夜空を燃えながら堕ちる星   作:XA-26483

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生理関係の話題がちょっとだけ出ます。ご注意ください。



第11話:準備

 

 

 社長による衝撃発言から一週間が過ぎた現在、私達B小町はデビューライブに向けて大急ぎで準備をしていた。

 

 振り付けを覚え、歌詞を覚え、立ち位置を決め。後はひたすら練習あるのみ。

 

 とはいっても、私達が歌うのは二曲のみ。一曲は他アイドルのカバー曲で、今までのレッスンで何度も踊っているからそっちは特に問題ない。

 

 もう一方のオリジナルのデビュー曲は振り付け込みで出来上がっていたから、先生から教わった通りの振り付けを覚えるだけで済んだ。余裕があればアレンジしたいと皆は話しているけど、最初から冒険をするのはビビりの私には厳しい。ここは手堅くいきたいところだ。

 

 オリジナル曲は、これといった特徴のないありきたりな青春ソング。

 

 軽快で爽やか、疾走感あふれるアップテンポな仕上がりの曲に、十代の恋と青春、明るい未来を歌ったポジティブな歌詞……逆に言うと、いまいち中身がない空虚でふわっふわな曖昧なイメージの歌詞なのだが。

 

 それもまた、人生において積み上げたものがまだまだ少ない、十代の若者をイメージした、と言えばらしいか。

 

 まぁ、勢いはあるし、個人的にはリズムが凄く好み。曲に込められた作曲家の熱意が伝わって来るし、何より、楽しんで作ったんだろうなっていうのがわかる。振り付けも気に入った。

 

 作詞作曲は『ヒムラ』というアーティスト。

 

 新進気鋭の若手作曲家だが、いまいち名前は売れていないらしい……しかし、どこかで聞いた事のある名前な気がする。原作にいたっけ?

 

 そんな考え事をしつつも、体はしっかりと曲に合わせて動き続け、最後に皆と一緒に決めポーズ。某機動戦士のラストシューティングっぽいポーズだ。

 

 

「……よし。もう一回、最初から通しでいくよ!」

「おおー。高峯ちゃん、気合入ってるねぇ」

「当然じゃない。私達の晴れ舞台なんだから。やるからには完璧な仕上がりにしないと……社長が言ってたこともあるしね」

 

 

 もう全員汗ダラダラだけど、やる気は衰えない。高峯の言う通り、私達の晴れ舞台ということもあるけど、社長が言ったことも影響しているのだろう。

 

 今回のライブでは、社長が業界関係者を幾人か引っ張って来るらしい。レコード会社、広告代理店、民放テレビ局等……それらに勤務する業界人達。さすがに重役は来ないようだけど、全員現場で活躍している有能な人達だという。

 

 彼等はいずれ、上の役職に就く可能性が高い。今の内に彼等と繋ぎを作り、高評価を貰っておけば、いずれ彼等がお偉いさんになった時は、仕事を優先的に回して貰うなどして便宜を図ってくれる……というのが社長の狙いだ。

 

 

「社長って、ただの胡散臭い遊び人じゃなかったんだねぇ。意外と仕事しててびっくりしちゃった」

「まぁ……確かにね。見た目もあんなだし。私は面接で見た時ヤクザかと思った」

「あは、わかる~」

「二人とも失礼だよ」

「なによ。ニノだって最初は怖がってたじゃん。近所のヤンキーに似てるからって」

「そ、そうだけど……」

「アイちゃんはどう思う?2年も仕事してたんでしょ、あの人と」

 

 

 渡辺の質問にしばし考える。

 

 斉藤社長は私をスカウトした人であり、何だかんだ2年間一緒に仕事をしてきた……相棒?みたいな人だ。見た目はあんなだけど、仕事に対する姿勢は結構真面目で、情熱を持った男でもある。

 

 事務所の社員やタレント達からの評判も悪くはない。特に、他所の事務所から爪弾きにされた訳ありのタレント達にとっては、捨てられた自分達を拾い上げてくれた恩人、みたいな扱いを受けていて、慕う者も少なくない。

 

 だからやっぱり───。

 

 

