転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
どうしてミクモちゃんは、この場所を選んだのだろうとアタシは考える。
ミクモちゃんにとって、居場所と言える場所はいくつもあって。
その中の一つが、この霊媒師さんの事務所だ。
アタシだったら、まず間違いなくこの場所を選ぶけど。
そもそも、アタシの居場所ってここしかないようなものだし。
ああでもそっか。
ミクモちゃんがこんなふうに、弱みを見せられる場所なんて。
霊媒師さんの事務所しかないんだろうな。
「……霊媒師さんってさ、ほんっと変わってるよね」
「……ですね」
ミクモちゃんは、外では優等生で天才ともいわれる退魔師だと聞いたことがある。
実際、私と同い年なのに霊媒師さんと仕事の話をしてても全然問題なさそうだし。
優秀なんだろうな、っていうのは見てて思う。
だからこそ、こうも思うのだ。
「ミクモちゃんって、どうして霊媒師さんに憧れてるの?」
「あこっ! ちょ、シオンちゃん! そんなストレートに聞かないでくださいよ!」
「あはは……ごめんごめん」
いいながら、アタシもミクモちゃんの横に座る。
まぁ、そもそもの話。
「憧れてるって言えば、アタシだって霊媒師さんには憧れてるわけだし」
「う……じゃ、じゃあ。シオンちゃんは聞かなくても答えなんて、解ってるんじゃないですか?」
「いや、アタシの場合あのクソみたいな村から連れ出してくれた恩があるから……」
「くぅ、お姫様みたいで羨ましいです……!」
逆に言えば、ミクモちゃんは普段の霊媒師さんと接したうえで憧れてるんだ。
いや、アタシも初対面はあれだったけどさ。
「……それこそ、言うまでもないと思うんですよ。霊媒師さんは、私に居場所をくれた人です」
「この、事務所?」
「そうです。ロウクとリツ様と霊媒師さんと一緒にいると……すっごく安心できて」
自分の家の中ですら、気を抜けないミクモちゃん。
この、どこか疑似家族みたいな関係は、すっごく新鮮で温かかったんだってのは……たしかにわかる。
と、そんな時。
「――あ」
「どしたの?」
不意に、立ち上がってミクモちゃんはアタシを見た。
「――今なら、シオンちゃんもご飯を食べられるんじゃないですか!?」
――それは。
「……ほ、ほんとに?」
「ここは、私の夢の世界です。みてください、今のシオンちゃん――足、ありますよ!」
「ホントだ!」
ちょっと、思っても見ない展開だった。
今のアタシは霊魂のシオンじゃなくて、ミクモちゃんの夢の中にいるアタシだから。
ミクモちゃんがそう認識していれば、人として振る舞える……らしい。
よくわかんないや。
そうして、説明を終えたミクモちゃんは一回だけ深呼吸をしてから提案する。
「私、それなりに料理できますから……何かお作りしましょうか?」
「お願いしてもいい!? あ、もちろんアタシも手伝うよ!」
「ふふ、お願いしますね」
こうして、アタシ達は初めて一緒に、料理をすることになった。
◯
事務所の冷蔵庫を失礼して――いやまぁ、ここはミクモちゃんの夢の中だから持ち主は実質ミクモちゃんなんだけど――中身を確認。
そしてミクモちゃんはメニューを決めた。
「カレーにしましょう」
カレー。
それだったら、アタシも作ったことがある。
あのクソ親父は料理なんてしてくれなかったから、そもそも自炊は結構してたし。
手慣れたものだ。
「ふふ、シオンちゃんも結構やりますね」
「アタシの料理スキルは、このときのために磨かれて来たんだなぁ」
なんて話をしながら、手を進める。
最初の内は色々と楽しい話をして、いつもみたいに日常を過ごして。
だけど、少しずつお互いに口数が少なくなっていく。
多分、これが最初で最後の、二人で食べるカレーだからだ。
