だいぶ間が開いてしまってすみません。
ヒユがアビドスにやってきてから、一日経った。
その間、誰の家に引き取るのかで揉めたが、結果的にホシノが引き取る形になった。
そして、二人はと言うと……
「……起きて、ホシノお姉ちゃん。」
ヒユの声に、ホシノは目を覚ます。
「ふわぁ……おはよう。ヒユくん。」
ホシノはベッドから降りて、体を伸ばす。ふと、ホシノは鼻腔をくすぐる良い香りを感じた。
「ご飯できてるから、朝食にしよう?」
その言葉に驚き、テーブルを見ると、目玉焼きとウィンナー、味噌汁とご飯と言った、朝の定番メニューが並んでいた。
「これ、どうしたの?」
「作ったんだ。」
何かの間違いかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
無論、ホシノも一人暮らしをしている為、自炊位は出来る。しかし、まだ小さな子供であるヒユが料理出来るなどと、夢にも思わなかった。
「その……母さんから教わって。」
ヒユは、少し恥ずかし気にお盆で顔を半分かくしてしまった。
ホシノはにこりと笑ってヒユに感謝を伝える。
「若いのに凄いね~。おじさん、びっくりしちゃったよ……ありがとう。」
そう伝えると、ヒユはぱあっと表情を明るくさせる。
「それじゃ、食べよっか。ヒユくんも座って座って~?」
ホシノは隣に来るように、手招きする。
それに従い、ヒユはホシノの隣に来る。
「それじゃあ、頂きます。」
両手を合わせて、そう言うと、ヒユは不思議なものを見る様に、ホシノを見つめる。
「……あれ?もしかして、知らない?」
ヒユは、首を縦に振り、肯定する。
――もしかして……いや、そういう習慣のない場所にいたのかもしれないし、まだわからない、か。
ホシノは、脳裏に一瞬よぎった思考を打ち切る様に瞳を閉じて、二ヘラと笑って、ヒユに食事の前の挨拶を教える事にした。
「こうやって、両手を合わせて『いただきます。』って言うの。」
ホシノは手本を見せる様に、ヒユを見ながら、両手を合わせる。
ヒユもそれに倣う様に両手を合わせる。
「頂きます。」
「……いただきます。」
ホシノの後に続き、ヒユも頂きますといった。
そうして、二人は朝食を食べ始めた。
朝食を食べ終え、ホシノは学校に行く支度を整える。
「それじゃ、いこっか。」
ホシノはヒユに手を差し出し、ヒユと手を繋いで歩きながら、アビドス高校に向かった。
「それでは、今日の定例会議を……と、言いたい所ですが……」
アヤネは、苦笑いしながら、窓際に座っている二人に視線を向ける。
「すぅ……すぅ……。」
「………………」
ホシノは壁を背にして、心地よさそうに寝ている。膝の上に座っているヒユも、ホシノの胸に頭を預けて、穏やかな顔で寝ていた。
「……いつもなら、起きてもらうのに、ヒユくんがいるから起こせないじゃない。」
セリカは悔しそうに呟き、シロコはヒユの横で頬を突っつく。
「ん、ぷにぷに……柔らかい。」
「んんぅ…………」
ヒユが、居心地が悪そうに呻く。
「駄目ですよ、シロコちゃん。あんまり突っつくと起きちゃいます。」
ノノミが止めたことでヒユのうめき声は止まったが、シロコは若干、不満そうな顔をして「もっと堪能したかった。」と言った。
「……今日は、定例会議は無しにしましょうか。」
「そうですね。二人とも、ぐっすり眠ってて、気持ちよさそうです☆。」
しかし、ヒユが突然跳ねる様に起きる。ホシノもその衝撃で目を覚ます。
ヒユの顔は、蒼白に染まり、ガタガタと震えだす。
「——来る。」
「どうしたの?だいじょう――」
ドドドドドドド!!
