リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います 作:七色レインボー
立て札や松明を道標に、時にはトレーナーに道を尋ねながら仄暗い洞窟内を歩くこと数時間。奥の方に松明の炎とは異なる明るさが地面を照らしているのが見えた。
きっとあれは陽の光だ。それが出口から差し込んできている。フシギダネと頷き合って、そちらへと走っていくと。
「や……やっと抜けた〜!」
「だね〜!」
ようやく洞窟を抜けた先で眩しさに目を
薄暗いところから出てみると、改めて太陽の有難みがよくわかるものだ。フシギダネも『くさ』タイプらしく日光浴が好きな種族ということで、嬉しそうに陽の光を浴びていた。
幸いロケット団らしき人間にも出会わず外に出られたが、洞窟という慣れない環境で気を張っていたのと、ずっと歩き詰めだったのとで流石に少しくたびれた。時間的にも丁度いいくらいだし、休憩がてらにお昼を食べてからハナダシティへ向かうとしよう。
というわけでフシギダネに手伝ってもらい、シートと昼食を用意してポケモンたちを外に出した。
……後に、ふと気付く。
──あれ? コイキングって陸地じゃ出せなくね?
言うまでもないことだが、コイキングはさかなポケモン──つまり魚類だ。
そんなポケモンを陸地で出せばどうなるか。答えはすぐ目の前に現れる。
「コッ……コココッ……」
「わーっ!? ごめんごめん! そうだよねそうなるよね!」
すぐにコイキングをボールに戻す。
ついいつもの癖でボールを投げたが考えてみれば──いや、考えるまでもなくコイキングが陸地に適応できるわけがない。案の定ピチピチと跳ね回るだけだった。
こんな有様で一緒に食事などできるわけがない。近くに水辺があればよかったのだが、残念ながら見える範囲には無さそうだ。コイキングには申しわけないが、もうしばらく我慢してもらうことにしよう。俺も腹が減っているし休憩したいんだ、すまん。
しかしこれ、世の魚型ポケモンを手持ちにしているトレーナーたちはどうしているんだろうか。かなり深刻な問題のような気がするのだが。
まあそこら辺についてはカスミにでも聞いてみようか。ハナダのジムリーダーにして『みず』タイプポケモンのエキスパートならば上手い付き合い方を教えてくれるだろう。
そんなことを考えながら買っておいたおにぎりを食べる。気力と体力が回復したら改めてハナダシティを目指そう。
◓
それから三時間ほどが経過し、途中で格闘王同士の論争に巻き込まれ、パンチとキックどちらの方が強いかを尋ねられて困ったりもしたが、なんやかんやでようやくハナダシティに辿り着いた。
随分時間がかかったものだが、これでとりあえず人心地つけるといったところか。まずはポケモンセンターに寄ってポケモンたちを回復させるとする。
さて、ハナダシティは『花咲く水の町』として知られている町だ。
そのキャッチコピーが示す通り、町の周囲を流れる水やその水で育った花々は見ているだけで心が洗われるようであり、ハナダシティの景観を華やかなものにしている。
更にはこの町のジムリーダーであるカスミがレベルの高い美少女ということもあって、カントーの中でも随一の美しい町と言えるだろう。『カントーの住みたい町ランキング』の中でも相当上位に位置していそうだ。
そんなハナダシティの名物といえば、やはり月一くらいのペースで行われるハナダジムの水中ショーだろうか。
ハナダジムではカスミはもちろん、その姉妹も含めた四人がポケモンと共にショーを行っているらしく、他所から人が見に来るほどの人気があるのだそうだ。
ジム戦もそうだが、せっかくならそのショーとやらも見ていきたいところ。幸いショーの日取りは今から三日後なので、さほど長期滞在せずとも観覧していけそうだ。非常に楽しみである。
あとは……そうだ、確かハナダシティには自転車屋もあったはずだ。
ゲームにおいては一台百万円と法外な値段で売られていたが、まさか全ての自転車がそうであるわけではあるまい。ちゃんとリーズナブルな値段のものもあるはずだ。
今後を考えるなら自転車はかなり重要なアイテムと言っていい。徒歩で行くには億劫な道のりも自転車があればかなり楽になる。つまり、旅のモチベーションに関わってくるのだ。
もちろん無ければ無いで旅を止めるなんてことはしないし、歩き旅も嫌いではないが、移動手段を増やしておくに越したことはないだろう。
よし、早速方針が決まったな。手持ちを回復させたらすぐに自転車屋へ向かおう。
「っと、その前に……」
そうして辿り着いたセンターに入る前に、近くにある大きな噴水に五十円玉を投げ入れる。
どうやらここの噴水には、お金を投げ入れるとその分だけポケモンと仲良くなれるという言い伝えがあるらしく、せっかくなら俺もその伝説にあやかろうと思ったわけだ。
もちろん本気で信じているわけではないが、こういうのは気持ちが大事なのである。
というわけで手を合わせて、ポケモンたちと仲良くなれるようにお祈りする。
……と、言いつつちらっと噴水の底を覗いてみる。するとなかなかな量のコインが沈んでいるのが見えた。
ところでここに沈んでいるお金ってどう使われるのだろうか。多分町の清掃とか景観維持なんかに使われるとは思っているのだが……まさか清掃員のポケットに入ったりしないよな?
