転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
崩れ落ちていく朽土果に向かって走る。
あいつはまだ死んでいない。
そもそも神は殺せないのだ。
故に、俺が朽土果の元に辿り着いた時。
そこには、ほとんど俺と変わらないくらいのサイズにまで小さくなった朽土果の姿があった。
「霊媒師さん! 無事ですか!?」
ミクモちゃんとロウクが、少し遅れて俺の元にやってくる。
リツとシオンちゃんはこの後のことがあるから、ここにはいない。
「ああ、けど朽土果に近づいちゃダメだぞ。この姿になっても、力はなんら衰えていない」
俺が二人を制止して拳銃を構える。
降り立った二人が,俺の後ろに立つと朽土果の顔がこちらに向いた。
その顔に、三日月の笑みを浮かべた口が見える!
「やっぱりか!」
俺は即座にその顔を撃ち抜くものの、朽土果は止まらない。
その体から、突如として巨大な土の”鎌”が俺達に向けて振るわれたのだ。
鎌には、死の概念と神力が同時に付与されている。
俺達の戦い方を見て学習したのだろう。
続けざまに俺は銃弾を放つ、両者が激突して鎌は上方に跳ねた。
――やはり、どれだけ弱らせたように思えても、その力は削がれていない!
「ミクモちゃん、ロウク! 最後の大仕掛けだ!」
「解ってます!」
『無茶をするな、などと今更言わぬが――』
そこで、二人に向けて振るわれた鎌を、龍人形が防ぐ。
威力は先程の死の咆哮よりは強いものの、それでも防ぎきれないほどではない。
それを見て、ロウクは背を向けてから。
『生きて帰れよ!』
「です!」
二人は、その場を後にする。
あの二人がここへやってきたのは、状況の確認と俺に龍人形を返すためだ。
とにかくこれで、全ての状況が整う。
朽土果は死なないが、俺を死の概念で殺すことも出来ない。
神力を混ぜ込んだ鎌にも、対抗できている。
とすれば後は――根比べだ。
◯
これまで、何度も何度も言ってきたことだ。
だが、そもそも神を殺せないのはなぜなのか?
それは神が自然そのものだからである。
朽土果が大地そのものであるように、リツが水神であるように。
神はこの世界の自然に由来する存在であり。
もし神を殺してしまえば、それと連動して神が司る自然まで滅んでしまう。
だから、殺せない。
しかしここで疑問に思うのは、そもそも神を生み出す”自然”とは何なのか。
具体的にどこまでを自然と呼ぶのか。
これに関しては、零号神魔が因習村を形成する際の挙動にヒントがある。
零号神魔の因習村はまず
それから過去へと遡っていく。
このプロセスの中で、最初に覆うのが星であるという点だ。
それはすなわち、この世界の神が――
地球という一つの小さな世界を覆い、それから地球を内包する宇宙という世界に広がっていく。
そう、だからつまり。
神魔が依存する”自然”とは――
「……この!」
銃弾で鎌を弾き、更にもう一発を朽土果の体に叩き込む。
即座に、銃弾が突き刺さった部分が破壊され、その後再生。
切りが無いし、意味も薄い。
だが、その上でなぜこんなことをするのかと言えば単純で。
朽土果をこの場に釘付けにするためだ。
こうしてダメージを与え続けていれば、こいつは逃げることが出来ない。
やつはすでに俺を畏れている。
ここで逃げるという判断をさせたら、その後はどこまでもどこまでも逃げ続けるだろう。
それをさせないために、ここで決着をつけるのだ。
――銃弾が切れる。
俺の決定的な隙。
ここで逃げる選択肢を取られると
問題ない、ここまで戦闘させている以上、朽土果は踏み込んでくる。
先程から浮かべるようになった三日月の笑みを伴った顔で、鎌を俺に振るい――
「甘い!」
俺はそれを、銃床で弾いた。
この銃もロウクの牙を使って霊的な加工がされているのだ。
鎌を弾くくらい、なんてことはない。
その後、即座にリロード。
再び銃を構え――
「今だ!
