リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います   作:七色レインボー

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ちょっとだけ長くなりましたが我慢して読んでください。


ニビジムに挑戦するるしい

 ニビシティの西部に位置するニビジムへ辿り着き門を潜る。

 そこで俺たちが目にしたものは、複数のトレーナーがポケモンを出し合って盛んに(しのぎ)を削り合っている光景だった。

 ゲームではジムトレーナーは一人か二人しかいなかったが、現実だとジムというだけあって結構な人数がいる。

 皆タケシに師事して来ているのだろう。本来ポケモンジムとはトレーナー育成の場なのだから、これだけの人数がいるのも納得ではある。

 

 というのは頭では理解していたのだが、実際に見るとなかなか圧巻の光景だ。そんなジムの様子をレッドと二人で眺めていると、ジムの受け付けの人が話しかけてきた。

 

「やあ、ニビジムへようこそ。何の御用かな?」

 

「あ、どうも。ジムに挑戦しに来たんですけど」

 

「おっ、いいねぇ! 少し待っててくれよ」

 

 言ってどこかに電話をかける受け付けの人。そうして少し待っていると、ほどなくしてタケシがジムの奥からこちらへ歩いてきた。

 

「やあ、きみたちか。元気そうで何よりだ。博物館にはもう行ったのかい?」

 

「はい。特にレッドが大喜びしてました」

 

「はは、それならよかった。この町のジムリーダーとしておれも嬉しいよ」

 

 朗らかに笑うタケシ。

 博物館を紹介してくれたのもタケシだったし、イチオシの場所を気に入ってもらえる嬉しさは俺にもわかる。自分の好きなものは他人とも共有したいものだからな。

 

「ところで、グリーンはどうなりましたか? ほら、あのツンツン頭の」

 

 ここでさり気なくグリーンについて聞いておく。全然全くこれっぽっちも心配はしていないけど一応、念の為に。

 

「ああ、彼か。大きく出ただけあって、素晴らしいバトルを見せてくれたよ。文句無しの合格だ。おれが最近見たトレーナーの中でも才能は一番かもしれないな」

 

 これはまた意外とと言うか、やはりというか、随分と高評価だ。ジムリーダーにここまで言わせるとは。

 ただ突破しただけではここまでの評価は得られないだろう。おそらくはちゃんとした戦術を組んだ上でゼニガメをぶつけたのだと思う。

 少なくとも適当に『みず』技を連打したわけではなさそうだ。やっぱりちゃんとしてるんだな、あいつ。

 

「さて、きみたちもジムに挑戦しに来たんだったな。彼もここが初めてのジムだったようだし、きみたちもそうだと思っていいのかな?」

 

「あ、はい。そうです」

 

「よし。では知っているかもしれないが、ジム戦のルールについて教えておこう。少し長くなるかもしれないが、しっかりついてきてくれよ」

 

 言って、タケシがジム戦についてのレクチャーをしてくれた。

 まずジム戦には大きく分けて二つの段階があり、最初に行うのはジムトレーナー戦だ。

 基本的にジム戦ではいきなりジムリーダーに挑むことはできず、まずはそのジムに所属するトレーナーと一騎打ちをして、所定の人数を倒さなければいけないらしい。

 しかしその際に連戦する必要は無く、都度回復を挟むくらいの猶予は与えてもらえるようで、その際の回復についてはジム内に設置されている回復装置を使わせてくれるとのこと。

 

 またジムトレーナーは一度倒せば、その後のトレーナーに負けても再度倒す必要は無く、日を改めての挑戦も受け付けてくれるらしい。

 そうしてジムトレーナー戦を突破して初めてジムリーダーに挑めるようになり、そこで勝てば晴れてジムバッジを手にすることができる、とのことだった。

 

「尤も、あの少年は一度も回復をすること無くストレートに駆け抜けて行ったがな。まさに化石の原石と言っていいだろう。いやはや、将来が楽しみだな! はははっ!」

 

 言いながらタケシが笑う。言い回しが独特だが、多分褒めているのだろう。

 

「さて、説明はこんなところだが……わからないところや質問はあるか?」

 

「わたしは大丈夫です。レッドは何かある?」

 

「…………」

 

 軽く首を横に振るレッド。

 俺としても大まかには知っている通りだったし、特に問題は無さそうだ。

 

「よし。それならどちらから先に挑戦するのか決めてくれ。ジムトレーナーは……トシカズ! 来てくれ!」

 

「おーっす!」

 

 タケシに呼ばれてこちらに来たのは、俺たちと同い年くらいのキャンプボーイの格好をした男の子だった。いかにも元気が良さそうである。

 

「トシカズ、ジムトレーナーとしてこの子たちの相手をしてもらいたい。頼めるか?」

 

「うっす! 任せてください! けちょんけちょんにしてやりますよ!」

 

「はは、頼もしいな。だがほどほどにしてやってくれよ?」

 

