夜空を燃えながら堕ちる星 作:XA-26483
ライブ回です。
B小町のデビュー曲がわからないので、適当にオリジナル曲をぶっこみました。
そういうのが苦手な人はごめんなさい。
リハーサルの翌日。11日の日曜日。
私達B小町は、とうとうライブ当日を迎えた。
事務所に集まったのは午後14時。
最後の打ち合わせを終えたら、会社の六人乗りのミニバンに乗ってライブハウスまで移動だ。後ろに私とニノちゃん、真ん中に高峯と渡辺、運転は社長。最後方のスペースには衣装とカメラが置いてある。他の機材は現場で用意してくれるので、持っていくものはこれくらいしかない。
他の社員は来ないようだ。まぁ、ライブと言っても二曲だけで対バンだしね。次回以降、自力でライブを開催するとなればこうはいかないだろう。
「…………」
それにしても、車内の空気が重苦しい。
隣のニノちゃんはもちろん、高峯と渡辺も静かだ。事務所に集まった時点では普段通りだったけど、今はもうガッチガチに緊張している。
普通ならリーダーの高峯あたりが、この辺の調整をするべきなんだろうけど……うん、無理だね。彼女にはそんな余裕はない。ムードメーカーの渡辺も黙り込んだままだ。まだ子供なんだからしょうがないか。
このままだと三人に同調して私まで緊張してしまいそうだ。それは困るので、この空気を変えるべく、私は前の三人にも聞こえるような声でニノちゃんに話しかけた。
「ニノちゃん、今日は楽しみだね───」
「……ご、ごめんね。正直、今は緊張してそれどころじゃ」
「───打ち上げ!」
「打ち上げ!?ライブじゃなくて!?」
「……もう打ち上げのこと考えてんの?」
「うん!だって、ライブが成功したら社長が美味しいお店に連れてってくれるんだよ!楽しみだよねー!」
「そうなんですか?社長」
「……あー、そうだな。連れてってやらんでもない」
「本当!?」
「え、マジ?」
社長は乗ってくれたようだ。
彼もまた、この空気があまりよろしくないことに気付いていたのだろう。
「言っておくが、あまり高い店は無理だからな。三人分となると俺の手持ちじゃ……」
「私、回らないお寿司がいい!」
「話聞いてたか!?高い店は無理って今言ったよな!?」
「えー?お酒やギャンブルに使うお金はあるのに、私達に一回奢るくらいのお金はないって、それおかしくない?」
「いや、それはあくまで仕事の一環としての必要経費ってやつで……」
「ねー、皆も回らないお寿司、食べたいよね?」
私がゆっくり手を叩きながら「すーし」とコールすると、三人も合わせてくれた。車内に私達四人の寿司コールが鳴り響く。
「「「「すーし!すーし!すーし!」」」」
「くっ……ああ分かったよ!連れてってやるよ!どの道ライブで金使いすぎて、明日から節約生活なんだ。今日くらいは俺も美味いもん食いてえからな……連れてってやるよ!」
「「「「やったー!」」」」
とうとう折れた社長によって、私達の今夜の晩御飯は回らないお寿司に決定した。皆嬉しそうにしながら、何を注文するかあれやこれやと話し合っている。
……よし、緊張はほぐれたね。これならライブも何とかなりそうだ。
引き換えに社長のお財布が軽くなってしまうけど。なあに、これは所謂コラテラルダメージというものに過ぎない。気にすることはないさ。
……最速でモデルに戻るなら、ここで失敗するのもアリと言えばアリなんだけどね。でも、事務所が私達B小町に対してかなりの投資をしているのはわかってるし、この子達の今後も考えると、せめて最初のデビューライブくらいはしっかり成功させておきたいところだ。
ここで失敗して心折れて辞めちゃったり……なんてのは可哀想だしね。
ライブハウスに到着すると、私達は荷物を持ってすぐさま控室へ直行。道中で慌ただしい様子のスタッフさん達に挨拶しながら、控室へ到着したら衣装へ着替えてメイクを施す。
衣装はワンピースタイプ。アイドルの衣装らしいふりふりな飾りも少なく、全員ほぼ同じデザインで、普通に普段着として通せそうな感じだ。衣装に使えるお金が少なかったと小耳に挟んだので、こういうシンプルな見た目に落ち着いたのだろう。
唯一個性的な特徴と言えば、各々が頭に付けた髪飾り。私がうさぎ、高峯が犬、渡辺が猫、ニノちゃんがパンダ。衣装のデザインは外注でほとんどおまかせ状態だから、この髪飾りは事務所側と外注先で話し合った結果着けられたのだろう。
「ちょっとお客さん見て来るねー。早い人はそろそろ来てそうだし」
「あ、私も行くー」
私が衣装に異常がないかチェックしていると、携帯を弄っていた渡辺が立ち上がりながら言った。
