リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います   作:七色レインボー

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感染したらしい

 ニビの名物『ニビあられ』を食べてみた感想だが、まあ硬かった。

 もうとにかく硬い。食べ物としての体を成せる硬さの限界を目指しましたとか言われても納得する。

 あと思ってたより味が薄い。ほんのり醤油味はしたがそれだけだ。隣のレッドも微妙な顔をしている。

 

 正直に言おう。期待外れだった。

 

 いや、あられに何を期待しているのだといえばそれはそうなのだが、せめてもう少し味はなんとかして欲しかった。まあおそらくは味そのものよりも硬さの方をウリにしているのだろう。楽しみにしていただけに残念だった。

 

 そんなこんなでニビの名物をガリゴリと齧っていると、ジョーイさんがレッドの名を呼んだので、あられを食べるのをやめて足早に受け付けの方へ歩いていく。

 

「レッドさんですね。ピカチュウの検査結果が出ましたので先にお伝えしておきます」

 

「あの……どうだったんですか?」

 

 無口なレッドに代わって俺が容態を聞く。悪いことにはなってないと思うが……。

 

「はい、傷の方は問題ありません。後遺症も無く、一日休めば元気になると思いますよ」

 

「…………!」

 

「よ、よかったぁ〜……」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。

 一応事前に伝えられてはいたが、改めてお墨付きを貰えるとより安心する。結構な怪我だったと思うが、ポケモン世界の技術力はやはり凄い。

 あるいはポケモンが持つ生命力も関係しているかもしれない。特にあのピカチュウは生きようとする意思が強かったみたいだし、そういう思いは治癒力を高めると聞く。

 この回復の速さはその二つが合わさった結果なのだろう。

 

「ただ、少し気になることがありまして。そちらについてお伝えしておこうかと思います」

 

「え? 気になること?」

 

 ジョーイさんの言葉に緊張が走る。

 なんだろうか。後遺症は残らないと聞いたけど……もしや心の問題だろうか。トラウマとかそういう……? 

 何を言われるのかと心配していると、ジョーイさんが説明を始めた。

 

「お二人はポケルス、というものを聞いたことがありますか? ごく稀にポケモンにくっつく小さな生命体なのですけど」

 

「ポケルス……って、もしかしてポケモンが強く育つっていうあれですか!?」

 

「あら、よくご存知で。そう、そのポケルスです」

 

「…………?」

 

 まさかこのタイミングで聞くとは思っていなかった単語に思わず聞き返してしまうが、レッドは不思議そうに首を傾げている。

 まあ知らないのも無理は無いだろう。あれは存在がレア過ぎる。俺はゲーム知識があるから知っているだけで、それにしたってメジャーな要素では無いのだから。

 

「一応説明しておきますと、ポケルスはごく稀にポケモンにくっつく生命体──ウイルスのようなものです。ただウイルスといっても病気になったりするわけじゃなく、むしろその逆で普通のポケモンより強く育つようになると言われています」

 

 詳しいことはまだよくわかっていないですけどね、とジョーイさんが続ける。

 ゲーム的な効果でいえば戦闘で得られる努力値*1が二倍になるというものであり、専用の道具と合わせることで育成がかなり楽になったりする隠し要素である。

 ただしその発症率はとんでもなく低く*2、自力で発症させたプレイヤーは極めて少なかっただろう。

 しかしこのタイミングでその話をしたということは……。

 

「まさか……あのピカチュウに?」

 

 もしそうだとしたらそれはとんでもないことだ。この世界での努力値がどれほど影響を与えるのかはわからないが、大きなアドバンテージであることには変わりない。

 ごくりと生唾を飲み込み、ジョーイさんの次の言葉を待っていると。

 

「ええ、ほぼ同一の反応が確認できました。どうやら感染しているようですよ」

 

「おおお!」

 

「…………?」

 

 なんという奇跡。なんという豪運。たまたま捕まえたピカチュウがたまたまポケルス感染者だったとは。これが主人公補正というやつか。

 テンションが高まる俺。しかし対照的にレッドはどうもピンと来ていないらしい。

 まあ仕方ないといえば仕方ない。何せゲームでもネットが発達していない時代では得られる情報が少なく、『ポケルスに感染したポケモンはいずれ死んでしまう』等というデマすら流れていたのだから。

 もしかしたらこの世界でも似たような噂が流れたのかもしれないし、そうでなくともウイルスという単語で忌避感を持ってしまうだろう。レッドの反応は当然のものと言える。

 

