夜空を燃えながら堕ちる星 作:XA-26483
水着回です。
仕事を終えて帰宅すると、私は着替えもせずに床に寝っ転がった。
床の上をゴロゴロゴロゴロと転がり、最終的にはテーブルに脛をぶつけて停止。しばし痛みに悶絶した後、そのまま目を閉じて考えに耽ることにする。
私はおかしくなってしまった。
小学生女児にちょっと意地悪された程度でむかっ腹が立ち、『全力で仕事をするのは当然』などと自分に言い訳して相手の子に仕返しをするなんて……なんて幼稚な人間だ。
おまけに、落ち込む女児を見て愉悦に浸るなど、大の大人の男がやって良い所業ではない。変態、あるいは鬼畜の所業である。なんて酷い奴なんだ私は。
そもそもの話だが、モデル期間中の私、ひいては斉藤社長の目的は何か?それは当然、私の顔と名前を業界関係者に売って知名度を稼ぐことである。が、稼ぐのは美名であって、悪名であってはならないのだ。
今回の仕事で私がやらなければならなかったのは、相方である西園ちゃんと協力し、仕事の成果を二人で良い物にすること。私一人で100点を取るのではなく、二人一緒に80点くらいを取る。それぐらいがベストだった。
にもかかわらず、私は私情混じりの理由から一人で大暴走し、西園ちゃんの調子を崩してしまった。最早、業務妨害と言われても否定出来ないやらかしだ。
こんなやり方では、向こうの事務所から恨みを買いかねないだろう。西園ちゃんの母親の怒りが、娘ではなく私に向いてもおかしくなかったのだ。
結果として、苺プロに苦情は来ていないものの、綱渡りであったことは否めない。前世から慎重な人間であった私が、どうしてこんな間抜けなミスをしてしまったのだろうか。自分のことなのにわからない。
……と、自身の変化に絶賛困惑中の私の脳裏に、とある人物の言葉が思い浮かんだ。
「『人間の精神は、身体の発達に大きく影響を受ける』」
これは……そう、原作のアクアの言葉だ。
彼は作中序盤、転生して肉体が若返ったことによる変化について、モノローグとして語っていなかっただろうか。
『赤ん坊の頃の幼児期健忘』
『思春期が齎す精神への影響』
『身体が成長していくに連れて、精神の方が身体と環境に適合していく』……そう語っていた筈だ。特に、精神が肉体に適合するという点は、非常に重要ではないか?
前世で大人として一旦完成したはずの精神が、転生したことで肉体年齢に引っ張られ、未完成の状態へ引き戻されたとしたら、私の幼稚な振る舞い、思考にも説明がつくのではないだろうか?
無意識のうちに肉体に精神が引っ張られ、感情のコントロールが甘くなっているのかもしれない、と。
思えば、小学生女児の身で、公園で一人鍛錬していたのもおかしい。防犯ブザーは持っていたし、周囲への警戒は怠っていなかったとはいえ、前世の私であれば小学生一人での単独行動は控えるはずだ。他人に見られるのが恥ずかしかろうと、安全のためにも大きな公園へ行っていた筈だ。
原作キャラに関わること。
アイドルになること。
これらを決めた際も、私はもっと慎重になるべきだったのではないか?世界の修正力的な力があるかもしれないのに、苺プロへ入るという決断は、少々軽率ではなかったか?下手したら妊娠出産からのデッドエンドへ直行する可能性だってあるのに、その危険性をちゃんと理解しているのか、私は?
低下した危機意識、感情任せの軽率な行動。
……これが転生したことによる若返りの影響だとすれば、納得はできるかもしれない。
「(それだけじゃない。このまま成長していけば、前世の俺と、今の私の境目がなくなっていく……?)」
肉体年齢相応にまで幼くなった精神が、再び身体の発達に合わせて成長したとする。そうしていつか、前世の頃と同じ年齢にまでたどり着いた時……その時、完成した精神は前世の自分と同じものになるのだろうか?
否、同じではないだろう。
仮に、原作のアクアが終盤で亡くならず、あのまま雨宮吾郎と同じ年齢まで成長したとしても、雨宮吾郎とまったく同じ精神、人格になるとは思えない。幼少期に経験したアイの死が彼に与えた影響は大きく、人格の形成にも大きく影響したはず。
ルビーだってそうだ。彼女は前世が幼かったせいで、転生後も天童寺さりなだった頃の面影を強く引きずっているような描写があった。だが、母親と兄の死、芸能界で様々な経験をして、最終的には前世と異なるタイプの少女へ成長していたと思う。
……ならば、私はどうなる?