 そんなやり取りが目の前で行われ、トシカズに犬の耳と尻尾が生えているのを幻視した。あれは相当懐いている。

 まあどう見てもタケシは人格者だからな。事実俺たちもかなり世話になったし、グリーンの悪態にも嫌な顔一つしてなかったし。

 

「今回ジムリーダー(おれ)に挑む条件は、このトシカズを倒すことだ。それができれば挑戦を認めよう」

 

「ま、無理だと思うけどな! タケシさんに挑戦なんて一万光年早いんだよ!」

 

 あ、この子、あの一万光年の子か。なんか感動。

 しかしこの口調はどこかグリーンを思い起こさせるな。こういう手合いが身内にいたから、タケシもグリーンのような人間の扱いに手馴れていたのかもしれない。

 まあそれはそれとして、挑戦する順番か。俺は別にどちらでも構わないが……レッドもそんな感じだな。

 

「じゃあジャンケンで決めようか。勝った方が先ね」

 

「…………」

 

「よし。ジャーンケーン──」

 

 ホイ、と出したのは俺がパーでレッドがグー。ということは俺が先だな。

 

「…………頑張って」

 

「うん。じゃあ行ってくるね」

 

 それじゃま、頑張ってみますかね。といっても、前哨戦なんかで躓くつもりは無いが。

 

 

 ◓

 

 

「ぐおおおっ! 負けたーっ!」

 

 イシツブテが倒れ、トシカズが絶叫する。

 秒殺だった。いやまあ、そりゃそうなるよな。

 

「フシギダネ、お疲れ様」

 

「だねぇ♪」

 

 フシギダネも余裕の表情だ。

 ちなみにバトル内容はイシツブテの“たいあたり"を避けてからの“つるのムチ"で一発KOだったので振り返ることも無い。本当に秒殺だった。

 ニビジムの専門は『いわ』タイプであり、ジムリーダーであるタケシはもちろんジムトレーナーも同じタイプを使うことが多い。

 故にフシギダネが使う『くさ』タイプの技は非常に通りがよく、普通にやればまず負けないだろうと思ってはいたのだが、それにしてもあっさりし過ぎている気がする。

 

「よし、リーフの勝ちだな。トシカズはポケモンを回復させておけ」

 

「ぐぬぬ……お、お前なかなかやるな。タケシさんほどじゃないけどな!」

 

「そりゃどうも」

 

 フシギダネをボールに戻しながら適当に返事をする。

 うーむ、もしかしてトシカズもトレーナーとしてはまだまだ歴が浅かったのだろうか。そうなると新米トレーナーの平均はこんなものなのかもしれない。

 言われてみればレッドも現時点ではそれほど飛び抜けた強さというわけでもないし、多分グリーンが外れ値なのだろう。あれと比べたらダメだ。

 若干肩透かしを食らった気分だが、これはあくまでも前哨戦だ。本番はこれからである。

 

「おめでとう、リーフ。相性差があったとはいえ、あんなにもあっさりとトシカズを倒すとは大したものだ。これできみはおれへの挑戦権を得たわけだが、このまま挑戦するかい?」

 

「えーっと……わたしはそれでもいいんですけど……」

 

 タケシに問われ、フィールドから離れたところのベンチに座ったレッドを見る。

 さっきの試合はノーダメージだったのでフシギダネを回復させる必要は無いし、俺としてはトシカズの回復を待ってレッドがジムトレーナー戦をクリアしてからでもいいのだが。

 

「…………」

 

 俺の視線に気付いたレッドがこくんと頷いた。

 どうやら待つ必要は無いらしい。それならお言葉に甘えさせてもらおうかな。

 

「じゃあお願いします。挑戦させてください」

 

「よし、なら位置についてくれ。ふふ、あの少年の友人には期待してしまうな」

 

 楽しげに笑いながら、タケシが奥側のトレーナーボックスに移動する。そしてお互い定位置についたのを確認して、モンスターボールを構えた。

 

「おれの手持ちは二匹だ。それを全て倒せばきみの勝ち。交代は挑戦者(チャレンジャー)のみ認められる。時間は無制限だが、あまりに戦う気が無いと判断すればこちらで試合を中断させてもらう。以上、何か質問は?」

 

「大丈夫です。始めましょう」

 

 短く答えて、頭のスイッチを切り替える。

 バッジがかかった大事な試合だ。ここは絶対に勝たせてもらう! 

 

「OKだ。では審判、宣言を頼む!」

 

「了解です! それではこれより挑戦者、マサラタウンのリーフとニビジムリーダー、タケシのジムバトルを行います! ──試合、開始ぃ!」

 

「いくよ、フシギダネ!」

 

「頼んだ、イシツブテ!」

 

「だねぇ!」

 

「らっしゃい!」

 

 審判の号令と同時にボールを投げる。

 俺が繰り出すのはもちろんフシギダネ。そしてタケシが繰り出したのは、さっきトシカズも使っていた丸くゴツゴツした岩に直接腕が生えたようなポケモンのイシツブテだった。

 ジムリーダー(タケシ)のポケモンだからか気持ち凛々しく見えなくもないが、個体としての強さにそれほど大きな差は無いだろう。“つるのムチ"がヒットすれば一撃、ないしは『ひんし』寸前まで持っていけるはずだ。

 ここは先手必勝! 

