夜空を燃えながら堕ちる星   作:XA-26483

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ボーイ・ミーツ・ガールの話です。



第9話:類友

 モデルを始めてから1年と数か月。

 

 私、星野アイは9歳となり、小学四年生へ進級。

 クラスの皆とはほどほどに仲良くしつつ、相変わらずモデルとしての活動を継続している。

 

 今現在は、ファッション誌を中心に大活躍!カリスマ小学生モデルとして、がっぽがっぽ稼いで稼いで稼ぎまくって……と、いうわけでもなく。

 

 最初の頃と変わらず、マイナー誌をメインにちょこちょこっとお仕事を頂いている程度だ。

 

 これには理由がある。

 

 まず一つ目は、私が美少女すぎること。

 

 アホみたいな理由だが、これが結構影響がデカい。ブランド側としては当然、商品である服をお客さんに購入してほしいのだが、モデルが美人過ぎると「服が良いんじゃなくて、モデルが美人だから似合ってるだけ」と思う人が出てしまうのだ。

 

 もちろん、ブサイクなモデルだけ集めて撮影すればいいのか?っていう話でもない。酷い言い方になってしまうが、ブサイクなモデルだけが載った雑誌なんて誰も読みたくないだろう。

 

 美人過ぎれば服の購買意欲が、ブサイク過ぎれば雑誌の購読意欲が下がってしまう。

 

 一番求められているモデルは、所謂『雰囲気イケメン』とかの服装や化粧で化けるタイプ。これは女の子も同じだ。

 

 とはいえ、中には服よりもモデル目当てで購入する人もいるので、そういった人の興味を集めるためにも飛びぬけた容姿を持つ子は一定の需要がある。だから私は、ある意味安定して仕事を貰うことが出来ている。

 

 ……まぁ、全国的に有名なブランドだったら、私くらいの超絶美少女でも問題なくバンバン起用して貰えるんだけどね。うちは事務所のパワーがしょぼいので、そういったブランドとの繋がりを持つのは無理。てか、そういう所は専属のモデルがいるし、入り込む余地がない。

 

 二つ目は、事務所の、ひいては社長の方針のため。

 

 斉藤社長的には、あくまで私をアイドルデビューさせたいのだ。モデルの仕事はそのための知名度、経験値稼ぎに過ぎないため、本腰を入れる気はないのだろう。

 

 私的には、いっそのことアイドルデビューはやめて、モデル売りに全力を注ぐのはどうかと提案した。だが、斉藤社長なりのこだわりがある様子で、何が何でも私をアイドルデビューさせたいらしいのだ。

 

 一応、アイドルとして売れなかったら、モデル路線に変更しても構わないとは言われている。どうせ私が原作のアイ並みに売れるはずがないので、将来はモデルになるのが確定したかもしれない。

 

 行くか、行っちゃうか、パリコレ。

 

 

 

 

 

 ★・ー・★・ー・★・ー・★

 

 

 

 

 

 今日の仕事も無事終了。

 

 今回のテーマは「母と娘」ということで、私は母親役の人と一緒に撮影現場に赴いた。母親役の人は、胸もお尻も豊満なザ・美女って感じの元グラビアモデルだ。

 

 うちの事務所の中でも最古参の一人……と言っても、まだ二十代半ばだけど。

 

 十代の頃は大きな事務所で大活躍していたそうだけど、ある時に突然休業を発表。1年ほど休んでから復帰したけど、なぜか露出を極端に避けるようになってしまったという。特に、お腹は絶対に見せないんだとか。

 グラビアモデルなのに露出が出来ないということで、仕事はどんどん減っていき、今ではすっかり売れないモデルになってしまったらしい。

 

 ふわふわ系の穏やかな美人さんだし、おっぱい大きいし、柔らかいし、良い匂いがするし、すっごく優しい人だから、個人的には好きなんだけどね。事務所の中でもぶっちぎりで私を甘やかしてくれるし。

 

 ただ……以前、あの人が着替えているところを見たんだけど、その時にお腹が見えちゃって……傷痕が、あったんだよね。縦にまっすぐ切り開いたような傷と、他にも少し。

 

 でさ、私を見て言うのよ。

「娘が生まれていたら、今頃はアイちゃんと同じ歳かしらね」って……声は優しいけど、私にはわかっちゃったよね。彼女の中に渦巻く深ーい闇が。下手したらうちの母よりヤバそうな何かが。

 

 十代、妊娠、帝王切開、命のない赤子……いや、よそう。勝手な推測は彼女に失礼だ。

 

 ただ……やっぱり芸能界って怖い世界なんだな、って思いました(小並感)。

 

