リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います   作:七色レインボー

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コミュニケーションをするらしい

 ジョーイさんからボールを受け取った後、すぐに外に出てニビの広場へと移動する。

 そこでレッドと頷き合い、レッドが手に構えたボールを宙へと放り投げた。

 中から光が溢れ、外へ飛び出してきたのは──。

 

「──ピカ!」

 

 黄色い体に赤いほっぺのみんなのアイドル、ピカチュウだった。

 

「か、可愛いぃ……っ!」

 

 くりっとした瞳に小さな手足。まるで可愛さの化身、愛らしさの具現化である。このポケモンは愛されるために生まれてきたと言っても過言ではない。

 ああっ、耳ピコピコしてる! 全ての仕草が愛おしい! 

 

「…………こんにちは。ぼくはレッド。怪我は大丈夫?」

 

「ピカ!」

 

 俺が可愛さに悶えている横でレッドが問い掛け、ピカチュウが元気よく返事する。その様子を見てレッドは安心したように柔らかな笑みを浮かべた。

 あの小さな体に痛ましく刻まれていた傷跡は今やどこにも無い。この世界の医療技術にただただ感謝するのみである。

 

「…………そういえばリーフ。ピカチュウどうするの?」

 

「いいなぁ、撫でたいなぁ……はっ!? え、な、何? どうするってどういうこと?」

 

 あまりの可愛さにトリップしているとそんなことを聞かれたが、意味がわからず聞き返してしまう。

 はて、どういう意味だろうか。

 

「…………成り行きでぼくが捕まえたけど、リーフも欲しいのかなって」

 

「ああ、そんなこと? いいよ気にしなくて」

 

 何を言うのかと思えば、どうやら俺に気を遣っていたらしかった。

 確かに欲しいか欲しくないかで言えば色んな意味でめちゃくちゃ欲しいが、成り行きとはいえ捕まえたのはレッドなので保有権はレッドにある。

 というかそもそもの話、レッドが真っ先に駆け寄ったからそうなったわけで、そういう意味でもやはりピカチュウの『おや』はレッドが適任だろうと思う。

 グリーンもさっさと行ってしまった以上、後から権利を主張してくることもあるまい。俺としてもピカチュウはレッドの元にいてほしいという強い思想があるので、それを横から掻っ攫う気は無いのだ。

 ……欲しいけど。めちゃくちゃ欲しいけど! 

 

「…………本当にいいの?」

 

「いいよ」

 

 努めて平静を装う。これ以上は信念が揺らぎそうになるので早く決心してほしい。

 

「…………わかった。ピカチュウ、ぼくと一緒に来てくれる?」

 

「ピカァ!」

 

「…………うん、よろしく」

 

 ここでピカチュウに選択を委ねるような言い方をするのがいかにも優しいレッドらしい。ピカチュウもそんなレッドを受け入れ、改めて仲間に加わった。

 正式にバトルして捕まえたわけではないので万が一もあるかもしれないと思ったが、それは杞憂だったようだ。ピカチュウとしても助けられた恩を感じているのかもしれない。

 そんなレッドとピカチュウを見ていると、腰に着けたボールがカタカタと揺れているのに気付いた。どうやらこの子たちも挨拶したいらしい。

 

「よし。出ておいで、フシギダネ、オニスズメ」

 

「…………ヒトカゲ」

 

 希望に応えてポケモンたちを外に出してあげると、三匹は興味津々といった感じでピカチュウの近くに寄っていく。早速友だちになろうとしているみたいだ。

 

「だね、だねふし!」

 

「かげ、かげかげぇ!」

 

「くえっ、くえぇーっ!」

 

「ピカ? ピカ、ピカチュウ!」

 

 自己紹介らしき言葉を交わし終えると、ピカチュウが尻尾を突き出した。それに合わせて三匹もお尻を向けて触れ合わせる。そうして挨拶が終わり、四匹はきゃっきゃと遊び始めた。

 うん、仲良くなれそうでよかった。特にヒトカゲとは長い付き合いになるだろうし、どんどん友情を深めていってほしいところである。

 さて、それじゃあ俺も挨拶しておくかな。

 

「こんにちは、ピカチュウ。わたしはリーフ。よろしくね」

 

「ピカ、ピーカ?」

 

「そう、リーフ。レッドの家族。わたしとも友だちになってくれる?」

 

「ピカチュウ!」

 

