夜空を燃えながら堕ちる星   作:XA-26483

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ビラ配り回(?)です。

ビラなのかチラシなのかフライヤーなのか。
ネットは正解を答えてくれない。教えてくれ五飛。

とりあえず本作では、ビラ配りだけど配ってるのはフライヤーということにしました。



第12話:前兆

 

 

 夏休み明け最初の日曜日。

 私達は渋谷のハチ公前広場でビラ配りをしていた。

 

 

 地下アイドルと言えばビラ配り。

 

 具体的にいつ頃から始まったのかは定かではないが、地下アイドルそのものの歴史が意外と浅い(1990年代以降)ので、恐らく長くても十年ちょいくらい前から始まったのではなかろうか。

 

 snsが発達し始めて間もない今の時代、地下アイドルにとってビラ配りは集客に欠かせない重要な手段だ。

 

 本来なら警察にビラ配りの許可を貰う必要があるとかないとか聞いたのだが、私達は許可を貰っていない。社長曰く、許可を貰ってビラ配りをしている地下アイドルは滅多にいないらしい。

 現に、すぐそこに交番はあるものの、この広場にいる私達を含めたビラ配りをしている人間に対し、警察からこれといったアクションはない。

 

 これは仕方のない事で、日々何かしら事件が起きているこの東京の街で、いちいちビラ配りごときに対してリソースを割くような余裕は警察にはないのである。問題さえ起こさなければノータッチ、黙認するというわけだ。

 

 少なくとも今はまだ。

 

 ちなみに、私達はチケットの手売りはしていない。小中学生に金銭のやりとりを任せるのが不安、というのが理由なのかは不明だが、チケットの販売に関しては事務所側に一任してある。

 

 一応、家族や知り合いを呼ぶならチケットを売っても良いと言われたけど、私も含めて皆断った。三人はグループがもっと有名になって、自力で会場(はこ)を埋められるようになったら呼びたい人はいるそうだけど。

 

 私はもちろん、誰も呼ばない。

 そこまで深い交友関係の友人はいないし、母は来るわけがないから。

 

 

 ……それにしても、日曜日の昼時ということもあって人ごみが半端ない。転生してからは都会の人の多さにもある程度慣れたつもりだけど、色んな匂いと音が混じり合って気分が悪くなりそう。やっぱり人の多い場所は好きになれそうもない。

 

 おまけにこの暑さよ……天気予報では、今日の最高気温は30度近くになるらしい。今は曇りだから陽射しは弱いとはいえ、やはり9月の初めはまだまだ暑い。人も多いから息苦しいし、これでやる気なんて出ようはずもない。

 

 とは言ったものの、ビラ配りは明るく元気に、が基本である。アイドルであるからには猶更ね。

 

 

「ライブやりまーす!よかったら見に来てくださーい!」

「B小町でーす。今度デビューライブやるので、是非見に来てくださーい」

「み、見に来てくださーい」

 

 

 皆も声を張り上げながら頑張っているようだ。

 

 汗水流しながらも笑顔を振りまき、一生懸命フライヤーを配っている。ニノちゃんも、人見知りなのにぷるぷる震えながら頑張っちゃって……私も見習わなくちゃいかんね。

 

 

「私はアイ。B小町ってユニットでアイドルやってるの」

「わふ?」

「来週デビューライブやるから、よかったら見に来てね」

「わんっ!」

「お、来てくれるの?ありがとー!君は良い子だねー……よーしよしよしよし!」

「あぅ~ん」

「……ねえ、ちょっといい?」

 

 

 私達が話していると、高峯が声をかけて来た。後ろにはニノちゃんたちもいる。どうしたんだろう?