俺は、最後の大仕掛けを打つ。
それは、ミクモちゃんが地面を掘り進めた穴に通された”紐”。
この因習村周辺をミクモちゃんがここ掘れワンワンでくり抜き。
そこに術符による糸を通した。
とんでもない数の術符が必要になるが、俺に千枚売るくらい余っているのだ。
もっと数を用意するのは、そこまで難しくない。
そして通された紐は結界のように大地を包む。
最後に、物理的な”重さ”を無視できるシオンちゃんがそれを持ち上げれば――
『ど……っせえええええええい!』
俺と朽土果を乗せた因習村が、宙に浮かぶ。
『――――!?』
朽土果が、困惑したように周囲を見渡す。
浮き上がった大地が、地上から離れていくのだ。
上を見上げれば、シオンちゃんを乗せた龍人形がいる。
シオンちゃんは人の感覚が残っているから空を飛べないが、龍人形にシオンちゃんを乗せれば問題はない。
『――――!』
慌ててシオンちゃんを撃ち落とそうとする朽土果。
「させるかよ!」
俺が銃弾を当ててそれを防ぎ、そのまま何発か叩き込む。
「このまま、お前を
そうだ、神は地球の自然に依存しているから殺せない。
だから宇宙に放りだしてしまえば、神と自然のリンクは断たれる。
神を、殺せる。
その状況で。
『なぜ、そんなことを、する』
朽土果が、その時。
『わたしは、なにも、していない』
俺達に向かって、言葉を発した。
空へと飛び上がる因習村の中で。
それを、俺とシオンちゃんだけが聞き届ける。
『それなのに、なぜ、ここまで、する』
シオンちゃんはそこまで聞いて、視線を逸らした。
今のシオンちゃんには、宇宙まで俺達を連れて行く役割がある。
答えるのは――朽土果を釘付けにするのは俺の役目だ。
「……さっきも言ったよな。お前はなぜ、人を殺すんだ」
『わたし、は――』
その言葉に、朽土果は顔を伏せる。
そして、絞り出すようにぽつり、と。
『だれも、ころして、いない』
一言、言った。
『わたしに、できることは、なかった』
「それは、大地そのものであるお前に行動を起こす方法がなかったということか?」
『そう、だ。わたしは、つねに――地にしずんでいる、ことしか、できなかった』
――それは、告解なのだろう。
朽土果は大地の神だ。
大地そのものであるがゆえに大地に縛られ、行動を起こすことが出来なかった。
行動を起こせるようになった頃には危険視され、封印されたのである。
だから、何もしていない。
何も出来なかった、というのは。
確かに嘘ではないのだろう。
しかし。
「たとえお前が殺していなかったとしても、お前の信仰者は――人柱をお前に差し出したぞ」
『……』
「お前を信奉する神は、お前を復活させるために人を殺した! ならば、それを何もしていないというのか!」
俺の糾弾。
おかしなことを言っているつもりはない。
過去に朽土果へ人柱として捧げられたことを、シオンちゃんが殺されたことを咎めるのは。
何も間違ってはいないだろう。
それを、朽土果は――
『それは、かってに、やった、ことだ』
何も解っていない様子で、弁明の言葉を口にした。
「……勝手に? そんなことはないだろう。お前の記憶を読んだぞ。最初の人柱はともかく。二人目以降はお前の地震を鎮めるために捧げられたんだぞ!?」
『にえは、ひとが、おくるもの、だろう?』
ああ、こいつは、本当に。
――俺は、一つだけ息を吐く。
大きく、大きく、限界まで吐き出して。
それから、もう一度朽土果に向き直った。
「だったら……教えてやるよ。どうして、俺がお前を攻撃するのか」
『なんだ、それは』
それはとても……とても単純なことだ。
「それはお前が……
何かをしたから、朽土果はこうなったのではない。
何もしなかったから、こうなったのだ。
「どうして、人柱に疑問を抱かなかった? どうして、信奉する神の言葉をそのまま受け入れた? 人が死ぬんだぞ? 誰かが悲しむことを、おかしいと思わなかったのか?」
『――――』
朽土果は、心底理解できない様子でその言葉を聞いている。
そもそも朽土果は、死の化身だ。
人が死ぬことを当然と思うのは、ごくごく自然なことで。
疑問を抱く選択肢が、なかったのだろう。
「それでも、お前は人柱にされた人たちの感情を。シオンちゃんの嘆きを聞いていたはずだ。それをおかしいと思わないのなら……何もしなかったことが、罪になるんだよ!」
だけど、そこに付随するものを感じ取ることはできたはずだ。
意思があるなら、感情があるなら、畏れを感じるなら。
他人の感情を慮ることだって、出来たはずなんだ。
「……確かに、この世界には被害者になるしかない人間もいるよ。何も無い小さな村の中で、外に出ることもできず殺された女の子だっている」
ちらりと、シオンちゃんがこちらを見る。
俺が語るのは、言うまでもなくシオンちゃんのことだ。
「だけどその子は殺される時、自分が死んだ後にできることをしようとした。日記を残して、誰かの助けになろうとしたんだ」
結果としてそれは、本来なら海士蜘蛛に利用される行動だったし。
実際には、俺が全てを無視して事件を終わらせてしまったけれど。
それでも。
「行動を起こすってことは、それだけ重要なことなんだ。たとえ結果がどうなろうと、行動を起こした時点でその生命は前に進むことを選んだ。お前とは違うんだよ」
『――――わた、しは』
朽土果が呻く。
俺の言葉を、理解しているのか、していないのか。
それは、伺いようがない。
「そして霊魂になってなお、生きたいとその子は願った。自分が消えるその時まで、生きることを選んだんだ」
『わた、しは――!』
――気がつけば、周囲からは空気が失われていた。
空は青く、黒く、無に染まり。
ただ、俺達だけがそこにいる。
空に浮かぶ龍人形の光だけが当たりを包み。
その光は同時に、俺達に呼吸を許してくれる。
何も無い、無音。
孤独としか言えない、世界。
その中で、俺は――シオンちゃんは――そして、朽土果は。
『わたしは、わるく、ない!』
迫りくる、朽土果の鎌。
しかし俺は頓着することなく、銃を構えた。
「だったら、もうお前に救いようはないよ」
鎌が、俺に直撃した瞬間
ここは宇宙、もはや朽土果に自身を信奉する神もいなければ、支えてくれる自然もない。
ゆえに、保たなかったのだ。
そして、朽土果の体は今ここにある因習村の大地が全て。
もう、朽土果は再生しない。
「――終わりだ」
そうして、俺は弾丸を放つ。
三日月の笑みを浮かべた顔を撃ち抜いたその瞬間。
俺達が立っている大地ごと、朽土果は吹き飛んで――消えた。