転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
何も無い空間で、リツは膝を抱えてうずくまっていた。
その様子は、外で見た怒り狂ったリツとは正反対である。
とはいえ、俺はこの状態を最初から予想していた。
「やっぱり、
「……うっさいわよ」
そう、リツはこの状況に色々と複雑な感情を抱いているのだ。
俺とツキが仲良くしていることに対する嫉妬と怒り。
それで世界を滅ぼそうとしてしまうくらい、リツは許せないと思っている。
だが、同時に自分のしたことを後悔してもいる。
「だって……二度目よ? 前回は朽土果の介入があった。でも、今回は私自身の意思で世界を滅ぼそうって思っちゃったのよ」
「そんなに俺が、他のやつの裸を見るのが嫌だったか?」
「それもある。でも……それだけじゃない。
一度、実行してしまったことで。
それまで取ってこなかった選択を、取れるようになってしまった。
まぁなんていうか、それだけリツの神としての危険度は上がってしまったということだ。
「サトルと喧嘩して、少しは人間味のある自分も受け入れられたつもりだったのに。側面を変えればすぐにこれよ。”今”の私はこうして反省しているけれど、外に出て貴方とあの女を見たら、また怒り出すでしょうね」
「……」
神とは、いくつもの側面を持ち合わせるもの。
この反省も、俺との喧嘩で手に入れた人間味も、そして嫉妬や怒りで動くリツも全て等しくリツなのだ。
ただどの側面を、周囲に見せているかという違いだけ。
結局それは、リツがリツである限り――否。
「それは、神魔が神魔である限り、変えられないものだろう?」
「変えられないからこそ、こうなってしまった私はもう、止まれないのよ」
今この場でリツをなだめて、世界をもとに戻すことはできる。
けど、今回の一件はリツの危険性を世界中に知らしめる結果となった。
しかも、リツ自身もそれを強く自覚しているのだ。
もっと、根本的な言葉が必要だな。
「この暴走を収めて、元の世界に戻ったらさ、いろんな奴らから言われるだろうな。リツは危険だって」
「……そうね」
だから俺は、そのことを正面から認めることにした。
ただリツを慰めるだけでは無意味だ。
もっと根本的に、この状況を丸く収める方法を考えなくてはいけない。
「だから俺は、言うんだよ。そうやって、リツを危険視する人たちに――」
いや、答えはある。
それを周囲に、示さなくては行けないのだ。
すなわち。
「これで、リツの暴走は安全であると証明されました、ってな」
その言葉に、リツは顔を上げて変なものを見る目で俺を見る。
「はぁ? むしろ、危険だってありありと見せつけたじゃない」
「確かに危険だけど、二度も暴走したのに
「それが……何よ。朽土果だって殺さなかったわ」
「アレは性質上殺さなかっただけだろ? リツだったら殺せる。なのに殺さなかった。ツキだって、
その言葉に、リツは答えない。
そりゃそうだ、自分でも思っても見なかったことなんだから。
「リツはどれだけ暴走しても、それで人が死ぬことはない。異界さえ解除すれば元通り。だから危険性はないんだ」
「そんなの……言ってることがめちゃくちゃよ!」
「そうだな。それに、今後もリツが暴走した時に、取り返しのつかないことが起こる可能性はないわけじゃない」
「だったら!」
だったら意味がないだろう、と。
リツの言葉を俺は遮る。
「……リツが暴走するのは、絶対に俺が理由だ。つまり、取り返しがつかないことが起きそうになった時、
「だから、取り返しがつくようにするし、取り返しのつかないことなんてさせない……っていいたいの?」
「そうだ。それにもし本当にどうしようもない時は――」
俺は、自身の胸に手を当てて。
「俺は死ぬ」
そう、言い切る。
「――――は?」
「そうすれば、リツは絶対に思考が停止して、手を止める。
理屈としては非常に単純で、実行も容易い。
死んだって、俺はリツの一部として神になるだけだ。
もともと寿命で死んでもそうなる予定なのだから、結局それが早くなるか遅くなるかだけの違いしかない。
だけど、責任のとり方としてこれより有効な手段はないだろ?
