夜空を燃えながら堕ちる星 作:XA-26483
ちょこっとだけオリキャラが出ます。ご注意ください。
「『株式会社苺プロダクション』ねぇ。聞いた事ないけど、どれぐらいの規模の事務所なの?」
斉藤さんと話した日の夜。
私と母はリビングの小さなテーブルを挟みながら、スカウトの件について話し合いをしていた。
あの後、斉藤さんとの話は無事に終わった。
……私が『猫と戯れる美少女』とか『擬人化猫耳娘』とか『リアル猫娘』として、近隣でちょっとした噂になっていたのには驚いたけど。てか、後半二つおかしいでしょ。猫と私が混ざってるよ。滅茶苦茶恥ずかしいわ。
なんでも、学校帰りの高校生達の間で話題になっていたらしく、学生の弟さんがいるタレントが一人いて、そこから斉藤さんへと噂が伝わったらしい。
私は目立ちたくないのになぁ……かーっ!美少女すぎて辛い!自分が可愛すぎて世の中の女子達に申し訳なくなってくるよ。
まぁ、それは置いておいて。
今の私は晴れて苺プロ所属のモデルに……と、いうわけにはいかない。まだ小学生の身である以上、保護者である母にきちんと許可を貰わないといけないし、事務所との契約内容についても一旦大人同士で話して貰う必要がある。
そういうわけで、仕事から帰って来た母と話し合いをしているわけだ。
「そんなに大きい所じゃないよ。社員さんも5人しかいないし、会社も始まって1年くらいなんだって」
母は手元の資料をじっくりと眺めている。正式な書類はまだ作成中なので、今あるのは契約内容を簡単にまとめた仮の書類だ。あとは会社のパンフレットもある。
母はテーブルに頬杖を付きながら、仕事で溜まった疲労のせいか、億劫そうに口を開いた。
「……ふぅん。典型的な弱小事務所って感じね。その割には随分手厚い待遇みたいだけど……最初の数年はモデルとして、時期が来たらアイドルデビュー、か。あんた、昔からアイドル好きだったもんね。良かったじゃない」
いや、まぁ、好きか嫌いかで言えば好きではあるけど……。
昔からアイドルが出る歌番組はよく見ていたから、母の視点ではそういう認識になってもおかしくないのか。
しかし、思ったよりも母は嬉しそうだ。珍しく私を見て微笑んでくれている……ような気がする。私が成長するにつれて、母は私の顔をあまり見てくれなくなったから。これは本当に珍しいことだ。
母は私の顔を嫌っている。
理由は……ありすぎてわからない。元旦那と似通った点があるせいか、美人な娘に対する嫉妬なのか、『娘』という存在そのものが鬱陶しいのか。母が私に対して抱いている感情は複雑怪奇で、もう8年も一緒なのに読み切れない。
心底嫌ってるってわけじゃないと思うんだけどね。
「私は良いと思うわよ。現場までの送迎もやってくれるみたいだし、手間もお金もかからないっていうなら別にいいわ。お給料もあなたの自由に使っていい……ただ───」
瞬間、母から感じるプレッシャーが大きくなった。
感じ取れたのは負の感情。途方もない怒り、憎しみ……最早、殺意なのではないかと思うほどの強烈な感情。そして、その中に隠された後悔と悲しみ。私の耳と鼻を通してダイレクトに感情が伝わり、脳みそが直に殴られたと錯覚するほどの衝撃を受ける。
頭が痛い。気持ち悪い。吐き気がする。
「───ただ、面倒事だけは起こさないでちょうだい。特に、近寄って来る男には気をつけること。お母さん、男と女のトラブルには心底うんざりしてるから。わかったわね?」
「う、うん。わか……わかりました」
動揺して噛んでしまった。
ビビってますが、何か?私は前世から小心者なので、綺麗な女性にすごまれたら普通にビビる。マジ怖い。
特に、手を出されるのが一番怖い。美少女ボディの唯一の弱点が、フィジカルが貧弱なことだ。年齢も相まって今の私はクソザコ。物理攻撃には滅法弱いのだ。
「……まぁ、あんたは私と違って賢いから、大丈夫でしょうけど……まだ小学生だからって油断しちゃだめよ。あんたはただでさえ実際の年齢より上に見られるんだし、
「き、気を付けるね……」
母を刺激しないよう、曖昧な笑みで答える。
すると、母は私から目を逸らし、イライラした様子でタバコを一本取り出す。が、一瞬私を見て舌打ちしてから「ちょっと外に出てるから」と言ってベランダへ向かった。
子供の前で親がタバコを吸うのはよくないって、昔病院で言われたもんね。言われたことをきちんと守り続けるその姿勢、嫌いじゃないよ。
でも怖いって!マジで怖い!