「───胡散臭い遊び人?」

「あ、アイちゃんから見てもそうなんだ……」

「いやー、仕事は出来るかもしれないけど、性格は別だよね。キャバクラ通いとかギャンブルでお金使いすぎて、万年金欠だし」

「うわ、クズじゃん。普通にひくわ」

「社員さんに若い女性が多いのも社長の趣味なのかなぁ」

 

 

 いや、うん。仕事は出来るんだけどね、ホントに。

 

 

「───って、いつまでサボってんの!早く次やるよ!」

「え~、高峯ちゃんだってお喋りしてたじゃん」

「おーぼーだー」

「二人ともうっさい。ほら、ニノも早く立って!」

「う、うん」

 

 

 その後も練習は夕方近くまで続いた。

 

 今日の練習時間は……お昼を除けば6時間程度か。長いと言えば長いけど、夏休み中にみっちり練習するような部活とそんなに変わらないかな。大手事務所の売れてるアイドルとかはもっと長いんだろうか。

 

 

 

 

 

 それにしても、やはり皆スペックが高い。

 

 以前も言ったが、このメンバーは斉藤社長が直々に面接して選んだ精鋭だ。最近話題の多様性を重視した大手事務所の大規模アイドルグループに対抗し、この世界で生き残り、のし上がっていくためにも。社長は私をワントップとした少数精鋭のカリカリに尖ったアイドルグループを作っていきたいらしい。

 

 戦いは数だよ社長!と言いたい所ではあるが、芸能界とはルッキズムの世界。質で勝負するならば、少数精鋭でも戦いが成立する。私を筆頭に、B小町は顔面偏差値高い子ばっかりだからね。

 

 我等の顔面の暴力で、量産型アイドル共を駆逐するのだ!……なーんちゃって。

 

 なお、社長の名指しで私はセンターになったが、今のところ皆から反発はない。メンバーの中で私が最も芸歴が長く、ヴィジュアルも優れているのは自明の理。歌もダンスも皆より一段上だからね。

 

 一番若いことと、性格に不安が残るという斉藤社長の超失礼な分析によって、グループリーダーの座こそ高峯に譲ったものの、エースでセンターというポジションは()は私のものだ。

 

 今後は、今の実力を出来る限りキープする。当然ながら皆は成長していくので、しばらくすれば私は他の皆に追い抜かれるだろう。その結果、実力重視の斉藤社長は私をセンターから外すだろうし、そうすれば皆から私が嫉妬の目で見られることもない。

 

 不動のセンターなんて、百害あって一利なしである。

 

 後は、見た目は一番可愛いけど、年齢も実力もグループ内最下位。出来の悪い妹分としてへらへら笑ってやり過ごせばいい。

 

 地味に、目立たず、大人しく。

 

 皆という星を輝かせる、引き立て役Bになるのだ。原作のアイのようにはならない。まぁ、なろうと思ってもなれないだろうけどね。

 

 

 

 

 

 ★・ー・★・ー・★・ー・★

 

 

 

 

 

「アイ、お前ちょっと残れ」

 

 

 練習が終わって帰る際、社長から呼び出しを受けた。

 

 長引きそうな予感がしたので、三人に先に帰ってもらうように告げて応接室へ行く。何だか神妙な雰囲気の社長を余所に、対面のソファに腰かけた。社長の様子がちょっとおかしい。この匂いは……困惑と、怒り?かな。え、なんで?社長おこなの?

 

 私、なんかやっちゃったかな。

 

 

「……あれは今から、10年程前。とあるアイドルによって心を救われた俺はこう思った。自分も彼女達のようなアイドルを育てあげ、いずれはドームという夢の舞台へと───」

「そういうのいいから」

 

 

 私は無慈悲に社長の話を遮った。

 

 

「待て、少し俺の話を聞け。10分くらいで終わるから」

「長いよ。社長さー、隙あらば自分語りするのやめなよ。おじさんのそういう話って若い子にとってはほんとにつまんないからね。皆もうんざりしてるんだよ?」

「そんなことないだろ……?」

「ありまくりだよ。マジで気を付けた方がいいよ。そろそろヤバいからね」

「や、ヤバいのか……そうか、気を付けよう」

 

