転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる   作:暁刀魚

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第55話 そして今に至る

 ――次の日。

 リツが現れる直前。

 ()()の平和が崩れる数分前。

 俺は、何気なく目を覚ます。

 

 不意に、何やら不思議な感覚を覚えたからだ。

 

 それが、なんというかこう……柔らかさ?

 人の温かみみたいなものを感じたのだ。

 でもなんていうかこう、そういう生命の輝きみたいななにかであると同時に。

 ものすごく、危機感を煽るような暖かさでもあったのだ。

 要するに、凄まじく嫌な予感がする。

 それによって、思わず飛び起きてしまったのが今の俺だ。

 うん、この後の結果を思えば、それはとても正しい予感で。

 けれども、寝起きの俺は上手く思考を回すことができなかったのだ。

 だから呑気に、布団の中から感じる自分ではない誰かの感触を感じて持ち上げ――

 

 

 ――そこに、金髪の少女、ツキがいた。

 

 

 え?

 と、流石に思ってしまったよ。

 俺は畏れを知らぬ浪速の霊媒師だけど、驚きの感情がないわけではない。

 突然想定外のことが起きれば、思考が止まることもある。

 といっても、流石に他の人と比べれば圧倒的に俺は驚きにたいする耐性も高いのだ。

 でも、流石にこれは無理。

 如何にラノベとか少年漫画みたいな退魔バトルの世界に転生したとは言え、お色気系のあれやこれやが発生するわけじゃないのだ。

 腕に当たる柔らかな感覚とか、暴力的なまでの肌色面積とか。

 そういった扇状的なあれやこれやが、俺に視覚と触覚を通して襲いかかってくる。

 ただ、一つだけ言い訳をさせてもらうと。

 このとき俺が感じていたのは、突然のラッキーなスケベにたいする興奮ではない。

 

 

「サトル~、ご飯できたわよ~」

 

 

 ――この後に起こる、世界の危機に対する危機感だ。

 かくして、その後。

 ガチャっと笑顔で入ってきたリツの顔が、驚愕と絶望に染まり。

 そして時間が停止した空間の中で、ツキだけがもぞもぞと起き上がり。

 裸体を晒して、目を擦った。

 

 直後。

 

「サトルの、バカぁ!!」

「いや、違うんだ聞いてくれ!」

「むあー」

 

 ――リツの叫び声とともに、俺は異界へと飛ばされた。

 

 

 ◯

 

 

 そこはリツが本気で形成した異界。

 先日の、暴走によって偶然できたそれとは異なり、リツの意思によって形成されている。

 すなわち、完全なまでにリツのテリトリーと化しているわけだ。

 契約者である俺とリツ、それからリツですら干渉が難しい零号妖鬼のツキだけが存在する空間。

 一瞬にして日本中を飲み込み、朽土果のときと同じく、実質日本中の生命という生命を”殺害”した。

 無論、地球がリツの異界に覆われる前にこれを解除すれば消されてしまった命ももとに戻ってくるけれど。

 今回は、前回のように怒りでリツを冷静にすることはできない。

 むしろ、火に油を注ぐ結果となるだろう。

 

「とにかく、話はわかった。ツキが服を着ていないのはリツが着せれなかったからなんだな」

「うむ、私の方が強い」

「……どうかなぁ。存在の格はともかく、あくまで本体のツキネから力を借りてるだけだろ?」

「……私のほうが強い」

 

 どうやらツキは譲る気はないようだ。

 そこで言い合いをしていてもしょうがないので、俺は続ける。

 

「だったら、服は自分で出せるよな? 着てくれ」

「えー、服ってごわごわしてて苦手ー」

「いいから! このままだとリツを宥めることもできないから!」

「むう、致し方なし」

 

 それと、もう俺がツキを担ぐ必要もないから、下ろすぞ。

 身体能力で言えば、俺よりツキの方が高いんだから。

 ――降ろされたツキは、なんだか不満そうにしながらもくるりとその場で一回転。

 体が光りに包まれて、魔法少女みたいに衣装を身にまとった。

 黄色ベースの豪華な和服、キツネって感じだ。

 

「さて、これからどうするか、について話すぞ」

「うむ」

「まず、リツをどうにかなだめないと行けない。方法は色々考えられる」

 

 そう言って、俺は一本指を倒す。

 

「一つはリツを倒すこと。リツは神魔だから倒しても死なないし、一度倒れれば頭も冷える」

「愛する人を倒していくのか……」

「しょうがないだろ! 二つ目はリツを説得する。正面から誠心誠意言葉を重ねて、リツに納得してもらうんだ」

「言うは易し行うは難し……」

 

 それはそうなんだけどさ。

 リツの怒りに、基本的に理由はない。

 今回なんてその最もたるもので、俺がやらかしたことに対する怒りと、ツキに対する嫉妬がほとんどだろう。

 それをどう納得しろというんだ?

 色々な不可抗力が重なったとは言え、ツキが裸で俺の布団に潜り込んでいたことは変わらない。

 その事実がある時点で、もうなんというかおう……詰んでない? これ。

 まぁ、他にも思うところはあるけれど……

 

「とはいえ、結局のところ一番簡単なのは――」

「簡単なのは?」

()()()()()()こなすこと。倒すことでリツをなだめて、言葉で説得する」

「うっわっ」

 

 なんだその、絶対ムリでしょみたいな顔と発言。

 無理だと思ってもやるんだよ、君だって無理やり俺の布団に全裸で入り込んで着たんだからさ!

