リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います   作:七色レインボー

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特訓するらしい

 カスミから直々に教えを受けてから約一時間後。案の定バテバテになっていたコイキングに声を掛けて休憩時間を取ることになった。

 もっとも、バテているのはコイキングだけではないのだが。

 

「つ、疲れた……」

 

「ふふ、お疲れ様。はいこれ。プールだと気付きにくいけど汗もかいてるからね。水分補給はしっかりしないと」

 

「うん、ありがとう……」

 

 プールサイドに座り込んでカスミからスポーツドリンクを受け取りそれを嚥下すると、ほんのりとした甘みが体に染み渡っていくのを感じた。

 水から上がった時特有の、体が(なまり)になったかのような疲労感を味わうのも久方振りである。

 水泳の後はいつもこうだったっけ。後の授業で何度も寝落ちしかけたのも今となっては懐かしい思い出だ。

 

「にしても……ふふっ、あの時のリーフったら本当に……」

 

「わ、忘れてください……」

 

 カスミの言葉に頬が熱くなっていくのを感じながら、先程までのことを振り返る。

 カスミの指導は俺がどんな泳ぎ方をしているのかを見てもらうところからスタートしたのだが、どうやら俺は正しいフォームと比べると下半身がかなり沈んでしまっているようで、まずはそれを矯正しようということになった。

 

 プールサイドの壁に手をつけながら、体に余計な力は入れないように、頭を下げて耳から腰までのラインが直線になるよう意識し、水平姿勢をキープしてそこからバタ足をする。これを続けて正しい姿勢を体に覚え込ませるのが目的らしい。

 それ自体は理にかなっていると思ったし、反対する理由も無いので言われた通りに練習をしていたのだが、それが起きたのはカスミがおもむろに俺の腰辺りに手を差し入れてきた時だった。

 

 もちろんカスミに悪戯のつもりや邪な意図があったわけじゃないのはわかっている。単に沈まないように支えてくれただけなのだろう。

 だが不意打ち気味にそれをやられたものだから、思わず素っ頓狂な声を上げてしまったのだ。『ひゃんっ!?』じゃねえよ女子か。……女子だったわ。

 恐る恐るカスミの方を見たら、そのことを謝罪された後に微笑ましいものを見るような顔で『可愛い声だったわよ』って、顔から火が出るかと思った。あれは早急に記憶から消したい。

 

「ごめんごめん。でも少しずつ泳げるようになってきてるじゃない。凄いわリーフ」

 

「うーん……あれを泳げてると言っていいのかどうか……」

 

 カスミはそう褒めてくれるが、実態はプールサイドに手をつけた状態でならなんとか形になってきている程度である。あれを泳げている内にカウントするのは難しいだろう。少なくとも自己申告で『わたし泳げます』と言う気にはなれない。

 

「あら、自分じゃわからないかもしれないけどかなり上達してるのよ? 水平姿勢は全ての基本なの。それができるようになってきたってことは、泳ぎの半分はできてるってことなんだから」

 

「そ、それは大袈裟だと思うけど……でもありがとう」

 

 しかしカスミは、そんな俺の若干後ろ向きな考えを否定するように言葉を続けた。

 どこまで本気で言っているのかはわからないが、俺という人間は単純なもので、褒められるとつい嬉しくなってしまう。例えそれが方便だったとしてもだ。

 どうやらカスミは褒めて伸ばすタイプのようだが、その方針は奇しくも俺に合ったやり方だと言える。そういう意味では俺とカスミは相性がいいのかもしれない。

 

「うん。なら次は実際に向こうまで泳いでみましょうか」

 

「え、もう? でもわたしまだ全然だよ?」

 

 なんて思っていると、カスミはプールサイドの向こう岸の方を指しながらそう言った。

 確かにある程度は形になってきたと思うが、それも壁に手をついてようやくといった感じだ。まだ泳ぎ始めるには早いような気がするが。

 

「大丈夫よ。最初はわたしが手を引いてあげるし、もし溺れそうになってもすぐに助けてあげるから。それに基礎ばっかりやってても飽きちゃうからね。実際に泳ぐ感覚を覚えてもらった方が、きっとこの後の練習も楽しくできるわ」

 

 カスミの言葉を聞いて納得する。なるほど、要するにマンネリ打破の一環というわけか。

 別に俺はこの訓練に不満を言うつもりは無いが、確かにそればかりやり続けていると多少は飽きが来るかもしれない。

 訓練といえばどうしても面白みに欠けるというイメージが浮かんでしまうが、それも指導者の工夫次第。つまりはこれがカスミなりの工夫ということなのだろう。そういうことならまだ不安は残るが言う通りにしよう。

 そうして十分な休憩時間を取ってから、俺たちは再びプールの中に入る。

 

「じゃあ、はい。ゆっくりでいいからそのまま泳いでみて。姿勢を意識するのよ」

 

「う、うん。──すぅ……はぁ……よし!」

 

 カスミが差し出した手を取り、深呼吸をしてから顔を水につけて、下半身が沈まないように水中に浮かび上がる。

 そうして意を決して足をばたつかせれば、確かに前に進んでいるような感覚があった。

 

 ──およ……げてる……? ……泳げてる! 

