転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
――実を言うと、先程の会話にはちゃんと意味があった。
あの会話の中で、俺は二つの目的でリツに話しかけていたのだ。
一つは説得、それで事が終わるなら一番話しは簡単だからな。
もう一つは――情報収集。
さっきのリツは、俺に対してただいかっているように見えて――其の実、いろいろな感情が内側で渦巻いていた。
俺はそれを、会話の中から感じ取ったのである。
後は――
「サトルー、敵の種類が増えてる。結構厄介」
「案の定、リツは使役した龍で俺達をなんとかしようとする選択を取ったか」
「案の定ー?」
「余裕があったら説明する。まずは眼の前のことに対処だ」
逃走してから、龍の種類に変化が起きた。
普段、リツが使役するのはリツに近い姿をした東洋龍だ。
これは単純に、この東洋龍を使役するのが一番楽だから、という理由に加えてもう一つ。
それ以外の龍を使役できないから、という理由もある。
だが、今は。
リツは世界の法則を捻じ曲げている、やろうと思えば様々な龍を召喚できるのだ。
具体的に言えば――
「西洋竜の博覧会だぁ」
いわゆる、西洋竜。
ドラゴン、ワイバーン、地を這うトカゲ型のドラゴンもいる。
無数のドラゴンが一斉にこちらへ襲いかかってくるのだ。
こうすることの利点は、単純に手数を増やすこと。
それ以外にも――
「……妖力で吹き飛ばしきれないなー」
「こいつらはリツの神力が作った通常の龍と違って、召喚された本物の龍って扱いだ。龍は防御力が高いからな、ただ妖力をブッパしても倒しきれん」
「ぐぬぬ」
耐久性が先程までと比べて、大きく向上している。
ツキが諦めて、別の手段を模索し始めるくらいには。
「んー、ここはー、私の本気を……お見せする他ないかぁ」
「おお」
ツキの実力は、実際気になる。
単純な好奇心と、それから今後相対するであろうツキネの実力を間接的に図るため。
「ではいざ……参る!」
ツキが宣言し、両腕を広げる。
するとその手のひらに、一枚のお札が出現。
くるくると、御札が回転を始めた。
やがてその勢いは、無視できない速度になっていく。
すなわち、ツキの能力は御札を使った回転ノコギリ……とおもったが、それはどうも少し違うらしい。
「行け!
途端に、迫りくるドラゴンへ対して放たれた高速回転する御札が、
変化したのは、どれも豪華そうな武器を構える屈強な男の”影”のようだ。
これは一言で言えば、これから攻撃する敵に”トラウマ”に変身する能力のようだ。
西洋竜はその多くが、英雄と呼ばれる存在によって討伐されている。
そのトラウマによって動きが鈍くなった所を、回転御札ノコギリによって蹴散らす。
変な能力だけど、肉体も精神も”殺す”となるとこれくらい普通なのか?
――そんなことより、今はこのドラゴンたちを一掃するのが先決だ。
ゆえにこそ、死誘札とドラゴンの戦闘を観察する。
ドラゴンたちは、迫りくる影に一瞬怯え、後退しようとした。
しかし竜のプライドがそれを許さないのか、最終的には迎撃を選択。
ただ、やはり近づきたくないらしく、ドラゴン特有のブレスが周囲に見舞われた。
無論、それは影には通用しない、炎の中を無傷で突っ込んでくる影に怒りを覚えたドラゴンは、冷静さを失う。
その瞬間、死角から回転ノコギリと化した死誘札がドラゴンの足を切り落とした。
西洋竜は足がある魔物が多いから、これでとりあえずドラゴンを無力化したと言えるだろう。
「やっぱりー硬いー」
「あーうん、ドラゴンの耐久力自体は衰えてないからな、足を切り落とされても」
とはいえ、足を切り落とせばほぼ勝ったようなものだ。
死誘札は無数に宙を飛び交い、ドラゴンたちを圧倒していく。
ドラゴンは厄介だ。
群れることがないから、本来ならここまで威圧感のある光景が生まれることはありえないのだが。
リツという絶対者の支配によって、無数のドラゴンが俺達を狙うという厄介な状況が生まれる。
とはいえ――零号妖鬼であるツキの敵ではない。
「んー、片付いた」
「助かったよ、後はこれでなにか状況に変化が起きるか――」
おそらくだが、リツの本命は次だ。
ここまでのドラゴンは牽制と、実験を兼ねているだろう。
この状況で、一体どれだけリツはドラゴンを従えられるのか。
結果は重畳、かなりの数が使役できたらしい。
しかしそうなると、次に撃ってくるリツの一手が謎だ。
ここから、俺達を倒しうる”竜”を呼び出すことができるのか?