 言いながら屈んで手を差し出すと、ピカチュウも尻尾をこちらに向けてきたのでそれを優しく握る。

 意外とというかやはりというか、思っていたより硬い感触だった。尻尾を持つ大方の動物と同じように、ピカチュウの尻尾にも筋肉が集まっているのだろう。

 

「ピカァ?」

 

「ん? ああ、ごめんね。人間には尻尾が無いし、体も大きいから手の方がいいかなって」

 

 そうして尻尾を握っていると、ピカチュウが『挨拶のやり方が違うよ?』とでも言うように首を傾げた。しかしピカチュウと俺の体格差を考えるとこの方がいいだろう。

 尻尾の有る無しで言えばフシギダネやオニスズメにも無いが、体格が近いのでお尻を合わせることはできる。

 対してピカチュウと人間とでは流石に大きさが違いすぎるので、ピカチュウ流の挨拶をするのは少し難しい。

 まあやろうと思えばできなくはないけど、体勢的に恥ずかしいというのもある。今の俺は一応女の子なわけだし。

 そういうわけで握手のような形を選んだわけだが、ピカチュウ的にはいまいち納得がいっていないらしい。

 

「ピ〜……。ピカッ!」

 

 そうして少し考え込んだ後、ピカチュウは何かを閃いたような顔になり、腕を伝って俺の顔の近くまで来た。

 そして──。

 

 ──ぷにっ。

 

「◎△$♪×¥●&%#?!」

 

 頬に柔らかい感触が触れる。瞬間、思考が停止した。

 今、何をされた? ピカチュウが顔の近くまで来て、そしたら柔らかい感触がして……キス? キスされた? じゃあ結婚? 挙式? 今夜は赤飯? 

 

「…………おいで、ピカチュウ」

 

「チュウッ」

 

 ぐるぐると思考が回る。俺はピカチュウの幸せのために何ができるだろうか。

 まずは環境を整えることが大事だよな。ピカチュウに不自由を与えないよう広く遊べる家を買って、毎日美味しいものを食べさせて……ああ、でも今のままじゃ金が無いな。この世界で稼げるといえば、やはりリーグチャンピオンになることだろうか。幸い俺にはゲーム知識があるし、それを活用して本気で目指せば何とかなるかもしれない。ならポケモンもそれなりに能力が高いものを捕まえる必要があって、できればカイリューとかギャラドスとかそういう強力なポケモンを──。

 

 などと考えていると、いつの間にかピカチュウがレッドに抱き締められているのが見えた。

 どうやら俺が少しボーッとしている隙にピカチュウを奪われたらしい。

 

「ちょっと何してるのレッド! ()()()()ピカチュウ返してよ!」

 

「…………!?」

 

 首をブンブンと横に振るレッド。

 人からポケモンを盗んでおいてその態度か。主人公の癖にどういう了見だ貴様。絶対に許さん。

 

「いいから──渡しなさいっ!」

 

「…………っ!」

 

 叫び、俺はレッドに襲いかかった。

 ピカチュウを抱えて全力で逃げるレッド。それを追いかける俺。ピカチュウを賭けた魂の鬼ごっこが今ここに開幕する。

 

 ──否。

 

 これは遊びでは無い。

 ピカチュウのためなら俺は鬼にでもなろう。そう、全てはピカチュウの幸せのために──! 

 

「だねっ!」

 

「へぶっ!? いったぁ〜……はっ!?」

 

 そうしてもう少しでレッドの背に手が届きそうといったところで足に何かが絡まり、ギャグかあるいは漫画のように盛大にすっ転ぶ。

 同時にようやく正気を取り戻し、今までの自分の行動を省みた。

 血の気が引いていくのがわかる。レッドたちの方を見れば、ピカチュウはよくわかっていなさそうだったが、レッドは明らかに呆れている様子だった。

 

「ごごごめん! わたし、ちょっとおかしくなってたみたいで……!」

 

「…………大丈夫。慣れてる」

 

 レッドは半ば諦めたようにそう呟いた。そうだな、『リーフ』に散々振り回されてたもんなお前ら……。

 それにしても、と足元を見る。

 そこには緑の(つる)のようなもの──フシギダネの“つるのムチ"が巻き付いていた。

 最初のバトル以来フシギダネにはほとんど経験を積ませていないはずだが、どういうわけかいつの間にか習得していたようだ。

 不思議ではあるが、技を覚えたこと自体はめでたい。元々覚えさせてから挑むつもりだったが、これでいつでもタケシと戦えるようになった。

 

「だーね! だねぇ!」

 

 ツルを揺らしながらフシギダネが怒ったような声を上げる。

 確かに自分の主が突然暴走して他人のポケモンを追いかけ回していたらそうもなるだろう。フシギダネの怒りはごもっともである。

 

「ご、ごめんねフシギダネ……でもあんなことされたら誰でもああなるっていうか……」

 

「だねっ!」

 

「痛いっ!? ご、ごめんなさい!」

 

「…………リーフだけだと思う」

 

 思いっきり尻を叩かれた。な、何年振りだ、こんな子どものお仕置きみたいなの……! 