 

「フシギダネ、“つるのムチ"!」

 

「だね! だーねぇ!」

 

 フシギダネから草のムチがぐんと伸びていき、イシツブテへと振るわれる。

 正確な数値は覚えていないまでも、イシツブテの『すばやさ』が低いことくらいはわかる。速攻をかければ技を避けるのは難しいだろうと考えての行動だったが、タケシはどう動くか。

 

「イシツブテ、“いわおとし"だ!」

 

「らっしゃーい!」

 

 タケシの鋭い指示が飛び、イシツブテは手元に生成した岩を“つるのムチ"にぶつけて押し返した。

 そうか、確かイシツブテは『ぼうぎょ』の他に『こうげき』も未進化にしては高めだったな。物理攻撃力に劣るフシギダネの攻撃だと、タイプ相性では有利でも撃ち合いでは押し負けるか。

 流石はジムリーダー。そう簡単には勝たせてもらえなさそうだ。

 

「今度はこっちの番だな。イシツブテ、“たいあたり"だ!」

 

「らっしゃい!」

 

 その隙にイシツブテが一直線にフシギダネへ突進してくる。『すばやさ』で劣る分、体勢を崩している間に距離を詰めようという作戦か。

 

「だ、だねっ!?」

 

「大丈夫。落ち着いてもう一回だよ、フシギダネ!」

 

「だねっ!」

 

 確かにその作戦は見事だが、慌てず落ち着いて見ればイシツブテの攻撃が到達する前に、余裕を持って体勢を立て直せることがわかる。

 焦らないようフシギダネを諭し、向かってくるイシツブテへの迎撃態勢を整えさせて。

 

「そこっ! “つるのムチ"!」

 

「だーねぇっ!」

 

「しゃあああああいっ!?」

 

 今度こそ“つるのムチ"がイシツブテを捉える。

 効果は抜群。しかも『いわ』と『じめん』の複合タイプであるイシツブテには四倍のダメージだ。大ダメージは確実だろう。だが──。

 

「だねだね♪」

 

「まだだよフシギダネ! 油断しないでっ!」

 

「だねっ!?」

 

「ほう、()()()()()か。だが遅い! イシツブテ!」

 

「らっ……しゃぁぁぁぁい!!」

 

 先ほどトシカズのイシツブテを一撃で倒したからか、フシギダネが勝利を確信して集中を切らした。しかしイシツブテはまだ『ひんし』になっていない。

 

 イシツブテがつたを掴む。それを力任せに引っ張った。

 フシギダネの体が宙に浮き、イシツブテの方へ引き寄せられていく。

 回避することができない状況で、イシツブテの“たいあたり"がフシギダネの体に突き刺さった。

 

「フシギダネっ!」

 

「だ、だねぇ……!」

 

 苦しそうに呻くフシギダネだったが、体力的にはまだ余裕があるようですぐに立ち上がった。

 その姿を見て一安心するが、今の被弾はいただけない。イシツブテの特性なんて考慮に入れて然るべきなのに。事前に伝えておかなかった俺のミスだ。

 

 ポケモンは種族ごとに1〜3種類の特性という力を持っており、個体ごとに有している力は違う。

 例えばイシツブテは3種類の特性を持っているのだが、おそらくタケシのイシツブテの特性は“がんじょう"だ。

 その効果は体力(HP)が満タンであれば『ひんし』になる攻撃を受けても体力(HP)を僅かに残して耐えるというもの。さっきはこの力でフシギダネの“つるのムチ"を耐えて反撃したというわけだ。

 

 逆にトシカズのイシツブテは一撃で倒せていたことから、特性が“いしあたま"か“すながくれ"のどちらかであったことがわかる。同じポケモンだからといって、同じ戦法が通じるとは限らないという好例だ。

 そしてフシギダネはまんまとそれにハマったわけだ。全く、流石はトレーナー育成の場というべきか。ちゃんと()()()()()をしてくれる。

 とはいえ、だ。

 

「フシギダネ、“つるのムチ"」

 

「だーねぇ!」

 

「らっ!? しゃぁ……い……」

 

「……よくやった、イシツブテ。ゆっくり休んでくれ」

 

 イシツブテはほとんど気力だけで動いていたに過ぎない。フシギダネの攻撃を避ける力までは残っておらず、ムチの一撃を受けてその場に沈んだ。

 これでタケシの手持ちは残り一匹。勝利に王手を掛けたわけだが──。

 

「フシギダネ、一度戻って体を休めて。そのまま戦うのは疲れるでしょ」

 

「だね? だね!」

 