……そうだと信じたい。
◓
「じゅーまんえん!?」
来て見てびっくり、『ミラクル・サイクル』で売られている、電動でもない普通の自転車の価格がそれである。
他のものを見てみても似たり寄ったりの値段──どころか、それ以上するものが普通に置いてあり、その中には当然百万円のものもあった。な、なんで自転車がこんなにするんだ……!?
あまりにも俺の価値観とはかけ離れた値段設定を不思議に思い、店主に問い質してみることにする。
「あの、店主さん……」
「はい、いらっしゃい! 何か御用ですか?」
俺の呼び掛けに店主が気のいい笑顔で対応する。その顔はいいのだが、値段が全く笑えない。
「自転車を買いたかったんですけど、こんなに高いものなんですか……?」
「そうですね……ウチは特に品質の高いものを取り揃えておりますので、他店より少々値が張るかもしれませんが、その分お客様にはご満足していただけると思いますよ」
これで少々? と疑問符を浮かべそうになったがなるほど、いわゆる高級店だったらしい。それならこの値段設定にも頷ける……かもしれない。
が、俺はそこまで性能には拘らないので普通の自転車が欲しい。そういった旨を店主に伝えてみたところ。
「普通のものですか。それでしたらあちらに量産品のものがございますが……」
店主が指した方を見れば、そこには隅の方に纏めて置かれている自転車群があった。この店からすれば安物なのだろうが、それでも一万円程度と今の俺にとってはそこそこのお値段。
一応手持ちの額的には少し……いや、かなり痛いが買えなくもない値段だ。うーむ、どうするか……。
「失礼ですが、お客様様はどのような自転車をお探しで?」
と、俺が悩んでいると店主の方から質問をされた。
そうだ、相手はこの道のプロフェッショナルだ。目的を話せば最適な自転車を選んでもらえるかもしれない。
「えっと、わたしトレーナーで旅をしてるんです。だから移動の時に自転車があれば便利だなと」
「おや、旅の方でしたか。しかしそうですね、それならばなおさらこちらの自転車はあまりオススメできません」
「え? どうしてですか?」
しかし返ってきたのはそんな返事だった。俺には何か問題があるようには見えないけれど。
「はい。旅の方ということは、様々な場所に赴くのでしょう? その際、折りたたみ式でもなければデータ化機構も無いこちらのものでは、却って邪魔になるかと思います」
「あ……」
言われてみて初めて気付く。
確かに普通の場所を通るだけならただの自転車で問題無いだろうが、洞窟や水上を通ったり、後々に“そらをとぶ"で移動する際はどうするのかという話だ。まさか担いでいくわけにもいかないし、放置していくなんてのは以ての外だ。
ではどうするのかというと、この世界の道具には『データ化機構』というものが備わっているものがある。
これは読んで字の如く物質をデータ化して圧縮し、カードに保存することで持ち運びやすくするという機能だ。
詳しい理屈についてはよくわからないが、まあここら辺はポケモン世界特有の不思議な科学力の賜物なのだろう。要するに『科学の力ってすげー!』というやつだ。
つまり近辺を移動するだけならともかく、俺のように様々な場所へ移動するトレーナーならデータ化機構を有した自転車でないと不都合すると店主は言っているのだ。
そもそもこの世界では主にポケモンに乗って移動する方が一般的なのだろうし、そこであえて自転車を選ぶ人間もそう多くはないのだろう。つまり自転車は嗜好品に近いものであり、それならば多少割高になるのもまあ納得だ。