窓の外から、銃声が響き渡る。全員、窓の外を見ると、大勢のフルフェイスヘルメットを被った制服の少女たちが見えた。
「おらおらおら!!今度こそこの校舎を明け渡してもらうぜ!!!」
「ひゃっはぁ!!」
「とっとと出てこい!アビドス!!」
口々に汚い言葉で
「また来たのね、あいつら!!」
「乱暴な言葉を使って……ヒユくんが真似したら、どうするんですか!?」
「ん、早く外に出て、迎撃しよう。」
「皆さん、お願いします!!」
ノノミ、セリカ、シロコの順に、教室を飛び出していこうとする。
「さて、それじゃあ、おじさんも――」
「駄目!!」
ホシノが動こうとすると、ヒユが必死で止めようとする。
「だめだよ……ホシノお姉ちゃん…………!」
尋常ではないその様子に、どうしてと言った様子で、首を傾げる。
「みんな、死んじゃうよ……駄目だよ!そんなの……だめ…………!」
「何、どうしたの?」
セリカは困惑して、ただその場で立ち尽くす事しか出来なかった。
「……そうだよ。考えてみれば、すぐに分かる事なのに……」
ホシノは、はっとした表情で、譫言の様に呟く。
「ホシノ先輩?」
シロコが、困惑した様な、心配した様な声でホシノに呼びかける。
「ヒユくんは、キヴォトスの外から来たんだよ。」
「……何、それが何か関係があるの!?」
訳が分からなくなり、セリカがうがぁ!と言った様子で叫ぶ。
しかし、他の皆はその一言だけで理解できたのか、顔を俯かせている。
「セリカちゃん……ホシノ先輩が言いたい事は、えっと……つまり、ヒユくんの周りには、みんな、銃弾一発で重症になっちゃう人たちしかいなかったてことだよ。」
アヤネの説明で、セリカも漸く気が付いた。ヒユと、彼女たち……キヴォトスで生きる生徒たちとの、決定的な〝差〟に。
銃弾では傷一つ付かないキヴォトスの住民たちとは違い、ヒユはその一発一発が致命傷になる。その周りの人間も、ヒユと同じであったことを考えれば、銃撃戦に飛び込んでいくと言う事が死地に飛び込んでいく事と同義であると、すぐに考え付く事だった。故に、キヴォトスの事を何も知らぬヒユが彼女たちを止めるのは、至極真っ当な反応だった。
「ごめんね、ヒユくん。でも、私たちは行かなくちゃいけないんだ。」
「どうして……命は、一つだけなんだよ!?死んじゃったら、何も残らないのに……どうして!?」
「——命を懸けても、守りたい〝物〟が、此処にはあるからね。」
その言葉に、ヒユは、顔を俯かせる。
「だいじょーぶだいじょーぶ。こう見えて、おじさん結構強いからすぐに片づけて来るよ!だから、待ってて?」
ホシノが二ヘラと笑いかける。」
そうして、ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカは校舎の外で、ヘルメット団と戦った。アヤネは戦術指揮で、ヒユと一緒に部室に残った。
だが、ヒユは心配そうに、窓の外の四人をじっと見つめた。
「心配しなくて大丈夫です!ホシノ先輩もそうだけど……シロコ先輩やノノミ先輩、それに、セリカちゃんも、何度もヘルメット団を撃退してるんですよ?それに、此処の人たちの体は、ヒユくんが住んでた所と違って、銃弾なんかで傷は付かないんですから!」
「……ほんと?」
「はい!だから、信じて待ちましょう?」
ヒユは小さくうなづく。アヤネはヒユの隣に寄り添いながら、ドローンで指示を飛ばしてヘルメット団を撃退した。
終わった後、しばらくヒユはホシノから離れなくなり、離れたのは、家に帰ってヒユが寝た後だった。
「すぅ……すぅ……。」
「……うへぇ、まさかこんな事になるとはねぇ。」
ヒユの寝顔を優しい目つきで見つめる。
「……ほんと、なんでおじさんなんかにこんなに懐いてるんだろ。」