一体どんな竜なら、俺達が勝てないと思うのか?
その疑問の答えに行き着く前に――
森の中が、地響きで揺れた。
――来たか、と意識を切り替える。
それと同時に、ふと思い至ってしまった。
「…………なぁ、ツキ」
「どうしたー?」
俺は少し前に、リツと二人でみた映画を思い出す。
それは一言で言えば――
「――
「…………」
「ってことは、”出た”としか言いようがないわけだ」
ツキに怪獣映画が何たるかは伝わらないかもしれないが、ともかく。
この状況で、地響きを垂れ流しながら迫る巨大なドラゴンに、俺の心当たりは一つしかなかった。
前世に置いても、今の人生に置いても、怪獣としての名前は若干ずれているが、それでも変わらないその愛称でもって――俺は奴の名を呼んだ。
すなわち――
「――――怪獣王」
どこかで聞いたことのある咆哮とともに、黒いゴツゴツとした肌の怪獣が、俺達の前に立っていた。
◯
やばいぞやばいぞ。
基本的に龍の強さは龍に対する人々のイメージ――言ってしまえば信仰で決まる。
この国で怪獣王以上に強いイメージの龍なんてそうそういない。
すくなくともリツにとって最強のイメージがあるからこそ、リツは怪獣王を選んだのだ。
「怪獣王って、そんなにすごいの」
「定期的にあらわれては都市をめちゃくちゃにしていくすごいヤツだ。リツは結構怪獣映画が好きでな」
俺の影響か、リツはそこそこ創作を楽しむ。
特に派手でわかりやすいエンタメ映画は大好きだ。
ちなみに、怪獣王が人類の敵路線の方が好きらしい。
でしょうね。
「とにかく、攻撃してみる」
「効くかどうかは微妙なところだが、とりあえずやってみてくれ」
「おらー」
木々の合間から見える、数十メートルの巨体。
それまでの龍はどれもが大きくて十メートルくらいだった。
意図的にそれくらいのサイズにしていたのだろう。
怪獣王への絶望感を煽るために。
「……死誘札が変身しない?」
「怪獣王に弱点などなし、ってリツが本気で思ってるんだよ。あいつ、敵路線の怪獣王が倒されるたびに憤慨してるからな」
あの怪獣王がそんな方法でやられるわけないだろ、っていっつも怒ってる。
怪獣王過激派なのだ、リツは。
「回転ノコもダメージなし。皮膚硬すぎ」
「そりゃあ怪獣王だからな」
「……サトルがそんなだから、あいつも無敵パワー全開マンなんじゃない?」
「仕方ないだろ、怪獣王に対する畏れは日本人の本能なんだよ」
とはいえ、物理的に畏れを感じない俺の発言が怪獣王を強化することはほぼないだろう。
眼の前にいるこいつのやばさは、リツの信仰がほとんどだ。
「とはいえ、巨大な悪は倒されるものだ。弱点はある、それを探すぞ」
「その前にーどうやってーあの龍からにげるのー?」
「それなんだが、札を一枚貸してくれないか?」
「ん、いいけど」
俺はツキから一枚の死誘札を受け取って、それを折り紙にする。
なにするんだとツキが威嚇してくるものの、すまんが我慢してくれ。
そして出来上がったのは――
「でてこい、龍人形!」
「おお?」
龍人形、リツが作った俺を守るための龍の形代。
今回はそれを、俺が折り紙で再現して起動した。
ここはリツの異界、この場所で俺が作った形代はすべて龍人形だ。
リツ本人が望んでいなくとも、な。
「俺はこいつに乗るから、すまんが引っ張ってくれるか?」
