転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第49話 ”最悪”の存在

 ”最悪”とも呼ばれる神、朽土果は歯噛みしていた。

 あの男はなんなのだ?

 霊媒師。

 かつて、肉体を奪えないかとちょっかいをかけた相手が、巡り巡って自身に襲いかかっている。

 相手はかの零号神魔”(リツ)”の()()だ、それくらいのことができるポテンシャルはあるのだろう。

 まぁ、この”眷属”という認識がそもそも間違っているのだが。

 ともあれ、最初に海士蜘蛛の計画が邪魔された時は憤りもした。

 穢土蛇を排された時は、この男こそが自分にとって最大の障害になると認識した。

 しかし、神魔リツがあの男と永遠を共にするため異界を形成した時。

 朽土果は強い困惑を覚えた。

 

 その男は、なんてことのない普通の男だ。

 やっていることはともかく、人間性におかしな点は見られない。

 零号神魔が、永遠をともにしたいと思うほど入れ込む相手なのか?

 あの男には、それほどの力があるのか?

 疑念が渦巻く中、膨れ上がっている異界にハラハラしていると。

 突然その成長が止まったかと思ったら――

 

 霊媒師一行が、こちらにカチコミをしかけてきた。

 

 しかもなんか犬が一匹増えている。

 中でなにがあったのだ?

 理屈はわかる、朽土果の監視が届かない場所で作戦を立ててきたのだろう。

 あそこには朽土果が生まれた場所もある。

 こちらの狙いを察して、対策を立てることくらいはできるはずだ。

 が、しかし前提がおかしい。

 一体何があれば、暴走した零号神魔を正気に戻せるのだ?

 それもただの暴走ではない、そのまま世界を壊してしまってもいいと思うくらいの暴走だ。

 ちょっとドン引きするくらいおかしくなった神魔を、正気に戻す方法が果たしてあるのか?

 

 状況に理解が追いつかない中で、急いで朽土果は海士蜘蛛の因習村を乗っ取り異界を形成。

 ただでさえ本体は封印されており、各地に散らばった分体の集めた信仰と神魔の信奉だけで戦わなくてはいけないというのだ。

 状況としては悪い。

 ただ、幸いなのは向こうの戦力もそこまで大したことがなかったことか。

 なにせ一号妖鬼と犬耳が生えただけの退魔師がメイン戦力である。

 霊媒師が何をするかわからないところがあるが、神魔リツを牽制できている自分と霊媒師の相性は決して悪くないだろう。

 

 が、それでも。

 犬耳の生えた退魔師が手と足を犬の手にして大暴れし。

 一号妖鬼は神力で巨大化した。

 なんだあれは。

 それで何をするのかと思えば、海士蜘蛛が仕込んだ封印の札を持ち出すではないか。

 アレ処分していなかったのか?

 何にせよ、霊媒師の狙いがわからない。

 とにかく優先すべきは霊媒師を排除することだ。

 そうすればシオンが消滅し、自分は復活できる。

 何より、このような危機的状況をもたらす外敵がいなくなるのだ。

 

 だが、そこからはおかしなことが続いた。

 まず霊媒師が閃光手榴弾で蜘蛛と蛇の影を撃退したのである。

 しかしそれはおかしい。

 あの閃光手榴弾が厄介なことは、穢土蛇の一件で把握している。

 だから異界に強大な光が発生した時それを抑制するよう、仕掛けを施したのだ。

 だというのに、影は消滅した。

 その後、光そのものに認識阻害をかけることで異界の関知をすり抜けたのだと理解したが――

 

 もしかして、自分はやってしまったのではないか、と朽土果は思った。

 ただでさえ厄介な閃光手榴弾に、対策まで打たせてしまったのだ。

 アレ、一体どうやって防げばいいのだろう。

 とはいえ、流石に朽土果ほどの存在になれば効果はないだろうが。

 今後もし霊媒師と敵対する者がいたら大変だな、と朽土果は他人事のように思った。

 

 そしてもう一つ。

 犬耳の退魔師の犬耳が飾りではなかったのだ。

 妖鬼に”なりかけ”ているらしい。

 一体どうしてそんなことに? まさか自分と同時に封印されている零号妖鬼の影響か?

 だとしたら――いや、そんなことはどうでもいい。

 

 犬耳の退魔師が、妖鬼であることを利用して妖鬼の影を退治してしまったのだ。

 一号妖鬼の方はどうやら口の割に性根がヘタレのようで、同族の影を攻撃できていなかったのだが。

 それを、声がけだけで退けてしまったのである。

 なんてことだ。

 

 ただ、その後信じられないことが起こった。

 海士蜘蛛の社にやってきたかと思うと、儀式を行うといい出したのだ。

 え? 儀式?

