転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 作:暁刀魚
あの後、色々と話しをしたものの、とりあえず妖鬼の総本山――ロウクとツキネの両親がいる場所――へと向かうことになった。
というのも、結局ツキはあまり情報を持っていなかったからだ。
ツキの目的は「ツキネを止める」こと。
しかしそれはあくまでツキがツキネの良心であるがゆえに、「そうしなければならない」と思っているからだ。
ようするに、ツキは具体的な方法を何も知らない。
俺も黄泉の調査でツキネと接触できなかったから、情報が何も無いのである。
ツキとツキネがイコールでもないから、ロウクも何もわからないし。
八方塞がりだったのだ、話し合っても。
なので、総本山へ向かうしかないのである。
「というわけで、向かうぞ。妖鬼たちの総本山。”大江山”に」
「おー」
「お、おー!」
『ううむ……まさかこのような形で父上と母上の元へ戻ることとなるとは』
呑気に手を挙げるツキと、緊張した様子で手を挙げるミクモちゃん。
ロウクはため息混じりに帰郷に思いを馳せる。
なお、リツは今回も不在だ。
もともと、自分の土地を離れるタイプではないからな。
大江山の温泉に入るかどうかで、最後まで悩んでたけど。
「んで、ここが大江山への入口だ」
「山の中ー」
「……妖力が渦巻いてますね」
そして俺達は、大江山の入口にいる。
車にのって数時間、京都のリアル大江山がある場所までやってきた。
リアルの方の大江山は普通に人の往来がある。
しかし、そんな山奥にひっそりと妖鬼の総本山たるもう一つの大江山への入口があるのだ。
これは”魔”に連なる力を持つものにしか感知できず、また入ることもできない。
「それにしても、大江山で”神隠し”が起こったら大変なことになりそうですね」
「ならないように、入口の隠蔽は他の異界への入口よりもしっかりしてるんだ。もし迷い込んだらまず間違いなく迷い込んだ人間が妖鬼に喰われるからな」
この世界において神隠しは、異界に迷い込んでしまう現象だ。
それが平和な妖鬼の里ならともかく、凶暴な妖鬼のいる里だとそのまま喰われてしまう。
大江山なんて、道行く妖鬼が人食いであるなんてざらだからな。
「まぁ今回は、大江山に何度も顔を出してる俺と、妖鬼しかいないから問題ないけど」
「私もすっかり、わんこ耳が馴染んできました」
正確に言うとミクモちゃんは半妖なんだが、ミクモちゃんには謎のカリスマがあるので問題ないだろう。
というわけで、さっそく突入だ。
『ああそうだ、一つ忠告が――』
なんて、異界に入る直前に言おうとしたロウクが――
「……あれ、ロウクどこに行きました?」
「迷子か……こまった弟だ」
――どこかに行ってしまった。
多分、出た場所が違ったんだろうな。
……この後の流れがなんとなく読めたぞ。
「とりあえず、総大将の二人がいるところを目指そう。一番奥だ」
「悪の組織ー」
「そ、そういうこと言って大丈夫なんですか?」
――山の雰囲気は、さきほどからあまり変わっていない。
しいて言うなら、霧が濃くなった程度。
ツキの言う通り、悪の組織の本部みたいな場所だが、今のところはただの山だ。
そんな山の中で――
「――あの、すいません」
ふと、声をかけられた。
バッと、警戒した様子でミクモちゃんが振り返る。
そこには、黒髪の少女が立っていた。
片方の目が隠れている、いわゆる片目隠れの少女だ。
来ている衣服は、古ぼけた庶民の麻の服みたいな感じ。
枯れ枝のような細い手足も相まって、妖鬼というよりは貧相な村のこどもというイメージを受ける。
「あ、はいえっと……なんでしょう」
その様子に、ミクモちゃんは警戒を解いた。
やはりこの見た目は、初見相手にはトラップだなぁ。
ツキもなにやら少し訝しんでいる様子だけど、警戒はしていない。
「霊媒師さんとその御一行……ですね」
「ああ、久しぶり」
「久しぶりです、霊媒師さん」
「お知り合いですか、霊媒師さん。この子は――」
俺は、そんな彼女……いや、彼か? とにかく、妖鬼の少女に挨拶をする。
そんな俺に、ミクモちゃんが妖鬼の正体を問いかけてくるが、それよりも早く――
「あ、えと、総大将の元まで案内、しますね」
「ん、くるしゅーない」
妖鬼の少女が話を変えてしまった。
ツキは、それになんとなくといった様子で横柄に返す。
今度はミクモちゃんが首を傾げるが、違和感には気づかないようだ。
というか、こっそり何かしらの術を使ってるな?