「ライドおーん」
ツキの言葉を了承と判断し、俺は龍人形にのる。
それと同時に、怪獣王もこちらに視線を向けた。
ツキが龍人形を牽引する形で、鬼ごっこが始まる。
「……あいつはやくないー?」
「でかいってのは、それだけ一歩の距離が稼げるってことだからな」
あと、普通に走るのも速いとおもうぞ。
走ってる時はたいてい怪獣の距離感だから速度つかみにくいけど。
「……来るぞ!」
「あいあい」
そしてついに、俺達は追いつかれ怪獣王の手が伸びてくる。
それをツキが、いい感じに避けてくれる。
上空に飛び上がり、俺達は怪獣王の顔を見た。
向こうもこちらを睨んでくる、そして例の咆哮とともにもう一度手を伸ばし、ツキがそれを回避。
「近接攻撃しか使わない? なら回避よゆー」
「いやまて、追撃がくるぞ!」
そりゃあ確かに腕を振り回してるだけなら、小さい俺達は回避もできるだろう。
でも、怪獣王の武器はそれだけじゃない。
腕を振り回しながら、一回転。
今度は尻尾を、俺達に間髪入れず叩き込んでくる。
こっちは射程も攻撃範囲も、桁違いだ。
「いーっ、きびしーっ」
「なんとか避けて……くれ!」
俺の方も、龍人形を動かして迫りくる尾に当たらないようにする。
二人でなんとかして攻撃をかいくぐるも、風圧だけで俺達はバランスを崩しながら吹き飛んでしまった。
続いてもう一度腕が飛んでくる。
これはかわせない!」
「仕方ないな! ツキ、脱出する!」
「え? あおーっ」
俺は龍人形から飛び降りて、ツキを掴んでその場から遠ざかる。
残してきた龍人形が一瞬光ったかと思うと、少しの間怪獣王の腕を押し留めてくれた。
その間に、二人で地面に着地。
結構な高さから飛び降りたが、ツキがなんとか俺を地面に激突しないようにしてくれた。
「助かる」
「こっちこそー」
「次の龍人形を作らないと」
「おっけ、札はいくらでもあるから。でも、そのためには時間かせがないとかー?」
むむむ、とツキが怪獣王を見上げて唸る。
俺はその間にも龍人形を折っているが、さっきみたいに俺達が行動するまで向こうは待ってくれないだろう。
そこで、ツキが何やらふわりと浮き上がった。
「私の……最大火力を使う。これで倒せたら、だいきんぼしー」
「頼む」
ツキは、無数の死誘札を取り出した。
妖力で作られているそれは、本当に無尽蔵に生み出せるらしく。
札は折り重なって、怪獣王にも見劣りしないサイズになる。
「なるほど、巨大さで対抗するのか」
「威力はさっきの数十ばーい、これならどうだ。いけー」
呑気な掛け声とともに、死誘札の巨大回転ノコが飛び出す。
それを怪獣王は腕で受け止め、しかし腕がだんだんと押されていく。
「よし、行ける」
確信とともにツキは死誘札を押し込み――怪獣王は、なんとかそれを弾き飛ばした。
傷つけるには至らないが、パワーで少し押している!
しかも――
「……ふふ、この死誘札の特徴はもう一つあるのだー」
そう言って、弾かれた巨大回転ノコが怪獣王の横を通り過ぎる寸前――
「ふっとべ」
それが、勢いよく爆発した。
とんでもない威力の爆発が、怪獣王を飲み込む。
今の、明らかにそんじょそこらの妖鬼が放てるものではない。
さすがは零号妖鬼――そう思ってツキの方を見ると――
「やったか!」
あ、これ無理そう。