開演時間まで三十分を切ったし、そろそろお客さんの様子を見に行った方がいいかもしれない。まぁ、見たからと言って何かするわけでもないけどね。
結局、私も含めて全員で見に行くことになった。
「……お客さんめっちゃ来てたわね。ちょっとびっくり」
「100人以上は来てたんじゃないかな。う、また緊張して来た」
「大丈夫だよぉ、ニノちゃん。ほとんどの人は他の出演者目当てなんだろうし、良くも悪くも私達に注目している人はそんなにいないと思う。あ、でも社長が呼んだ人達は来てるかな……アイちゃん、知ってる顔の人いた?」
「────」
「アイちゃん?」
「……え、ああ……えっと、いた……かも?暗くてわかんなかったよ。あ、私ちょっとお手洗い行って来るね」
「?うん。いってらっしゃい」
「衣装汚さないようにねー」
私は訝し気に見て来る三人にひらひらと手を振りながら、控室に戻る前にトイレへ向かった。
個室に入って鍵を閉めると、そのまま扉に寄り掛かる。
気を静めようと、目を閉じてゆっくりと息を吸う。芳香剤の匂いが鼻にツンと来るが、今はそれがまったく気にならない。気にしている余裕がない。
「(わ、私……どうしちゃったんだろう……)」
動悸が治まらない。目を閉じているだけで、ドクンドクンと脈打つ心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
タイミング的に、お客さんの様子を見に行った時か。
……緊張しているから?そりゃ、こんな大勢の人前に立つのは初めてだから、相応に緊張はしていた。でも、それが原因かと言われると、なんだか違うと思う。
だって、気分が悪い訳じゃないから。むしろ逆。いつになく気分が高揚して、気持ちが高ぶっているのがわかる。喜怒哀楽の『楽』だけが暴走しているような感じだ。気を抜いたら顔が勝手に笑顔を作ってしまいそうになるような、じっとしていられないような、そんな気分。
……ふと、去年を思い出す。一人の少年に深く共感してしまい、感情が暴走してしまったあの時のことを。私はあの時と同じように、自分を制御出来なくなっている?
「(……でも、私は誰に共感したの?ニノちゃん達は違うし、スタッフさんとはほとんど話してない。じゃあ、誰?誰に共感したの?誰の感情を受け取ったの?)」
考えてもわからない。それどころか、頭がふわふわして深く考えることが出来ない。夢見心地というのか。視界がぼやけているわけでもないのに、きちんと現実を認識出来ていないような気がする。よくわからないけど、今の私は何だかヤバい。
「(と、とにかく今は落ち着かないと……このまま行ったら大変なことになる気がする)」
……その後、時間ギリギリまで冷静になるために努力したものの、結局私は気を静めることが出来なかった。
戻らない私を心配して見に来てくれたニノちゃん達に連れ戻され、そのままライブ開始を迎えてしまうのだった。
★・ー・★・ー・★・ー・★
時間になり、ステージの上に立った私達四人の中で、代表して高峯がマイクを片手に観客に語り掛ける。
「こ、こんにちはー!B小町です!私達今日デビューで、初めてのライブなんですけど……えっと、せ、精一杯頑張るので、楽しんでいってくださーい!それじゃ、最初の曲は───」
……本当はもうちょっと話すことがあったはずだけど、高峯は緊張で忘れてしまったのか、話をすっ飛ばして終わらせてしまった。
音響さんがすぐさま合わせて曲を流してくれたから、傍目に違和感はなかったと思うけど、微妙にタイミングがずれたせいで渡辺とニノちゃんは動揺しているようだ。
私は……駄目だ。落ち着かない。
頭がぐらぐらする。思考がぐちゃぐちゃになってまとまらない。頭の中に手をツッコんでかき回されているような気分だ。変な気分……。
そんな滅茶苦茶な精神状態なのに、体は曲に合わせて勝手に動き出す。
振り付けはたぶん合ってる。声も出てるし、音程もズレてない。表情は……駄目だ。ちゃんとライブ用の笑顔が作れているだろうか。自信がない。
一番遠くにきらりと光るものが見える。カメラだ。
撮っているのは社長だ。私達のライブの様子を撮影して、出来が良かったら事務所の公式ホームページに少しだけ載せたり、他にも宣伝のために活用するとかなんとか。
そこから少し目線を変えると、大勢の観客が目に入る。
150人くらいかな。皆サイリウムを振ってくれている。最初のカバー曲はドルオタの間では有名な曲だから、サイリウムを振るタイミングもバッチリだ。
