リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います 作:七色レインボー
俺がニビジムを突破した、その後のこと。
レッド対トシカズ戦はヒトカゲの“メタルクロー"が決まり手となりレッドの勝利で終わったのだが、残念ながらジムリーダーであるタケシを突破することは叶わなかった。
敗因はまあ、シンプルに相性が最悪なことだ。
一応タケシも俺とバトルした時よりは指示のレベルを落としていたようなのだが、それでもやはりイワークの壁が厚い。
特にピカチュウは何もできずに倒されてしまっていたが、これをレッドやポケモンの能力不足と切り捨てるのは酷な話だろう。
俺が一発合格できたのはタケシが得意とするタイプに相性がいいポケモンを持っていたからというのが大きく、ヒトカゲとピカチュウで頑張ってくださいと言われたら普通に無理ゲーな気がする。
とはいえ一人だけ突破できなかったことは事実ではあるので、そのことを気にして落ち込んでいたレッドだったが、そこはやはり主人公の器。翌日には闘争心が再燃しており、今日もまた再挑戦しに行くようなのだが。
「ねえレッド。やっぱり最後まで見ちゃダメ?」
「…………うん。ダメ」
朝のポケモンセンターにて、レッドとそんな会話をする。
どうもレッドは『一緒にいると頼ってしまうから』とのことで俺と別れたいらしい。
一緒に旅をするとは言わずとも、せめてニビジムを突破するまでは見届けたかったのだが、どうしても許しを貰えなかった。
頼るも何も、俺にできることなんてたかが知れていると思うのだが。
「…………リーフがアドバイスをくれたら勝てるかもだけど、自分の力で勝たなきゃいけないから」
「……そっか。それなら仕方ないかぁ……」
なんとも男の子らしい理由だ。
だがそれがレッドの望みだというのなら拒むことはできない。残念だがバッジ獲得の瞬間を見るのは諦めるとしよう。本当に、とても残念だが。
ちなみに俺がレッドの手持ちでニビジムを攻略するなら、ヒトカゲをメインにしてひたすら“ひのこ"を連打させる。
確かに“メタルクロー"なら『いわ』タイプの弱点を突けるのだが、タケシの繰り出すポケモンは『ぼうぎょ』が高く『とくぼう』が低いため、物理の弱点技と特殊の半減技とで与えるダメージはほとんど変わらないのだ。
それなら接近戦を挑むより、特殊技で遠距離から攻める方が相手の攻撃も避けやすいし、比較的ローリスクに勝てるだろう。
他にもニビの東側に位置する3番道路へ行けば『いわ』タイプの技を半減にし、逆に弱点を突くことができる『かくとう』タイプのマンキーが生息しているため、そいつを捕まえるという方法もある。
しかしマンキーはちょっとしたことでもすぐに怒り出す非常に気性難なポケモンなので、手懐けるまでに時間がかかるポケモンでもあるのだ。即戦力として起用するのは少し難しいかもしれない。
そう考えると無理に新しい戦力を補充するよりは、今の手持ちで頑張る方が楽な可能性は大いにある。レッドにマンキーを手懐けられるかはわからないしな。
「ピーカ。ピカチュウ」
「はいはい、おいで〜。うーん、このもちもちピカチュウともお別れかぁ……」
「チャァ〜♪」
レッドと一緒にいる間はほぼ日課となっていたピカチュウのブラッシングやなでなでも今日でやり納めである。
ああ、ピカチュウロスになるのが目に見えるなぁ……。今のうちに思う存分堪能しておこう。
「それで、確かジムの挑戦はお昼過ぎくらいになるんだっけ?」
「…………うん。今日の朝はパトロールしてるらしいから」
レッドが答える。
タケシはトキワのサカキと交代で森をパトロールしに行っているため、それが終わる昼過ぎまでジムに挑戦することはできない。つまりそれまでは暇というわけだ。
「わかった。ならそれまでちょっとだけバトルしようよ。いきなりタケシさんと戦うより、その前に体を
俺がそう提案すると、レッドは顎に手を置いて何かを考え始めた。これをアドバイスや手助けの類にカウントするか悩んでいるのだろう。
断られたら断られたで仕方ないと思っていたが、少しして答えを出したレッドがこくんと頷いた。どうやらセーフ判定らしい。
「よし。それじゃ軽くね」
言って、ピカチュウを抱えながらレッドと共に外に出ると、そのままニビ広場へと足を運んですぐにバトルを始める。