私に対しての感情じゃないってわかってはいるけど、それでも怖いものは怖いんだよ!
8年経ってもまだ元旦那に対する怒りと憎しみは消えていないようで、母の中には熟成してどす黒く変色したいやーなものが溜まっている。それはふとした拍子に表に出て来るわけだけど……いや、マジで怖い。
こういう感情って、私にとってはほんとにキツイ。
普通の人よりダイレクトに感情の波を受けやすいから、強すぎる感情ほどメンタルに受ける影響が大きい。それが「正の感情」ならいいんだけど、「負の感情」は本当に苦しい。気分が悪くなる。
この耳と鼻には助けられているけど、感度が調整出来ないのは唯一の難点だ。耳を塞いだまま、息を止めたまま生活は送れないからなぁ……そもそも、過敏気味なのでそれぐらいじゃ意味ないんだけど。
辛い……でも、いつかは耐えられるようにならないといけないんだよね。腹の底に黒いものを抱えている大人なんて、この世にごまんといるんだから。
よし、こういう時は、楽しいことを思い浮かべよう。
幸福な思い出を想起して、負の感情を追い払うのだ。
………………。
………あれ?
心底楽しいと思ったことなんて、転生してから今まで一度でもあっただろうか?
「(前世は……良くも悪くも起伏のない人生だったからなぁ。大きな喜びもなければ深い絶望もない人生だったし、だぁめだこりゃ。頭おっも、きもちわるぅ……)」
あの様子だと、最低でも二本は吸うだろう。
母が戻って来るまでの間、少し休んでいよう。
私はテーブルに突っ伏して、頬に当たる冷たい感触にほんの少し心を癒されながら、目を閉じたのだった。
★・ー・★・ー・★・ー・★
時は流れて、一週間が過ぎた頃。
あれから正式な手続きも終わり、私は晴れてモデルになった。あ、母と斉藤さんの顔合わせも無事に済んだよ。
実は、斉藤さんが元旦那の特徴(芸能事務所社長、ダンディなおじさん)を微妙に持っているので、母にとって地雷そうな特徴を持つ斉藤さんとの顔合わせにはちょっと不安があったんだけど……。
『顔が好みじゃない』
『グラサンが似合ってない』
『別にダンディじゃない』
『服装がだらしない』
『将来禿げそう』
『女癖が悪そう』
『借金してそう』
……と、なんとも辛辣な評価を母は下しており、元旦那のことが思い出されることはなかったようだ。一安心である。
そして、学校側への「芸能活動やりますよー」という申請も無事に済んだ。これで、仕事の都合で休むことになっても文句を言われることはない。まぁ、元々そういった活動を禁止する校則もないから、心配はしてなかったけど。
そうして諸々の手続きが済んだ現在、私は以前より少しだけ騒がしい小学校生活を送っている。
「アイちゃんモデルさんになったの?すごーい!」
「芸能人かよ!テレビとか出んの!?」
「こいつテレビに出たら放送事故になるだろ」
「私達アイドルになりたいの!事務所に紹介してよ!」
「ふーん……興味ないね」
……などなど、クラスの皆がうるさいのなんの。
グループを作って行う授業もあるから、その時になって皆に迷惑がかからないよう、担任の先生に頼んで事前にクラス内でだけ説明してもらったんだけど……最初の数日は本当に騒がしかった。
今はさすがに落ち着いたけどね。
いや、落ち着いたっていうか、飽きただけかな。子供は新しいことに興味を持つのも、飽きるのも早いものだ。
ただ、何人かは今でも私に関わって来るけど。
「アイちゃんアイちゃん!ダンスやろ!」
「今日は雨だし、外出れないし!やろうよ!」
「あ、うん。行く行く~」
友達に引っ張られ、私は教室を後にする。