 

 私がガチトーンで言うと、社長はがっくりと項垂れた。

 

 私と出会ってから2年が経ち、今や社長も立派な三十代だ。社会的に見れば若い部類に入るが、小中学生にとっては十分におじさんである。この年頃の女の子にとって、おじさんの自分語りほど退屈なものはないのだ。

 

 

「はあ……それじゃあ、余計な話は抜きにして単刀直入に言うぞ。アイ、お前レッスンで手ぇ抜いてるだろ」

「???」

「惚けてんじゃねえよ。俺がお前等のレッスンを直接見ることはほとんどないが、マネージャーが撮影した映像はチェックしてるんだからな」

 

 

 あー、そう言えばそうだったか。

 

 ドキュメンタリー用の資料として残しておくとかなんとかで、わりと高頻度で私達のレッスン風景を撮影しにマネージャーさんが来ることがある。

 それは知ってたけど、社長がきちんと映像をチェックしていたのには驚いた。見た目と言動は品がないのに、こういう所はマメなんだよね。この人。

 

 

「映像を見れば手抜きだって一発でわかったからな」

「手なんて抜いてないけど。なんでそう思ったの?」

「当たり前だろ。お前があの三人より()()()()()()()なわけがねぇ。小三の頃の方がまだ上手かったんじゃねぇか?」

 

 

 2年前に公園で少し見た程度のあれを覚えていたのか。

 

 うーむ、さすがに2年前の頃より上達してる程度の実力は出してるんだけど。社長の思い出補正が強いだけじゃないかなぁ。

 

 

「お前が何考えてるかは知らんが、レッスンは真面目に受けろ。費用だって馬鹿にならないんだからな、手抜きは許さん」

「いや、だから手は抜いてないって」

 

 

 手を抜くことに手を抜いてないので、嘘は言ってない。

 

 全力を出さないために全力で手加減してるようなものだ。つまりは全力を出しているということで……なんかこんがらがって来た。

 

 

「あのなぁ……あいつらは大手の事務所に入れるぐらいのポテンシャルはある。だが、そこが限界だ。お前との間には隔絶した差があるんだよ」

「そんなことないと思うけど」

「あるんだよ。だからこそ、お前をトップに据えた少数精鋭で、業界の頂点を目指そうってんじゃねえか。お前に全力を出して貰わなきゃ困るんだよ。俺も、事務所も」

 

 

 嫌だよ。全力なんて出したくない。

 

 万が一……万が一だよ?あり得ないだろうけど、私がアイドル活動を全力で頑張った結果、原作のアイみたいに売れまくって、スーパースターになる可能性があるじゃない。世界の修正力の影響とかでさ。

 

 私はお金を稼ぎつつ、女の子としての経験値を稼げればそれでいいんだ。モデル路線でちやほやされながら、自尊心を満たしつつ華やかな生活を送れればそれでいいんだよ。アイドルとして売れるのはのーせんきゅーなのだ。

 

 はあ……面倒くさいけど仕方ない。誤魔化すか。

 

 

「社長は私を過大評価しすぎだよ。よく言うでしょ?二十過ぎれば只の人って」

「お前はまだ10歳だろうが」

「うっ、持病のぎっくり腰が酷くて……」

「お前の歳でぎっくり腰は早すぎんだろ……ふざけてんのか?」

「わかった!わかったよ!正直に言うよ!」

 

 

 私は勢いよく立ち上がってくるりと回った。

 

 

「ほら見て!」

「なんだ?」

「身長だよ身長!伸びたでしょ?」

「……それがどうした?」

「もー、わかんないかなぁ……」

 

 

 私は頬を赤く染め、恥ずかしそうに言った。

 

 

「私、成長期なの」

「あ?」

「この前、初めて生理も来たし」

「おう……」

「背も手足も伸びて、体重も増えて、おっぱいも、ちょっとは育ったし……」

「お、おう……そうなのか」

「……だーかーらー!」

 

 

 私は久々に表情で怒りを表し、怒鳴るように叫んだ。

 

 