 

 

「どうしたの?」

「いや、どうしたのって言うか……それなに?」

「犬だよ」

 

 

 オレンジっぽい毛色のポメラニアンである。可愛い。

 

 今は地面に仰向けになってお腹を見せてくれている。私は動物の感情だって読めるので、撫でて欲しい場所や掻いて欲しい場所をピンポイントで攻めてやればイチコロなんだよ。

 

 ペットは野生の動物と違って扱いやすくていいなぁ。特に犬はいい。猫と違ってとっても素直だし、触れあっていると癒される……犬飼いたいなぁ犬。一人暮らしするようになったら犬を飼おう。今の内にペット可のマンションを探しておこうかな。

 

 

「見りゃわかるわ!なに堂々とサボってんのあんたは!」

「高峯ちゃん、ステイステイ」

「アイちゃんが変なのはいつものことだし……」

「それはそうだけど」

「え、皆ひどくない?……別にサボってないよ?ほら」

 

 

 犬のリードを指差す。

 

 そこには、折りたたまれた状態で結び付けられたフライヤーがあった。私がきちんと仕事をしていた証拠だ。サボってないよ、ホントだよ。

 

 

「犬に配ってどうすんのよ……」

「……あれ?アイちゃん、この子の飼い主さんは?」

「んー、見つけた時にはこの子だけだったよ」

「ありゃ、迷子のわんちゃんかぁ」

「仕方ないわね……交番まで連れていきましょう」

 

 

 え、やだ。

 

 

「え、やだ」

「なんで!?」

「こういう時って、皆で協力して飼い主を探すパターンじゃないの!?広場で声がけしたり、ゲリラライブとかやって人集めてさ。そうしたらなんやかんやで飼い主が見つかって、その人が実は超お金持ちでお礼としてお金をいっぱい貰え───」

「ないよ。ないない」

「漫画とかでならありそうだよねぇ、そういうの」

「えっと……とりあえず交番行こ?」

「やだやだやだやだ!」

「駄々っ子か!いいから行くよ!」

 

 

 ああ、私のイッヌが……癒しがぁ……。

 

 

 

 

 

 イッヌとの悲しい別れの後も、私達のビラ配りは続く。

 それにしても、交番行く前に飼い主が見つかって良かったよ。警察や保健所で手続きするのも面倒だし。

 

 さて、相変わらず三人は積極的に配っているが、私は適度にサボりながらやっている。サボりたくてサボってるわけじゃないよ?

 

 休日の日中で人目の多い場所とはいえ、小中学生四人だけでビラ配りっていうのは不安がある。もしかしたら変な人に絡まれるかもしれないし。交番はすぐそこだけど、ガチでヤバい人はそういうの気にしない……所謂、無敵の人だっているからさ。

 

 私はビラ配りをしつつも、三人を視界から外さないように気を配る必要がある。元大人として、子供を守るのは私の役目だからね。だから、これはサボりだけど必要なサボりなのだ。

 

 まったく、社長もライブの準備で忙しいのはわかるけど、せめて社員さんの誰か一人くらい寄越してほしいよ。子供達だけで何か問題が起きたり、事件に巻き込まれたりしたらどうするのさ。

 

 あの人はほんと、仕事は出来るかもしれないけど、細かい所で配慮が足りてないというかなんというか……年頃の女の子の扱いがなってない。アイドル育てようっていうならその辺もっと学んで欲しいよ。

 

 社長への愚痴を内心で垂れ流しながらも、通りがかったパーカーを着た男性に声をかける。

 

 

「こんにちは!アイドルやってます、アイです!デビューライブの告知をしてるんですけど、よかったらフライヤーどうぞ!」

「え、あ、ど、どうも……」

 

 

 男性はおどおどしながらもフライヤーをしっかりと握りしめ、その場を足早に去っていった。

 

 男性、というよりは少年か。フードから覗いた顔は幼かったし、身長も低かった。もしかしたら私と歳が近かったかもしれない。中学生くらいかな。このクソ熱い中で長袖パーカーにフードなんて被っちゃって、筋金入りの陰の者だね。間違いない。

 

 ところで、私の手元に残ったフライヤーはあと僅か。サボりながらの癖に皆よりペースが早いが、これには理由がある。

 

 私が渡す相手を選ばないからだ。

 

 ……あの子達は主に若くて顔立ちの良い男性か、身なりの整った大人メインで声をかけているので、誰彼構わず渡す私と比べて遅いのは当たり前だ。

 