うーん、趣味が悪い。
「それで、サトル。これから会いに行くのが――」
「妖鬼の総大将。イブとイバラだ」
ツキの問いかけに、俺が答える。
イブとイバラ、前にも名前を出したけれど鬼の妖鬼だ。
そんな大将鬼二名だが、彼女たちは退魔師の間でも”あること”が知られている。
「それにしても、事実なのでしょうか。イブ様とイバラ様があの――
――生まれ変わり。
それは、俺と同じ”転生”という意味なのか?
当然のように、そんな疑問が浮かぶ。
そしてミクモちゃんの言葉に――
「――事実、ですよ」
どこかおどおどとしたような妖鬼の少女は、微笑みながらそう答えた。
◯
この世界には、輪廻転生が存在する。
死んだ人間の魂が成仏すると黄泉に行き、そこで次の人生に生まれ変わるのだ。
生まれ変わりは、妖鬼とて例外ではない。
妖鬼も死ぬと魂が黄泉で浄化され、次の妖鬼に生まれ変わる。
このとき、人との違いは妖鬼が前世の特性を多少受け継ぐことだ。
「鬼の妖鬼が死んでその魂が輪廻すれば、次の人生も鬼の妖鬼になる。キツネならキツネ、狼なら狼……って具合にな」
「へー」
そして、妖鬼が強ければ強いほど、より多くの特性を来世に引き継ぐ。
酒呑童子に茨木童子、この国の歴史に名を残す大妖怪であるこの両名が討伐された後、生まれ変わったのがイブとイバラだ。
それぞれ、酒呑童子――伊吹童子がイブ、茨木童子がイバラという名の鬼に生まれ変わった。
「と、といっても、霊媒師さんのように……前世の記憶があるわけでは、ありません」
「あくまで、強い力を持って生まれ変わっただけ、ということですね」
俺は輪廻転生の輪から外れた例外だからな。
もうすでに神と契約し、死後は神に合一されることが確定しているから試せないが、神と契約せずに俺が死んだらどうなるんだろうな?
まぁ、そんな話はいいか。
無意味な仮定だし。
「さて、そろそろ大江山の”里”が見えて……きます」
ふと、妖鬼の少女がそういった。
みれば、遠くに洞窟らしきものが見える。
同時に、妖力の気配も更に濃密になっていた。
「いろんな妖鬼がいますね……」
「よりどりみどり」
「何を選ぶんだよ」
同時に、辺りをうろつく妖鬼も増えてくる。
たいていは動物型の――三号妖鬼だろう。
こちらを警戒しながら覗き込んでは、途中で興味を失って去っていく。
あるいは、怯えた様子で逃げ出していく。
誰に怯えているかは……言うまでもあるまい。
「む、川辺に人型の妖怪がいます」
「彼女は……小豆あらいのアズさんですね」
山の中に入れば入るほど、人型の――二号以上の妖鬼が増えていく。
中には俺と顔を合わせたことのあるものもいて、先程話題にあがった妖鬼の女性――アズさんもその一人。
ちょうど、川辺で小豆を洗っていた。
どうでもいいけど、酒呑童子の根城に向かう最中に出会う川辺で洗濯をしている女性って、民話の一節みたいだよな。
「そろそろ洞窟ー」
「き、緊張します。イブ様……どんな方なのでしょう」
やがて、俺達は洞窟――イブとイバラのいる大江山の中心までやってきた。
そこで、ふと洞窟の入口に誰かが立っているのを見つける。
その姿は――なんというか、とてつもなく存在感があった。
『いやぁ! よく来たねぇ!』
なにせ、でかかったのだ。
何がって言えば、声と背丈が。
