けたことで……朽土果の私達に対する感情が伝わってきた」
「具体的には?」
「私とミクモには、敵意。そしてシオンには――殺意よ」
だから朽土果はシオンちゃんの消滅を狙っている、と読んだわけだ。
その方法の一つとして、ミクモちゃんに干渉して”魂”を眠りに落とすことでシオンちゃんの消耗を狙ったわけだ。
本当はもっと直接的にシオンちゃんをどうこうするつもりだったんだろうけど。
リツがやらかしましてね……
『ちなみに、霊媒師さんには?』
「ドン引きしてたわ」
「まってくれ! 今回やらかしたのはリツだろ!」
俺は被害者だ!
『……なら、アタシは』
あ、スルーされた。
『ミクモちゃんを、起こしに行くよ。……それ、私にしかできないことなんでしょ?』
「……そうだな。他に方法があるかもしれないけど、今この場でできるのはシオンちゃんだけだ」
『あはは、霊媒師さんならその方法も見つけられるだろうけど――今回は、アタシが行くことにするよ』
そうして、シオンちゃんはミクモちゃんが寝ている部屋に戻ろうとする。
「――それは、直感か?」
『……うん』
「なら、止めはしないさ――シオンちゃんの人生だ、後悔のないようにな」
『…………うん!』
結局、やらなくちゃいけないと思っていた大人としての役割は一切できなかったけれど。
シオンちゃんは、きっと上手くやるだろう。
俺の、直感だ。