リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います   作:七色レインボー

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意外な試練があるらしい

 翌日、諸々の支度を済ませてポケモンセンターを出発し、ハナダジムが開く時間に合わせて訪問する。

 受付の人に挨拶すると既に話が通っていたらしく、少し待っているように言われたので指示通りにしていると。

 

「おはよう、リーフ。確かに待ってるとは言ったけど、まさかジムを開けた直後に来るとは思わなかったわ。あなたが一番乗りよ」

 

 手を振りながらやって来たカスミは、白のへそ出しタンクトップにホットパンツという若干露出の多い服装だった。水着ほどではないにせよ、これもなかなか男の目を引く格好である。

 

「ご、ごめんなさい……迷惑でしたか……?」

 

「ううん、全然。むしろ嬉しいわ。それだけ頼りにしてくれてるのよね。教え甲斐があるってものだわ。それより口調、また戻ってるわよ」

 

「あ、ごめん……気を付ける」

 

 腹の辺りに吸い寄せられそうになる視線を意識して留めつつ、言葉遣いを正す。

 この場においてはこの『正す』というのが逆の意味になるのが不思議でおかしいところだ。意外とタメ口で話すのは難しい。

 それにしても俺が一番乗りだったのか。確かに昨日のような賑やかな喧騒も聞こえてこないし、カスミの他に誰かがいる様子も無い。

 どうせなら早くに行って、少しでも多くの時間を育成や勉強に充てたいと考えての行動だったのだが、営業時間内とはいえ少し早く来すぎたのかもしれない。

 

「あ、そうだ。これお土産。口に合えばいいんだけど」

 

「あら、気を遣わなくていいのに──あ、水羊羹(ようかん)じゃない。わたしこれ好きなのよね。ありがと、後でジムのみんなと一緒に食べましょ」

 

 さておき、昨日買っておいたお土産用の水羊羹をバッグから出してカスミに渡す。

 今日一日はお世話になるわけだし、これがお礼というわけではないがせめてもの感謝の気持ちは表したい。

 カスミの好みに合うかはわからなかったが、喜んでもらえたようで何よりだ。

 

「それじゃせっかく早く来てくれたんだし、早速始めましょうか。リーフ、水着は用意してるかしら?」

 

「うん。昨日ここで買ったよ」

 

「よし、なら一緒に着替えましょ。更衣室はあそこよ」

 

 言って俺の手を引いて歩き出そうとするカスミ。行く先は当然()()()()()だ。

 だが今の俺は確かに女子(『リーフ』)ではあるものの、中身は成人男性である。そんなやつが女子更衣室に入るのは問題でしかないし、入るつもりも毛頭無い。

 それは俺の良心が全力で止めているのもあるし、何より『リーフ』にもカスミにも失礼だからだ。

 かと言って男子更衣室に入るわけにもいかないし、わざわざ個室を用意してもらうのも気が引ける。だから──そのための対策は打っておいた。

 

「待ってカスミ。実はわたし──中に水着を着てきたの」

 

 服を捲って中の競泳水着をカスミに見せる。

 そう。この展開は最初から予想していた。ならば予め水着を着て来ればいい。そうすれば女子更衣室に入る必要は無くなる。

 もちろんパンツを忘れるなんてベタなこともしていない。きっちり確認済みだ。

 ふふ、完璧だ。これでカスミに後ろめたく思わずに済む。指導も気持ちよく受けられるというものだ。

 

「あら、準備万端ってわけ? やる気満々ね。いいわ、だったらわたしもリーフのやる気に応えてあげなくちゃね。わたしもすぐに着替えるわ」

 

 そんな俺の言葉を受けて、カスミが更衣室へ向かっていく──俺の手を引いたままで。

 

「……あ、あの、カスミ? わたし、もう着替えてるって……」

 

「それはわかったけど、どうせ荷物は置かなきゃでしょ? それにいくら中に着てるからって、外でその服脱ぐわけにもいかないじゃない。変な目で見られるわよ?」

 