 

 万年カナヅチで水泳とは無縁だったはずの俺が、カスミのサポート有りきとはいえ泳げている。前に進んでいる。

 水中でなければきっと歓喜で声の一つでも上げていただろう。それほどまでに今までの俺では有り得ざることだったのだ。

 これも全てはカスミのおかげだ。まだまだ自力で泳げたわけではないが、それでも初めて明確に水泳というものに触れた気がする。

 

 この感覚を覚えた今なら、カスミが言っていたようにこれからの訓練にも更に身が入りそうだ。

 これを泳ぎ切ったら、水泳の楽しさを教えてくれたカスミに感謝を伝えよう。そう思いながら少しだけ顔をカスミの方に向けて──すぐさま元に戻した。

 

 ……だって、カスミの健康的で引き締まったお腹がすぐ近くに見えてしまったから。綺麗なへその形まではっきりとわかるくらいに。

 カスミは善意でやってくれているというのに、どうして俺はこう余計なものにうつつを抜かしてしまうのか。これでは二つの意味で顔向けできなくなる。

 

 これ以上邪な感情を抱く前に早く泳ぎ切ってしまおう。幸いプール幅はそれほど広くもないので息継ぎ無しでもなんとかなる。

 そう考えて他に何も目に入らないよう、プールの底を見ながら無我夢中で足を動かし続ける。

 

「あっ、ちょっ──ぐえっ」

 

 そうして無心で泳ぎ続けていると、頭が何かとぶつかった。きっと向こう側に着いたのだ。

 だがそれにしては痛みが無い。壁と衝突したのならもっと硬い感触が頭に伝わるはず。なのに今ぶつかったものは柔らかいような、少し硬いような、不思議な弾力があるものだった。

 それに頭上から潰れた蛙のような声がしたような気もする。声の主はカスミなのだろうが、どうしてそんな妙な声を? 

 

 果たして、答えはすぐに出た。

 一度泳ぐのをやめて立ち上がろうと顔を上げた時、肌色が目と鼻の先に見えた。何かと思ってそのまま視線を上げていけば、苦悶の表情を浮かべたカスミと目が合う。

 

「あ、あはは……うん、よく泳ぎ切ったわね……。でも危ないから次からは前を向いて泳ぎましょうね……」

 

「……──っ!? ごごごっ、ごめんなさい! わたしそんなつもりじゃっ!」

 

「いいのいいの、わかってるから。でもちょっとだけ休ませてね……」

 

 心配させまいと無理やり作ったような笑顔で言いながら、お腹を押さえてプールを上がるカスミ。

 状況から察するに、さっきぶつかった不思議な感触はカスミのお腹なのだろう。そして俺はそこに思いっ切り頭突きをぶちかましたというわけだ。

 とんでもないことをやらかした。()を見ないようにしたせいでこんなことになってしまうとは。

 

 というかカスミもカスミで避けてくれればよかったのに……いや、違うな。あそこでカスミが避けてしまうと俺の頭がプールサイドの硬い壁に激突してしまうから、あえてカスミは体を張って受け止めたのだ。それくらいは考えずともカスミの人柄を見てれば簡単に予想がつく。

 

「あああ……ごめんなさいぃ……」

 

 横たわるカスミを前に、俺はそんな情けない声で謝罪することしかできなかった。

 

 

 ◓

 

 

 その後復活したカスミにまた手を引かれつつ、気まずいながらも今度はちゃんと前を見るようにして泳ぐことしばらく。

 俺のフォームが疲労で崩れてきたのを頃合いに、再び休憩の時間に入った。

 

「うん、なかなか様になってきたわね。それでどうだった、リーフ?」

 

「はいっ! 綺麗でしたっ!」

 

 カスミからの質問に反射的にそう答えると、カスミは不思議そうに首を傾げる。

 しまった。咄嗟にあの光景の感想が口から出てしまった。誰がこの状況で自分の腹を見た感想を求めるというのか。

 

「綺麗? まあ確かに水の中って綺麗よね。でもそうじゃなくて泳いだ感想よ」

 

「え、あ、そ、そうだよね、あはは……」

 

 しかしカスミは俺の答えに突っ込むことはなく、カスミなりの解釈で都合よく変換してくれた。

 た、助かった。もし追求されていたらその時は腹を切って詫びるしか無くなる。いや、『リーフ』の体でそんな勝手はできないけれど。

 

