リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います 作:七色レインボー
お月見山へ行くらしい
レッドと別れてニビシティを後にし、3番道路を進んでいく。
ここらの草道では今までの道中にもいたコラッタやオニスズメの他に、新たに三種類のポケモンを見かけるようになっていた。
その中の一匹がマンキーであり、頭部と一体化したような胴体から伸ばした細長い四肢と尻尾、そして全身を覆う白い体毛と豚鼻を持ったぶたざるポケモンである。
タケシの使う『いわ』タイプに有利な『かくとう』タイプのポケモンであり、タケシに勝てずに困っている新米トレーナーには救世主のような存在ではあるが、非常に怒りっぽい性格のこのポケモンと友好的な関係を築く忍耐力を求められるのが難点か。そこまで含めてトレーナーの資質と言われるとそうかもしれない。
他にはへびポケモンのアーボがおり、今までに見てきたポケモンが比較的害の少ないものだったこともあって、明らかに『自分毒持ってます』と全身でアピールしている紫色の蛇は、リアルで見かけると流石にドキッとするものがある。
幸いこちらが何もしなければ自らよりも余程大きな
噛まれて毒に侵されたり、仲間を呼ばれて囲まれる展開は避けたい。ましてやその中に進化系のアーボックがいたりしようものなら、俺の旅は間違いなくそこで終わる。
丸呑みエンドなど冗談ではないので、見かけた時は刺激しないよう注意して慎重に歩くようにする。
反対にふうせんポケモンのプリンは、ピンクの丸い風船のような体に猫のような三角耳がついた姿であり、そのファンシーな見た目通り危険性はかなり低く、バトル用というよりは
女性トレーナーを中心に大きな人気があるようで、あるいは『リーフ』なら手持ちに加えていたかもしれないが、俺個人としてはプリンを捕まえる気は今のところ無い。
可愛いとは思うが、それだけを理由に捕まえまくっていると世話をしきれなくなる可能性があるので、あまり無計画に手持ちを増やすことはしたくないのだ。
元の世界での感覚でいうと多頭飼いのそれに近い。
そして今の俺には多くのポケモンの世話を同時にする甲斐性も余裕も無いので、捕まえるポケモンは厳選したいというわけだ。
そう考えると手持ちを六匹持っているトレーナーはそれだけで凄いと思う。ボックスに預けているポケモンを含めればそれ以上かもしれないし、それらを第一線で戦えるように育成できる手腕を持つ一部のトレーナーは本当に化け物なのだということがよくわかった。
そういうわけでプリンは残念ながら選考対象外だ。捕まえるにしてももっと色々と余裕ができてからだな。
そうしてトレーナーとバトルしたり、生息しているポケモンを眺めたりして進んでいくと、ニビシティ付近では平坦だった草道も先に進むにつれて緑が少なくなり、緩やかな勾配が現れてきた。マップで言えば4番道路の辺りになるだろうか。
それにつれて出現するポケモンも更に変化し、レンガのような模様をした黄土色の外皮を持つアルマジロのようなポケモン──サンドが姿を見せるようになった。
見た目こそ少々地味めではあるが、丸みを帯びた体やつぶらな瞳が非常に可愛らしく、気性も穏やかで育てやすい初心者向けのポケモンだ。
また『じめん』タイプを有するので、どうしてもタケシに勝てないトレーナーならマンキーと選択でこのポケモンを育ててみるのもありかもしれない。
残念ながらゲームの対戦面では進化系共々、他の『じめん』タイプに押されてあまり姿を見ることは無かったが、能力そのものはそこまで低いわけではないので、愛のあるトレーナーの元で存分にその力を奮っていたりする。
また後の世代にてリージョンフォームを獲得していたりするので、そちらも合わせてなかなかファンの多いポケモンの一匹だと言えるだろう。
そんなこんながありつつ、ようやくお月見山の前まで辿り着いた。