男から女に転生した私も、このまま成長していけば、肉体に精神が寄っていくというのなら……いつかは私も、普通の女の子になってしまうのだろうか。
転生直後はあり得ないと思っていた、異性とのあれやこれやにも、抵抗がなくなる日がくるのだろうか?
「(うーん……ちょっと想像出来ないなぁ。今の所、男の人にときめいたことはないし。ていうか、前世の頃から恋だの愛だのとは無縁だったしなぁ。なんだかんだで、今生も一生独身になりそうな予感)」
うん……まぁ、今深く考えることじゃないか。
成長したら否が応でもわかるわけだし、その時になったら考えればよいではないか。
この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ、以下略。
「とりあえず、今のタイミングで自覚出来たことを喜ぶべきかな。致命的な失敗をする前に気づけてよかった」
これから先、今後の人生を左右するような大きな決断に迫られた場合、私は一度立ち止まり、その決断が正しいのか否か、深く考えるように努めることが出来る。
今回の仕事は私にとって失敗だったが、同時に大きな収穫を得る事も出来た。
誰かの名言でこういうのがある。
『過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ』……と。
転生者である私は、大人と子供、両方の特権を持つスペシャルガール。今は大人として、今回の失敗を反省し、変化を自覚し、次に活かせばよいだけだ。
★・ー・★・ー・★・ー・★
一人の幼気な少女の心をへし折った初仕事から、そして、自分自身の変化を自覚したあの日から、約一か月が過ぎた。
少し前にプール開きを迎えた6月半ば。
今日もまた、私達小学生は元気にプールで泳いでいる。
女子は昔懐かしいワンピースタイプのスク水、男子はトランクスタイプの水着を着用し、先生の指示に従ったり従わなかったりしながら、皆で思い思いに泳いでいる。
私は水泳は得意ではない。苦手でもないけど。
クロール、平泳ぎ、背泳ぎは大体普通に出来る。バタフライも一応出来るけど、私が出来てると思ってるだけで、出来る人から見たら下手くそなのかもしれない。
総評すると、前世の貯金がある分、現時点で水泳やってる子より多少上手い程度、かな。
……いや、今はそんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。
「(さっっっっっっっむ!し、死ぬ!死んじゃう!)」
寒いよぉ、寒すぎるよぉ……。
授業日程とか色々都合はあるんだろうけどさ、今はまだ寒いよ。どう考えてもプール入るような時期じゃないでしょ?なにこれ?新手の拷問かなにか?
あぁ、前世の子供の頃が懐かしい。あの頃は何も疑問を覚えることなく、プールって聞いただけでテンション上がってはしゃいでたっけなぁ。寒かったはずなのに、なんでだろ。子供って不思議だ……。
ところで、あれから教室内にも変化があったんだ。
とある女子の派閥が解散し、教室内の勢力図が塗り替わったのである。
まぁ、西園ちゃん派閥なんだけどね。
初仕事を終えて、翌週の月曜日だったかな。その日から西園ちゃんは随分大人しくなったみたいで、私へのいじめはもちろん、他の子にちょっかいをかけたり、傲慢な態度を見せることはなくなった。
それどころか、派閥を維持することすら放棄してしまい、派閥内の女子は散り散りになった。新たに派閥を作る者、他の派閥に入る者まで、様々な動きを見せている。
肝心の西園ちゃんはというと……なんと、地味子ちゃんグループに入っている。
クラスの中でも比較的真面目で大人しい子達が集うグループで、クラス内カーストでは中の下ぐらいに位置するグループだ。西園ちゃんはしれっとそこに入り込み、中心人物になるでもなく静かに日々を過ごしている。
私はいつの間にか、双子ちゃんが属している派閥に入っていたらしいのだが、今の派閥と地味子ちゃんグループは反りが合わない。うちはきゃぴきゃぴ(死語)したテンション高めの行動派な女子がメインなので、敵対はしていないが、属性が違いすぎて関わりが薄いという感じだ。
おまけに、西園ちゃんは私を避けているようで、あの日から彼女と会話したことは一度もない。なんだか怯えられているというか、怖がられているというか……あの日のことを謝った方が良いかなーと思ったんだけど、やめておいた方がいいかもしれない。
西園ちゃんは、自身がモデルになったこと、雑誌の撮影をしたことを誰にも言っていないようなのだ。先生にも言ってないようだから、モデルも辞めちゃったみたい。
……彼女はもしかしたら、あの日のことをなかったことにしたいのかもしれない。だから私も、あの日の話題は出さないようにしてる。
これが最善の選択かはわからない。けど、問題が起きていない以上、そう悪い判断ではなかったのではなかろうか。
授業が終わりに近づいたら、先生の指示で全員シャワーを浴びて更衣室へGO!