 まぁ、まだまだ若い女の子だしね。怖い人とか、暗そうな人とか、身なりがちょっとあれな人とか。そう言う人に声をかけるのは怖いのもわかる。

 

 さっきみたいな根暗そうな子もNGってわけだ。ああいう陰キャこそいいカモだと思うんだけどなぁ。強引に渡してしまえば大体受け取ってくれるし。

 

 

「(お、良さそうな人はっけーん。声かけちゃおー)」

 

 

 次のターゲットを見つけた。

 

 野球帽を被った男の人。染めた金髪とグラサン。紺のスラックスによれよれの白いワイシャツ。うーん、なんともだらしない見た目。ガラも悪そうだ。でも匂いは悪くないし、見た目はともかく良い人っぽい雰囲気を感じる。

 

 私はお仕事用のニコニコ笑顔で話しかけた。

 

 

「こんにちは!今ちょっといいですか?私、アイドルやってるんですけどー」

「待て待て、俺だ俺」

「え、こんな白昼堂々とオレオレ詐欺……?」

「ちげぇよ。それは電話でやるやつだろ。俺だ、壱護だ」

「なんだ社長か……」

「……あからさまに失望したような顔するなよ。社長の俺が直々に様子を見に来たってのに」

「じゃあなんで手ぶらなの?差し入れは?」

「差し入れなんて貰えると思うな。お前等はまだデビューすらしていない新人なんだからな」

 

 

 どうせお金がないだけだろうに……偉そうにしちゃって。

 

 しかし、声を聞いたらわかったけど、服装がいつもと違うからすぐに気付けなかった。私服かな。あと匂いがいつもと違う。なにこの匂い……香水?しかもこれ、母が使ってるような女物のやつじゃん。

 

 さてはキャバ嬢から貰ったな?

 

 

「今日はいつもと服が違うねー。どっか行くの?」

「ああ。告知と宣伝に、ちょっとな」

「え、その恰好で行くのはヤバくない?」

「いいんだよ、これで。女と会うわけでもないし、きっちりしたビジネスの場ってわけでもない。俺のプライベートの知り合いが相手だからな」

「ふーん」

 

 

 飲み仲間か、釣り仲間か、麻雀やパチンコ関連もありそうだ。社長は色んな業界に知り合いがいて、そこから情報を集めたり伝手を使って仕事を回して貰ったりしているらしい。

 

 逆に社長がお世話してあげることもあって、知り合いから紹介されたタレント志望の人に、向いてそうな仕事や事務所を紹介してあげたり、うちの事務所から格安でタレントを貸し出すこともあるとか。

 

 コネ作りは上手なんだよなぁ、この人。まぁ、そのコネづくりにお金使いすぎて事務所が貧乏なので、一長一短ではあるけど。仕事の現場に来た偉い人には毎回貢物を献上してるみたいだし。あれも必要なこととはいえ、出費が多くて大変だと事務の人が嘆いてたっけ。

 

 

 その後、社長に気付いてやって来た他三人も交ざってビラ配りの成果を報告。そして社長は宣伝のために知り合いが経営しているという雀荘へ、私達は午後からライブの練習があるのでレッスンスタジオへと、それぞれ別れたのだった。

 

 

 

 

 

 ★・ー・★・ー・★・ー・★

 

 

 

 

 

 時は流れて土曜日。

 

 私達は社長に連れられ、下北にあるライブハウスを訪れていた。ライブ前日のリハーサル兼、オーナーさんや他の出演者達への挨拶である。

 

 なお、ここ一週間で変わったことは何もない。学校行って放課後にスタジオで練習、の繰り返しである。ビックリするぐらいイベントが何も起きなかった。

 

 アイドルもののアニメや漫画でありがちな、デビューライブ近くになって何らかのトラブル……メンバー間の人間関係でぎくしゃくしたり、ライブの完成度が本番に間に合わない……などなど、そういったことは何一つない。

 

 現実ではドラマチックなことはそうそう起こらないってことだね。

 

 