 ……しまった、そこまで考えてなかった。

 

「だ、大丈夫だって! 今は受付さんしかいないし、荷物もそこら辺に置けば……」

 

「ダーメ! 人目に気を付けろって昨日言ったでしょ! それに万が一にも盗難があっても困るのよ。ジムのみんなを疑いたくないし、荷物はちゃんとロッカーの中に入れてもらうわ」

 

 俺の訴えにも取り付く島もないカスミ。

 な、なんで……! こうならないためにわざわざ着込んで来たのに……! 

 

「さ、行くわよ」

 

「ま、待って……あああ……」

 

 結局俺はカスミに抵抗できず、そのまま更衣室に連れていかれることになった。

 こ、こうなったらせめて即行で荷物をロッカーに入れて、カスミの方を見ないようにしてすぐに部屋を出よう。

 そう心に決めて、カスミがドアを開けた後に続く。

 

「あっ、カスミ来たのね──あら、もしかしてその子が例の子?」

 

「サクラ姉さん。ええ、そうよ。わたしの新しい友だちよ」

 

「ぶっ!?」

 

 ──瞬間、中にいた女性の下着姿が目に入り、反射的に顔を背けた。

 なんで誰かいんの!? さっきは俺が一番乗りだって言ってなかったっけ!? 

 

「ところでサクラ姉さんだけ? アヤメ姉さんとボタン姉さんは?」

 

「先に行ったわ。──ふぅん、なかなか可愛い子ね」

 

「でしょ? 後で姉さんたちとバトルしてもらうからね」

 

「ええ、わかったわ」

 

 そんな会話が隣で行われるが、カスミの話し相手は下着姿だ。どうして当然のようにその状態で普通に会話を続けているのか、これがわからない。

 ……ん? というか、姉さん? 

 

「か、カスミ……この人って……」

 

「え? ああ、ごめんね。この人はサクラ姉さん。わたしの姉の一人よ」

 

「はーい、姉さんでーす」

 

 なるべく視界に入れないようにしている端で、サクラと呼ばれたおっとりめの女性が手を振っているらしいのがわかった。

 そうか、そういえばカスミには三人の姉がいるんだった。にしたってこんなところで出くわすとは……。

 

「初めまして、リーフちゃん。わたしはサクラよ。よろしくね」

 

 そうしてサクラが自己紹介を始めた。……もちろん下着姿のままで。

 

「……あ、あの、せめてタオルか何か巻いてください……」

 

「あら、別に女同士なんだし気にしないわよ?」

 

「わたしが気にするんです!」

 

 そりゃ女同士ならそうなのかもしれないが目に毒すぎる。こんなのまともに視界に入れられるか。顔すらろくに見られやしない。

 

「あらあら、初心な子ねぇ。ねえカスミ、わたしこの子気に入っちゃった。貰ってもいい?」

 

「ダメよ。リーフは遊びじゃなくて学びに来たんだから。サクラ姉さんじゃ詳しい育成のやり方とか教えられないでしょ?」

 

「あら残念。ならそれが終わったら遊びましょうね」

 

 言って、サクラは着替えに戻っていった。

 ……やはり事前に水着を着て来てよかった。ただ着替えるだけでも試練だというのに、この様子だとサクラに絡まれていた可能性もそこそこ高い。

 そうなれば着替えどころではなくなるのが目に見えているし、朝の俺を褒め称えてやりたいところだ。……まあ、詰めが甘かったところはあるのだが。

 

「あはは、ごめんねリーフ。びっくりしちゃった?」

 

「びっくりというか……下着姿の人が話しかけてきたら普通戸惑うものじゃない?」

 