うちは男女で更衣室がしっかりと分けられているので、男子に裸を見られる心配はない。まぁ、普通の体育だったら教室内で男女一緒に着替えるから、別に今更裸を見られたところで何も思わないんだけどね。
そして当然、私は女子更衣室へ行くことになる。
右を見ても、左を見ても、裸、裸、裸の肌色だらけ。
タオルで隠す子もいなくはないけど、ほとんどの子は気にせずすっぽんぽんになって体を拭いている。その方が楽だからしょうがないね。
ところで、如何に小学生女児の体が未発達とはいえ、これほどの裸体に囲まれて、まったく気にならない大人の男はいるだろうか?
個人差はあるだろう。娘さんがいる父親とか、親戚の幼い子供とか、弟や妹の世話をしたことがある人なんかは、何も思わないかもしれないし。
でも、前世の私だったら気になる。別にロリコンではないので性的興奮を覚えたりはしないが、何となくいたたまれない気持ちになって、落ち着かないのではないだろうか。
だが、今は何も感じない。
もちろん、慣れたからっていうのもあるだろうけど……先日自覚したことを考慮すると、これもまた、私の精神が肉体に引っ張られたことによる変化であり、女の子として適応しつつあるという証明なのかもしれないと思った。
女の子と言えば、私の体も随分と成長した。
幼児期の寸胴体型とはおさらばし、スラッと長い手足に、程よくくびれたウエストに変化。顔も小さいので頭身が他の子とは明らかに違う。まるでバービー人形をそのまま大きくさせたような、良い意味で子供っぽくないボディだ。
この調子で身長も伸びていって、170cm台に行けばトップモデルを目指すのも不可能ではない。まぁ、原作のアイは150ちょいしかなかったので、私もそれぐらいが限界かもしれないけど。
あとは……胸か。
私は両手を自身の胸に当てて軽く揉んでみる。が、失敗。まだ揉める程のサイズではなかったからだ。僅かに膨らんで来たような気がしないでもないが、気のせいと言われたら気のせい。そういうレベル。
原作のアイは……巨乳ではなかったな。貧乳って感じでもないけど。ルビーは普通サイズって感じだし、アイも同じぐらいかな。
でも、アイもルビーも悲惨な幼少期を過ごしているから、栄養不足やストレスの影響で胸が大きくならなかった、という可能性はある。私はそれなりに栄養をとってるし、ストレスもあんまりない。母も結構大きい方だし、もしかしたら私も大きく……でもでも、動きやすさを考慮すると小さい方がいいんだよなぁ。
元男としては、小さい方が実用的で良い。
現女としては、どうせなら大きい方が良い。
心が二つある~……間を取って普通サイズがいいかな。
「アイちゃんなんでおっぱい揉んでるの……?」
「私知ってる!おっぱいは揉むと大きくなるんだよ!」
「嘘だ〜。私のお姉ちゃん、毎日揉んでたけど大きくならなかったって言ってたよ?」
「違う違う。自分で揉むんじゃなくて、好きな人に揉んでもらうんだよ。女性フェロモンがなんちゃらかんちゃらで、大きくなるんだって」
「そうなんだ〜」
「早くしないと休み時間なくなっちゃうよー」
「うぅ、ホック止められないよぉ。誰か手伝って~」
考え事をしていたら、数人の女子が近づいて来た。
一斉にワーッと喋るのはやめてほしい。
プールの塩素で皆の匂いが薄くなってるし、髪も拭いたばかりでぐちゃぐちゃ、おまけに似たり寄ったりの薄着姿だと誰が誰だかわかりづらいのだ。
しかし、この年頃の女子もおっぱい談義ってするんだね。おっぱいの話題で盛り上がるのは、男子だけの特権ではなかったということか……勉強になるな。
かつてのような慎重さを少し取り戻したアイちゃんです。
でも今のボディは知能低めなので、あんまり意味ないかも……。