「……霊媒師さんって、すっごく悪い人だと思うんですよ」
「あ、わかる。目的のためなら、とんでもないことやらかすのって結構なワルだよね」
「ええ、ええ。そのせいで、こっちはどれだけ頭を痛めてきたか」
だからか、それを誤魔化すために霊媒師さんの愚痴で盛り上がる。
本当に優しい人だとは思うけど、あこがれではあるんだけど。
それはそれとして、あの人何やらかすかわかんなくて怖い。
でも、だからこそ――
「だからこそ、思うんです。……シオンちゃんのことも、霊媒師さんならどうにかしてくれるんじゃないか、って」
「……それは」
――そう思ってしまうのは、自然なことではある。
アタシ自身、それを願わなかったわけじゃない。
そもそもアタシが夢の中に潜ることを容認してくれた時点で。
霊媒師さんには何か考えがあるんじゃないかって気もする。
だから、こそ。
「……だからこそ、期待しすぎるのは……怖いよ」
「少なくとも――」
ミクモちゃんは、小さなお皿を取り出して、そこにカレーを乗せる。
そうしてそれをアタシに手渡して、味見を促してきた。
「この状況で、シオンちゃんが料理を楽しめるっていうのは――霊媒師さんの想定内だと思います」
アタシは、それを受け取る。
「……私、安心できる居場所がここしかないんです。なのにこうして、みんなに迷惑をかけてしまって、シオンちゃんには大きな負担をさせてしまって」
「だから、あんなふうに寂しそうにしてたの?」
「はい。でも――シオンちゃんと料理を食べれるって思いついたら……霊媒師さんが、背中を押してくれた気がしました」
それは、なんというか。
料理を食べられない霊魂と、夢の中で料理を食べる。
それ自体が、何をやらかすかわからない霊媒師さんの影響を感じられて。
「……ミクモちゃんも、霊媒師さんっぽくなってきたね」
「な、何をいいますかぁ!?」
笑いながら、私は味見のカレーを口に含む。
「……美味しい。本当に美味しいよ、ミクモちゃん」
その言葉に、ミクモちゃんも笑顔を浮かべた。
そうして私は、久方ぶりの――人生で一番美味しいカレーをミクモちゃんと堪能した。
さぁ、これが終わったら……絶対に何か企んでいるだろう、悪い男な霊媒師さんのところに戻ろっか。
◯
「――というわけで、これが朽土果討伐計画の概要だ」
「おお……」
『わぁ……』
戻ってきたミクモちゃんとシオンちゃんに、これからの計画を説明する。
なんか、普段みたいにドン引きされるわけでもなく。
あぁやっぱり、みたいな謎の納得でもって受け入れられた。
二人は夢の中で何を話したんだろう。
何にせよ、二人はとてもスッキリした様子だった。
どうやら夢の中で料理を食べてきたみたいで、ミクモちゃんの目標もシオンちゃんの願いもまとめて叶えることができたらしい。
直感に従って、正解だったな。
「細かい内容は現地で改めて調整することになるけど、基本骨子は変わらないはずだ。朽土果の記憶を読み取ったことで、概ね向こうの狙いと考えを理解できたからな」
「まぁ、理解する必要のない三下の思考だったけどね。厄介なのは、力だけだわ」
朽土果の思想自体は、そこまでだいそれたものではない。
ただ、やはり
何が厄介って、その神の信仰をそのまま自分のものにできるのだから。
単純な神力の出力は、封印さえ解けてしまえば他の神とは比較にならない。
「何より厄介なのって、朽土果が大地の神ってことですよね」
『どのへんが厄介なの?』
「大地ってことは、神の大半と密接に関わってるんですよ。それこそリツ様だって水神ですし……」
「ようするに、朽土果は大抵の神を支配下に置けるんだ」
正確に言うと少し違うのだけど、結果はそう変わらない。
他のどんな神よりも力を持つ神が、強引にその力で他の神を屈服させてしまうのだ。
