転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
シオンちゃんが、ミクモちゃんの部屋へと戻っていった。
あちらはシオンちゃんに任せてしまってもいいだろう。
その間に、俺達は俺達でできることをするべきだ。
「リツ、因習村の拡大はある程度進んでるか?」
「例の、朽土果の因習村があったところまでは進んでるわ」
「じゃあ、そろそろ良さそうだな。ここらへんで拡大を止めてくれ」
さっきから、リツの因習村はそのままにしてあるわけだけど。
俺達は拡大までそのままにしていた。
理由は単純で、外部から因習村内部がどうなっているかを推測させないためだ。
主に、朽土果に。
だが、流石にこれ以上因習村を拡大すると被害がでかすぎるし、何より異界の範囲に含んでおきたい場所はすでに収まっている。
なら、これ以上拡大する必要はない。
「全く、因習村を展開してしまった私も大概だけど。それを少しの間そのままにしておけなんていう、貴方も大概よ」
「必要なことさ。それに、このあたりは旅館以外に人が住んでる場所もないしな」
因習村化したのが、本当に山奥の秘湯で助かった。
俺達の街で因習村が発生していたら、大変なことになる。
「じゃ、早速だけど。昼に調査した朽土果の因習村まで、転移しよう」
「……解ったわ。神使いの荒い契約者なんだから」
語尾に「だから気に入ったのよ」とつきそうな上機嫌で、リツが俺を目的の場所まで転移させてくれた。
優しい。
「それで、まずは何を調査するの?」
「確認からだな。どうやって朽土果はリツに干渉したのか」
「それなんだけど――」
いいながら、リツが手を伸ばす。
そこから水球が産まれて、どこかへ飛んでいったかと思うと――少しして戻ってきた。
その手には、何やら虫のような……妖鬼か?
「あの場の支配者は朽土果だったわ。封印したとは言え、合一化したわけではないから私の干渉力も完全ではない。それを利用して、妖鬼の存在を隠蔽しつつ、神力を混ぜて操作したのね」
神力を注入された妖鬼は、神の支配下となる。
認識阻害を受けやすいのもそうだけど、神魔に弱いな、妖鬼は。
「相手の支配下で妖鬼の存在を隠されると、リツでも察知しきれないか……」
「いるとわかっていれば、どうということないわ。貴方だって、隠れている妖鬼の探知方法はいくらでもあるでしょ?」
「鈴を鳴らして共鳴させたり……」
「そういうところよ、れーばいしさん!」
ごめんて。
「それにしても、妖鬼に神力を注入して……ね」
「何よ」
「いや、ちょっと思いついただけだ。まぁ、また後でな」
詳しい話は、ミクモちゃんが起きてからでいいだろう。
とにかく今は、この場所の再調査だ。
「昼間は何もわからなかったけど、朽土果が情報を隠蔽してたなら当然だよな」
「そうね。でも今は、私がこの場所を支配下に置いている」
「異界化してるせいで、そとからは干渉もできなければ監視もできないってのはいいな。好き放題できる」
「……あんまり酷いことしちゃダメよ」
朽土果に優しくしている……リツはいい神様だな……
あ、ふざけてないでさっさと始めますね。
「まず、一つ疑問だったんだが」
「疑問?」
「いくらなんでも、朽土果の支配力が高すぎないか?」
「まぁ、分体ごときに私を暴走させる力があるのは、確かに意外ね」
そこに加えて、ミクモちゃんの魂を眠らせる余力まであるし。
危険度で言ったら、激高クラスまであり得る厄介さだ。
以前東京因習村を破壊した時の朽土果の分体は、そこまでではなかったのに。
本体ならわかる、それくらいはできて当然だ。
しかし、分体の力はそこまで大したものではないのである。
「そうして疑問を持ってみると、一つ説明をつけられそうな理由がある」
「なあに? 言ってみて、れーばいしさん。私、どんな突飛な答えでも受け止めてみせるわ」
「本来なら朽ち果てて忘れられているはずのこの集落に、どうして朽土果は因習村を築いたか」
俺はリツの理不尽をスルーした。
「
「案外、まともな答えだったわね」
失敬な。
ともあれ、ここが朽土果のルーツだというのなら――
「リツ、この土地の”記憶”を読み取ることはできるか?」
「そうね……水を鏡みたいにして、そこへ投影する形なら」
「構わない。朽土果のルーツを知ることができるかもしれないぞ」
リツは、大きめの水球を生み出して、そこに過去の映像を投影する。
何度かノイズを奔らせながら、少しずつピントを合わせるのだ。
「……見つけた」
「よし、そのまま移してくれ」
俺の言葉に、リツが頷いて。
俺達は鏡に視線を向ける。
そこには――発生したばかりの朽土果が移っていた。
◯
神魔は、存在した年月によってその格が決まる。
生まれた時から零号の神魔はいない。
全ての神魔が三号より始まり、年月によってより上の神魔へと
それは、朽土果も変わらなかった。
始まりの朽土果は、土そのものだった。
神は自然そのものなのだから、土そのものが神であってもおかしくはない。