「スランプなの!調子悪いの!もう前みたいには動けないのー!」

「スランプって、いや、しかし……そう、なのか?……あ、ちょっと待てよ、ダンスはともかく歌はどうなんだ。声は変わってないよな?」

「声はあまり変わってないよ?でも、発声の仕方は前みたいにはいかないかな。毎日調整しているけど、あんまり良くならないの」

「そ、そうなのか……嘘じゃないよな?」

「こんな嘘吐くと思う?」

 

 

 私はぷくーっと頬を膨らませてムッツリと黙り込み、ソファに勢いよく腰かける。すると、社長は大きな困惑を滲ませた声で言う。

 

 

「いや、すまん。そうだよな……お前も色々、大変な時期ってことか」

「…………」

「……よし、わかった。じゃあ、そうだな。ひとまずは、デビューライブを成功させることに全力を注ぐんだ。無理はしないようにな」

 

 

 

 

 

 ★・ー・★・ー・★・ー・★

 

 

 

 

 

 やったぜ。

 私は自宅のお風呂の中で、静かにガッツポーズをした。

 

 何とか誤魔化すことが出来た……あ、社長に言ったことは、全部が全部嘘ってわけじゃないよ?

 

 初めての生理でメンタルが少しだけ不調なのはガチ。おりものが来なかったから備えることが出来なかったんだよ。突然トイレで血が出た時はやっぱりビビった……実際の血の量は大したことないんだろうけど、水に落ちるとたくさん流れたように見えてちょっと怖かった。

 

 生理については保健体育で学んでいたし、生理用品の使い方も事前に調べていたから何とかなってる。でも、子供の今は軽いけど、成長したらどんどん重くなると思うと憂鬱になる。私は成長しても軽いままだといいなぁ。

 

 そんなわけで、メンタルの不調はある。でも、それがパフォーマンスに悪影響を与えているかというと、実はそうでもない。

 

 むしろ身体が成長して筋力やスタミナが強化され、以前よりもキレのあるパフォーマンスを発揮出来るようになっている。2年前と比べて、今は五割増しのスペックはあると見ていいだろう。

 

 今の私はただのアイではない。

 スーパーアイだ!(ドヤ顔)。

 

 

 

 

 

 お風呂から上がった後は、体にバスタオルを巻いたまま、もう一つのタオルで髪の水分をしっかりととる。それも終わったらドライヤーだ。最初は長い髪を乾かすのが大変だったけど、今はすっかり慣れたもの。

 

 慣れた手つきで髪を乾かし、体を拭いたらパジャマに着替える。歯磨きも終えたら後は寝るだけだ。

 

 お布団を敷いて、部屋の電気を消す。

 

 布団にもぐりこんだら、ガラケーを開いてメールをチェック。これは事務所から支給されたもので、ニノちゃん達グループメンバーや、事務所と連絡する用の携帯だ。

 

 一応、プライベート用の携帯はモデルを始めた頃に母から買ってもらった。でもそっちはほとんど使っていない。何かあったら連絡しろと母に言われているけど、母にメールを送ったことも、通話したこともほとんどない。学校の友達と多少やり取りする程度だ。

 

 

「うーんと……『変なことされてない?大丈夫?』『社長の呼び出しって何だったのー?』『何かあったら言いなさいよ。私がガツンと言ってやるから』か……皆優しいねー」

 

 

 私は少しだけ後ろめたさを覚えながら、三人にそれぞれ返事を送る。

 

 私が手を抜いていると知ったら、皆はきっと怒るだろうなぁ。高峯はプロ意識が高くて、渡辺も、あれで結構プライド高そうだし……二人にバレたら絶対に大変なことになる。気をつけないと。

 

 ニノちゃんは……あの子は大丈夫かな。小さい頃から憧れだったアイドルになれて、今は夢を叶えた嬉しさでいっぱいって感じだから。

 

 三人とメールでちょこちょこっとやり取りをしたら、今度こそお休みの時間だ。

 

 

「……おやすみなさい」

 

 

 誰もいない、静かな家の中で。

 私は虚空に呟き、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 






───星野あゆみの霊圧が……消えた……?


というのは嘘です。生きてます。
家にはいないけど。
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