 

 

 

 

 私は一人で街中をぶらぶらしながら家を目指す。

 今回は直帰で良いので、事務所には寄らずに家へ帰る。

 

 徒歩だと家まで一時間以上はかかるけど、運動量を稼ぐためにも歩きたい。あと、東京ってまだまだ行ったことない場所がたくさんあるから、ちょっとした観光みたいなものを兼ねている。

 

 

「(とはいえ、まずは腹ごしらえだね。さーて、どこで食べよっかなー)」

 

 

 私の手にはビニール袋が握られている。

 これには、撮影現場で出たケータリングのハンバーガーが入っている。許可を貰っていくつか持ち帰らせて貰ったのだ。食費が浮くのでありがたい。

 

 あ、きちんとお昼は食べたよ?でも、今日はお腹のラインが出る服だったから、お腹いっぱいは食べられなかったんだ。食べ過ぎたら撮影に支障が出てしまうからね。

 そのせいで、育ち盛りの愛くるしいマイボディが、まだまだエネルギーが足りないよ~、と悲し気にお腹を鳴らしている。

 

 歩きながら場所を探すが、中々良い場所が見つからない。

 個人的には人通りの少ない場所がいい。人目の多い場所で、一人っきりでご飯を食べるのは精神的にちょっとしたダメージがある。

 

 仕事中だったら全然気にしないんだけど、プライベートになると、ちょっとね……今は陽キャを装っているけど、私は前世から根っこが陰キャだから。

 

 お外で陰キャがご飯を食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか、救われてなきゃあダメなんだ。

 

 

「(うーん、いっそ食べないで真っすぐ家に帰るか……お母さんと半分こしても良いし、食べないなら冷蔵庫に入れておけば、一日くらいは持つだろうし……いや、でもなぁ)」

 

 

 そう考えたところで、再びお腹が鳴ってしまった。

 

 くっ、お腹をペコペコにさせたまま、私は一時間以上歩かなければいけないのか!?私みたいな美少女を空腹のまま歩かせるなんて、それは最早犯罪じゃないのか!?極刑に値するのではないか!?

 

 いや、歩くと決めたのは私なんだけども。

 

 

「(いっぱい歩いておけば、ランウェイを歩く練習にもなるかもしれないし。まぁ、ヒール履いてないから意味ないかもしれないけど……!?)」

 

 

 鼻先に冷たいものが当たり、反射的にビクッと肩が跳ねる。

 

 雨だ。

 私は天候の変化には敏感な方なのだが、どうやら空腹のせいで感覚が鈍っていたらしい。

 

 

「(うわ、そう言えば天気予報で降るって言ってたかも。傘忘れちゃったよ……ひとまずどこかで雨宿りしないと……!)」

 

 

 見る見るうちに雨脚は強まり、私が咄嗟に近くの店先に駆け込んだ時には、雨は本降りになっていた。

 

 少し先にコンビニがあるのだが、この雨の中では数分走っただけでもびしょ濡れになるだろう。まだ10月上旬でそこそこ暖かいとはいえ、濡れたら間違いなく風邪をひく。

 このお店で傘を売ってれば良かったのだが、残念ながらシャッターが閉まっていた。シャッターには張り紙があり、ここがパン屋さんであったこと、そしてつい先日閉店したことが書かれていた。

 

 パン屋さんでは、たとえ開いていたとしても傘は売ってないだろう。運が悪い。

 

 

「「ツイてないなぁ……えっ?」」

 

 

 私が溜息交じりに呟いた言葉に、誰かの声が重なった。

 慌てて横を見ると、そこには一人の少年がいた。

 

 金髪の少年だ。

 色艶が良い。地毛だろうか。

 

 背は私より低い。一つか二つ、年下だろう。こちらを見上げるその顔から、パーツのバランスが非常に整っていることがわかる。体格も華奢なので女の子に見えなくもない。美ショタってやつだろうか。

 

 私と同時に雨宿りに来ていたのだろう。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 顔を見合わせた後、互いにそそくさと体の向きを変えた。

 

 な、なんかきまずい……。

 雨は降ってるけど、この空気の中で二人っきりっていうのはちょっと辛いし、濡れるの覚悟でコンビニまで走っちゃおうかなぁ。

 

 そう思って駆けだそうとした所で……私は足を止めた。

 

 

「………」

 

 

 この少年から、気になる匂いがしたからだ。

 

 母とは異なる負の感情。

 憎悪や敵意といった、他者に向けたものではない。ただただ、寂しくて、悲しくて、冷たくて……胸が痛くなるくらい、哀しい感情だった。子供でこれほどの負の感情を抱えている子なんて、中々に珍しい。