 まさか自分の封印を解き放つために?

 一体どうして? しかし封印を解いてくれるならそれも吝かでは――

 とか、思っていたら。

 儀式の人柱となるべき霊魂、シオンが言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()んだよね』

 

 

 やめて。

 

 なにやら霊媒師は、朽土果の封印を解く条件を満たしているらしい。

 なぜ? 何を言っているのだ?

 しかし疑問に思っている暇はない。

 なにせ、今まさに封印を自身に施した霊媒師が目の前まで迫っているのだから。

 

 黄泉の中にいてもなお、平然としている頭のおかしい男が。

 こちらの策をことごとく台無しにして、今まさに朽土果自身にも王手をかけようとしているだろう男が。

 眼の前に、眼の前に、眼の前に――――

 

 

「見つけたぞ」

 

 

 そう、呼びかけられた時。

 朽土果はほころんだ封印から一目散に飛び出した。

 かつて、朽土果は”最悪”と呼ばれた神だ。

 しかし、もしこの世界に本物の最悪がいるのだとしたら。

 それは間違いなく、この霊媒師だ――!

 

 

 ◯

 

 

 ロウクが影を打ち払い、それを見ながら不安そうにしているシオン。

 そんなロウクとシオンの元に、ミクモが帰ってきた。

 ボコッと、地面を突き破って。

 

「ぷはぁ! 終わりました!」

『ミクモちゃん!』

 

 勢いよく飛び出したミクモが、そのまま着地する。

 これで、霊媒師側の仕込みは終わった。

 そう判断してロウクが一度、周囲の影を蹴散らして後方に下がった時。

 

 突如として、地響きが起こる。

 

 村の方から、”何か”が地面を割って出現するのだ。

 その”何か”には、膨大とも言える神力が宿っていた。

 ただ、そこにあるだけで周囲を圧倒するほどの、”力”。

 その余波だけで、影が吹き飛んでいくほどに。

 

「おや、影が」

『ふん、元々本体が出てくればこのような雑魚、相手する意味もないだろう』

 

 ロウクの言う通りといえば言う通りだが、同時にいると迷惑でもある相手だったが。

 いなくなるのはミクモ達にとっても、悪いことではないだろう。

 とはいえ――

 

「代わりに、アレを相手するわけですが……」

『で、で、でかい……!』

 

 現れた”それ”を目にして、そんなことも言っていられなくなるが。

 ”それ”は、巨大な土の塊だった。

 村の方の地面をかち割って、否、大地を飲み込んで現れる。

 異界故に破壊されても問題ないとはいえ、崩れ去る家屋を見てシオンは複雑な顔をした。

 そして”それ”は――一つの人型を形どった。

 

『アレが……』

 

 泥の人型。

 崩れ行く人だった何か。

 それこそが、

 

 

『朽土果』

 

 

 封印を解かれ、形を取り戻した零号神魔だった。

 そんな朽土果が、ゆっくりと顔を空に上げて――

 

『な、何しようとしてるの?』

『吠えようとしているのだろう』

 

 ――直後。

 

 

『――――――――ッ!!』

 

 

 大地を覆うほどの咆哮が、放たれる。

 その咆哮に、反応できたものはいなかった。

 まずい、とロウクやミクモが思うことはあっても。

 咆哮がもたらす物はそれより早かったのだ。

 だから。

 

 直後、自分たちに何かを叩きつけられたと彼らが理解する暇もなかった。

 

「……まったく」

 

 とはいえ。

 それで彼らがどうにかなったかと言えば。

 

「油断しすぎよ、あなた達」

 

 そうではなかったが。

 

「リツ様!?」

『ぬう、貴様何をしに!』

 

 驚くミクモとロウクの視線の先に。

 リツが龍人形を伴って、立っている。

 すでに戦闘モードに入っているのだろう、尾と角が生えていた。

 

『リツ様、朽土果相手だと全力出せないから、見ているだけじゃなかったの!?』

「そうも言っていられなくなったのよ。なにせ――」

 

 直後リツは、信じられないことを言い放った。

 

 

「この国全ての生命が、死に絶えたのだから」

 

 

 誰もが、その言葉に耳を疑った。

 死に絶えた?

 一体どういうことだ?