 フシギダネに謝って蔓を解いてもらい、服に付いた砂を手で払う。そうしてレッドと改めて向かい合って。

 

「ねえレッド? やっぱりわたしもピカチュウ欲しいな〜って──」

 

「…………ダメ」

 

 俺の提案は、ピカチュウをぎゅっと抱き締めたレッドにばっさりと切り捨てられた。

 当然である。俺だって通るとは一ミリも思っていない。思っていないが、それでも賭けてみたかった。

 ……どうしよう。レッドたちと手持ちの被りは避けたかったけど、ピカチュウだけ例外にしようかな。

 

「ピカ!」

 

「…………あっ、ピカチュウ」

 

 がっくりと肩を落としていると、レッドから離れたピカチュウが俺の足元まで寄ってきた。

 

「ピーカ、ピーカーチュウ?」

 

「大丈夫かって? ふふ、ありがと。優しいね」

 

 どうやら慰めに来てくれたらしい。

 なんて優しい子なのだろう。普通ならあんな凶行……いや、狂行に及んだ人間に近付こうとは思えないだろうに。嬉しいやら情けないやらで泣きそうになってきた。

 

「ねえピカチュウ、撫でてもいいかな?」

 

「ピカ? ピカ!」

 

 聞いても離れなかったので肯定と受け取り、早速その頭に手を伸ばす。

 ポケモンセンターで手入れされたおかげか、毛並みはさらさらとしていて滑らかだ。

 撫でている手を頭から背中へ。『でんき』タイプだからか少しだけパチッとしたが、それも撫でていればすぐに霧散して気にならなくなる。

 

「チャァ〜♪」

 

 そうやってしばらく撫でていると、ピカチュウは気持ちよさそうな声を上げて目を細めた。ああ、本当に可愛い……! 

 少々失礼して、今度は丸顔を作るようにピカチュウの顔を手で覆う。そしてその際手が赤いほっぺに触れて──。

 

「──っ!?」

 

 その時、俺に電流が走った。

 いや、ピカチュウの電撃を食らったとかではなく、その頬の柔らかさに衝撃を受けたのだ。

 

「……ぴ、ピカチュウ? ちょっとほっぺ触ってもいいかな? 痛かったらすぐにやめるから」

 

「ピカ? ピッカ」

 

 了承を得られたようなので差し出された頬を(つま)ませていただき、むにっと伸ばしてみる。

 するとどうだろうか。予報以上に伸びる伸びる。まるで餅のようだ。

 どこまで伸びるのか試してみたい気持ちもあるが、ピカチュウの頬には電気袋という大切な器官があるので、検証もそこそこに優しく離した。

 

「す、凄い……! さっきわたしがやられたのはこれか……!」

 

 突然の出来事すぎて判断が付かなかったが、感触からして先程俺の頬に触れたのはおそらくこれだ。

 まあ世の中にはチークキスというものもあるのであれは実質キスと言っても過言では無いのだが、それはともかくとしてこの柔らかさ。いつまでも触っていたくなる魅惑のもっちりほっぺだ。

 ピカチュウ、なんて恐ろしいポケモンなんだ。ここまで人を狂わせる力を持つとは。さっきは不意打ちだったから仕方ないとはいえ、うっかりするとまたやられてしまいかねない。もっとしっかり気を持たねば。

 

「だーね! だねだね!」

 

「くえっ、くえーっ!」

 

「待って待って、それは引っ張んないで! ちゃんと撫でてあげるから!」

 

 自分たちもと鞄やらスカートやらを引っ張って主張してくる二匹を落ち着かせて、その頭を撫でてやる。

 そんなにいいものなんだろうか。二匹とも満足そうにしてるからいいんだけども。

 

「かげ、かげかげ!」

 

「あれ、君も? いいよ、おいで」

 

「かげぇ!」

 

