転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
記憶を読み取ったリツは、しばらく迷う素振りを見せてから開口一番。
「やっぱり貴方のせいじゃない」
「……朽土果を罵倒するか、俺を罵倒するかで俺を優先したな?」
いや、俺が何かしらやらかしたのかもしれないけどさ。
途中まで明らかに朽土果へ嫌悪感を示していたのが、ある一点から俺に対する呆れの感情に変わった。
何かしら、俺のやらかしポイントが朽土果に対する感情を上回ったのだろう。
と、思って話を聞くと――
「……アレのせいかぁ」
「アレのせいよ」
俺がいろんなものをスキップしたことが原因だった。
「海士蜘蛛が朽土果を信奉する神だなんて聞いてないが」
「察するに、そこら辺の資料はシオンの父親が持ってたんでしょう。”仕込み”も含めてね」
本来だったら発生するはずだった、シオンちゃんとその父親が因縁を精算するプロセス。
俺がなかったことにしてしまった結果、シオンちゃんは成仏せず朽土果の計画は全部ご破産になった。
結果として、大惨事は免れたわけだが。
因縁の精算を、無かったことにしたのはよかったのかどうか。
「別にいいんじゃない? あの子、もう自分の父親のこととか欠片も意識してないわよ」
「まぁ、それはそうかもしれないけどさ」
シオンちゃんの父親は、他にも色々と余罪があって逮捕され。
今は「娘に祟り殺される」とうわ言のように何度も呟いているという。
そんなこと、シオンちゃんは考えもしないだろうが、だからこそ父親はずっとその恐怖に苦しみ続けるのだ。
バツ、というやつなのだろう。
「何にしても、これで概ね朽土果の現状を把握できたな」
「……ふざけた話よ。いくら土の中に埋もれていて、精神が壊れかかっていたとしても。人柱を受け入れた時点でそれは朽土果の罪だわ」
神にとって、人柱に対する感情は極端に分かれる。
拒絶するか、受け入れるか。
受け入れる神は祟り神となるのだ、少なくともリツはそうではない。
普段の、俺を害した人間を祟り殺そうとするリツを見ていると不思議に思うかもしれないが。
これに関しては俺が受け入れないようリツに言葉を尽くしたわけではなく。
本来は人柱を受け入れない善良な神だったリツを、俺への愛情がリツを狂わせてしまったのだ。
自分でいうと恥ずかしいな、これ。
「それで? これからどうするつもり?」
「まずはシオンちゃんの結果を待ちつつ――もう一つやれることがあるな」
「それって?」
不思議そうにしているリツだが、俺の言う”やれること”はリツにも関係している。
具体的に言うと、妖鬼の支配だ。
「朽土果がやったように、リツも神力を妖鬼に流し込めばそれを支配下に置くことができる」
「……そうね。でも、異界の中に私が支配した妖鬼はいないわ」
リツを暴走させたのは、朽土果の神力に支配された三号妖鬼だった。
他にも、朽土果の記憶の中にあった零号妖鬼――ロウクの姉君――を”支配下に置いた魂”とすり替える際に使用するという方法。
その魂を支配する方法も、神力を魂に注ぎ込むことで行うのだろう。
ともあれ。
「いるだろ、ちょうどいいやつが。少し前に、リツの神力をパワーアップのために流し込んだ――」
「……あいつか」
支配下に置いてあれば、リツは異界の外から”そいつ”を転移させてくることが可能なはずだ。
そして、異界の中でも眠らせることなく、活動させることも。
要するに――
「ロウクを、ここに呼び出してくれ」
妖怪因習村破壊の際に神力を注ぎ込んだロウクを、戦力として呼び出すのだ。
というわけで。
『む、おお!? なんだここは!? 一体なぜ我はこのような場所にいる!?』
「よう、ロウク」
『むう、霊媒師ではないか! 大変だぞ、霊媒師。龍神が血迷った!』
困惑しているロウクを、この場に召喚した。
そして、俺に気付くと何やら変なことを言う。
いや、変なことをしたのは……リツか。
「血迷った、ですって?」
『そう血迷った……げぇ!? 貴様、なぜここにいる!?』
「あはは、血迷ったのはその通りだけど、今は正気よ。ねぇロウク」
『ぐえええええ』
どうやら、外の世界ではリツの因習村で国が大混乱に陥っているらしい。
俺にも連絡がつかないし、どうしたものかと妖鬼も退魔寮も困っていたようだ。
ただ、現在は因習村の拡大が止まっていることから、内部で何か起きているのだろうという推察がされていた。
『父上が、止まってるなら大丈夫だろうと言っていたが、案の定か』
「付き合いの長い相手なら、それだけで概ね事情は察してもらえるみたいね。普段の行いのせいよ」
「行いのおかげ、でいいんじゃないか……? とはいえ、何かしら事情は説明しておかないとな。リツ、今から手紙を宗屋さんのところに転移してもらえるか?」
「はいはい」
そう言うと、リツが手元に紙とペンを転移してくれた。
宿に置いてある俺のカバンに入っているものだ。
現在起きている内容と、これから俺達が行う予定のことを簡単に書き記す。
これを、リツが宗屋さんの自宅にあるリツの神棚へ転移すれば事情の説明にはなるだろう。
『……なんと書くのだ』