身長は軽く3メートルはあろうかという巨体。
体は赤く、筋骨隆々であらゆる部分が馬鹿みたいにでかい。
そんな、”如何にも”な鬼を前に、ミクモちゃんはおろか、ツキさえも一瞬おののいた。
「おー」
「お、おお……」
『久しいじゃないか霊媒師! そっちの子たちも話は聞いてるよ!』
言いながら、笑顔で近づいてくる赤鬼。
それを感嘆とともに見上げ、ミクモちゃんが問いかける。
「貴方が、総大将の……」
『おうともさ。アンタが久々に人から妖鬼に変じたっていう?』
「あ、はい! み、御鏡ミクモと申します!」
礼儀正しく、おっかなびっくり。
そんな様子でミクモちゃんが返事をすると、総大将の赤鬼はカラカラと笑った。
”久々に人から妖鬼に”という部分は、妖鬼側の存在ではないミクモちゃんには疑問に感じただろうけど、そこはまた今度だな。
『で、あんたが――』
「ん、ツキ」
『……そういかい。どこかツキネの面影があるね。つながりとしては、娘ってことになる。よろしくね、ツキ』
「わかった。――パパ」
その言葉に、総大将の赤鬼はこれまた豪快に笑う。
同時にクスクスと妖鬼の少女も笑うが、こちらに気づくものは俺だけのようだ。
術中にハマってるなぁ。
「そういえば、ロウクは?」
『あいつには個人的に話したいことがあったからね、直接館の中に呼び出した。今はあんたたちを待ってるよ』
ああ、と頷く。
いつもどおりの可愛がりだろう。
赤鬼の彼女にとって、ロウクは物理的に目に入れてもいたくない息子なのだから。
ロウクにとっては鬱陶しいことこの上ないだろうが。
「――では、行きましょうか」
妖鬼の少女が、そう促して中に入っていく。
ミクモちゃんとツキもそれに続いた。
――総大将の赤鬼は中を”館”と称した。
入口こそ洞窟だが、その中はどちらかというと高級な旅館を思わせる作りになっている。
整然とした雰囲気の木の廊下を歩き、ミクモちゃんは荘厳さに息を呑む。
時折、酒を飲んで馬鹿騒ぎをしている妖鬼たちが見受けられた。
アレがここの日常だ。
館の中央――総大将の間とでも呼ぶべき場所にも、何体かの妖鬼がいて、酒を片手にこちらを見ている。
中には俺の顔を見て、顔を青くしてその場を離れるものがいるのは御愛嬌。
『む、来たか』
――ロウクが、床に寝転んだままこちらを見る。
そして、妖鬼の少女に視線を向けると、大きくため息を付いて視線を逸らした。
赤鬼は、中央にあるでかい座布団まで足を進めると、どかっとそこに腰を下ろす。
『じゃあ、改めて自己紹介しよう。アタシはこの妖鬼の里――総本山と呼ばれるこの大江山を取りまとめる妖鬼が一つ』
足に腕を乗せて、それに顔を乗せて。
実に偉そうに。
『
正体を明かす。
「え?」
「んえ?」
疑問符を浮かべるミクモちゃんとツキ。
彼女が”イバラ”であるなら、総大将のイブはどこにいる?
答えは簡単。
おどおどとした様子の妖鬼の少女が前に出て――
ミクモちゃんとツキの目が見開かれる中――
「えっと……はじめまして。ボクはイブ。この大江山の総大将……です」
その容姿が、青肌の鬼へと変化する。
同時に、装いもゆったりとした豪華なものへ。
表情はどこか控えめな感じを出しつつも、その口元は”いたずら大成功”と言わんばかりの笑みが浮かんでいた。