夜空を燃えながら堕ちる星   作:XA-26483

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本作における若い頃の星野あゆみは、壱護に出会えず落ちぶれたミヤコさんのイメージです。良くも悪くも普通の人。



第2話:苦悩

 

「みぃー。にゃん。にゃ」

「今日も君は可愛いねぇ」

「んにゃ……んにゃ……」

「にゃにゃんにゃ!」

「うにゃ~」

「ちびっこちゃん達もこんにちは。今日はお母さんと一緒に日向ぼっこかな?いい天気だもんねー、ポカポカ暖かいし、私も寝ちゃおっかなぁ」

 

 

 有言実行。私は少し離れた場所にある古ぼけたベンチに体操服の入った袋を置き、それを枕にしてベンチに仰向けに寝た。服が少し汚れてしまうけど、これくらいは気にしない。

 

 ここは家の近所の公園だけど、今はもうめっきり人が来ない。近くに新しく大きな公園が出来たせいだ。近所の子達は皆そっちに行ってしまうので、この小さな公園を利用する人は数えるほどしかいない。

 

 それも仕方ないけどね。遊具は古ぼけた滑り台と、さび付いた鉄棒だけ。あ、あとは砂場もあったっけ。砂場が遊具という分類に入るのかどうか知らないけど。

 

 今この公園を使っているのは、数匹の野良猫と、私くらいなものだ。静かでいいけどねー。その方が気が休まるし。

 

 

 

 

 

 年月が過ぎ去るのは早いもので、転生者たる私「ホシノアイ」改め、「星野アイ」は小学三年生になった。

 

 あ、一人称は「私」にしたよ。咄嗟の時に「俺」って出たらマズいしね。女として生きるんだったら、そこは気をつけないと。

 

 華やかな人生を送ることを目標にした私は、今のところは前世の経験を存分に活かして、充実した小学生ライフを満喫することが出来ている。

 

 毎日元気一杯で学校へ行き、将来に向けて真面目に勉強し、たくさんの友達と楽しく遊ぶ。家は大きな一軒家!優しくて美人な母がいて、毎日おいしい料理を振る舞ってくれる。父は外資系の企業に勤める高給取りで、私をいつも甘やかしてくれる。

 

 まさに、食うに困らぬ豊かでワンダフルな日常ってやつを送っているのだ。

 

 将来の夢?もちろんお嫁さん!

 

 かっこよくてお金持ちなイケメンと結婚して、専業主婦として私生活をしっかり支え、子供は男の子と女の子の兄妹を産んで…………。

 

 

 産んで………………。

 

 

 …………。

 

 

 ……はい、嘘でーす。嘘嘘。大嘘。

 どこからどこまでが嘘かって?9割くらいは嘘かな……。

 

 女子って精神年齢が男子とは全然違くてさぁ。小学二年くらいからもう派閥争いが勃発してて、女と女のどろどろとした仁義なき戦いが始まってるのよ。あ、まだどろどろはしてないかも。とろとろ?みたいな?

 

 私自身、それに巻き込まれて軽い虐めを受けたりすることもある。陰口叩かれたり、筆箱を隠されたり、上履きがどっかに消えたりね。まぁ、本格的にターゲットになってる子に比べれば、まだまだ手ぬるいけど。

 

 何とか上手に立ち回りたいんだけど、これが中々に難しい。男子(特に運動出来る系の人気男子)と絡みすぎず、出しゃばり過ぎず、適度に自己主張して、時に周りに流され、抗ったりして……って、試行錯誤して頑張ってはいるんだけどねー。小学生女子の心理は中々に複雑で、いやぁ、参った参った。

 

 どうにも、私が可愛すぎるのがいけないらしい。

 自分で言うのもアレだけど、私はマジで可愛いからね。同年代とは明らかに容姿のレベルが違うから、目立ってしょうがない。

 

 

 さらっさらの、紫がかった長い黒髪。

 ぱっちりお目目に長いまつ毛。

 歯並びの良い歯に、整った鼻。

 すっきりとした卵型のフェイスライン。

 

 