「まず、この異界は朽土果の影響を受けないから、一旦異界で準備を整えて作戦を立て――」
ペンを奔らせながら、俺は力強く宣言する。
「朽土果を、討つ」
その言葉にロウクは絶句し、リツはため息を付くのだった。
◯
人の価値は、生きた”証”によって決まると思っていた。
生まれた時から価値のある人間なんていない。
全ての人間は赤ん坊から始まって、年月によって少しずつ大人へと
それはアタシも、変わらないと思っていた。
でも、アタシの始まりは窮屈で、何もない場所だった。
閉鎖的な環境に生まれることもなんて、なにもおかしいことはない。
ただ、普通はその環境を受け入れるか、その環境を飛び出すものだと思う。
でも、アタシにはそれができなかった。
父親は私の勝手を許さないし、周囲にアタシを助けてくれる人はいない。
生まれる場所を選べなかったアタシは、行動を起こすことができなかった。
ただ流されるままに歳を重ねて、少しずつ諦めていったんだと思う。
そんなアタシに、転機が訪れた。
といっても、決していい転機ではない。
父親が、アタシを殺そうとしたのだ。
正確には、その予感をアタシが察知した。
当然、そんなの受け入れられるわけがない。
でも、アタシにできることなんてほとんどなくって。
できることと言えば、アタシの死によって発生する”何か”を少しでも止められるように。
記録を残して、後を託すことだけだった。
まぁ、その記録は誰にも読まれることなく、アタシは死後に救い出されたわけだけど。
霊媒師さん。
アタシをあの場所から救ってくれた人。
自分は転生者だとかいう変な人で、一般人なのにアタシが見える辺りそれは嘘じゃないのかもしれないな。
雰囲気はなんとなく胡散臭いし、霊媒師って名前もそれっぽい。
でも、それ以上にあの人はとってもとっても変な人だ。
事件を解決する方法が、とにかく変。
何を食べればあんな発想が出てくるのかってくらい、変。
でも、リツ様やロウクやミクモちゃんから慕われていて――
アタシも、すっごくすっごく救われていた。
優しい人なのだ。
人の善意を信じているというか。
大人なのに、子どものアタシより純粋なところがある。
優しい嘘をつけないタイプで、結構なお人好し。
でもそれが、アタシにとっては助かるときもあるんだよね。
霊魂になったアタシは、もう普通には生きれない。
どころか、少しずつ力を失って何れは消えて亡くなっちゃうんじゃないかって。
そんな気がしてた。
それは周囲の私を気遣う雰囲気からも察せられたし。
何よりミクモちゃんが、隠そうとして隠せていなかった。
ミクモちゃん、アタシにとって初めての友達……親友。
真面目で、優しくて、ちょっと調子に乗りやすいところがある。
漫画やアニメが大好きで、アタシとも話が合う気のおけない隣人。
ミクモちゃんも、霊媒師さんのことは慕ってるみたいだった。
ちょっと恋心が混じってる気もするけど、それはおすすめしないなぁ。
霊媒師さん、鈍いしリツ様のことしか見てないし。
まぁでも、淡い恋心もミクモちゃんにとっては幸せのカタなのかな。
恋に恋するって、乙女の憧れだもんね。
でも、そんなミクモちゃんにも悩みはあって。
それをミクモちゃんはアタシに話そうとはしなかった。
多分、アタシの悩みと比べて自分の悩みを”小さい”と思ってたからだと思う。
まぁそりゃ、アタシの悩みって死んでることなわけですし。
それと比べたら、自分の悩みを小さいと思っちゃうのは仕方のないことだよね。
ただ、悩みの大きさと大事さは別だとアタシは思う。
どれだけその悩みが自分にとって大きくたって、小さくたって。
悩みの時点でそれはすっごく大事なことなのだ。
生きるか死ぬかの悩み事も。
明日の献立にたいする悩み事も。
きっと、どっちが大事じゃないってことはないと思う。
流石に献立のほうが、小さい悩みだってことは否定しないけどね。
ようは、心の持ちようって話。
どんな悩みも、苦しみも、結局は心の持ちようだ。
心が強くないと、人は――多分、人以外の存在も――楽な方へと流される。
流されたまま受け入れて、自分の意志で決めてないのにそれを自分のものだと思い込む。
奪われたら、文句を言う。
アタシの父親がそうであったように。
多分、アタシをこうした神がそうであるように。
そんなのダメだ、気に入らないってアタシは思う。
でも、そんな神のせいでミクモちゃんが眠らされている。
それは、よくない。
目覚めさせる方法は限られていて。
その一つが、アタシだった。
だったらさ、やるしかないじゃん。
アタシをここまで導いてくれた霊媒師さんとリツ様。
アタシに仲良くしてくれたミクモちゃんとロウクっち。
アタシはみんなに救われたんだもん。
みんなを助けたいと思うんだもん。
「――だからさ、そんな顔しないで、ミクモちゃん」
そうやって、アタシはミクモちゃんに呼びかける。
ここは、ミクモちゃんの精神世界……みたいなものだと思う。
場所は、霊媒師さんの事務所。
自分の家でも、学校でもなく。
ミクモちゃんはここを選んで。
「……でも、シオンちゃん」
寂しそうな、つらそうな顔でうずくまって。
「話を、さ。……しよっか」
アタシを見上げていた。