 サクラを見ないようにそそくさと適当なロッカーを開け、その中に荷物を放り込む。

 仮にサクラを男に置き換えたとしても、パンツ一丁で突然話しかけられたらおそらく俺はさっきほどではないにせよ困惑していただろう。

 カスミの言う通り、あれは身内同士のやり取りだったからこそ成立するもので、決して普通の感覚ではない。

 ……そのはずだ。というかそうであってほしい。

 

「それは……確かにそうかも。身内だからそこら辺の基準が甘くなってるのかしら。ま、その話は後にしましょ。それより早く着替えないとね」

 

「え、ああ、うん、そうだね」

 

 着替えと言っても俺は服とスカートを脱ぐだけなのだが、なんて思っていると。

 

 ──しゅる。ぱさっ。

 

「……っ!」

 

 衣擦れの音がすぐ隣と背後から聞こえてきた。

 少し視線を動かせば見えてしまうような距離で、ハナダの美人姉妹が着替えている。その事実がどうしようもなく男の本能を刺激してくる。

 

 ──少しくらい見てもバチは当たらないだろ。なあに、今の俺は『リーフ(女の子)』なんだ。カスミもサクラも気にしやしないって。

 

 そんな悪魔の囁きが脳裏をよぎった。

 少しなら見ても……いいや、ダメだ。誘惑に負け、一時の欲に溺れてしまえばきっと俺は自分を許せなくなる。

 本能に抗うように目をぎゅっと瞑り、カスミとサクラを背にするような角度になって素早く衣服を脱ぐ。そうして脱ぎ終わったものを全てロッカーの中にぶち込み、ボールだけ残して鍵を閉めた。

 

「じ、じゃあわたし先に行くから!」

 

「はーい、待っててねー」

 

 カスミの声にも振り返らずもう一つある扉──おそらくはプールに繋がっている方を開けて外に出ると、そこには人気(ひとけ)こそ無いものの予想通りの光景が広がっていた。これでどうにか不義理を働かずに済んだだろう。

 ……いや、というかあの二人も普通に全部脱ごうとするなよ。ちょっとはタオルなりで隠そうとする意志を見せろよ。そっち向いたら丸見えだっただろあれ。

 女同士ってそういうものなのだろうか。確かに男同士でも気にしない人は気にしないものだったが。

 なんだか始まる前からどっと疲れてしまった。これからの指導が少し不安になる。

 

 それから少し経って、昨日と同じセパレートタイプの青い競泳水着に身を包んだカスミがやって来る。

 ちなみに既にプールで泳ぎ始めているサクラは赤いワンピースタイプの水着だった。さっきは咄嗟に顔を背けたのでほとんど顔を見られなかったが、改めて見ると横顔からでもわかるほどの美人だ。カスミも間違いなく美少女の類だし、顔の良さは血筋なのかもしれない。

 他にも二人ほど泳いでいる女性が見えるが、あの二人が次女(アヤメ)三女(ボタン)なのだろう。

 

「さ、それじゃ早速始めていくわよ!」

 

「はい、お願いしますコーチ!」

 

 と、カスミの声に余所見をやめて返事をすると、何故かカスミは微妙な顔になった。

 あれ? 何か変なことしたか? 

 

「あー……やりたいことはわかるんだけど、そういうのもやめてもらえる? 普通に友だちとして接してもらいたいわ」

 

「わ、わかった……」

 

 一応指導ということでメリハリを付けるのと気持ちを入れようと思ったのだが、お気に召さなかったらしい。残念。

 というかさっきもさらっと言っていたような気がするが、カスミ的には俺はもう友だち判定なのか。別にそれを指摘するような野暮はしないが、なかなか緩い判定だ。

 ともあれプールの中にコイキングを解き放つ。さあ、特訓の開始だ。

 

「うん、相変わらず元気なコイキングね。とりあえずは昨日言った通り、このレーンの中をひたすら泳いでもらうわ。もちろん疲れたら休憩を取ってもいいけど、わたしがいいと言うまではなるべく長く泳ぎ続けること。できる?」

 

「コッ!」

 

 コイキングの元気な返事。あいつもまたやる気のようだ。

 

「よし、いい返事ね。それじゃあ行きなさい!」

 

「コーッ!」

 

 そうしてカスミの号令でコイキングがレーンを泳ぎ始めた。

 ……張り切ってるみたいだけど、あんなに力一杯泳いで体力は持つのか? 