 同年代より大人びていて、それでいて年相応の幼さを孕んでいる超絶美少女。おまけに声まで可愛いと来た。これじゃあ控え目に生きようにも、隠し切れないこの美貌が少女達の嫉妬心を掻き立てて、無用な争いを呼んでしまう……まったく、我ながら罪な女だ。

 

 次、我が家の家庭事情。

 

 食うに困るって程じゃないけど、それなりに貧乏。あと父親がいない。その辺の事情については、酔っぱらった母が漏らした言葉から色々わかった。

 

 非常に簡潔に言ってしまうと。

 

 スターを夢見て都会に上京してきた田舎少女の母。四苦八苦しながらもモデルモドキ、辛うじて芸能人と言えなくもないような地位まで登り詰める。

 しかしある時、顔が良くてダンディな芸能プロダクション社長、という肩書を持つクソ野郎(父)にホイホイと誘われ、次期社長夫人の座に目がくらんだ結果、肉体関係を結んでしまう。

 妊娠してからは子供を産んで欲しいと言われ、渋々承諾するも、出産予定日間近になって会社が経営破綻で倒産。クソ野郎は蒸発。見事、若くしてシングルマザーとして生きることになってしまった……という感じ。簡潔かこれ……?

 

 同情すべき点はなくもない。

 

 母の家庭環境にも問題があったみたいだし。実家とはほぼ絶縁状態で、親戚ともほとんど繋がりはない様子。成人前から苦労してきたのだろう、きっと。

 それに、昔は芸能界でのし上がるために、女同士の醜い争いを繰り広げて来たらしいけど、今はパートを掛け持ちして真面目に働いてるし。今の母は頑張ってるよ。

 

 ただなぁ……子育てに関しては義務でやってるみたいなところあるから。私に対する愛情があるのかというと……うん、まぁその……なくはない、かな?ってレベルなんだよね。

 

 義務感6割、罪悪感3割、愛情1割あるかどうか、ってところかな。私が手間のかからない良い子じゃなかったら、早々に家庭崩壊してたかもしれない。その場合、私は捨てられて施設にでも入れられていただろうか。

 

 それくらい愛情が薄い。ぺらっぺらに薄い。

 

 あ、そうそう。なんで罪悪感かって言うと、赤ん坊の時に落っことしたことを気に病んでるみたい。そのせいで私がこんな風になっちゃったんじゃないかって。

 

 

 そう、私は普通じゃない。

 一つの特別(スペシャル)と、一つの異常(アブノーマル)を抱えている。

 

 

 まずは特別(スペシャル)な方。

 

 私は人並外れた聴覚と嗅覚を持っている。

 ただ単純に耳が良い、鼻が良い、というものではなく。聴覚と嗅覚に普通とは違う特殊な感覚を備えている、と言うべきか。

 

 具体的に言うと、音で相手の心理状態を把握したり、匂いを覚えることで個人を識別したりできる。某鬼をぶっ殺す少年漫画に登場する主人公と、その仲間の能力の劣化版みたいなものだろうか。現実的に言えば共感覚みたいな感じ?知らんけど。

 優秀な能力だし、日常生活でも大きく助かっているのだけど……後述の異常(アブノーマル)のせいで無視できない問題が生じている。

 

 で、肝心の異常(アブノーマル)な方なんだけど。

 

 小学三年生現在、私はまだ母の顔を認識することが出来ていない。母だけじゃない。人の顔全てが認識出来ないのである。

 

 目、耳、鼻、口と言った個々のパーツの形は認識出来るものの、それらをまとめて「人の顔」として認識することが出来ない。大まかなバランスはわかるので、顔が整っているか否か、くらいは辛うじて判別できるけど。人の顔を覚えることも出来ないのでとっても大変だ。いや、マジで辛い。生き辛くてしょうがないわ。

 

 病院で検査してもらった結果、これは所謂「相貌失認症」という脳の障害だと診断された。私の場合、先天的なのか後天的なのかは不明だけど……少なくとも、母は赤ん坊の時に頭を打ったのが影響しているのではないか、と思ったらしい。罪悪感からか、私に対して余所余所しい態度をとるようになってしまった。