「な、な、な……何よそれ! ほんっとうにおかしいんじゃないの?」
「おかしくても結構。俺はもともと畏れを知らない異常者なんだ。それが、更に異常になっても何も変わらないよ」
「…………もう、もう! ……もうっ!!」
立ち上がって、リツは俺を叩いた。
無茶をするな、心配なんてさせるな。
そんな、
「ああ、もうほんと! サトルのバカ! バカバカ! バカ!」
「でも、納得はしてくれただろ? 俺はリツとこれからも一緒だ。誰もリツを危険だなんて言わせない」
「……バカ」
やがて、俺はリツの手を掴む。
やさしく、労わるように。
そうしてその手は降ろされて、俺達は互いの手を握りしめる。
「帰ろうか」
「………………そうね」
かくして、リツの二度目の暴走事件は幕を下ろした。
ツキのことは何も解決なんてしてはいないのだけど、とりあえず。
リツの抱えていた”後始末”を、ここでつけることができただけ良しとしよう。
――なお、異界を解除した後、関係各所から俺達に問い合わせが殺到した。
それに対し俺が、リツに伝えた結論を話すと――
あ、そっすか……みたいな態度で全員が納得しつつドン引きし、矛を収めた。
なんだその、俺がそういうならまぁいいか……みたいな諦めの感情は!
◯
リツの大暴走から数日が経ち。
その間、各方面から飛んでくる書簡とメールに対し、俺は事の経緯を説明し続けた。
内容はほぼ八割が「今度は一体なにやったんです?」という若干怯えが感じられる内容だ。
いやまぁ、やったことを考えれば当然の反応なのだが、もうちょっと警戒してもいいんじゃない?
なお、残り二割は理解を示すような内容だった。
世界が俺達に優しすぎる……
とはいえ、それにあぐらをかいていてはいけない。
俺は状況の報告とリツに話した対策を返事として伝えた。
半分くらいは未だ返事が帰ってきていない。
残り半分はドン引きしていた。
解せぬ。
さて、何にしても後始末は一段落ついた。
俺達がこれから取り組むべき問題は、ツキのことだ。
ツキ、もしくは零号妖鬼ツキネの良心。
彼女を通して、現在黄泉で暴走を続けているツキネを止めなくてはならない。
朽土果を復活させ、退治し。
結果としてツキネの封印を解いた俺が、やらなくてはいけないことだ。
正確に言うと、多分俺以外に解決できる案件ではないので俺がやらないといけないのである。
というか、普通に思ったんだけど書簡にツキのことも報告したのがドン引きされた原因じゃないか?
よし、俺は無罪だな。
さて。
「――さて、待たせて済まないな、ツキ。話を聞かせてもらっていいか?」
「んー、いいよ。……と、いいたいところだけど」
俺は事務所で、ツキと向かい合っていた。
お互いソファに腰掛け、飲み物を飲みながらゆっくりしている。
そんな中で切り出した俺に、ツキは何気なく問い返す。
「……参加予定者、六人じゃなかった?」
「ああまぁ、うん。色々あったんだよ」
そもそもこの話し合い、俺と知り合い……というか戦力になる連中全員で行う予定だった。
ここにいる二人と、シオンちゃん、ミクモちゃん、リツ、そしてロウク。
このうちシオンちゃんとリツは欠席だ。
シオンちゃんは、単純に転移をマスターできなかった。
スマホは電波が届かない。
そしてリツは――
「反省したいらしい。ツキと顔を合わせて嫉妬したら、こないだのことが台無しだからって」
「律儀だね」
「そういうときもある」
普段はもっと傍若無人なんだがな。
で、残る二人は――
「ごめんなさい、遅れました」
単純に遅刻である。
ミクモちゃんが、予定時刻から数分遅れて入ってきた。
制服姿なので、学校から直で来たのだろう。
「いやいや全然。お茶いれるから、座って」
「ありがとうございます。霊媒師さん。それで――」
「――私がツキだよ。ぴすぴーす」
ミクモちゃんとツキが、初顔合わせをする。
なんというか……どういう関係になるか全く読めない二人だ。