 というわけで、時系列は今に至る。

 さぁて、ここから暴走したリツをどうやってなだめたものかなぁ。

 

 

 ◯

 

 

 俺達は、迫りくる無数の龍をツキになんとかしてもらいながら、リツから逃げ回っていた。

 現状、俺達の手元にある戦力はツキだけだ。

 俺のメインウェポンである銃も、それ以外に持ち歩いている御札や閃光手榴弾も全て没収されている。

 あくまでリツは、俺と二人きりの世界を作る時に、俺がスウェットだと締まらないから着替えさせただけなのだろう。

 こういう時にすら、色々と見栄とかを気にするタイプなのだ、リツは。

 とはいえ、戦力がツキだけでもなんとかならないわけではない。

 

「ふん!」

 

 ツキが妖力をぶっぱなすと、眼の前に迫っていた龍が吹き飛ぶ。

 流石は一部とはいえ零号妖鬼。

 リツの龍は、龍人形よろしく眷属でしかないから、それくらいなら問題なく吹き飛ばせる。

 つまり、このままただ龍から逃げるだけなら俺達はいつまでだって逃げられる。

 俺の体力という問題も、最悪ツキに運んでもらえば解決だ。

 まぁ、そんなことしたらより一層リツが怒るので可能なら避けたいが。

 

「……逃げるだけならいくらでもできる、けどー……」

「まぁ、膠着状態なんていつかは崩れるよな。こっちが崩すか、向こうが崩すかはなんとも言えないが」

「言ってよ策士ー。でないと役立たずになっちゃうよ?」

「……考えてるんだ、待っててくれ」

 

 今、俺達が逃げているのは今後の対策を立てるため。

 時間稼ぎということだ。

 当然作戦を立案するのは俺、ツキが龍をなんとかしてくれているんだから役割分担である。

 

「とにかくまずはリツを倒してなだめないと話にならない。多分そのうち焦れてリツ自身が突っ込んでくるはずだから、俺達は待ってればいい」

「ならー……逃げる必要、なくない?」

「こっちが足を止めた所で仕掛けてくると思うよ。じれるにしてもきっかけが必要なんだから」

 

 リツを待ち構えるという方針はいい。

 そのうえで、どうやって戦うか。

 ツキは基本戦力だ、切札にはならない。

 そもそも俺はツキのスペックを知らないし、それは実際に本格的な戦闘になったら見せてもらおう。

 とすると――

 

「……うん、現状でできる対策はないな」

「だめじゃん」

「――これから情報を集めるってことだよ!」

 

 そう言って、俺は足を止める。

 すると四方八方から無数の龍が飛び込んで来た。

 致し方ないことだけど、この対処はツキ任せだ。

 

「頼む」

「しかたーないなー……ラブラブ見せつけ妖力パンチ!」

「その言い方やめてくれる!?」

 

 他意ありまくりの妖力ブッパで、無数の龍が吹き飛ぶ。

 これだけの数を投入しても、どうにもならないのだ。

 であれば当然――

 

 

「ええ、本当に。ラブラブ? こいつとサトルが? 冗談もほどほどにしてほしいわ」

 

 

 リツが、姿を見せる。

 

「お二人のイチャつきをみてー、砂吐きそうだったからだけど?」

「あら、案外いい子じゃない。名前は?」

「さっき名乗った!」

「絆されかけてる……」

 

 他人から俺と仲が良いと言われると、即チョロるのはリツの悪いところだ。

 完全に適当言ってただろ今の!

 とはいえ、それで俺を許すわけではないのだが。

 

「でも貴方は許さないわサトル~? よくもまぁあんなに破廉恥でけしからん感じのキャッキャウフフを見せつけてくれたわねぇ~?」

「キャッキャウフフはしてない!」

「破廉恥は事実じゃない! バカ!」

 

 やまぁ、そこは否定できないのだけど。

 とにかく、リツと言葉をかわさないと。

 

「だいたいねぇ、そうやって女の子に優しくするたびに、どれだけ私が我慢して、我慢して、我慢してきたと思ってるの!? 許せない許せない許せない! 全部()()許せない!!」

「……こうして爆発するまで、我慢させたのは悪いと思う。でもリツは、嫉妬してしまうから俺に助けられる命を見捨てろっていうのか?」

「うるさい! わかってるのよ! そういう貴方に私が惹かれたってことくらい! れーばいしさんは特別で、畏れを抱かなくて、素敵な人だけど! 私が好きなのはサトルの善性なんだって!」

 

 リツの周囲に、龍が再び浮かぶ。

 今にも俺に飛びかかってきそうだ。

 

「だったらそれでいいだろ? 嫉妬でどうにかなってしまいそうなら、俺はリツのために時間を作る。忙しくない時、リツのために動ける時。俺はリツを優先する。それじゃあダメか?」

「ダメよ、ダメ! そんなんじゃダメ! だって許せないもの! 認められないもの! 耐えられないもの!」

 

 ツキが、前に出る。

 襲いかかってきそうな龍から、俺を守るためだろう。

 でも、一旦手で制する。

 この後の行動を、身振りで伝えた。

 不思議そうに首を傾げて、ツキは俺の後ろに下がる。

 そして――

 

「サトル! 好き! 好き! 大好き! 愛してるの! だから! ああ! ――どうにかしてしまいたいのよ!」

「そうか! 俺だってリツは大切だよ!」

 

 その言葉を契機に、再びリツは龍で俺達を攻撃してくる。

 対する俺達の選択は――退避。

 ふたたび、リツから距離を取って逃げ始めた。

 

「……ねー、サトル」

「なんだ?」

「私には、さっきの一連の会話、二人が惚気あってるだけにしか見えなかったんだけど」

「……」

「……私は何を見せられてるんだ?」

「…………ごめん」

 

 いや、決して今の会話が無意味というわけではないんだ。

 でもそれはそれとして、惚気てるようにしか見えなかったよな。

 すまん!




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