 

 私に少年の顔は見えていない。見えていないけど……きっと、今にも泣きそうな顔をしてるんじゃないだろうか。

 

 

「(……やれやれ。泣きそうな子供を放っておくなんて……大人のすることじゃないよね)」

 

 

 順調に女の子になりつつあるとはいえ、今の私にはまだ大人としてのプライドが残っている。見ず知らずの相手だが、可哀そうな子供を放って立ち去るなんて、それはなんだか気分が悪い。

 

 

「こんにちは!君も雨宿り?」

 

 

 所在なさげに佇む少年に対し、にこやかに話しかけた。

 

 

「あ……うん。傘忘れちゃって」

「私とおんなじだねー。お家は遠いの?」

「うん。ちょっとだけ遠いかな」

 

 

 少年の感情を意識しながら、雑談を続ける。

 

 今日は友達の家で遊んで来たらしく、その帰りらしい。今年で小学三年生らしいから、私より一学年下だ。

 私がモデルをやっているという話をすると、僅かな驚きと共に「お姉ちゃんすっごく可愛いもんね」と言ってくれた。この歳で正面から女性を褒める言葉が出るとは、将来はきっとモテモテだ!

 

 と、そこまで話した時、本日n回目のお腹の音が鳴る。

 

 雨の音でも誤魔化せない大音量だ。少年にも聞かれただろうし、これ以上は我慢出来そうにない。私は「あはは、お腹空いちゃった……ご飯食べてもいい?」と言いながら、ビニール袋から包装されたハンバーガーを取り出す。ちょっと冷めてるけど、空腹という最高のスパイスがあるから美味しく頂けるはずだ。

 

 包み紙を開き、ハンバーガーにかぶりつく……ことはせず、そのまま少年へと差し出した。

 

 

「はい、おひとつどーぞ」

「え?いや、僕は……」

「このハンバーガーすっごい美味しいよ?その辺のチェーン店の奴とは一味も二味も……ううん、四味くらい違うからね。期待していいよ~?」

 

 

 ほれほれ~、と少年の鼻先でゆらゆらさせる。

 しかし少年は受け取らない。両手を顔の前でひらひらさせながら口を開く。

 

 

「……僕はいいよ。さっき友達の家でお昼食べて来たから、お腹一杯なんだ。それに、ハンバーガーってちょっと苦手で……」

「いやいや、嘘吐いてまで遠慮しなくていいから……あ!もしかして炭酸もセットじゃないと駄目!?ごめんねー、水しか持ってないや」

 

 

 特定の飲み物とセットじゃないと食べたくない物ってあるよね。あんぱんには牛乳!みたいな感じで。この少年はハンバーガーは炭酸とセットじゃないと駄目系なんだろう。

 

 

「……嘘じゃないよ」

「嘘だよ」

「っ、噓じゃないって「えい」っ!?」

 

 

 少年が大きく口を開いた瞬間、ハンバーガーを口の中に突っ込んだ。ふがふが言ってる少年に対し、私は顔をしっかりと見つめながら言った。

 

 

「『僕お腹ペコペコだよー』って、顔に書いてあるもん」

「…………」

「友達の家で食べて来たってのも嘘なんでしょ?この私を騙そうなんて百年早いよ」

 

 

 少年から動揺が伝わって来る。

 半ば勘だったけど、当たっていたようだ。

 

 少年は少しだけ、私の手を掴んで抵抗したけど……私が動かない所を見て諦めたのか、大人しくハンバーガーをモソモソと食べ始めた。感情が大きく揺れ動き、食べる速度が上がる。

 

 美味しかろう美味しかろう。量産品とは単価が違うのだよ、単価が。

 

 

「…………」

「私も食ーべよっと。いやー、外で一人で食べるのって抵抗あったからさ。君がいてくれて助かったよー」

 

 

 そして二人で、雨の音を聞きながらハンバーガーを貪る。

 

 雨は好きだ。

 ほら、雨の音には癒し効果があるって言うじゃん?高周波がどうとか、1/fゆらぎがどうとかでさ。私は耳が色んな意味で敏感だから、人よりも音でストレスを受けやすいけど、逆にこういう時の癒し効果も大きいわけ。

 

 雨には感情が含まれていないし、普段はどうしても聞こえてしまう、聞きたくない嫌な音を抑えてくれる。だから、雨は好きだ。

 

 少年が半分程食べ進めたタイミングで、私は「あのさ」と口を開く。

 

 

「?」

「私達って、お互いの名前も知らないじゃない?住んでる場所も、通ってる学校も。まぁ、今日初めて会ったんだから、当然だけど」

「……それがどうかしたの?」

 