まだ今後のリツとツキの関係のほうがわかりやすい。
まぁ、しばらくはミクモちゃんが真面目に対応するだろう。
「零号妖鬼ツキネの良心ですか。……なんです、その変な肩書」
「まー、私も正直よくわかってないしー」
「わかってないんですか」
「ないしー」
「……霊媒師さんが拾ってくる子って、こんな子ばっかりですか」
「急にこっちに流れ弾を飛ばしてくるな?」
多分ロウクのことを思い浮かべてるんだろうけど、カテゴリわけするとシオンちゃんも「こんな子」カテゴリになってしまうぞ、それ。
……割と変な子ではあるけどさ。
「私がツキネの一部であることは事実。でも、ほぼ独立している」
「黄泉の国で見つけた石ころを持って帰ったら、それがツキさんになったんでしたっけ」
「まぁ、そうだな。んで、現在ツキネは暴走中で、その一部であるにもかかわらず意思疎通ができて敵意がないなら、良心ってのもあながち間違いでもないだろう」
なるほどぉ、と頷きながらミクモちゃんは、俺の横を陣取った。
多分、リツとシオンちゃんが来ないことが分かってるからこその位置取りだろう。
「ツキネの力を使えることも、事実ー。リツが暴走した時に使った死誘札は、ツキネが黄泉還りする前の技ー」
「じゃあ、今のツキさんは黄泉還りする前のツキネさんと同程度の実力ということですか?」
「かつてのツキネと、今のツキネ、その中間くらいかなー」
かつてのツキネは、普通の一号妖鬼だ。
今のロウクとそこまで実力は変わらないだろう。
そしてロウクやミクモちゃんだと、リツの西洋ドラゴンズを倒すのは難しいはずだ。
なので中間というのは、多分的を射ている。
「……ところで、退魔師さん」
「なんでしょう、良心さん」
「その耳、なぁに?」
そこで話が変わる。
ミクモちゃんの頭の上で揺れている犬耳についてだ。
とはいえ、
「…………多分、原因はツキネさんなのですが」
「マジか」
「正確に言うと、朽土果の配下の神と戦ったときに変化したんだが。朽土果が変化に噛んでなさそうだったから、消去法でツキネが原因じゃないかってことになったんだ」
「悪い妖鬼ですまーん」
いや、犬化が悪い影響を及ぼしたことは今のところないのだが。
実際どうなのかは、ツキネを調べたら解るだろうか。
「……なんとなく思いましたが、私達だけで対策ってすることなくないですか?」
「まぁ、ツキと話をして色々聞くくらいしかやることはないな」
「じゃあ何のために……」
「本命があるんだよ」
今回、そもそも集まって話をしようと思った理由は――
「今入口で、こっちを覗き込んでる犬とツキを会わせるためだ」
ツキとロウクの顔合わせである。
しかしどういうわけか、遅れてきたロウクは入口から少しだけ顔をだし、おずおずとした様子でこちらを眺めていた。
◯
ロウクは、こちらを警戒する様子でじっと見つめていた。
その様子はまさに、知らない人がやってきて緊張している飼い犬の図。
サイズすら小さくなって、普段の不遜な態度が嘘のようだ。
――ロウクはツキネのことになると常に真面目だ。
人柱となった姉に、色々と思うところがあるようで、自分からその話題を口にすることはほぼない。
俺達も、そんなロウクを気遣って必要がなければ話題に上げることはなかった。
だからこそ、ロウクの警戒と緊張も理解できる。
ただ一人、ツキ本人を除いては。
「むー…………」
「あ、ツキ」
ツキはロウクを見つけると、ふらりと立ち上がってロウクの方へと歩み寄る。
俺が声を掛けるのを気にせず、ロウクの前にたった。
ロウクはといえば、ぴくりと反応を見せた後は難しそうな顔でツキを見上げている。
狼故に、感情は俺達人間には表情だけだとイマイチ読めない。
『…………』
「……なるほどー」
そしてしゃがみこむと――
「きみが、ツキネの弟くんかぁー」
『むおおおおおおおっ!』
わっしゃあああああ!
それはもう、すごい勢いでロウクをモフり始めた。
ああ、手つきが艶めかしい!