 一旦フシギダネをボールに戻す。

 体を休めるといっても体力(HP)が回復するわけじゃないが、スタミナの方はいくらか戻せる。

 ポケモンだって生き物なのだから連戦すれば消耗するし、体力が少なくなれば動きも鈍くなるのが当たり前だ。ここはリスクを減らす立ち回りでいく。

 

「お願い、オニスズメ!」

 

「くえーっ!」

 

 代わりに繰り出したのはオニスズメだ。

 言うまでもないが『ひこう』タイプのオニスズメは『いわ』タイプとは最悪の相性だ。ましてタケシが次に繰り出すであろうポケモンは『ぼうぎょ』だけなら全ポケモンの中でも上から数えた方が早いくらいの高さである。攻撃なんてまともに通らないだろう。

 

「おや、オニスズメか。そのポケモンでは相性が悪い……なんてことはきみはわかっているんだろうな。何か秘策でもあるのか」

 

「さあ、どうでしょう?」

 

 秘策と呼べるほどのものではないが、オニスズメにはオニスズメの仕事がある。

 それを全うできるかどうか。そしてそれを俺が活かせるかどうかが勝利の鍵だ。

 そして俺の予想通りなら、タケシの最後のポケモンは──。

 

「ふっ、楽しみにするとしよう。さて、きみにこいつが越えられるかな?」

 

 イシツブテを戻し、代わりにフィールドに出現したのは巨大な岩を数珠繋ぎにした岩の蛇ともいえるポケモンだった。やはりそう来るか。

 序盤の壁。タケシの代名詞。そのポケモンの名は──。

 

「グォォォォッ!」

 

 いわへびポケモンのイワークだ。

 このイワークというポケモンはカントー地方に生息するポケモンの中でも最大級の巨体を誇り、その全長はなんと九メートル近くもある。

 フシギダネの体長が約七十センチ程度しかないことを考えると、どれだけの差があるのかがよくわかるだろう。まさにボス級の強敵だといえる。

 ……のだが。

 

「……あの、このイワーク……なんか()()()ないですか?」

 

 そう。目の前にいるこのイワークは明らかにおかしい。

 何せ一番の特徴であるはずのその巨体が、本来のサイズの三分の一程度しかないのだ。これは一体どういうことだろうか。

 不思議に思い、タケシに問い掛けてみる。

 

「ああ、わかるか。こいつは新米トレーナー用のポケモンなんだ。通常サイズのイワークだと体格差が大きすぎて勝負にならないからな」

 

「な、なるほど……」

 

 それなら他の『いわ』タイプ……例えばサイホーン辺りを使えばいいのではと思わなくもないが、そこはサイホーンの進化後であるサイドンを切り札とするサカキに配慮した形だろうか。きっとトキワジムを最初に選んだ場合はサイホーンが出てくるのだろう。

 

 まあそれはともかくとして、タケシの言い分にも納得感がある。

 イワークというポケモンはゲームでは悪い意味で有名であり、なんとことりポケモンのポッポと同じ『こうげき』種族値であるとされているのだが、あの巨体とそこらにいるポッポ()の攻撃力が本当に同じだろうか。

 

 おそらく答えは否だ。少なくとも現実であるこの世界ではきっとそうはならない。

 そもそもの話、仮にイワークが見た目通りの強さを備えていたらゲームバランスが崩壊していただろう。彼はバランス調整の被害者である。

 あれはあくまでもゲーム的な都合であり、実際に生き物として存在するこの世界にも同じ理屈が適用されるとは限らない。

 

 しかしそれは()()()()()()()()()()()()である場合の話だ。

 

 目の前にいる小さなイワークであれば、ポッポと同じとは言わなくともその『こうげき』はかなり控えめになっているだろう。代わりに『ぼうぎょ』がとんでもなく硬いが、それはまあ『いわ』タイプ共通の能力傾向なので仕方ない。

 どうであれ、これで当初想定したよりかなり楽に戦えるはずだ。さあ、集中していくぞ! 

 

「ではいくぞ! イワーク、“たいあたり"だ!」

 

「グォォッ!」

 

 通常のものより小さいとはいえ、それでも三メートル近くある巨体が凄まじい勢いでオニスズメに突撃してくる。

 イワークに関しては何かとネタにされるせい(おかげ)で種族値を記憶しているのだが、実はあれで『すばやさ』の種族値が70とそこそこ高い。地中を時速八十キロで掘り進むという話もあるため、その速さにもある程度納得できる部分はある。

 が、それがわかっていたからこその交代だ。

 

「オニスズメ、避けて!」

 

「くえっ!」

 

 オニスズメが翼を広げて飛翔する。その直後にイワークがオニスズメのいた場所に頭から突っ込んだ。オニスズメの飛行能力は決して高くないが、それでもイワークの攻撃を避けるだけなら十分通用する。

 普通のポケモンであればあの勢いで地面にぶつかれば痛みの一つでも訴えるはずなのだが流石はイワーク、何ともなさそうだ。

 少しでもダメージになればと思ったのだが、この分だと自爆は期待できないだろう。まあ最初からそんなものに頼るつもりはさらさら無いが。

 