 

「あの、あれって……」

 

「ええ、あれじゃすぐバテるでしょうね」

 

 みなまで言わずとも俺の疑問を察したカスミが即答する。

 やっぱりか。長距離走の序盤で全力疾走してるようなものだしなぁ……。

 

「でもいいのよ。必要なのはやる気で、ペース配分は徐々に掴んでいけばいいわ。それが()()になるんだから」

 

 だがカスミはそれでいいと言う。

 それならその言葉を信じよう。こと『みず』ポケモンの育成において、俺がカスミに言えることなど無いのだから。

 

「さて、コイキングはあれでいいわね。次はあなたよ、リーフ」

 

「あ、うん。何をすればいいかな?」

 

 確か昨日に頼み事を聞いてもらうと言っていたしその件だろうか。俺にできることならなんでもやるつもりだけれど。

 そう思いながらカスミの次の言葉に耳を傾ける。

 

「決まってるじゃない。あなたも一緒に泳ぐのよ」

 

「えっ……」

 

 そして告げられた二の句に理解が及ばなかった。

 泳ぐ? なんで? 

 

「えっと……それって訓練と何か関係あるの?」

 

「もちろん大アリよ。だってポケモンが頑張ってるのにトレーナーは見てるだけなんて、そんなこと無いでしょ? ポケモンが泳ぐなら一緒に泳ぐ。走るなら一緒に走る。当たり前のことじゃない」

 

「な、なるほど……」

 

 言われて納得する。

 思えば体育の授業なんかで持久走を走らされた時、先生は立っているだけなのにと怒りを覚えたことが何度もある。その時のモチベーションの落ちようったらなかったし、カスミが言っているのはそういうことだろう。

 であれば俺も泳ぎの訓練をすることでコイキングの苦難を擬似的に共有すれば、そういう不満は無くせるかもしれない。

 だがそれはなんというか……やや体育会系的な考え方のような気も……いや、実際カスミはそれで成功しているんだし、ここは素直に従っておくべきか。

 だがそれをするにあたって問題が一つ。

 

「……あの、カスミ。言い難いんだけど……」

 

「ん? どうしたの?」

 

「……実は、その……わたし、泳げなくて……」

 

 そう。何を隠そう、この俺は筋金入りのカナヅチなのである。

 別に水への恐怖心があるわけではないのだが、どんなに泳ごうと試みても体が沈むばかりで全く前に進まない。

 周りからは『なんで泳げないの?』等と聞かれたものだが、俺に言わせれば泳げる人間の方がおかしいと思う。

 そもそも人間は陸で生きることを選択した生き物であり、わざわざ泳ぐ必要なんてないのだ。自分から望まなければ水辺に行く機会なんてそうそう無いし、その道を目指すつもりも無かったので泳ぎを覚える必要性も感じなかったのだ。

 ……なんて思っていることがカスミにバレたら怒られてしまうだろうか。現に今泳げなくて困っているわけだし、余計なことは言わないでおく。

 

「あら、そうなの? でも大丈夫よ。それならわたしが教えてあげる。必ず泳げるようにしてみせるわ!」

 

 任せなさいと胸を叩くカスミ。

 正直に言えば全く気が進まないのだが、何故かカスミは随分とやる気みたいだし断るのも気が引ける。

 それにさっきカスミが言っていたように、コイキングが頑張っているのだから、俺も見ているだけというわけにはいかないだろう。

 

「お、お願いします……」

 

 そんなわけで、俺は少々引き気味にカスミの申し出を受け入れて準備運動を始めた。

 

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