 動揺するミクモ、ロウク、シオンの前でリツだけが冷静に朽土果へ視線を向けながら言う。

 

「朽土果が封印を解かれると同時に異界を形成したのよ。それには、生きとし生ける物に死という”概念”を付与する効果がある」

「あ、それってもしかして……」

「……私の異界が、取り込んだ人間を眠らせているのと同じ事よ。今はまだ概念上死んでいるだけ、肉体も精神も死に絶えてはいない」

 

 ようするに、異界が世界と歴史を飲み込むまでに解除すれば、元に戻るということだ。

 だから、まだ何もかもがだめになったと決まったわけではない。

 そもそも霊媒師はこの状況を想定していた。

 死を司る神が、概念的に人を殺すことは可能だろう、と。

 ただ、一つ想定外があるとすれば――

 

「問題は、その範囲。朽土果はこの国に生まれた大地の神。つまり――一瞬にしてこの国全土を覆ってしまったの」

「な――」

『まさか……父上や母上も”死んだ”のか!?』

「ええ、今この国で生きている人間は、未だ私の異界で眠っているあの旅館のスタッフを除けば――」

 

 

 ――今、ここにいる者たちだけだ。

 

 

 リツは、そう告げる。

 

「腐っても、相手は零号よ。いくらやってることがみみっちくて、情けなくって、霊媒師さんあいてにビビるような小物でも。その力だけは本物なの」

『そ、そこまで言うかぁ』

「事実よ。そして――」

 

 その時、この場にいるものは気付いた。

 朽土果が、こちらを向いているということに。

 顔に目や口はない。

 だが、顔と思われる部分が、確かに。

 

「来るわよ!」

 

 リツが叫んだ直後。

 周囲に無数の龍人形が出現する。

 同時、朽土果の”死”を体現した熱線のような何かがリツ達に襲いかかった。

 それをなんとか、無数の龍人形が抑え込んでいる。

 

「龍人形の形が崩れてます……!」

『あのバカみたいな耐久力を持つ人形が、これだけあつまっても長くは持たんのか!』

 

 龍人形は、正面から零号霊魂――タツメの攻撃を受け止められる耐久性を有している。

 だというのに、リツの力が半分程度に削がれていることを加味したとしても、正面からの攻撃をこれだけ用意しても防ぎきれないのは脅威だ。

 

「もともと、霊媒師さんは朽土果の能力がここまで高いことは()()()()()()と想定してた。だからこそ私をここまで温存して、龍人形もほとんど私に預けたのよ」

『霊媒師さんってどこまで状況見えてんのかな、アタシわっかんないよ……」

「言ってる暇があったら、今は生き残ることを考えて。目的は、霊媒師さんが戻って来るまで時間を稼ぐこと。ほら、作戦通りに行くわよ」

 

 とはいえ、相手は霊媒師の想定した最悪。

 皆に発破をかけるリツも、本当に大丈夫なのでしょうね、これ。

 と、内心霊媒師に問いかけていた。

 

 

 ◯

 

 

「攻撃は当たらないことを前提に考えなさい!」

「解ってますって!」

『我を舐めてくれるなよ!』

 

 リツの指示の元、ミクモとロウクが無数の龍人形を連れ立って駆け出す。

 それぞれがリツの持ち込んだ龍人形を分け合い、敵の攻撃を回避しながら攻撃を仕掛けるのだ。

 シオンはリツの後ろに隠れ、リツはそれを守りながら戦うこととなる。

 リツ自身の戦闘力は朽土果の影響でだいぶ削がれているので、メインの戦闘力はミクモとロウクだ。

 

「――霊媒師さんは言っていました、切札は私だと!」

『おい、それ我にも言ってたぞ!?』

「どう考えても、それぞれを鼓舞するための詭弁じゃない。あの人の物言いに何度騙されるのよ」

 

 といいつつも、絶対本人は本気のつもりだろうな、と思うリツであった。

 そんな三者を他所に、朽土果が動く。

 

『――――――ッ!』

 

 咆哮。

 直後に周囲へ一斉に”死”がばらまかれた。

 ミクモとロウクは、慌てて木々の後ろに隠れ龍人形とともにそれをやり過ごす。

 

「回避しようがないんですけど!?」

『全方位攻撃だな。どうにもならんぞアレは』

 

 とはいえ、あくまで咆哮による音の攻撃だ。

 木々を背にすることで、耐えることは出来ている。

 無論、その木々は凄まじい速度で朽ち果てていっているが。

 

「目的はあくまで時間稼ぎよ、なんでもいいから耐えなさい」

『リ、リツ様! こっち攻撃きてるっす!』

「貴方はそんなに慌てないの」

『ママぁ……!』

 

 しがみついてきたシオンを抱えながら、リツもまた空中を飛び回る。

 迫りくる死の咆哮は、自身の神力と龍人形を組み合わせることで防いでいた。

 それぞれがそれぞれの方法で攻撃を防ぐ中、龍人形は消費されていく。

 攻撃を受けていないタイミングは自己再生するものの、それでも限度があるのだ。

 

『ぬう!』

 