 さて、今回のオニスズメの役割はダメージを与えることではなく、イワークの能力の全容を明かすことだ。

 フシギダネで連戦することも考えなくはなかったが、その際にイワークが予想外の強さを見せてきた場合、フシギダネを失ってしまう可能性(リスク)があった。

 そうなると勝つことはほぼ不可能になり、降参(リタイア)を余儀なくされる。それは避けたい。

 それを防ぐための偵察役がオニスズメだ。ダメージには期待できないが、情報を引き出すくらいはできるはず。

 

「なるほど、流石は『ひこう』タイプだけあって速いな。だがいつまで逃げられるかな? イワーク、“がんせきふうじ"だ!」

 

「グォォォーッ!」

 

 イワークが岩を三つほど生成し、それをオニスズメ目掛けて発射する。やはり持っていたか、“がんせきふうじ(遠距離攻撃)"! 

 イワークが生み出す岩の大きさはイシツブテの比ではなく、その一つ一つが一メートルくらいもある。それが三つ同時に放たれるものだから、オニスズメも回避に必死だ。

 時に高く、時に低空を、時に旋回飛行しながら躱していくオニスズメ。全く、遠慮無しにガンガン撃って来やがって……岩だけに。

 

 なんてくだらないことを考えている場合じゃないな。しっかり分析しないと。

 幸い、発射速度自体はそれほどでもない。それに岩の生成にはそれなりの時間を要するようで、技の間にはしっかりとタイムラグが存在するから、オニスズメなら避けることは難しくないはずだ。

 よし、いい感じに情報を集められているぞ……! 

 

「ふむ、なかなかのスピードだ。だが攻撃の気配は無いな」

 

「うっ……そ、そう見えます?」

 

 痛いところを突かれた。

 確かにオニスズメでは攻撃したところで大したダメージにはならないのがわかりきっているため、回避に専念するよう伝えてある。

 だがタケシはジム戦のルールとして『戦う意思が見えない場合、試合を中断する』と言っていた。

 俺としては無駄な時間稼ぎでは無いつもりなのだが、これはもしかして反則を取られるか……? 

 と、思ったのだが。

 

「はは、そう身構えなくとも試合を中断したりはしないさ。これでも色んなトレーナーを見てきたんだ。目を見れば戦う意思があるかどうかくらいはわかる。ただ、そう来るのならこちらも何もしないわけにはいかなくてな。──忠告しておこう。耳を塞いでおいた方がいい」

 

 ぞくりと肌が泡立つ感覚。

 バトル中は音だって立派な情報だ。なのに相手の口車に乗ってその情報をみすみす手放すような真似を誰がするものか。

 そう頭では思っていたのに、俺の体は反射的にタケシの言うことを聞いてしまっていた。

 

 耳に手をやる。音が離れていく。

 何も聞こえなくなった世界で、タケシが口を開いた。

 

 ──“いやなおと"。

 

「──グオオオオォォォォ──ッ!!」

 

 それは、音の爆弾だった。

 鳴き声などというレベルではない。しっかりと耳を塞いでいるはずなのになお耳を(つんざ)くその咆哮は、平衡感覚を司る三半規管をも狂わせた。

 ぐわんぐわんと頭が揺れる。立っていられなくなるほどの衝撃が俺を襲い、目を閉じ地面にしゃがみこんでどうにか意識を保つ。

 

 時間にすれば五秒にも満たないものだったが、その効果はあまりにも絶大だった。

 まさかトレーナーにまで被害が及ぶとは。まだ視界がぼやけている。だが戦えなくなったわけじゃない。なんとかバトルの続行を……。

 そう思ってフィールドを見れば、何か小さな茶色いものが落ちているのが見えた。

 徐々に回復していく視界の中でそれは輪郭を取り戻していく。そして、遅まきながらに俺はようやくその正体に気が付いた。

 

「……ぐ……オニ、スズメ……?」

 

 オニスズメが目を回して倒れている。一体いつの間に……。

 ……いや当たり前か。事前に警告を受けて耳を塞いでいた俺ですらこれなのだ。俺よりも近くで直接爆音を受けたオニスズメがどうなるかなんて考えるまでも無い。

 まさかこんな方法でオニスズメを潰してくるとは。できれば“にらみつける"まで入れたかったのだが、仕方ないか。

 

「……ありがとう、オニスズメ。お疲れ様」

 

 ボールに戻して労いの言葉をかける。

 やられてしまいはしたが、オニスズメは十分な仕事を果たしてくれた。後は任せろ。

 

「勝つよ、フシギダネ!」

 

「だねぇっ!」

 

 再びフィールドに舞い戻るフシギダネ。

 大丈夫だ。イワークのスピードも技も把握できたし、作戦も立てられた。フシギダネのスタミナも十分に回復している。オニスズメの頑張りを無駄にしないためにも、俺はここで勝たなきゃいけない。

 目を閉じる。息を深く吸い込む。あらためて頭のスイッチを切り替えて、いざ──。

 

「──いきますっ! フシギダネ、“つるのムチ"!」

 

「イワーク、“がんせきふうじ"だ!」

 

「だーねぇっ!」

 

「グォォォッ!」

 

 フシギダネがつるを伸ばす。当たれば致命傷を与えられるそれは、しかしイワークが生成した大きな岩に阻まれて届かない──どころか、防御に使わなかった残りの二つがフシギダネに向かって飛んできた。そんな使い方もできるのか! 