「苺プロのB小町です!よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします」」」

「よろしくー……え、若くない?君達中学生?」

「あ、私とこっちの渡辺は中学一年生です。そっちの二人は小学六年生と五年生です」

 

 

 社長に促されてライブハウスのスタッフさんとオーナーさんに挨拶。続けて他の出演者の方々に挨拶する。ベテランの風格を漂わせた女の子達だ。可愛い系よりはキレイ系の美人さんが多い……多分、彼女達が有名な地下アイドルとやらなんだろう。

 

 私達が挨拶すると、彼女達は何故か動揺した様子でざわざわし始めた。

 

 

「中学生と小学生だって。ヤバくない?」

「ね。この子達に比べたら、うちらなんておばさんだよ」

「あの、皆さんは社会人の方なんですか?」

「え?違うよ?全員高校生」

「ちなみにデビューして今年で二年目だからね」

「何人か玄人感出してカッコつけてる子いるけど、全然ぺーぺーだから。今回のライブもアタシら前座だし」

 

 

「メジャーいきてー」「無理っしょ」「運営仕事しろっての」「この前彼氏が浮気してさー」「馬鹿、そういうこと言うなって。一応はアイドルなんだから」「てかアタシら何しに来たの?」「新人ちゃんの顔見に来ただけだよー」「えぇ……もう帰っていい?私今日バイトあるんだけど」「私もー」「明日って君達がトップバッターでしょ?初めてのライブで盛り上げる裏技教えてあげよっか?」「MC一番下手くそなのに何言ってんの?」「は?なに急に。何で怒ってんの?」「別に怒ってないけど。本当のこと言っただけじゃん」「今言う必要なくない?」「新人の前だからって調子乗ってるの、すっごいうざいよ」「二人ともやめなよ……」

 

 

 和気藹々とした雰囲気が、いつの間にか殺伐としたものに変わってしまった。え、なに、君達の情緒どうなってんの?ついさっきまでは普通に仲良さげだったよね?感情が変わるスピード速すぎない?怖いんだけど。

 

 こ、これが思春期真っ只中の女子高生なのか。

 反抗期も入ってるのかな。ちょっと感情の動きについて行けないよ。

 

 

「ごめんねぇ。私達のことは気にしないでいいから、リハやっちゃっていいよー」

「あ、はい」

 

 

 殺伐とした雰囲気の先輩方を余所に、私達はリハーサルを始めた。

 

 音源の確認、マイクの音量調整、スポットライトの角度、ステージ上での立ち位置。一つ一つ丁寧にチェックしていく。

 

 

「レッスンスタジオの床とは違うね。滑りやすいかも」

「スポットライト眩し。気抜いたらしかめっ面になるわ」

「確かにねぇ。意外と熱いし、長丁場だと汗ヤバいかも」

 

「テーマパークに来たみたいだね!テンション上がるな~」

 

「そ、そうかな……」

「アイちゃん楽しそうだねぇ」

「……やっぱりアイって私らとは感性違うわよね」

 

 

 皆それぞれ、いつも使っているスタジオと実際のステージとの違いに困惑を隠せない様子だ。

 

 あ、私は別にそういうのはないよ。

 

 むしろテンション上がってる。ぶっちゃけ楽しい。何が楽しいのか自分でもよくわからないけど、なんか楽しい。雰囲気のせいかな?場酔い的な?

 

 ライブハウスに来るのが初めてだからってのもあるかな。テーマパークに来たみたい、って感想はあながち嘘ではない。そんな感じの不思議なワクワク感があるのだ。

 

 ともあれ、そのまま機材のチェックも兼ねて何度か曲を歌い、何事もなくリハーサルは終了した。

 

 いよいよ明日はデビューライブかぁ……さすがに緊張するけど、モデルの仕事で人に見られるのは慣れたし、ライブの完成度も悪くない。

 

 全力を出さないように気をつけさえすれば、何とかなるだろう。

 

 

 

 

 





???「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるな~」


何故かテンション上がってるアイちゃんです。

テンションが上がるとステータスが強化されます。
引き換えに知性と理性がダウンします。

フラグも立てたので、やらかす準備は万全です。
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