自嘲的な笑みを浮かべ、ホシノは毛布を掛けてあげて、立ち上がる。
「さて、と……昨日はいけなかったけど、今日は行かないとね。」
玄関に向かい、ホシノは夜の街へと向かった。
路地裏に入ったところで、ホシノは自身の背後に語り掛けた。
「ねえ……さっきから付けて来てるよね。いい加減に出てきたら?」
そう、声を掛けると同時、ホシノは手荷物ショットガンの銃口を僅かに上げる。
「くっくっくっ……お久しぶりです。小鳥遊ホシノさん?」
不気味な笑い声を響かせて、現れたのは、全身が黒い人型の異形だった。所々、白い亀裂が走っていて、その隙間から黒い靄が立ち上る。
「黒服……何の用?前と同じ要件なら、答えは変わらないよ。」
殺意すら感じさせる程、冷たい声音だったが、臆する様子もなく、黒服は話す。
「いえいえ、今回はその件ではありませんよ。そういえば、最近新たにアビドスにやってきた子供がいるそうですが……」
「お前!!」
ショットガンの銃口を突き付け、引き金に指を掛ける。
黒服は、特大の殺意を浴びせられているというのに、動揺すらしていない。
「おやおや、落ち着いて下さい。あの少年に何かをする気はありませんよ……ただ、ある事を伝えようと思いましてね。」
「……それで、そのある事って何?」
「あの少年には注意する事です。妙に勘が鋭いと感じた事はありませんか?」
黒服の言葉に、ホシノはヘルメット団が襲撃する直前の事を思い出した。
「あれは、人が行きつく一つの可能性……
「結局何が言いたいの?あの子の事をどうする気?」
イラついて語気が荒くなるホシノ。しかし、それに構わず黒服は自分のペースで話を続ける。
「あの子は中身です。しかし、器とつながっていないが故に、人の形を保っている。彼がキヴォトスに来た際に乗っていた機械人形には乗せない事です。一度起動すれば、どうなるのか私にも予想がつきませんから……」
その言葉を最後に、いつの間にか黒服の姿は消えた。目を離してはいなかったのに、消えた事に違和感すら抱けなかった。
ホシノは黒服の事を気にしていても仕方が無いと思い、黒服の発言について考えていた。
「機械人形……あのロボットの事?そういえばあのロボットは何処に行ったんだろう。」
ヒユを引き取る前日に、ヒユを拾ったあの場所に向かったのだが、いつの間にかヒユの乗っていたロボットが消えていたことを思い出していた。
それが一体、何を齎すのか……この時のホシノには想像も出来なかった。
大きな騒動も無く、日々は流れていく。
ヒユは様々な事に興味を示し、屋上でセリカとシロコと鬼ごっこをしたり、ノノミとキヴォトスについて勉強をしたり、アヤネの学校設備の点検を手伝ったり、ホシノと一緒にお昼寝を楽しんだり、様々な事をして過ごした。
「……弾薬、どうしましょうか。」
アヤネの少し落ち込んだ声が響く。
この前の襲撃で、少なくない弾薬を消費してしまった為、次のヘルメット団の襲撃を乗り切れるかどうか不安になるのも当然の事だろう。
「そうだ、シャーレの先生にお願いしたらもしかしたら……それに、ヒユくんの事も、何か頼れるかもしれない。」
連邦捜査部『S.C.H.A.L.E.』
連邦生徒会によって設立された部活。謎の多い部活ではあるが、悪い評判は今のところ聞かない。それに、顧問である『先生』は、ヒユと同じキヴォトスの外から来た大人であるらしい。
「みんなにも相談してみよう。」
アヤネは皆に相談したのち、とりあえずメールだけ送ってみる事にした。
しかし、今までどれだけ嘆願しても動いてくれなかった連邦生徒会——それに属するシャーレが動いてくれると思う生徒はいなかった。
次の日、シロコが大人の男性を背負って登校するまでは……
此処まで読んで頂きありがとうございました。