 

「チッ──! フシギダネ、右に回避!」

 

「だねっ!」

 

 舌打ち一つ、回避しやすい方向を指示しながら次の一手を考える。

 バカ正直に真正面から攻撃しても成果は見込めないか。ならばイワークの視界外に回り込むか、もしくは技を発動した後の隙を突いて攻撃したいところだ。

 だがフシギダネの機動力はお世辞にも高いとはいえず、普通に走り回るだけではイワークの視界から逃れることは難しい。

 であれば技発動後の隙を狙うべきだが──。

 

「“たいあたり"で追え、イワーク!」

 

「走り続けてフシギダネ! 止まっちゃダメ!」

 

「だ、だねだ!」

 

「グォォゥ!」

 

 岩を生成する時間が必要な“がんせきふうじ"だけならともかく、自分の身一つあればいい“たいあたり"と組み合わされるとその隙もかなり短くなり、厄介この上ない。

 それに“たいあたり"の範囲自体もイワークが巨体であるためにかなり広い。イワーク自身の『すばやさ』もあり、フシギダネがそれを避けるにはかなり全力で走る必要がある。このまま技の撃ち合いをしても、先に消耗するのはフシギダネだろう。

 

「フシギダネ、走りながら“つるのムチ"!」

 

「だ、だーねぇ!」

 

「イワーク、“がんせきふうじ"で迎撃だ!」

 

「グォォッ!」

 

 最早必死も必死。

 動き回りながらの“つるのムチ"という慣れない行動までして迫り来るイワークにダメージを与えようとするが、先程と同じように三つの岩石を生成して一つは壁として使い、残りの二つで攻撃してくる。

 スピードを落とさず走り続けているおかげで避けれてはいるが、フシギダネの疲労が目に見えて激しい。

 だがそれも当然のことで、元よりフシギダネの体力はあまり多くない方だ。強敵との戦いのプレッシャーや、慣れない技の使い方で普段以上に消耗している。

 これまでどうにかギリギリのところで攻撃を避けていたが、それも長くは続かないのはわかりきっていたことで。

 

「──ふしっ!?」

 

 フシギダネが足をもつれさせた。踏ん張りを効かせられず、そのまま地面に倒れる。

 そしてその隙を見逃すような甘い相手であるはずがない。

 

「そこだ、イワーク!」

 

「グォォォォォーッ!」

 

 猛然と突進してくるイワーク。今のフシギダネがその攻撃を避けられるはずもなく、勢いよく撥ね飛ばされて地面を幾度も転がった。

 

「フシギダネっ!」

 

「……だ……だねだね……!」

 

 それでもなんとかフシギダネが立ち上がるが、今のでかなり体力(HP)を削られてしまった。

 ゲーム的にいえばレッドゾーン手前(危険域)といったところだろうか。フシギダネもかなりふらふらの状態だ。

 

「ふっ、まだ立てるか。だが体力も残り少ないだろう。さあ、どうする? 降参するか?」

 

 タケシが言う。

 確かにかなり追い詰められているし、イワークの体力はまだまだ健在だ。“がんせきふうじ"の防壁だって一度も突破できていないし、素直に負けを認めるのも選択肢の一つではある。

 だが──。

 

「──まだだよね、フシギダネ?」

 

「だね……だねぇっ!」

 

 満身創痍の体でフシギダネが吠え、体から若草を思わせる淡い光を立ち上らせた。

 そうだ。まだやれる。まだ戦える。勝負は決着がつくその瞬間までわからない。それはゲームだろうと現実だろうと変わらないはずだ。俺たちは最後まで諦めない! 

 

「……なるほど、“しんりょく"。自分の体力が残り少ない時、『くさ』タイプの技の威力が上がる特性か。それならば確かにまだ逆転を狙えるかもしれないな。だがフシギダネが動けないことに変わりはあるまい。まさかイワークを相手に真っ向勝負を挑むつもりか?」

 

 タケシの指摘は正しい。

 確かに“しんりょく"による火力補正は強力だが、フシギダネの元の『こうげき』が低いことに変わりは無い。

 イワークの『ぼうぎょ』を貫いて倒せるかはかなり怪しいところだし、技同士がぶつかり合う正面対決では分が悪いこともわかっている。

 だがーー。

 

「ーーだとしたら、どうします? 逃げますか?」

 

「……ふふ、はははははっ! 面白い、受けて立とう! おれは強くて硬い石の男! どんな攻撃も耐えて勝つのがおれのポリシーだ!」

 