「凄いよレッド! これは凄いことなんだよ!? あのピカチュウは凄く強くなるってことなんだから!」

 

「…………」

 

 とはいえ俺にしてみれば有益なものでしかないのでどうにか説得を試みてみるが、やはりレッドはオロオロとするばかりで要領を得ない。

 実際何も知らない状態で『よくわからないウイルスが付いてますけど無害だし強くなります』なんて言われても納得しにくいだろうとは思うが、ここはどうか受け入れてほしいところだ。

 

「心配なようですね。どうしても不安なら、ポケルスが消えるまでこのまましばらくポケモンセンターで預かって様子を見ますけど、どうしますか?」

 

「えっ!? それはダメ!」

 

「…………っ!?」

 

 なんて思っていると、ジョーイさんがとんでもないことを言い始めたので慌てて止める。

 それは無い。それだけは無い。

 

「ポケルスって伝染(うつ)るんだよ!? 他のポケモンも強く育つようになるの! なのにそんなチャンスを捨てるなんてもったいない! むしろすぐにでも引き取るべきだよ!」

 

 ポケルスは感染者のみに影響を与えるわけではなく、他のポケモンにも連鎖的に感染する可能性がある。

 しかしそれはあくまでもウイルスが生きている場合での話であり、時間が経ってポケルスを克服してしまった場合は他のポケモンには伝染(うつ)らなくなるのだ。

 一度感染すれば克服した後でも効果は永続的に残るのだが、それだとピカチュウしかポケルスの恩恵に(あずか)れないということになる。せっかく感染する状態なのにそれはもったいないだろう。

 

 そしてゲームでの感染条件を鑑みると、おそらくこの世界での感染法は『感染したポケモンの近くで長時間過ごす』ことだと予想する。

 ピカチュウがいつポケルスに感染したのかは知らないが、少しでも感染の可能性を上げるなら今すぐにでも引き取るのが最善なのだ。

 

 と、レッドに引き取るべき理由を語ったのだが。

 

「それは構いませんが……ポケルスが伝染(うつ)ることまで知っているなんて、あなた本当に物知りなんですね。いえ、それだけならまだしも積極的に感染させたがるなんて……普通はウイルスなんて聞いたらこの子みたいに不安に感じるものですよ? 私でも少し不安に思うくらいなのに」

 

「えっ」

 

 ジョーイさんが驚いた様子で俺を見る。

 ……ヤバい。あまりにもあっけなくチャンスを棒に振るところだったから咄嗟に止めたが、判断を間違えたかもしれない。

 さっきジョーイさんは『詳しいことはわかっていない』と言っていた。それはつまり医学に携わる者ですら効果を正確に把握できていないくらいポケルスの発症例が希少ということであり、経過を見るならともかく感染させようだなんて発想が異常なのだ。

 まして(『リーフ』)は見た目十歳そこらの子どもであるし、そんな子どもが見た目不相応な知識を持っていれば不審がりもするだろう。

 さて、どうやって誤魔化そうか……あ、そうだ。

 

「えーっと……そ、そんなことをオーキド博士が言ってたなーって……。わたしたち、オーキド博士から色々教えてもらってたんです。ね、レッド?」

 

「…………」

 

 トレーナーカードを提示してマサラ出身であることを証明しつつレッドを巻き込む。

 これは間違いではない。グリーンがオーキドの親戚なのと研究所が近いこともあり、度々遊びに行っては何かと世話を焼いてもらっていた記憶が『リーフ』にはあるから。

 

「あら、そうなんですか? それならその知識量も納得できるかも。あのオーキド博士から直々に教えをもらっていたなんて羨ましいわ」

 

 そんな俺の説明でジョーイさんは納得したようで、特に疑った様子もなくそれを受け入れてくれた。

 ふう、危ない危ない。実際はポケルスに関しての云々なんて一度も聞いたことがないが、とりあえず『博士に教えてもらった』と言っておけば大抵のことは乗り切れそうだ。便利な肩書きだなこれ。今後も活用していこう。

 おいそこの赤色。『そんな話したことあったっけ?』みたいな顔するな。お前のいないところでしてたんだよ。そういう設定だ。

 こういう時はレッドが無口で助かると思う。変なボロを出さずに済むから。

 

「と、とにかく、大丈夫そうなら引き取りたいです。早く元気な姿も見たいですし。レッドもそれでいいよね?」

 

「…………」

 