無名の新人なんて興味ないだろうに、皆しっかり応援してくれている。良い人達だ……顔が見えなくても彼等の感情がひしひしと伝わって来る。彼等の汗の匂い、声援、それらが私達のライブを楽しんでくれていると教えてくれている。
見えない筈の彼等の顔に、表情が見えたような気がする。皆笑顔で、私達を、私を見てくれている。これはきっと幻だ。暴走した私の感覚が勝手に作り上げた妄想に過ぎないはず。それでも私は……。
……ああ、そうか。
どうしてあんなに気分が高揚していたのか。その理由がわかった。
このライブハウスに満ちた彼等の感情が、私の心を刺激するからだ。
彼等の熱気がこの狭いライブハウスの中を満たし、どこにいても私の下へ感情を届けて来る。それに影響されたのだろう。ライブ前の彼等が抱いた、期待、興奮、高揚といった感情を受け取ってしまい、私もまた彼等と同じ様に気分が上がってしまった、と考えられる。
思えば、昨日のリハーサルでテンションが上がったのもこれのせいか。このライブハウスに染みついた匂いから、ドルオタ達の感情を僅かに受け取ってしまったのかもしれない。
そして今、ライブが始まってからはそれが一層顕著になっている。彼等の感情を受け取る度、私もどんどん楽しくなる。好きって感情を受け取る度に、私は嬉しくなる。彼等の想いに応えたくて、ダンスに、歌に、力が入る。
私の理性は言う。
『このままじゃマズイ、全力は出すな。冷静になれ』と。
私の本能は言う。
『そんなの関係ない!もっと楽しもうよ!』と。
理性と本能がぶつかり合い……拮抗したのはほんの一瞬だった。
一曲目が終わった瞬間、観客から聞こえて来る大きな声援。ライブハウス全体を揺るがすような大きな声は、感情の津波となって私の理性を押し流し、塗り潰した。
……なんで私、我慢してるんだろう。
こんなに楽しいのに。こんなに嬉しいのに。
全力を出さないとか、目立ちたくないとか、もうそんなのどうでもいい。
今この瞬間を、この熱を、もっと感じていたい。
もっともっと、たくさんの感情が欲しい!
私を想って欲しい!
私を見て欲しい!
私を──────。
★・ー・★・ー・★・ー・★
「ありがとうございます!次が最後の曲で、私達のオリジナル曲です!聞いてください!───『Beginning Stars』」
スポットライトに照らされる中。
ステージの上で、流れる曲に合わせて四人の少女達が歌い、舞い踊る。
己が自ら選び、ついに結成したアイドルグループの初ライブ。その様子をカメラ越しに眺めながら、斉藤壱護は内心で強く思った。
彼女を……星野アイという少女を見出した、自分の目に狂いはなかった、と。
『星野アイ』
2年前、壱護が直々にスカウトした少女だ。
あの日、小さな公園で出会った少女に、壱護は一瞬で目を奪われた。
容姿が優れているから?───否。
歌やダンスが上手いから?───否。
東京都内から地方まで、様々なアイドルを見て来た壱護にとって、単純に容姿や技量が高い程度で目を奪われるなんてことはない。そんなアイドルは世の中にごまんといる。
そうではないのだ。アイの魅力は。
『作り物』……そう、アイは作り物だった。偽物であり、贋物であり、紛い物であった。浮かべる笑顔も、歌声も、何もかも。全てが本物を真似て作られたものであり、だからこそ、本物にはない作り物ゆえの、現実味のない魅力があった。
モデルとして活動している間もそうだ。事務所での受け答え、現場での立ち居振る舞い、仕事に対する姿勢、そのどれもが普通と
実際、彼女は表情を意図的に作るし、それに合わせて振る舞いや言動も変えてしまう。言ってしまえば、アイは普段から何者かを演じ続けているのだ。壱護を含め、他人に素を見せたことなんて一度もないのではないか。たとえそれが肉親相手であろうとも。
……全てを演じる彼女は、存在そのものが嘘だ。彼女の振る舞いや言動には現実味がない。まるで、人々の理想とする像を受け取って反映しているかのように、非現実的な魅力を放っている。
清楚で、透明で、無邪気で、純粋で、自由で、混沌としていて。常人どころか、人間が本来持ち得ないような輝きを放つ……それはまるで、絵画に描かれた人外の様でもある。
清らかな天使か、誘惑する悪魔か、祝福を授ける女神か、あるいは人喰いの怪物か───とにかく、アイは
だからこそ、彼女は
彼女ならば、自身の夢を叶えることが出来る。
ドームライブ……アイドルとして、一握りの者しか辿り着けない、最高の舞台に辿り着けると。
そしていずれは、
斉藤壱護は信じている。