しかしながらその機能が内蔵された自転車の価格が
「ぐぬぬ……仕方ないかぁ……」
悩む理由が金額なら買えという格言もあるが限度がある。流石に十万なんて持っていないし、持っていたとしてもポンと出せるかはかなり怪しい。絶対に必要なものというわけでもないし、今回は縁が無かったと諦めるしかないな。
また来ますと店主に挨拶をして店を後にする。ああ、欲しかったなぁ自転車……。
肩を落としてとぼとぼと歩く。せっかくここまで順調だったのに水をかけられた気分だ……ハナダだけに。
なんて、下らないことを考えている余裕があるだけマシか。それにまだまだやれることはいくらでもある。
暗くなるにはまだもう少し時間があるし、もう少し町を観光していこうかな。ついでにバイトの募集が無いかも見ておこう。良さげなものがあればそこでお金を稼いで自転車代の足しにしていきたい。
というわけで掲示板の貼り紙を確認してみる。何かあればいいのだが……ん?
『未経験者歓迎! 服装自由! 今すぐお金が必要なあなたにオススメ! 荷物を受け取るだけの簡単なお仕事です!』
「……うわぁ……」
いくつかの掲示物に混ざったそんな貼り紙を見て思わず引いてしまう。露骨な闇バイトじゃねえか。なんだってこんなもんを堂々と張り出してんだ。
しかしここまで露骨でも純粋な少年少女たちは引っかかってしまいかねない。危ないので今すぐひっぺがして破り捨てておきたいところだが、確かこういう張り紙は勝手に剥がしたりすると問題になった気がする。
これに関してはカスミか誰かに伝えて正式に剥がしてもらう方がいいか。全く、誰がこんなもんを……。
と、少し考えてすぐに思い至る。
「……確かハナダって色々事件起きるよな……?」
ゲームにおいて、ハナダシティはロケット団関連の事件が起こる最初の町だ。
それは例えば盗難騒ぎであったり、ハナダ北部にあるゴールデンボールブリッジ付近で行われているロケット団への勧誘であったり。
それを考えると、この町には既にロケット団が潜伏しているのではないかと予想できる。そしてこの張り紙もおそらくはその誰かが張ったものではないだろうか。
……これは、あまりのんびりしていられる状況ではないかもしれない。
「……変な犯罪に巻き込まれなきゃいいけどなぁ……」
どのタイミングで何が起こるのかはわからない。だがそう遠くないうちに確実に何かが起こる。
それがわかっているのだから、少しでも被害を防ごうと思うのならすぐにでもカスミに張り紙のことを伝えるべきだ。
ジムに行くのは明日でもいいと思っていたが事情が変わった。観光などと言っている場合では無い。
全く、せっかくの旅気分が台無しだ。早々にぶっ潰してやりたいところだが、そういうのは
というか怖い。本当に怖い。ガチ犯罪組織の相手なんかしたくないというのが本音だ。
俺はこの世界で無双して英雄になりたいのではなく、あくまでもポケモン世界を楽しみたいだけなのだ。上手く事が運べばレッドが全部解決してくれるのだから、俺が下手に介入して流れを壊す方がまずいだろう。
まあどうしても逃げられないようなら下っ端とは戦うかもしれないが、基本的には関わらないスタンスだ。間違っても幹部クラスと、ましてやサカキとやり合う気は一切無い。
とにかくまずはカスミに報告だ。その後ついでにコイキングの育成方法について聞く。これでいこう。
早く後顧の憂いを断って観光に専念したいものだ。