 一応ピカチュウのトレーナーはレッドということになっているので確認を取ると、まだ少し迷っていた様子だったがなんとか頷いてくれた。

 引き取るのを急いだのはポケルスのことももちろんあるが、元気な姿を見たいというのも間違いなく本音である。

 いくらジョーイさんが大丈夫だと言っていても、実際にその姿を見るまではなかなか実感が湧かないものだしな。

 

「そうね。でもごめんなさい、まだ少し検査が残ってるんです。それが終われば連れてこれますので、もう少しだけ待っててください」

 

「あ、そうなんですか……はい、わかりました」

 

 しかしどうやら今すぐにというわけにはいかないらしい。とはいえそこまで時間がかかるというわけではなさそうだし、もういくらか待てばいいだろう。

 またジョーイさんに呼ばれるまでは座っていようと、レッドと一緒にソファのある所へ戻っていくと。

 

「…………リーフ、さっきの話」

 

 レッドがぽそりと呟いた。まあ流石にあれだけ強引だと気になるか。

 

「ああ、ごめん。ちょっと強引だった? でもポケルスってそれだけ凄いんだよ。レッドだって強くなりたいでしょ?」

 

「…………本当に、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だって。ジョーイさんも害は無いって言ってたでしょ?」

 

「…………でも、よくわかってないって」

 

「それは……まあそうなんだけど……」

 

 意外に鋭いところを突いてくる。

 確かに強くなると言われても抽象的すぎてピンと来ないだろう。だからといって努力値が云々なんて話をすれば、それこそ知識の出処を聞かれるだろうし、正気を疑われてもおかしくない。

 一応ポケルスの有用性自体はこの世界でも証明されているっぽいのだが……やはり実例の少なさと、どこまで変わるのかという比較対象の無さが響いている。

 ……仕方ない。

 

「どうしても気になるなら博士に聞いてみれば? それなら確実でしょ」

 

 これはもう奥の手を解禁するしかないだろう。

 博士の言うことなら流石に信用できるだろうし、博士としてもポケルスのデータが集められる。まさに一石二鳥の作戦だ。

 唯一問題があるとすれば俺の嘘がバレる可能性があるところだが……まあなんとかなるだろう。人の記憶なんて怪しいものだ。ゴリ押せばいける。

 そんな俺の提案にレッドが頷いて、パソコンのある方へ二人で向かう。

 パソコンを起動してテレビ電話をオーキド博士へと繋げば、ほどなくして画面に博士が写り、音声が耳に入ってきた。

 

『おお、レッドにリーフか。どうしたんじゃ?』

 

「どうも博士。実はポケルスについて少し教えてほしくて」

 

『何? ポケルスじゃと? リーフ、お前それをどこで……』

 

 博士の当然の疑問。だがまともに受け答えする気は無い。

 

「やだなー博士、忘れちゃったんですか? 前に一度だけ得意げに教えてくれたことがありましたよ?」

 

『む? そうじゃったかのう……?』

 

 もちろんそんな過去は無い。嘘っぱちだ。

 だが昔のことを全て記憶している人間なんてそうはいない。全くのデタラメでも自信満々に言われれば『そうなのかも』という気がしてくるものだ。

 それに──。

 

「そんなことより、さっき捕まえたピカチュウがポケルスに感染してたんですよ。で、レッドが心配そうにしてたから博士から危険は無いよって教えてもらおうと思って」

 

『なんじゃと!? それは本当か!?』

 

「…………」

 

 レッドが頷き、博士の顔色が変わった。

 ただでさえ発見例の少ないポケルスが身近な人間の手持ちに感染しているというのは、博士からしてもデータを取るまたとないチャンスのはず。だからそれを聞けば俺の話の真偽などどうでもよくなるだろうと思った。

 そしてその思惑通り、博士の意識は完全にそちらに傾いたであろうことが見てわかる。フッ、計画通り。

 

『まさかそんなことが……いや、よく連絡してくれた! でかしたぞ! 大手柄じゃ!』

 

 博士大興奮。それだけ希少だということの証だろう。

 正直ここまでの反応とは思っていなかったが、これだけ喜んでくれるなら元々の目的とは違う意味で連絡しておいてよかったと思える。

 

『ところで、そのピカチュウはどこなんじゃ? わしにも見せてほしいんじゃが』

 

「あ、ごめんなさい博士。実はまだ検査中らしくて預けたままなんです。というかその時にポケルスが判明したので、引き取るか悩んでるところなんです」

 