 そして遂にはヒトカゲまでもが催促してきた。もちろん断る理由が無いので歓迎してやる。

 元より今日一日は親睦会とポケルス感染を兼ねてコミュニケーションに充てる予定だったので、この状況は願ったり叶ったりだ。

 ヒトカゲは撫でるとつるっとした感触で、『ほのお』タイプらしく暖かさを感じる。

 顎の下も撫でてほしそうだったのでそちらも掻いてやると、ヒトカゲはリラックスしたように目を細めていた。

 

「…………撫でるの上手いんだね」

 

「そう? ありがとう。レッドもやってあげたら? きっと喜んでくれるよ」

 

「…………うん。ピカチュウ、おいで」

 

「ピカ? ピッカ!」

 

 歓迎するとはいえ、(リーフ)の撫で屋は残念ながら二匹までしか同時に営業できないのでレッドに分業してもらう。

 といってもただ撫でるだけなので難しいことは何も無いけれど。

 

「…………じゃあ、いくよ」

 

「ピッカ! ……ピカ?」

 

「…………気持ちいい?」

 

「ピカ……──っ!? ピィカァ!」

 

「あばっ!?」

 

「えっ!? レッド!?」

 

 なんて思っていたのに、突然レッドの方から悲鳴が上がった。

 見ればどうやら電撃を食らった様子だ。もちろん本気の電撃ではないようだが、それでも痛いものは痛いだろう。

 電撃の余波が残っているのか、レッドの体がピクピクと痙攣していた。

 

「…………ど、どうして……」

 

「ピィカ! ピカチュウ!」

 

「……なんかめっちゃ怒ってるね」

 

 一体何をしたのか。さっきまであんなに上機嫌だったのに、一転して怒り心頭といった感じだ。

 

「レッド、どんな撫で方したの?」

 

「…………ふ、普通に撫でたつもりなのに……」

 

「そう? じゃあどんな感じだったかわたしにやってみてよ」

 

「…………うん」

 

 言いながら帽子を脱いでレッドの前に待機する。

 よっぽど変なことをしなきゃああはならないと思うが……。

 

「…………いくよ」

 

「どうぞ。……ああ、最悪」

 

「…………!?」

 

 秒でわかった。

 こいつ、逆撫でしやがったな。

 

「あのねえ。ちゃんと毛が生えてる方向に撫でないと逆立っちゃうでしょ。もちろん平気な子もいるけど、基本的には同じ方向に撫でた方が無難だよ。その撫で方が嫌いな子はあんまりいないから」

 

 人間でも髪を上から梳くのと下から持ち上げるのとでは感じ方が違うだろう。

 そして多くの場合、毛のある動物は逆撫でされることを嫌う。感覚的にいうなら『ゾワッとするから』らしいが、まあそういうことだ。

 もちろん平気だったりむしろ好きという子もいるだろうが、少なくともピカチュウはストレスを感じるタイプらしい。

 

「ちゃんと相手の反応を見て撫でてあげなさい。適当に撫でればいいってもんじゃないんだよ?」

 

「…………はい、ごめんなさい……」

 

 レッドがしゅんとする。

 とはいえ子どものうちはそんなものか。俺も実家の猫をめちゃくちゃに撫でてブチ切れられたことがあったっけ。

 死ぬほど怖かった。それ以来撫で方には気を遣うようになったものだ。

 

「ピーカ! ピカピカチュウ!」

 

「はいはい、ちょっと待ってね。順番だから」

 

 ともあれ、今日の撫で屋は稼働しっぱなしになりそうだ。

 まあ失敗もまた経験。コミュニケーションなんてものはそういう経験の繰り返しなので、失敗して覚えていけばいい。最初から完璧にできる人間なんていないのだから。

 後は……そうだな。

 

「レッド。落ち着いたらでいいから一回バトルしてみない? ピカチュウの力も見てみたいし」

 

 そんな提案をする。

 現時点ではピカチュウの実力は未知数だ。レッドとしても今後のジム戦を考えてどれくらい動けるのか、得意な戦い方は何かといったものをある程度把握しておく必要があるだろう。

 流石にニビジムは相性が悪すぎるので通用させるのは難しいかもしれないが、ハナダジムではかなり有利に戦えるので早期に確認しておくに越したことは無いはず。

 

「…………わかった、やろう」

 

 そんな俺の予想通りだったのかはともかくとして、レッドからの了承も得られた。

 そうと決まれば話は早い。とりあえずは小さなお客様のご機嫌を取るとして、レッドの方にも最低限のブラッシングのやり方くらいは教えておこう。今後の信頼関係にも関わってくるかもしれないからな。

 こういう精神的なケアは大切なのだ。

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