リツのように零号神魔で、天候にも干渉できる特性を持っていれば完全な支配下に置かれることはないだろうが。
それでも、大きく力を削がれてしまうことに変わりはない。
「まぁそれに、今回も向こうの領域に踏み込んでの戦いになる。今回、リツの力はほとんど期待できないだろうな」
「……本当なら、サトルをそんな死地に遣わすなんてありえないのだけど。サトルの方法以外で朽土果をどうにかできる考えはないから……諦めるわ」
最後まで、俺の危険を納得しないリツであった。
というわけで今回、出力的には最大戦力であるリツの力は期待できない。
いや、リツにはリツでやってもらわないと行けない大事な役割があるのだけど。
それは戦闘外のことだ。
『ククク、やはり霊媒師が一番頼りにしているのは我のようだな! ハハハ! 任せておけ、我であればたとえ朽土果であろうとぷちっとしてやろう!』
「ぷちっとしたのは、リツ様パワーのおかげじゃないですか! というか、霊媒師さんが一番頼りにしてるのは私ですよ!」
「あはは、二人共本当に今回は頼りにしてるから」
というわけで、今回の戦闘におけるメイン戦力はミクモちゃんとロウクだ。
シオンちゃんは戦えないしな。
それに、これ以上力を消費するわけにも行かないし。
それはそれとして。
『……でも、最終的に作戦の要ってアタシと霊媒師さんってことになるよね』
「まぁ、そうだな」
『霊媒師さんは問題ないだろうけど、アタシすっごく不安なんだけど!?』
作戦の要は、シオンちゃんだ。
俺も要だとシオンちゃんは言うが、勝利のためにはどうしてもシオンちゃんの力が必要になる。
重要度で言えば、きっと彼女が一番高い。
「まぁ、聞いてくれ。俺だって、正直不安がないわけじゃないよ」
『ほんと?』
「ああ、なにせ相手は世界を滅ぼしかねない相手だ。そんな相手と戦ったことは……そんなに無いしな」
『経験自体はあるじゃん!』
いやそりゃ、あるかないかで言えば、あるだろ。
今まさに、真横で俺とシオンちゃんの会話をジトっと見ている零号神魔様とか。
なんだったら、今回俺は世界の危機と二連戦である。
あ、リツが視線を逸らした。
こっちの考えを読み取ったな?
「まぁでも実際、危険な戦いではある。保険は色々と用意してあるけど、未だに不透明な部分もある。絶対に勝てるとは言えない戦いだ」
ともあれ、俺は皆に呼びかける。
リツはつまらなそうに、シオンちゃんは不安そうに。
ロウクとミクモちゃんはやる気に満ちた表情で。
俺の方を見ていた。
「だけど、勝つ。これまで俺がそうしてきたように。俺達がそうしてきたように。相手が神だろうと、大地そのものだろうと関係ない」
結局のところ、俺がやっているのは以前のタツメ除霊とそう変わらないのだ。
不可能と思われていることを可能にする。
ただそれだけのことだ。
「それに……これは俺達にとって、絶対に必要な作戦だ」
『……』
俺は、シオンちゃんを見る。
シオンちゃんが消滅すれば、朽土果が復活する。
それは絶対にさせないし、させてはならない。
だけど、それは同時にチャンスでもあるのだ。
なにせシオンちゃんと朽土果はつながっている。
それを利用すればシオンちゃんを――
「――この作戦なら、シオンちゃんを救えるかもしれないんだから」
俺は、決意を込めてそういった。
『……大丈夫、だよね?』
「ええ、大丈夫ですよシオンちゃん。なにせ――」
そんな俺の言葉を聞きながら、不安そうにこぼしたシオンちゃんをミクモちゃんが励ます。
自信に満ちた笑みで――
「多分、これが一番早いと思いますから」
なんだか、どっかで聞いたことあるような物言いをして。
俺は一度苦笑してから、
「よし、じゃあ行くぞみんな!」
そう、号令をかけた。