「ロウク、大丈夫か!?」
『ぬおおおおお、と、とめ、とめてくれえええ! 我の尊厳を守ってくれえええ!』
「ああ! ロウクが霊媒師さんに撫で回された時みたいに恍惚としてます!」
「わしゃー」
どうやらツキの撫でヂカラは俺と同等かそれ以上らしい。
さすがはロウクの姉君の良心。
『ぐ、ぐおおお……! 貴様、話には聞いていたが――
「バレたか」
「姉上じゃない? どういうことですか?」
ロウクが指摘した所で、ツキが手を止める。
「私はツキネの一側面。もしくはツキネから生まれたもう一つの人格。サトルがリツと合一すると二人で一人の神になるけど、それが近い」
「ははぁ」
『はぁ……はぁ……その女は姉上ではない。しかし、同時にその姿は人に化けた時の姉君をそのまま小さくしたかのようだ』
なるほど、これは結構重要な情報だ。
俺の関係者で、ツキネと直接顔を合わせたことがあるのはロウクだけ。
そのロウクがツキとツキネが別人であるというのなら、二人は根本は同じでも違う存在なのだろう。
『娘……とも少し違うな。突然姉上に双子の妹ができたようなものだ。……つまりこいつも我の姉上なのでは?』
「ふふふ、姉として崇めよ」
『ははー……ではない! くっ……姉上そのものではなくとも、気質は似ている……!』
「ロウクがお姉ちゃんに逆らえないタイプの弟なのは分かってましたけど、本当にそんな感じなんですね」
なんだと!? とロウクがミクモちゃんの言葉に怒りを見せる。
「それにしても、妹……ですか」
「妖鬼は、人とは全く誕生のプロセスが違うからな。平気で分裂するし、子どもだってのに生まれたら種族すら違うこともザラだし」
『我らにとってはそれが普通だ。何もおかしなことはない』
「だぞー」
ようするに……こう、子作りをして生まれてくる感じではないのだ、妖鬼は。
人との間に子どもをつくるとなったら、必要になるけどな。
ぶっちゃけこれは神も同じだ。
まぁでも、人と”魔”の子どもって色々立場が複雑だからな。
特に幼い頃の情緒の発達はどうしてもいろいろな影響を受ける。
ミクモちゃんみたいにある程度成長してから妖鬼になるならともかく、最初から妖鬼だと人の社会で生きていくことは難しい。
「そういえばふと気になったんですが。ツキネさんって人化できるのですよね」
「できる。そして私はそもそも人ボディが本体」
「ロウクって、どうして人化しないんです?」
『……ばうっ!』
何やら、ロウクが唸る。
ああ、そういえばミクモちゃんは知らなかったか。
「ロウクは人化できないんだよ。本人の能力としても人化の能力は有してないし、術も使えない」
「ははぁ、おかげでロウクの性別がいまいち不明のままなんですね」
「不明、というよりは”ない”というのが正確なのかも。弟だとは思うけどね」
『やめろやめろ! 我の弱点を何度も突くな!』
ロウクは人になれない。
そのことはロウク自身も少し気にしていて、こうして指摘されると唸る。
ただまぁ、人化できない妖鬼なんてそうめずらしいものではないし、気にすることもないのだが。
ロウクの場合は両親が人型で、姉も人になれるからコンプレックスがあるのだろう。
「どうしても人化したいっていうなら、俺も手伝うんだけど」
『それはやめろ』
「やめてあげてください、ロウクをバケモノにするつもりですか?」
「そしてこの反応である」
「妥当ー」
おのれ……
とにかく、ロウクがやってきたことで一つのことが新たに判明した。
ツキとツキネは別の存在。
根底は同じだが、分かたれている。
「そのうえで、ツキ」
「ん」
「君はこれから、どうしたいんだ?」
ロウクとミクモちゃんが揃えば、今回の話し合いのメンバーは勢揃いだ。
というわけで、俺は本題に入ることとした。
そしてツキは――
「――ツキネを止めたい。そのために、まずはツキネの両親……私の両親である鬼の総大将に会いに行きたい」
今後の予定を、口にした。
全開の区切りかたが少し悪かった関係で半端に話が余ったので引っ付けました。
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