転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
俺達は、その後念の為シオンちゃんの父親の部屋も調査した。
だけどそこには、朽土果と海士蜘蛛のつながりを暗に示すくらいの情報しかなかった。
正規ルートなら今後につながる大事な伏線になってそうなのに。
残念ながらそうはならなかったわけだ。
で、これ以上情報はなさそうなので家から出ると。
「れ、霊媒師さーん! 助けてくださ―い!」
ミクモちゃんがピンチだった。
何やら敵の数が増えていたのだ。
蜘蛛の影だけではなく、蛇の影までミクモちゃんを襲っている。
『ミクモちゃん!』
「すまない、遅くなった!」
俺達は慌ててミクモちゃんのフォローに入る。
シオンちゃんには、渡しておいた殺傷用の神力スプレーを使ってもらい。
俺は拳銃でミクモちゃんを援護していく。
いや本当に数が多い。
となると、ここは何かしらの手段で一掃してロウクと合流するべきだな。
『霊媒師さん、アレ使えない? 閃光アレ!』
「手榴弾ね。もちろん使うさ、今度は更に改良した新型だ」
いいながら、俺は懐から閃光手榴弾を取り出してピンを抜く。
「わああ! なんてもの使うんですか!」
「大丈夫、ミクモちゃんはそのまま構えてて!」
慌てて物陰に隠れようとしたミクモちゃんを制して、俺は手榴弾を投げ入れる。
すると――光は、さして大きなものではなかった。
アレ? とミクモちゃんとシオンちゃんが首を傾げていると。
突如、光に飲まれたように影が消えていく。
「な、何が起こったんですか!?」
「閃光手榴弾が対策されてたんだよ。向こうもこれで一掃されてるのは見てるからな」
『いやでも、それはそれとして影は消えてるよね』
「だから、
閃光手榴弾は、非常に手軽で人類にある程度無害な霊的存在の排除方法だ。
初見でなければ、ほぼ間違いなく相手は対策を打ってくるだろう。
今回の場合は、光量を抑えるよう異界そのものに細工がしてある感じか。
なのでこちらも対策をする。
「閃光手榴弾の光の何割かを
認識阻害した結果、異界は光を認識できなくなった。
完全に認識阻害しないのは、光ってることを認識できないと起動したかわからないからだな。
「霊媒師さんって、何を食べたらそんなこと思いつくんです?」
「別に、ミクモちゃんがうちに来た時食べてるカレーとかと変わらないけど」
『ああ、だからミクモちゃんも、霊媒師さんっぽくなってるんだ』
「なんですとぉ!」
なんて話をしながら、俺達はロウクの元を急いだ。
◯
『ぬおおー! 助けてくれ、霊媒師ー!』
「こっちもか!」
そしてロウクも影に囲まれて、苦戦を強いられていた。
いや、ロウクなら高い殲滅力で影をものともしないはずなんだけど。
「見てください、あの影……妖鬼の影ですよ!」
「穢土蛇が黄泉還りを試そうとした妖鬼たちをコピーしたのか……!」
どうやら、ロウクを襲っている影は妖鬼を模した影であるようだった。
妖怪因習村で、半数の妖鬼が黄泉に落とされている。
この時に朽土果がその情報を読み取って、こうして影として生み出しているのだろう。
蛇の影が出現したもの、理屈は同じか。
『また閃光手榴弾で吹っ飛ばす?』
「む、何だそれは。いやどう考えてもろくでもないからやめるのだ! 影とは言え、小奴らは善良な妖鬼だぞ!」
『う、そう言われると悪いことしてる気分になる……』
ロウクが影を薙ぎ払え無い理由は同情だ。
同族の、しかも善良な妖鬼の影とか、ロウクみたいな甘い奴が薙ぎ払えるわけがない。
朽土果がそれを狙ったのなら、とんだ策士だ。
……多分偶然な気がする。
それはそれとして。
「って、要するに倒さずに制圧しろってことですか? 無茶ですよ!」
『頼むー! 我には忍びなくて! 忍びなくてー!』
「もー、やってみますけど無理だったら諦めてくださいね!」
今にも泣き出しそうなロウクの頭を叩いた後、ミクモちゃんが前に出る。
すると、何やら妖鬼の影がたじろいだ気がした。
これなら行けるかもしれないな。
「……むう、やっぱり実際やるってなると恥ずかしいですね」
「そこはほら、慣れておくと間違いなく今後便利だから」
「うー……ええい、やったりますとも!」
『行け―!』
何やら、雰囲気はアイドルのライブみたいだ。
シオンちゃんもノリノリで応援している。
どうしてそんなノリノリかといえば、とても単純。
『みなさーん! 私の声をきいてくださーい!』
ミクモちゃんの声音が、人のものから妖鬼の声に変化した。
すると、ビクッと影が震える。
これもまた、ミクモちゃんの新たな特性の一つなのだ。
『現在私達は、朽土果という悪い神魔を倒すためにやってきています! みなさんが善良な妖鬼なら、それに力を貸してほしいのです!』
言いながら、ミクモちゃんは影の妖鬼達にアイドルみたいな感じで愛想を振るまいている。
俺の隣で、シオンちゃんがキャーキャー言っていた。
そんなミクモちゃんの声を聞いて。
ミクモちゃん――またの名を、激マブ妖鬼系わんこアイドルミクモ(命名シオンちゃん)の声を聞いて。
彼らがそれを受け入れたのだ。
そう、ミクモちゃんは現在、人であると同時に、妖鬼になっていた。
◯
なんだかよくわからないままに犬耳と尻尾が生えてしまったミクモちゃん。
色々検証したが、結局神魔とのつながりは見えてこなかった。
となると原因は妖鬼の方にあるんじゃないか、というのが最初の仮説。
加えてミクモちゃんの体内から妖力が検出されて、仮説は一気に現実味を帯びてくる。
というか。
「神魔由来じゃないなら、妖鬼由来なんだろ? だったら、妖力を生み出せるんじゃないか?」
と、俺がいい出したのが全ての始まり。
いつものように周囲から総ツッコミを受けた後、やってみたらなんか出来た。
人が妖鬼に変じるというのは、たまによくある話しだ。
ただそういう場合、何かしらのきっかけみたいなものがあるのがほとんどで。
ミクモちゃんみたいに妖怪因習村に侵入したら突然生えました、みたいなのはなかなかない。
というか俺も聞いたことがなかった。
何にしても、妖力を生み出せたことから今のミクモちゃんは
「うー……妖鬼としての初めての仕事がこれでよかったんですかね……」
「本来予定してた初仕事も、ぶっちゃけこれでよかったのか疑問じゃないか?」
「自分で作戦立てておいて、それを言うんですか!?」
まぁまぁ。
何にしても、妖鬼になりかかっていること自体は正直そこまで問題視することではない。
人と妖鬼は敵対することもあるが、現代だと普通に共存関係だ。
仮に問題視する退魔師がいたとしても、なんか俺の名前を出すと目をそらすらしい。
俺は魔除けの置物かなにかか?