だが、それ故に朽土果は、永遠に大地に”釘付け”にされることを定められていた。
朽土果は他の神のように、自由に行動することができなかったのだ。
以下に神が超然的な存在といえど、何もできずにただそこにいるだけという状況を耐えられる神は少ない。
だが、生まれた時からそれしかできなかった神は、行動を起こさなかった。
ただ流されるままに土の中に埋まり、そして少しずつ壊れていったのだ。
やがて、そんな朽土果に転機が訪れる。
朽土果に信仰者が現れたのだ。
始まりは、朽土果の”上”に住み着いた人間が豊作を大地に祈ったことだった。
結果として大地そのものである朽土果は信仰を手に入れ、力を手に入れる。
そんな折、一つの大きな地震が起きた。
それは大地である彼自身を揺らがし、力を手に入れていた彼は自分の身を守るためにそれを使った。
結果として、朽土果を信仰していた者たちは大きな地震から生き残ることができたのだ。
故に信仰者達は大地に感謝し、供物を捧げた。
人柱という、供物を。
いくら大地は豊かで、地震からも身を守れても、食い扶持に困ることはある。
だからこそ、口減らしを兼ねて人が供物として捧げられたのだ。
それを朽土果は、ただ流されるままに受け取った。
それが、間違いだったのだろう。
人柱という最上の供物は、信仰として朽土果に莫大な力を与えた。
同時に、間違った学習をして。
朽土果は定期的に、地震を起こすことで供物を求めるようになった。
その度に人は生贄を差し出し、朽土果は強くなっていく。
それを繰り返しているうちに――
いつしか、朽土果は零号へと至っていた。
だが、その頃には朽土果は祟り神として周囲に知られており。
ついには、多くの人と魔から危険と判断され、封印されることとなる。
封印の仕方は単純だ。
捧げる供物をすり替えて、封印が可能な力を持った存在。
零号妖鬼を生贄にすればいい。
そのために、一体の妖鬼が黄泉へと潜り、黄泉還りを果たして帰ってきた。
黄泉還りにより死をまとった零号妖鬼は朽土果にとって極上の餌。
抗うことはできず、罠に掛かった朽土果は封印される。
国中に、多大な呪詛を振りまきながら。
結果として、その呪詛は多くの祟り神に影響を与えた。
祟り神は最終的に、周囲から排斥される存在だ。
そんな祟り神の中に、零号へと至った神が現れた。
ならば、己も。
そう考えた神が、朽土果を信奉するのは当然の成り行きと言えるだろう。
そして朽土果も自身の復活を目的に、封印の隙間から極小の分体を送り出し。
自分自身と信奉者の祟り神を使って復活を目論んできた。
残念ながら、それは今のところ成功していなかったが。
今から数年前、ある神がその糸口を掴んだ。
それは、自分の封印に利用されている零号妖鬼を”別の存在”へとすり替えることだった。
別の存在、もっと言えば自分の支配下にある存在だ。
零号の封印は零号と生贄が対になることで成立する。
しかし支配下に置いた存在は朽土果と同一存在、封印が成立しなくなるのだ。
すり替えの方法は単純、すり替え対象となる存在を殺せばいい。
そうすることで対象を”特殊な加工を加えた霊魂”とし、それが成仏し黄泉へと向かう際に細工が起動。
黄泉ではなく、朽土果の封印へと魂が吸い寄せられるのだ。
この方法は、うまくいくはずだった。
提案した神――海士蜘蛛に、信仰者を操らせ対象を殺させる。
そして細工は完成し、後はその魂を成仏させるだけ――
そのタイミングで、全てが台無しになった。
霊媒師を名乗る、以前朽土果がちょっかいをかけて失敗した男が突然海士蜘蛛の村へとやってきたのだ。
ちょっかいをかけた理由は、その男の魂が他の魂とは違う”なにか”だったことに興味を覚えたから。
上手く行けば上出来程度のものだったので、失敗してすぐに朽土果は忘れていたのだが。
今回、霊媒師が全てを台無しにしたタイミングで思い出した。
霊媒師がやったことは単純、海士蜘蛛が用意した儀式完遂のためのギミックを全て無視して海士蜘蛛を撃退したことだ。
本来なら、もし仮にこのタイミングで因習村破壊が発生しても、なんやかんやあって対象の成仏は成功するはずだった。
しかしそのギミックを全て破壊したことで、対象――シオンは成仏しなかった。
その後、穢土蛇を利用し、妖鬼を黄泉に落とすことでそれをシオンに救出させ。
それを捕らえようとしたところ、何故か霊媒師が黄泉に突入。
これも失敗に終わる。
かくして、もはや朽土果に復活の方法はシオンが霊力を使い切ることに寄る自然消滅を狙うほかなく。
今回、なんとかミクモを眠らせることでシオンの霊力を大幅に削げる算段を立てることができた、のだが。
そこでも更に予想外の妨害が走った。
ちょっとした暴走を引き起こし、霊媒師を足止めさせるつもりだったリツが想像以上の暴走を起こしたのだ。
結果、世界を滅ぼしかねない因習村が発生。
朽土果は、これが世界を滅ぼさないか、ハラハラしているのが現状であった――