 年下の女の安い挑発に乗った……わけではないだろう。

 今までのタケシを見ていてそれはありえない。きっと最後の勝負を挑もうと決めたトレーナーの覚悟を称えて、それを受け止めようとしてくれているのだ。

 どうであれ、タケシは勝負に乗ってきてくれた。さあ、舞台は整えた。ここまでやればあとは上手くいくのを祈るのみ。

 呼吸を整え、真っ直ぐ相手を見据えて、動き出しを見逃さないようにする。

 ここで勝負は決まるだろう。場の空気の緊張感が高まり、そして。

 

「イワーク、“たいあたり"だ!」

 

「フシギダネ、“つるのムチ"!」

 

「グォォォォォッ!」

 

「だねぇぇぇぇっ!」

 

 イワークが突進し、フシギダネが草のムチを振るう。

 小細工無しの正面衝突。パワーとパワーのぶつかり合い。全力全開の真っ向勝負が始まる。

 

「──と、思いましたよね?」

 

「何っ……!?」

 

 タケシが驚愕に目を剥いた。タケシには悪いが、真正面からぶつかる気なんて最初から無い。

 フシギダネがイワークを無視して、度重なる“がんせきふうじ"によりフィールドに残った奥の岩へとムチを巻き付ける。

 “しんりょく"で上がったパワーで岩を持ち上げ、それをイワークにぶつけるため──では、もちろんない。

 

「つるを戻して!」

 

「だねっ!」

 

 瞬間、まるでゴムが戻るが如き挙動でフシギダネの体が岩に向かって跳ね飛んだ。

 今までとは段違いのスピードにイワークは反応できない。散々フシギダネの遅さを印象付けた上でこの高速移動だ。

 まして全力のぶつかり合いだと思い込んでいただろう時にそんな挙動をされては、目ですらフシギダネを追いきれるはずがない。これぞ秘策、つるバンジー作戦!

 イワークが体勢を崩して地面に倒れる。フシギダネが後ろを取った。岩から解いたつるを今度はイワークへ巻き付ける。そしてそのまま加速して──。

 

「いけぇフシギダネ! 最大パワーで“つるのムチ"!!」

 

「だぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇっ!!」

 

「グォォォォォォォッ!?」

 

 甲高い音がジム内に響き渡る。

 いくらイワークの『ぼうぎょ』が高いとはいえ、タイプ一致に四倍弱点、“しんりょく"に加えてムチの戻る力を利用した加速を加えた“つるのムチ"を無防備を晒したところに叩き込んだのだ。

 これだけ条件が揃えば──! 

 

「グォ……ォォォ……ォ……」

 

 ズズン……と重い音を響かせてイワークがフィールドに沈む。

 立ち上がる気配は無い。完全に目を回している。

 

「い、イワーク戦闘不能! よって勝者、マサラタウンのリーフ!」

 

 審判の判定が下された。

 勝った……? 勝ったぞ! 

 

「やった……やったよ、フシギダネ! 勝ったんだよ、わたしたち!」

 

「だねだねだー♪」

 

 すぐさまフシギダネに駆け寄って二人で抱き合う。

 満身創痍の中よく頑張ったぞ、フシギダネ! 

 

「ふう……やられたな。まさかあれだけ舞台を整えておきながら真っ向勝負を拒否するとは。正面切っての戦いをまるで疑わなかったよ」

 

 フシギダネと喜びを共有していると、奥のトレーナーボックスからタケシが歩いてきた。

 ……流石に恨み言の一つでも言われるだろうか。

 

「あ……その、ごめんなさい……」

 

「ははは、謝ることは無いよ。勝手に勘違いしたのはおれだし、きみは最善を尽くしただけだろう? 見事な作戦だった」

 

 どこまでも聖人だな、この人……。

 確かにあそこから俺が勝つための最善の策はあれだと思ったから実行したわけだが、言ってみれば騙し討ちみたいなものだからな……まあ仮に非難されたとしても、別に反則行為をしたわけではないので勝ちを主張するつもりだったが。

 

 俺の作戦はこうだ。

 まず最初にフシギダネとイワークの機動力の差をタケシに認識させた上で、有利だと思ってもらうことからスタートする。

 そうすればフシギダネが全力で逃げても違和感は無いし、タケシも追える場面では追って来るだろうと考えた。

 そうしてフシギダネをひたすら走り回らせれば、必ずどこかでスタミナが切れて動けなくなる瞬間が来る。タケシはそこを見逃さないだろう。

 

 だから俺がフシギダネに頼んだのは、その時の攻撃を何がなんでも耐えてもらうことだった。“しんりょく"発動ゾーンまで体力が削れるかは運任せだったが、最悪発動しなくても作戦そのものは続行できる。

 最終的には『フシギダネが動けず、最後の勝負を挑むしかなくなった』と相手に思わせることが俺の作戦だった。そうすれば“つるのムチ"の戻る力を利用した高速移動にまでは考えが回らないだろうと思ったからだ。