ここまでの道のりではバトルがあったり休憩を挟んだりがあったので、一直線の最速で来たわけではないのだが、それでもまさか六時間ほどもかかるとは思っていなかった。
辺りは既に日が落ちかけているし、歩き通しで足もパンパンだ。そんな旅の疲れを見越しているかのようにポケモンセンターがすぐ近くにあるので、今日はそこで休んでいくことにしよう。
「ちょいとそこのお嬢さん。こっちこっち」
「はい?」
なんて思っていると、突然声をかけられた。
反射的に足を止めてその方を向けば、そこには的屋のような格好をした中年の男がこちらに手招きをしている。
いかにも怪しいオッサンだ。辺りも暗くなろうというこんな時分に、
「おっと、警戒してるのかい? そんなに心配せずともちょいと話をしたいだけさ」
ニヤけ面で男が言う。どの口が言うのだろうか。一度鏡を見てきてほしい。
どうであれ、こんな手合いは関わるだけ時間の無駄だ。今日はもう早く休みたい。
「……すみませんが、疲れてますので」
「まあまあ、そう言わずに!」
そんな意思を込めてさっさと会話を打ち切りポケセン内に入ろうとしたのだが、男は小走りでこちらまで駆け寄り、さり気なく目の前に立ちはだかってきた。
流石にここまでされるとイラッとくる。ただでさえ疲れてるのに、お前と会話する気は無いんだよ。壁とでも話してろ。
と実際に口には出さないが、有事に備えてモンスターボールに手をかけておく。場合によっては強制的に退いてもらうことになるだろう。
そんな俺の内心に吹き荒れる嵐に気付いているのかいないのか、男はニヤけ面のままに手を揉みながら話を続けた。
「あ・な・た、だけに……! いいお話があるんですよ。秘密のポケモンコイキングが、なんとたったの五百円! どうだい?」
「……は? コイキング?」
その言葉を聞いて少しだけ警戒を緩める。そうか、そういえばそんなオッサンもいたな。
コイキングといえば非常に非力なポケモンとして有名であり、図鑑には『世界で一番弱いポケモン』と記される文字通りの雑魚ポケモンである。
戦闘においては基本的に“はねる"ことしかできず、頑張ってレベルを上げてどうにか“たいあたり"と“じたばた"ができる程度。はっきり言ってまともに戦えるポケモンではない。
この男はそんなポケモンを新米トレーナーに売り付ける悪徳商人というわけだ。
「コイキングはそんじょそこらのポケモンとはわけが違うよ。キングとは王を意味する言葉であり、その名を冠するこいつの強さは正に天下無双。育て上げれば誰もが憧れる最強のポケモンになるのさ。いや、お嬢さんは運がいい! こいつが最後の一匹なんだ。どうだい? 買うだろう?」
聞いてもいないのに男がペラペラと
そして俺もまたそのターゲットに選ばれたわけだ。手当たり次第に声を掛けているだけか、それともこの男には新米かどうかを見抜く眼力があるのか。
それはわからないがいいだろう、その口車に乗ってやる。
「ふーん……そんなに強いんだ。なら買おうかな」
「! へっへっへ、毎度あり! ささ、こちらをどうぞ!」
そうして男が懐からボールを取り出し、それを五百円玉と交換してボールを受け取る。
「いやーいい買い物したねお嬢さん! それじゃあわたしはこの辺で! あ、返品は受け付けてないからね!」
言うが早いか、男は逃げるようにその場から去っていった。その行動だけであの男のこれまでの遍歴が大まかにわかるような気がする。
まあ何も知らずにコイキングを売り付けられたら怒られても不思議は無いとも思うが。
確かにコイキングは弱い。それはもう弱い。悲しくなるほどに弱い。
だがそれはあくまでもコイキングの話であって、こいつの真価はその先にある。
そう、こいつの進化先はきょうあくポケモンの名で知られるあのギャラドスなのだ。
その変貌ぶりは正に鯉の滝登り伝説を思い起こさせるものであり、青い龍と見紛うその見た目に違わず凄まじい能力の高さを誇る。
具体的には進化前のコイキングの種族値合計が200しかないのに対し、ギャラドスはなんと540もある。