このバトルの目的はさっきも言ったようにあくまでも体を解すことだが、実は密かにもう一つある。
ヒトカゲのデータを図鑑で確認させてもらった感じだと、レベル的にそろそろ
アドバイスは要らないと言われたが、戦った結果経験値が溜まって、偶然にもタケシとの戦いで努力が実を結んだりする分には問題無いだろう。もちろん口には出さないけどな。
◓
バトルという名の準備運動も終え、少し早めの昼食を購入してガツガツと貪るレッドとそのポケモンたち。
腹が減っては戦ができぬとはいうが、食べ過ぎるのも困りものだ。
「もう、そんなに食べたら動いた時にお腹痛くなるよ? ほどほどにしときなさい」
「…………」
ビニールシートの上に座ったレッドがこちらにサムズアップを向けてくるが、食事の手は止めていない。
わかっているのかいないのか……。まさかこれもアドバイスだと思ってわざと反逆しているわけじゃないだろうが。
まあ仮にそうだとしてもこれ以上しつこく言うつもりは無いし、後で本当にそうなっても困るのはレッドたちなので好きにさせておくとしよう。
「──っと、そうだ。はいこれ」
肩に掛けたバッグから紙袋を取り出してレッドに渡す。大したものではないが、験担ぎには丁度いい代物だろう。
レッドが袋の中から包みを取り出してそれを開封する。その中にあるものは。
「…………これは?」
「ルビーのブレスレットだよ。勝利を呼び込んでくれるんだってさ」
それはこの四日間ほどニビシティに滞在している間にふらっと寄ったアクセサリー屋で見つけたものだ。
流石は石の町というだけあって、その店ではパワーストーンをアクセサリーに加工して売り出しており、観光客にもそこそこの人気を博しているのだという。
ぶっちゃけ俺は占いだの運命だのといったスピリチュアルなものはあまり信じていない方だし、当時は無駄遣いしている余裕も無かったのでスルーしたが、その中でなんとなく目がいったものがあった。
それがこのルビーのブレスレットである。
「さっき昼食を買いに行くついでに、ね。レッドにぴったりだと思って」
色合いももちろんそうなのだが、ルビーの石言葉は『情熱』『良縁』、そして『勝利』だ。まさに今レッドが必要としているものだろう。
何故こんなものが買えたのかというと、ジム戦でタケシに買った時に賞金として結構な額を貰ったからだ。
現実であるこの世界ではそこらのトレーナーを倒したからといって、金を巻き上げられるわけではない。代わりにジム戦や町で行われる大会なんかに勝利すれば賞金を貰えるようになっており、トレーナーの主な収入源はこれだと言える。
他にも町で募集している臨時のバイトなんかを受けて日銭を稼いだりすることもできるが……それは今はいいだろう。
「…………受け取れない」
案の定レッドが受け取りを渋る。まあそう来るよな。俺も同じ立場なら多分受け取らないだろうし。
まあ関係無いが。絶対に受け取ってもらう。
「えー、せっかくレッドのために買ったのに。赤色だよ? レッドの色だよ?」
「…………リーフが付ければいい」
「それがパワーストーンって持ち主が付けないと効果が発揮されないんだってさ。それもうレッド用に調整してもらったものだし、レッドにしか効果無いんだよ」
嘘みたいな言い訳だが、これは本当にそうらしい。店主曰く、持ち主以外が身に付けるとパワーが弱まるとかなんとか。
だがレッドの目からは未だ疑心の色が消えない。確かに俺が適当なことを言っている可能性もあるもんな。ならこれでどうだ。
「あーあ、レッドに使ってほしかったなー。わたしがトレーナーとして初めて稼いだお金で買ったプレゼントだったのになー」
「…………!?」
レッドの目に動揺が見えた。
そうだろう。可愛い妹が激闘の果てに得た金で選んだプレゼントだ。果たして
「でも要らないって言うんじゃしょうがないなー。結構高かったんだけどなー。わたしが持ってても意味無いし捨てるしかないかなー」
「…………っ!?」
トドメに金の話を持ち出したことで、目に見えてレッドが狼狽え始めた。やはりレッドにはこの攻め方の方が効くな。
パワーストーンを使ったアクセサリーとしては比較的安価な部類のものを選んだのだが、それでも宝石を使っているものなだけあって相応の額を支払うことになった。