 

 ちなみにバカ正直に真っ向勝負を挑むつもりはさらさら無かった。

 いくら“しんりょく"発動の四倍弱点とはいえ、覚悟の決まったタケシのイワークを真正面から打ち倒せる気はしなかったからだ。絶対に耐えられて反撃を貰うこと請け合いだ。

 

「とにかく、きみは見事このおれを倒してみせた。つまりきみにはこれを受け取る資格がある」

 

 言いながらタケシが懐から取り出したのは、八角形の灰色のバッジだった。

 これが、ジム戦を制した証……。

 

「グレーバッジだ。受け取ってくれ」

 

「ありがとう……ございます」

 

 それ自体は何の変哲もない小さなバッジだ。あるいはそこらに売っているようなバッジと作りは変わらないかもしれない。

 なのに、俺にはそのバッジに見た目以上の重さを感じた。それが何なのか上手く言語化はできないが、とにかく無下に扱うことはできない大切なものなのだと直感した。

 

「しかし本当に見事だった。少しやりすぎたと思ったくらいだったんだが、まさかそれすら超えていくとはな。いや、今年の新人は粒揃いだな」

 

「はい……え? 今なんて言いました?」

 

 何か聞き捨てならないことを言われた気がする。

 何? やりすぎた? 

 

「ああ、あの少年があまりにも圧倒的だったものだからな。きみたちももしや輝きを秘めた原石なのかもしれないと思って、少しばかり指示のレベルを上げたんだ。普通は新米トレーナー相手に“がんせきふうじ"で攻撃と防御を同時に行うなんてしないよ」

 

「は……はぁ──っ!?」

 

 衝撃的な事実がタケシの口から語られた。

 ど、道理で最初にジムにしてはやたら厳しいと思った! じゃあ何か? 俺がここまで苦労したのもあのグリーン(自信家バカ)のせいか!? ふざけんな! 

 

「じ、じゃあ本当はもっと楽に勝ててたってことですか……?」

 

「楽かどうかはわからないが、少なくとも一つ目のバッジを所持するに値する実力を持っているとは判断しただろうな」

 

 臆面もなくタケシが言う。

 だったらここまで苦労する必要は無かったんじゃないのか……! 俺がどれだけあの技の攻略に苦労したと思って……! 

 

「……もしかして言わない方がよかったか?」

 

「よかったですよっ! なんでこんな無駄な苦労を……ああもうっ!」

 

 おのれグリーン。次会ったらボコボコにしてやる……! 

 ……ああ、でもなんか今はいいや……どっと疲れた……。

 

「うーむ……おれなりにきみたちの成長を促そうと思ったんだが……どうやら余計なお世話だったようだな。いや、それより先に希望を聞いておくべきだったか」

 

「いや、もういいです……終わったことなんで……」

 

 タケシは本当に心からの善意からジム戦のハードルを上げたのだろう。トレーナーの成長を願うジムリーダーらしい考え方だ。

 グリーンの才能を先に見ていたのなら、徹底的に磨き上げたいと思う気持ちもわからないではない。ただそれを俺たちに向けないでほしかった。

 ……そうだ。それがわかったのなら今伝えておかないと。

 

「あの、タケシさん。レッドと戦う時はあまりハードルを上げないでほしいんです。多分わたしと同じ難易度でやったら絶対に勝てないので……」

 

「む、そうなのか? まあわかった。そこはトシカズとのバトルを見て判断しよう」

 

 一応伝えるべきことは伝えておく。

 いくらなんでもヒトカゲとピカチュウではどうやってもあのタケシには勝てないだろう。

 少なくとも俺には絶対に無理だし、多分グリーンでも一度は負ける。その後はなんやかんやで対策を練って勝つかもしれないが。

 

「タケシさーん! 回復終わりましたー!」

 

「わかった! では準備しておいてくれ! さて、トシカズの回復も終わったようだし、レッドのジム戦を始めようか。ベンチに戻るならついでに伝えておいてもらえるかい?」

 

「はい、わかりました」

 

 タケシがトシカズの方へ向かっていくのを見送り、俺もレッドが座るベンチの方へ歩いていく。

 兎にも角にも、俺の初めてのジム戦は勝利で幕を閉じた。まさか密かに難易度が上げられていたとは夢にも思わなかったが、貴重な経験をさせてもらったと思えばいいのかもしれない。

 

 手の中のグレーバッジを改めて見る。これがポケモンリーグへの第一歩だ。

 まだバッジは残り七つもあり、つまりはそれだけ多くの強敵との戦いが待ち受けているということだ。

 ポケモンバトルだけが旅の全てでは無いが、間違いなく楽しみの一つでもある。これからも俺はバトルをして、その度に勝ったり負けたりするのだろう。

 実に楽しみだ。こんなにワクワクすることは無い。そして、いつかはきっとレッドたちと同じ舞台へ──。

 

 なんて、まだまだ先の未来に思いを馳せるのだった。




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