ちなみにフシギダネの最終進化であるフシギバナでも525なのでギャラドスはそれより高い。オニドリルに至っては442なので勝負にもならない。何があったらこうなるのか。
このように強さは折り紙付きで、セキエイリーグ四天王のワタルも手持ちに入れているほどの強ポケモンなので戦力としては申し分無い。そんなポケモンが五百円で手に入るなら安いものだ。それを抜きにしても釣竿やら餌やらを揃える手間を考えれば安いだろうし。
まあ実際はそんなに上手い話だけでは無いのだが……そこは俺がトレーナーとしてどこまでやれるかを見る意味でも、コイキングの育成に挑戦する価値はある。いわゆる登竜門というやつだな。
何はともあれ、本当にいい買い物をした。上手く育てられるといいのだが。
◓
ポケモンセンターで一泊し、明くる日の早朝。準備を整えてから、懐中電灯を片手に早速お月見山の洞窟へ突入した。
洞窟内部はかなり入り組んだ地形になっているようだが山頂や地下、あるいはそれぞれの町方面等の目的地に合わせて立て札が置かれているため、それに従って進めば迷うことは無いはずだ。
さて、このお月見山はその名の通り、月と関連性の深い場所として知られており、同じく月と関わりがあるとされているピッピというポケモンの生息地としても有名な場所だ。
プリンと並んでアイドル的人気があるポケモンなのだが、基本的には月が出ている夜にしか活動しないようなので、残念ながら俺が見かけることは無いだろう。戦力的な意味でも手持ちに加える予定は無いしな。
その他の目新しいポケモンで言うなら、洞窟の天井付近にこうもりポケモンのズバットがかなりの数ぶら下がっている。
ポケモンで洞窟と言えばこいつであり、どの作品の洞窟でも大抵出現するくらいには生息地が広い。
夜行性のポケモンであるため今は眠っているか動きが鈍い個体がほとんどだが、油断すると口に生えた二本の牙で吸血しに来るかもしれないので警戒を怠ってはいけない。下手をすれば死ぬ。
というか、冷静になってみればこの洞窟という場所自体がそれなりの危険地帯なのだ。
ズバットがいるということはゴルバットもいる可能性があるわけで、うっかり出会ってしまったら全力で逃げるしかない。
そうでなくともそこらにイシツブテが転がっているし、もしも上から降ってこられたら頭が陥没しかねない。死の危険はそこら中にある。
そうならないよう例の如く通り道には松明が置いてあったり、スプレーを撒いてくれていたりするらしいが、それだって百パーセント安全というわけじゃない。自分の身を守れるのはいつだって自分とその
まあ普通に洞窟を抜ける分にはそうそう事故は起こらないらしいのだが、警戒するに越したことはないだろう。のほほんと進んでうっかり死にましたでは済まないのだから。
そんなわけで今現在はフシギダネを出しっぱなしにしている。何かがあった時にすぐに対応できるようにするためだ。
「頼りにしてるよ、フシギダネ」
「だね!」
フシギダネの元気な返事。相変わらずうちの子は頼もしい。
しかしこうなると当初予定していた化石掘りをするのは少し難しいかもしれない。まさかここまで洞窟という環境が危険なものだとは思っていなかったのだ。
まだゲーム気分が抜けていない証拠だろう。こんなことではいつか致命的な失敗をしてしまうかもしれない。気を引き締めねば。
それにゲームでのことをよく思い返してみれば、確かこの山にはポケモンの化石を手に入れるためにロケット団が
ゲームにおいては正直大して強くもない*1肩書きだけの一般トレーナーに過ぎないのだが、現実においては普通にヤバい連中である。
ヤンキーやチンピラとはわけが違う。正真正銘、本物の犯罪組織の一員なのだ。それに今の俺は『
というわけで化石掘りは一旦断念。まずは安全にこの山を抜けることを最優先とする。
せっかくニビシティで化石採掘キットを購入したというのに、活躍する機会はまだまだ先になりそうだ。