 

 せめて今生は、親と良い関係を築きたかったんだけどなぁ。どうしてこうなっちゃうかね……。

 

 ……まぁとにかく。

 これら二つの特別(スペシャル)異常(アブノーマル)は、いい意味でも悪い意味でも噛み合ってしまっており、私にとって大きな悩みの種になっている。

 

 人は誰しも、常に本心を曝け出して生きるものではない。

 

 表情とは感情表現のための重要な手段であり、同時に本心を偽るための仮面として大切な役割を果たす。悲しくても笑顔、怒っていても怒っていないフリ、楽しくても真面目腐った顔をしないといけない、なーんて状況はたくさんあるのだ。

 

 つまりは、表情で表す感情と、内心で抱えている感情は、必ずしも一致するわけではない、ということ。常に本能全開で感情を表してくれるのは赤ちゃんくらいなものである。

 

 人は誰しも嘘を吐いて生きている。

 嘘を吐く、相手を騙す、と言えば悪いように聞こえるが、社会に属する歯車の一つとして、人間関係を円滑に回すためには、虚実を織り交ぜて、皆でうまーくやっていく必要があるのだ。

 

 ……それが、今の私にはとても難しい。

 

 私は人の顔と名前を結びつけることが出来ないが、音と匂いによって個人を識別出来るし、心理状態や感情も把握出来る。これは一見すると良いように思えるが、表情が見えないのに感情だけはわかる、というのは実は大きな問題なのだ。

 

 表情で作った嘘という仮面が通用しない私には、その人が隠している、触れてほしくない本心に触れてしまうリスクがある。さらに言えば、場の雰囲気を読み切れず、空気を読めない発言や行動を取ってしまったり、逆に空気を読みすぎて気味悪く思われたりすることも無きにしも非ず。

 

 相手の本心だけに寄り添った発言や行動をしてしまうと、知らず知らずの内に相手の心に土足で踏み入ってしまう、という危険性があるのだ。仲の良い子相手なら良いかもしれないけど、会ったばかりの人や、それほど親しくない人が相手だと、場合によっては人間関係に致命的なダメージを与えかねない。

 

 その場の状況を深く観察し、声音や身振り手振り、発言内容をしっかりと聞いていれば、今どんな表情をしているのか予想はつく……でも、それはあくまで予想。私も人間だから、どうしても読み間違いをしてしまう。

 

 子供の内はまだいい。

 皆まだまだ正直者だ。感情を隠そうとする子は多くない。

 

 でもこれから成長して行って、思春期の複雑な心を持つ男子、女子達と上手くやっていけるのかというと……まったく自信はない。

 

 一応、対策として、天然気味でお馬鹿っぽいキャラを作ってはいるけど。これなら空気が読めなくても「あの子、不思議ちゃんだから」「天然だから仕方ないよねー」みたいな感じで許されるだろうし……許されるよね?許してください。

 

 そもそもの話、女として社会に出てやっていける自信もない私だ。母を見て学んだおかげで、女性らしい振る舞いだけは覚えたけど、女性としてのコミュニケーションはどうすればよいのだろうか。これがわからない。

 

 まだ残っている男としての感覚が邪魔をしているのか。同年代の純粋な女子に比べると、やはりどこかコミュニケーションにズレが生じているような気がしてならない。

 

 男としての感覚を捨て去るにはどうすればよいのか?そもそも、捨て去ってよいものなのだろうか?それすらわからない。それをしてしまうと、何だか前世の自分を忘れてしまうようで、怖いと言う気持ちもある。自分が自分でなくなるような気がするというか。

 

 

 ……このように、私には悩み事がたくさんある。

 

 最初の頃こそ、前世を引き継いでいるから強くてニューゲームだやったー!なんてポジティブな私だったけど。男としての経験値のうち、女としての人生に活かせるものは、そう多くないことに気づいてしまった今。すっかりネガティブ思考になってしまった気がする。

 

 

 艱難辛苦、隔靴搔痒。

 人生とは、かくも思い通りにいかないことばかりである。

 

 

 

 

 




悩み多きお年頃です。
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