いや、逆におびき寄せてるんだけどさ、ミクモちゃんっていう”魔”を。
何にしても、どうして妖鬼になってしまったのかは一旦脇において。
今はそれを有効活用しよう、というのが俺達の作戦だ。
『いやぁ、それにしてもミクモちゃん可愛かったねぇ』
「もー、シオンちゃんはからかわないでくださいよ!」
まず、ミクモちゃんは妖鬼になったことで、何やら妖鬼達からはマブいスケ(シオンちゃん談)になっているようだ。
さっきみたいに呼びかけることで、話を聞き入れてもらえるらしい。
ぶっちゃけ、ロウクよりもずっと妖鬼たちはミクモちゃんの言葉に熱心だった。
「こほん、それでは霊媒師さんの方も必要なアイテムを確保できたみたいなので、私は自分の仕事に移りますね」
「ああ、よろしく頼む」
「では早速……」
ミクモちゃんは、呪符を両手両足を犬の手足の形にして覆う。
先ほどと同じ、ワンコすたいる。
その状態で――
「ここ掘れワンワン!」
地面をかき分けていった。
凄まじい勢いで地面が掘削されていき、準備が始まる。
俺達は、ミクモちゃんの成功を信じながら、目的の場所に向かうとしよう。
◯
あの後、でてきたのは蛇と蜘蛛の影だった。
妖鬼の影を使えなくなったことで、ロウクが暴れられるようになり。
俺達は順調に先へ進む。
たどり着いたのは――
「……戻ってきたぞ、海士蜘蛛の社だ」
『…………』
因習村を破壊する時に立ち寄った、海士蜘蛛の社だった。
古ぼけてはいるものの、それなりに手入れされた神社。
周囲を調べてみると――
「やっぱり、上手く偽装してあるけど、何かしらの儀式の準備ができている」
『……アタシが成仏した時に、その魂をかっぱらって朽土果の封印とすり替えるため、だったよね』
「ああ、そんな感じのはずだ」
そして、そのことに俺達が気が付かず海士蜘蛛を倒したことで――儀式は今も準備万端で放置されている。
俺達はその最後のピース。
封印の鍵となる御札と――
「封印の人柱を、ここまで連れてきた」
『……』
シオンちゃんが、顔を伏せる。
ここは、シオンちゃんが父親に殺された場所だという。
いい思い出はなにもない。
そこに加えて、今度は封印だ。
「改めて、確認だ」
『うむ』
ロウクが、襲いかかってくる影の蛇と蜘蛛を薙ぎ払いながら頷く。
俺もそれに頷きかえして――
「ここで封印の儀式を行うことで
この計画の、肝とも言える部分を口にした。
そう、俺達はこれから朽土果の封印を破る。
封印の儀式で封印を破るっていうのも変な話だが、向こうがそういうギミックを用意したのだから仕方がない。
「この封印の儀式と御札を使って、人柱を封印すれば――朽土果が用意したギミックは作動するはずだ」
『そうやって封印を解くために――』
シオンちゃんの言葉に、俺は彼女へ視線を向ける。
この作戦には、人柱というなの生贄が必要だ。
だからどうしたって、誰かを危険にさらさなきゃいけない。
この場で人柱としての条件を満たすのは――
『
ならば、当然俺が人柱になるほかない。
――この場合、人柱になるための条件は一つ。
死んでいることだ。
死ぬことで朽土果という死の化身に近づくことができる。
シオンちゃんは本来想定された人柱である以上、人柱にしてしまったらそのまま消滅する可能性が高い。
ならば、俺が行くほかないだろう。
『……本当に大丈夫なの? 霊媒師さん』
「任せておけ、俺は転生者だ。一回死んだことあるんだし、なんてことないよ」
『もう、またそうやって……』
シオンちゃんは、俺が危険な目に遭うのが嫌なんだろう。
でも、それを言ったら俺だってシオンちゃんを危険な目に遭わせるわけには行かない。
大人として、子どもを守るのは当然のことだし。
何よりシオンちゃんにはこの後、大事な役割がある。
「そういうわけだ、ロウク。俺が戻るまでシオンちゃんと皆を頼むぞ」
『ふん、任せておけ。神力を操るようになった我は無敵だ!』
そうして、最後にロウクへ声をかけてから。
「行ってくる」
俺は、自分に向けて封印の御札をかざし。
儀式を開始した。