 やがて、最初に龍人形が尽きたのはロウクだった。

 吹き飛んだ龍人形に視線を向けてから、ロウクは一瞬だけ瞳を閉じ。

 息を吐いた。

 

『――此奴の封印には、我が姉君が贄として使われている』

「ロウク!」

 

 ミクモが、ロウクを心配するように叫ぶ。

 だが、それを無視して、ロウクは続けた。

 

『致し方のないことだと思っていた。姉君は望んで捧げられたと聞いていた。しかし、しかしだ……!』

 

 朽土果が、ロウクを見る。

 龍人形――ロウクを守る壁の一切が亡くなったのを見て、朽土果は。

 表情もない、視線すらわからないにもかかわらず。

 

『――』

 

 嗤った。

 その場にいる誰もが、それを理解できる所作だった。

 それに、ロウクが――

 

 

『だが、このような俗物を封じるために、姉君が捧げられるなど納得が行かぬ!』

 

 

 体内に溜め込んだ神力を解放させ、叫ぶ。

 

「って、ロウク……龍人形の減りが早いと思ったら貴方まさか……!」

「取り込んだわね? とんだ不敬だわ。祟り殺してやろうかしら」

 

 その神力の量は、あまりにも膨大だった。

 リツ達の言う通り、龍人形に込められた神気を取り込んだのだ。

 だが、一つおかしい点がある。

 

「というか、神力の量が多すぎませんか? ロウクがもともと溜め込んでた分を加味しても、ここまでの量にはならないはずですよ!」

『ハハハハハハ! 霊媒師と建てた作戦だ。アヤツ、こう言っておったのだ! 朽土果を前にすれば、多くの神の神力は削がれる。だがそれは()()()()()()()()()()でないか、とな!』

 

 ――そう、ロウクには切札があった。

 霊媒師と用意した、とっておきの切札だ。

 

「まさか貴方……妖力と混ぜたわね!? サトルの銃弾みたいに!」

『その通り! そして混ぜたことで相乗効果により更に量はパワーアップ!』

「っていうかこの方法、私にも教えて下さいよ! 今の私は妖力と霊力のハイブリッド持ちなんですよ!?」

『だめに決まっているだろう! なにせ――』

「え……?」

 

 口にするロウクは、以前のように再び巨大化していく。

 その大きさは、妖怪因習村のときよりも更に巨大。

 どころか、朽土果に比肩するほどへ至ろうとしている。

 これならば、とシオンは思う。

 しかし、焦ったようにミクモは叫んだ。

 

「待ってください、そんなことをしたら……貴方の体が持ちませんよ!」

『え!? そんな、捨て身なんてまずいよロウクっち!』

『構わん!』

 

 朽土果は、巨大化するロウクへ死の咆哮を放った。

 迫りくるそれを、しかしロウクは正面から受け止める。

 それほどまでに莫大なのだ、この神力と妖力を混ぜたエネルギーは。

 故に、()()()()()()()()()()()()()()()

 最後に待っているのは、自壊だ。

 そしてこれが、ロウク以外にこの方法を教えなかった理由でもある。

 ミクモがこの方法を知ってしまうと、無茶をするからだ。

 とはいえ、

 

『今この場には、朽土果の概念的な死が蔓延している。故に、この場で死んでも本当の意味で死ぬわけではない! その場合、つまり妖鬼は仮死しているということだ。であればどうなる!?』

「ま、まさか……」

 

 それもまた、あの霊媒師の作戦通り。

 仮死した妖鬼は、ある現象が発生する。

 すなわち、

 

『黄泉へと落ちる! そう、今まさに霊媒師がいる黄泉へ、だ!』

 

 ()()()()

 今回はそれを利用し、封印から戻ってこようとしている霊媒師を迎えに行くまでが、霊媒師の作戦。

 

『故に、我は征くぞ! このふざけた神に、我が爪と牙を突き立てるのだ……!』

 

 やがて、朽土果に負けずとも劣らぬ大きさにまで巨大化したロウクが、朽土果に組み付く。

 牙を尽きたて、噛みつき、その体をえぐり取る。

 体は、抉られた部分から再生していく。

 しかし、ロウクの勢いに朽土果は釘付けにされる。

 死の咆哮も、ロウクの体が全てを受け止めてみせた。

 ミクモとリツ、シオンが唖然とする中。

 激しいぶつかり合いの中で、ロウクの体がゆっくりと崩壊していく。

 

『貴様が消えれば、姉君も現世に還ることができる。それが()()()()()()()()()! 故に、我は、ここで貴様を――』

 

 ロウクの言葉は、そこまでだった。

 やがてその場には朽土果だけが残され――ロウクは消滅した。




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