……ここ最近は成長期のせいで身体のバランスが崩れ、スランプに陥っていたというから不安があった。アイも物理的には人間であり、肉体が原因の不調には太刀打ちできないのでは、と。
それでも壱護は、アイならばそのスランプも乗り越えられると信じていた。たとえデビューライブが上手くいかなかったとしても、経験を積んで行けばいつかは克服できると。
しかし、壱護の予想は良い意味で裏切られた。
アイはデビューライブという土壇場で、スランプを克服することに成功したのである。
一曲目の序盤はレッスン時と変わらない出来栄えだったものの、曲が進むにつれて状況は一変した。アイは徐々に調子を上げていき、一曲目が終わる頃には2年前と変わらぬパフォーマンスを見せていた。
そして、実質的なデビュー曲である二曲目が始まった今、アイは2年前を遥かに超えるパフォーマンスとカリスマ性を発揮している。しかも、かつてのアイにはなかった、熱く燃えるような輝きを放ち、会場にいる観客の目をくぎ付けにしている。
スポットライトは四人の少女達を平等に照らしている。
しかし、観客が見ているのはひとりだけだ。誰もがアイを見ている。アイを見ずにはいられない。彼女の放つ、燃え盛るような光に目を、脳を焼かれている。
そしてそれは、壱護が連れて来た業界関係者も例外ではない。
今まで腐る程アイドルを見て来た、目が肥えている連中。壱護に誘われて渋々来た彼等は、あくまで義理で来ただけに過ぎない。B小町に、アイに対しての期待はしていないようだった。唯一の例外は、モデルの仕事でよく世話になっていたディレクターぐらいだろうか。
そんな彼等が、熱い視線を一人の少女に……ステージ上にいるアイに送っている。他のドルオタ達と同じように、夢中になって、目が離せなくなっている。
「(へっ、揃いも揃って間抜け面晒しやがって……だが見てろ、アイの実力はこんなもんじゃねぇ。あいつはまだまだ上に行ける。もっと先へ行ける!誰の手も届かないような場所へ!)」
『Beginning Stars』……この曲は、直訳で『始まりの星達』を意味する。B小町の四人の少女達を星に例え、彼女達の始まり、躍進をイメージして作曲家のヒムラが命名した曲名だ。
しかし、皮肉なことに。
このデビューライブで輝いていた星は一つだけだ。
燃え盛る一つの星。
三つの光を飲み込んだ火球の如きそれは、暗い夜空へ美しい軌跡を作りながら、どこまで飛んでいく。
その光で、輝きで、熱で、地上から見上げる人々を魅了しながら。
どこまでも、どこまでも、飛んでいくのだろう。
───いつか地に堕ちる、その時まで。
★・ー・★・ー・★・ー・★
ライブが終わって控室に戻った私達は、テキパキと荷物の片づけをしていた。
体は疲れているはずだけど、疲労は感じない。それよりも達成感が凄いし、気分が高揚してむしろ活力が漲っているような感じだ。
それにしても……ライブ、楽しかったなぁ。
まるで夢を見ているような気分だった。今だってほら、足元がふわふわして落ち着かない。まだ夢の世界の中にいるみたい。あはは、なんかおかしい。私、馬鹿になっちゃったのかな。
もう一度、あの世界に行きたいなぁ。
皆が私を見てくれて、皆が私に感情をぶつけてくれる。
欲情、羨望、興奮、高揚、期待、希望、夢……これが愛なの?これが人に愛されるってことなの?わからない。わからないから……わかりたいと思った。
もっと、もっと。もっともっともっともっともっと。
私に想いをぶつけてほしい。心を揺さぶってほしい。
そうしていれば、いつかきっと───私にも、愛がわかる気がするから。
現在のアイちゃん
「ライブたのちー!(頭空っぽ)」
憑依アイちゃんはスペックだけなら原作より上です。
幼少期から努力した分、肉体能力が高いです。栄養状態も良いので身長やスタイルも違います。
アイドルとしての魅力に関してはほぼ同等です。
幼少期からの努力の結果、無意識に他者の感情を読んで、相手が望む自分を演じるようになりました。
そうして出来上がったのが『理想的過ぎて人間味の薄い』美少女です。他人の感情に合わせて動く中身のない空っぽなお人形さん。だからこそ、アイドルやってる時はドルオタがお望みの最強無敵な理想のアイドルになれます。
原作アイちゃんがシャアなら、憑依アイちゃんはフル・フロンタルみたいな感じです。この例えで合ってるのか知らんけど。
カリスマ性の代償として人間性を失っていきます。
最終的には自我を失った完全な人形になりますが、その時は原作アイちゃんを越えた完璧で究極のアイドルになれるでしょう。やったね!