彼女達の言う通り、今日は朝からずっと雨だ。ごくごく一部の剛の者は外で遊んでいるようだが、女子の大半は屋内で休み時間を過ごしている。
私は特に決まった相手といるわけではなく、一人で過ごすこともあれば、適当に誰かのグループに混ざって一緒に遊んだり、今日みたいに誘われて行くこともある。
今回誘って来た二人は双子の姉妹で、二人揃ってアイドルになるのが夢らしい。事務所を紹介してほしいと言われた時は断ったが、これをきっかけにしてちょくちょく私を連れ出すようになった。今はよく一緒にダンスの練習をすることがあって、クラスの中では仲良しな部類に入る。
三年生に進級してクラス替えしてからは、まだ友達と言えるような子はいなかったから、正直助かっている。
……え?どうして事務所への紹介を断ったかって?
今は事務所に余裕がないからだよ。これから徐々に社員を増やして、事務所の規模がもうちょっと拡大すれば小中学生の子も受け入れる余裕が出来るだろうけど、今はさすがに無理。って返答を斉藤社長から頂いたので、仕方ないね。
二人とも可愛いし、ダンスも上手いから、素直に他の事務所のオーディションや面接に参加した方がいい。そっくりな双子アイドルって需要はあると思うんだよね。某アイドルゲームにもいるし、そういうキャラ。
「うわ、今日はいっぱいだねー」
「空いてる廊下でいいんじゃない?」
「男子邪魔ー。なんで野球やってんの?馬鹿じゃん」
「だよねだよね。後で先生に怒られちゃえばいーよ」
いつも使ってる多目的スペースは人でいっぱいだ。
下級生から上級生まで、皆でわちゃわちゃしている。
おもちゃのボールと箒で野球をしたり、丸めた新聞紙でチャンバラごっこしたり、なんか楽しそうに走り回ってる下級生も……あ、縄跳びにひっかかって転んだ。案の定、転んだ子は泣いちゃったけど、縄跳びしてる子はシカトして遊んでるし……まさに
こっちは先生から借りたラジカセもあるので、とてもではないがここでは出来ない。壊れたら大変だ。
仕方なく場所を移し、人のいない場所を探す。
「───ちょっと待ちなさい」
三人であっちこっちをふらふらしている時、急に誰かに腕を掴まれた。
振り向くと、そこには女子が三人いた。どうやら、真ん中の子が私に用があるみたいだ。背中に届くウェーブがかった長い髪に整った顔立ちをしている。たぶん美少女だね。
名札を見ると、うちのクラスの子であることがわかった。
名札ってマジでありがたいよ。私はまだ新しいクラスの面子は全員覚えきれてないから。
名前は……
聞き覚えがあるような気がする。
「モデルになったって本当なの?」
ああ、その件か。
いまだに仕事が来ないから、クラスの中には私が本当にモデルになったのか疑っている子もチラホラといる。この子もその内の一人なんだろう。
……それにしても、どうしてこの子は怒ってるんだろう。声が刺々しいんだけど。
「本当だよ。ちゃんと契約したし」
「じゃあ、どこの事務所なの?」
「苺プロってとこ。美味しそうな名前だよねー」
「苺プロ……聞いた事ない。ねぇ、知ってる?」
「私は知らなーい」
「うちもー。ちっさい事務所なんじゃない?」
三人から侮蔑の感情が伝わって来る。
きっと養豚場の豚を見るような冷たい目をしているのだろう。私はそういう目で見られて興奮する変態じゃないので、普通にやめて欲しい。
「どうせ顔だけで選ばれたんでしょ?モデルは見た目が良ければ務まる仕事じゃないって、ママが言ってたもの。あなたみたいなお馬鹿じゃ無理よ」
「あはは、そうだよねー。なんか面白そうだからスカウト受けちゃったけど、全然出来る気しないもん」