レッドだって旅に出たこの数日で金の重みはある程度わかっているだろう。そこに来て兄のために買ったという、それなりの値段がしそうな装飾品を捨てると言い出す目の前の悲しそうな(フリをしている)
さあ、お前の取るべき行動は一つだぞレッド。
「…………っ! わかった……貰う……」
「よろしい。大事にしてね♪」
ついに根負けしたレッドが渋々といった様子でブレスレットを腕に着けた。フッ、勝った。口喧嘩で
まあここまでして受け取ってもらう必要も無かったといえばそうなのだが、せっかく買ったものだからな。
ここは俺の我儘だと思って諦めてくれ。
「──さて、それじゃあわたしはもう行くよ。次の町に向かうなら早めに出た方がいいしね」
「…………うん」
もう少し経てばタケシもジムに戻ってくる。レッドが一人でのジム戦を望んでいる以上、俺がやれる事ももう無い。であれば俺のやるべきことは、次のバッジを取得するために次の町──ハナダシティを目指すことだろう。
ハナダシティに向かうには3番道路を抜けてお月見山を超える必要があり、その道中はかなり時間を要することが予想される。時間配分を間違えて登山中に日が暮れたりしたらたまったものじゃないし、早めに行動に移すべきだ。
フシギダネとオニスズメをボールに戻して、ピカチュウとヒトカゲに声を掛ける。
「ヒトカゲ、ピカチュウ。レッドのことお願いね」
「かげ!」
「ピカ!」
元気よく返事する二匹。
うん、頼もしい。この子たちならきっとレッドを守ってくれるだろう。
最後に一撫でずつしていき、レッドの方へ体を向けて。
「またね、レッド。大変だろうけど頑張って」
「…………うん。リーフも元気でね」
別れの挨拶を終えて立ち上がり、踵を返して歩いていく。
少し寂しいが別に今生の別れというわけでもない。どうせ近いうちにまた会えるだろう。
だから今は振り返らない。涙もいらない。笑って別れて、真っ直ぐ目の前の道を進めばいい。そうして次は成長した姿を見せ合うのだ。
その時に胸を張っていられるように、俺も頑張らないといけないな。
目指すはハナダシティ。だがその前にお月見山だ。
お月見山では化石が掘れるらしいし、余裕があれば挑戦してみるのも悪くないかもしれない。
できればプテラが復元できる『ひみつのコハク』が欲しいが……まあそれも行ってみてからだな。何が手に入っても嬉しいことに変わりは無い。
ああ、本当にやることがいっぱいだ。そしてこれはまだほんの序の口であるという事実がたまらなく嬉しい。
素晴らしきかな、ポケモンの世界。まだまだワクワクの冒険は終わらなそうだ。
ここまでのご高覧ありがとうございます。これにてこの作品の一章は終了です。
まずは読者の皆様や感想、高評価してくださった方たちへ厚く御礼申し上げます。
さて、ここまで読んでくださったということは、作品の雰囲気はだいたい掴めているかと思います。
なのであえて言うまでもないことですが、この作品は主人公がゲームの知識を使って無双する、といったタイプのものではありません。
あくまでも主題通り『主人公がポケモン世界を気ままに楽しむもの』となっておりますので、話のペースは遅めですが、そういったものが好きな方には楽しんでいただけたのではないかと思っています。というかそうであってほしい。
とはいえポケモンといえばバトルという方も多いと思いますし、自分もその一人なので、バトル回についてはかなり力を入れて書いておりました。
できる限り体格や覚える技なんかを考慮してそのポケモンらしい戦い方を書いたつもりですが……実際のところどうだったんですかね? 伝わっているといいんですが。
さて、ちなみになんですが、一章終了時点でこの作品の文字数は10万文字……には少し足りないですが、だいたいそれくらいあります。
これは一般的な文庫本とほぼ同じ分量であり、つまりそれだけの時間を皆様から頂いたということです。
果たしてその分楽しんでいただけたでしょうか。そうであれば嬉しいです。
では後書きも長くなりましたのでここらで終わろうかと思います。
一つの区切りがついたことですし、何かしら思うところもあるかと思いますので、是非一言でも頂ければ幸いです。モチベーションに繋がります。
もちろん今までの感想や高評価等も励みになっておりますので、可能な限り作品を面白くするという形でお返ししていきたい所存です。
それでは皆さん、また二章でお会いましょう。