 

 こてん、と首を傾げながらこちらを見上げて来る少年。中々にあざとい仕草をするじゃないか。うちの事務所のお姉さま方に可愛がられそうだな。

 

 ……って、そうじゃない。

 

 

「だから、その……なんて言うかな。お互い赤の他人同士だからこそ、話せることもあるんじゃないかなーって思って」

「……よくわかんない」

「んー……よし、じゃあ私から話そうかな───」

 

 

 そして私は、最近の悩み事を吐き出した。

 

 

 うちが母子家庭であること。母とあんまり仲良くない事。

 良い子でいればいつか母と仲良くなれると思っていた事。

 

 モデルになることを応援してくれたから、私の事を少なからず想ってくれていると思った事。

 

 ……それが勘違いだった事。

 

 仕事から帰って来ると、母が私を見て残念がる事。

 

 母がモデルの仕事を応援してくれているのは、私がいち早く自立して、出て行ってくれることを期待しているから。

 『母親』という役から解放されて、私という重荷を降ろして『女』として新しい人生を歩みたいと思っているから……それが、わかってしまった事。

 

 それが辛くて、悲しい。

 

 ……私はただ、今度こそ愛して貰いたかっただけなのに。

 

 

「………」

「はい……私の話は、お終い」

 

 

 普通の人が聞いたら、反応に困るだろう。

 ドン引きするか、適当に受け流すか、とりあえず同情するか。とにかく、初対面の人間にしてよい話ではない。もちろん、知り合いにする話でもない。

 

 本来なら、よっぽど信頼している相手にしか話せないような内容だ。

 

 でも、この子なら大丈夫。そういう確信があった。

 だって、この子が心の中に抱えているものは、私と同じものだから。

 

 私が目線で「次は君の番」だと伝える。

 すると、それをわかってくれたのか、少年がゆっくりと語りだす。

 

 

「僕は……ちっちゃい頃に両親を亡くして、伯母さんの家に預けられたんだ。伯母さんと、その旦那さんが、僕の新しいお父さんとお母さんになってくれて。でも、二人とも僕には興味がなかったんだ。ただ、義務だから僕を預かっただけで」

 

「……僕は、皆が羨ましかったんだ。頭を撫でられたり、抱きしめてくれたり、手を繋いでくれたり……当たり前のように親に愛されているのが、羨ましかった。だから僕は、良い子になろうと思った。良い子になれば、褒めて貰えると思ったから」

 

「僕、頑張ったんだよ。勉強も、運動も。友達もたくさん作って、皆から褒めて貰えるようになって。これなら、お父さんもお母さんも、僕を褒めてくれる。よくやったな、って。偉いわね、って。そう言ってくれると思ってたんだ」

 

「……でも、駄目だった。二人とも僕に興味がないから、何をしても意味がないんだ。褒められもしないし、怒られもしない」

 

「……僕はただ、愛して欲しかっただけなのに」

 

 

 語り終え、俯く少年。

 その足元には、いくつかの水滴が落ちていた。

 

 私は少年の頭に手を乗せて、優しく撫でてあげる。近くに寄ると、この子の悲しみが痛い程伝わって来る……私の目からも、涙が流れ落ちた。

 

 ……シンパシー、っていうのかな。

 

 この子を見た時から、私の中に漠然とした、共感するものがあった。具体的に言葉にするのが難しいものだったんだけど、お互いに語り合って、それが何なのかよくわかった。

 

 この子は私と同じなんだ。

 

 親に愛してほしくて、必死に良い子を演じて。

 でも結局、親にとってそれはどうでもいいことで。

 最初から興味がないから。ただの義務だから。

 そこに愛情なんて、生まれようがなくて。

 

 前世では、私は誰も愛せず、愛されなかった。

 

 だから今生では、愛せるように、愛されるように努力した。けど……結局、駄目だった。誰にも愛されたことのない私に、誰かを愛することなんて、出来やしなかったのだ。

 

 人を愛する資格も、愛される資格もない。

 どうしようもなく空っぽで、救いようのない……。

 

 ……原作のアイが羨ましいな。

 彼女は結局、自分自身の気持ちを信じることが出来なかっただけで、人を愛することが出来ていた。アクアとルビーのこと。そして、神木輝のことも。

 

 やっぱり私は紛い物だ。

 本物のアイのようにはなれない。

 夜空に輝く一番星にはなれない。

 

 人知れず燃え尽きる、流れ星が関の山だ。

 

 

 

 

 





見知らぬショタと出会ったアイちゃんです。
お互い名乗らないで別れました。

痛恨のミス!
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