『な、なるほど。そうか、それは残念じゃな……』

 

 博士が本当に残念そうな顔をする。研究者としては画面越しにでも実物を見たかったのだろう。

 まあ見た目じゃほとんどわからないだろうけど、それとこれとは気分が違うとかそんな感じだろうか。

 そうして博士が一つ咳払いをし、説明を始めた。

 

『そうじゃのう……確かにポケルスについて判明していることは少ないが、今までの例ではポケモンに害が無いこと、そしてポケモンが強く育つことは共通しておる。それはわしが保証しよう。安心してよいぞ』

 

「…………」

 

 博士のお墨付きが貰えた。これでレッドもいくらか納得してくれただろう。

 

「博士、その強くなるって具体的にどうなるんですか? わたしもそれはあまりよくわかってなくて」

 

 ゲームでは努力値二倍の恩恵。おそらくこの世界でも似たようなものなのだろうが、果たしてどれほど効果を発揮するのだろうか。

 詳しく判明していないにしても、博士の見解を聞きたい。

 

『うむ。具体的にと言うと説明が難しいが……どうやらポケモンには戦った相手の力の一部を自分のものにする特性があるようでの。例えば攻撃力が高い相手と戦えば力が強くなり、硬い相手なら体が丈夫になったり、といった感じじゃ』

 

 ふむふむ、とレッドと頷きながら続きを促す。

 

『ポケルスはその受け取る力を少し増やしてくれる、といえばいいじゃろうか。まあ要は早く成長しやすいってことじゃよ。詳しい成長率までは判明しておらんがな』

 

 そう締め括って博士のポケルス講座が終了した。

 なるほど、博士の説明を聞く限りだと俺の知っている努力値の概念とも概ね一致していそうだ。どうやらこの世界でもちゃんと機能しているらしい。

 強いて言うなら上限が気になるところか。ゲームと同じく上限があるのか、それとも文字通り無限に強くなっていくのか。

 前者だとは思うが、もしかしたら全てのステータスに上限まで振れる、くらいはあるかもしれない。

 まあどちらにせよポケルスの有用性は証明された。これでレッドも断る理由が無いだろう。

 

『ところでグリーンはおらんのか? 二人が一緒ならグリーンもおるかと思ったんじゃが』

 

「えーっと、一応ニビにはいるんですけど、先にジム戦に行っちゃって今は別行動なんです。伝言も伝えたんですけどね」

 

『そうか……まあ元気ならよい。顔を見たら見たでまた小言を言ってしまうかもしれんしのう……』

 

「それは頑張ってくださいよ……」

 

 基本的には好々爺だけど、身内には意外と厳しめおじいちゃんなのかもしれない。さっさと仲直りしてほしいものである。

 

『レッドさーん。受け付けまで来てくださーい』

 

 と、博士と話している間に検査が終わったらしい。ナイスタイミングだ。

 

「あ、呼ばれたね。じゃあ博士、そろそろ行きますね」

 

『ああ、待て待て。レッド、そのピカチュウについてレポートを書いておいてほしい。と言っても詳しく書けとは言わん。何か気付いたことや、普通のピカチュウと違う部分があればそれを書き残しておいてほしいんじゃ。今後の研究に役立ちそうじゃからの』

 

「…………」

 

 レッドが頷く。

 図鑑埋めもそうだが、望外にポケルス持ちを手に入れたことで博士の研究がもっと進むかもしれない。

 そうするとポケモンバトル界隈にも影響を与えるかもしれないな。レッドの役割は、きっとレッドが思っている以上に重大だ。

 

『うむ、頼むぞ。では元気でな!』

 

 そう言ってプツンと通話が切れ、元のパソコンの画面に戻ってしまった。

 しかしなかなか有益な情報を得られたな。これからは多少努力値も意識してポケモンを育てていくことにしよう。あくまでも気持ち程度にだけど。

 

「じゃあ行こっか、レッド」

 

「…………」

 

 そうして二人で受け付けに向かう。ようやく元気になったピカチュウに会えるかと思うと少し楽しみだった。

 なお、当然のことだが決してポケルスがメインでは無い。違うったら違うのだ。

*1
公式には基礎ポイントと呼ばれるもの。この値を振り分けることで特定の能力を伸ばすことができる。

*2
3/65536の確率。ちなみに第五世代までの補正無し状態で野生の色違いポケモンと出会う確率が1/8192である。

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