「は?……うざ。だったらとっとと辞めなさいよ」
「あんま調子乗らないでよね」
「こういう目立ちたがり屋って私嫌い」
西園ちゃんを筆頭に取り巻きもそれぞれ吐き捨てると、彼女達は颯爽と去っていった。なんなんすかね、これ……。
困惑しながらも、とりあえず待たせてしまった友達に顔を向けようとし……二人がいないことに気づいた。匂いを辿って行くと、すぐ先の廊下の角で、頭半分だけ出してジーっとこちらを見ている二人がいた。
「二人とも何してるのー?かくれんぼ?」
「違うよぉ……もう、びっくりしたぁ」
「ねー。私もあの子苦手ー」
「そうなの?確かにツンツンしてたけど……てかさ、私って嫌われるようなことしたかな?初めて話したんだけど」
私がそう言うと二人は驚いた様子で、彼女について説明してくれた。
西園妃美。
彼女は一年生の頃から結構有名で、特にカースト上位の女子の間では知ってて当たり前ってくらい名が知られているらしい。あ、私はカースト下位なので知りませんでした……。
母親が元女優で、父親が映画監督。
年の差婚で、旦那のほうが20歳も年上らしい。
結構稼いでいるようでお金持ちっぽい家だという。
母親の遺伝子が強く出たのか、娘である西園ちゃんはかなりの美少女らしく、優れた容姿と『芸能人の娘』というステータスを武器にして、あっという間にカースト上位に君臨した女王様なのだとか。
整った顔立ちにツリ目が特徴的な大人っぽい美少女なんだけど、態度とオーラが威圧的なせいで怖がる子が多い。上級生にもビビられているとかなんとか。
母親の方も違う意味で有名。
親同士で顔を合わせると、必ず毎回マウントを取って来るのだとか。母子揃って学校での評判はよくないようだ。
父親の方は誰も見たことがないらしい。子育てに興味がないタイプなのかな。
「私は去年も一緒のクラスだったんだけどね。あの子って普段は滅茶苦茶偉そうなのに、先生にはすっごい良い子ちゃんぶってるんだよ」
「そういうのうざいよねー。騙される先生も馬鹿だけど」
「担任が村西だったから。あいつロリコンって噂だし、可愛い子は贔屓してるの。前のクラスの子は皆知ってるもん」
「うわ、やっぱり?私も友達から聞いたんだけどね───」
いつの間にか、私への説明から悪口大会に移行していた。
この子達口悪いなぁ、とか。村西ってあの草食系の眼鏡先生かぁ、とか。結局なんで私が絡まれたの?とか。疑問は残りつつも、二人の話を聞くことで私の昼休みは終わりを告げるのだった。
この日を境に、クラス内で私に対するいじめが始まった。
主に一部の女子が主体となっていて、私に関する噂をあることないこと流したり、あからさまに無視したり、持ち物を隠したり……実行犯はもうわかっているんだけどね。
双子ちゃん曰く、私がちやほやされているのが気に喰わないんじゃないかって話。
いじめの証拠もないし、面倒事起こすなって言われているから母や先生に相談するのはNG。私も気にしてないし、いちいち対応するのも面倒臭いから放置してる。
……でも、双子ちゃんと、彼女達が属する派閥の面子がイライラしてるんだよね。主犯格の子が率いる派閥とは対立してるみたいで……私は気にしてないけど、このままだとあの子達が何かやらかしそうだし、どうしたもんかなぁ。
・西園妃美
同級生の女子。いじめっ子。
自分より可愛い子は許せない。ベジータ系女子。
某アイドルゲームのキャラの名前を参考にしました。
詳しくは闇のアイマスで検索検索ぅ!
・双子ちゃん
同級生の女子。友達。
ジェネリック亜美真美みたいな子達。モブ。