「……そうだね。うん、初めて泳ぐのが楽しいって思ったかも。泳ぐってあんな感じなんだね」

 

 ともあれ、今度こそその問いにきちんと答えた。これもカスミが付きっきりで丁寧に指導してくれたからである。学校の授業ではこうはいかない。

 もちろん学校の授業は一クラスに対して教師一人で教える必要があるため、個人指導をする余裕が無いという事情もわかっているのでそれが悪いと言うつもりは無い。

 しかし泳げない人間にしてみれば、それは置いてきぼりを食らったような気持ちになってしまう。俺もその例に漏れず水泳に対するやる気を完全に失っていたし、それどころか苦痛とさえ思っていた。

 だが今は違う。ほんの少しだけれど泳いでみて、その楽しさの一端を知った。これも全てカスミのおかげだ。

 

「わたしに水泳の楽しさを教えてくれてありがとう、カスミ。わたし、頑張って泳げるようになるよ」

 

 カスミに感謝の気持ちを伝えるべく、俺は万感の思いを込めて笑顔で告げた。

 元々この訓練はコイキングが頑張っているから自分も何かやろうと思って始めたことで、別に本当に泳げるようになりたいわけではなかったが、これからはもう少し本気で取り組んでみてもいいかもしれない。

 

「──っ! ああもうっ! 可愛いわねっ!」

 

「!?」

 

 そう思っていると、突然カスミが俺に抱き着いてきた。しかもかなり強く抱き締めてきたせいで、人肌の温もりがダイレクトに伝わってくる。

 

「そんな風に思ってくれて嬉しいわ。教えた甲斐があったってものよ。いい子ね、リーフ」

 

 どうしていいのかわからず目を白黒させる俺に構わず、小さい子にするように頭を撫でてくるカスミ。

 声が近い。耳がゾワゾワする。それになんだか色々と柔らかいものが当たっていて精神衛生上非常によろしくない。

 さりとて引き剥がそうにもカスミに触れねばならないわけで、それはなんだかいけないことのような気がしてしまう。結果、俺は持ち上げた手を中空に彷徨わせることしかできなかった。

 

「あ、あの……カスミさん……?」

 

「──っと、ごめんごめん。あんまりにも可愛いからつい抱き着いちゃったわ」

 

 せめてもの抵抗にか細い声を上げると、それで正気に戻ったのか軽い調子で謝りながらようやくカスミが離れてくれた。い、一体なんだったんだ……。

 

「あの、カスミ……こういうのはよくないと思う……」

 

「あら、どうして? こんなのただのスキンシップじゃない」

 

「……それでも、です」

 

 そりゃカスミにしてみればそうかもしれないが俺視点からは違う。異性とのコミュニケーション能力に乏しい俺では、こんな時にどうすればいいのかがわからないので困る。

 何よりスキンシップの度に心臓が止まりかけていては身が持たない。カスミには悪いがここは釘を刺しておこう。

 

「うーん、さっきのサクラ姉さんの時もそうだったけど、リーフって恥ずかしがり屋というか照れ屋というか、確かに初心って感じがするわね。まあそこも可愛いけど」

 

「むぅ……」

 

 言いたい放題である。

 その評価には物申したいところだが、薮をつついて(アーボ)を出す可能性もある。ここは黙って受け入れるしかあるまい。

 

「ま、その感じなら上手い躱し方もわからないでしょうし、あんまり男に近付かない方がいいわね。不用意に笑いかけようものなら勘違いされるわよ?」

 

「しないよそんなこと……」

 

 何が悲しくて男にアプローチをかけないといけないのか。別に友だちとしてなら構わないが、男と恋愛する気は無い。俺の恋愛対象は一応女であることは変わっていないのだから。

 もっともこの体が『リーフ』のものである以上、勝手に誰かと関係を持つつもりも無いが。カスミの心配は杞憂というものだ。

 まあでも確かに『リーフ』に笑いかけられたら勘違いする男もいるかもだし、そこは気を付けた方がいいのかもしれない。

 ともあれ、この話を続けても俺に得があるとは思えないので話題を変えることにする。

 

「そういえばカスミ、わたしに何か頼み事があるって言ってなかった? それって結局なんなの?」

 

「ああ、それね。……そろそろ人も増えてきたし丁度いい頃合かしら」

 

 俺が水泳の練習をしている間に、にわかに人が増えてきたジム内を見渡しながらカスミが続ける。

 

「実はこの後でジム生のみんなとバトルしてほしいのよ。普段から組む相手を変えたりはしてるけど、それもどうしても限界があるからね。新しい刺激があった方が成長に繋がるわ」

 

「わかった。でもそれだけでいいの?」

 

「ええ、そうよ。あ、ちゃんとリーフのレベルに合った相手を見繕うからそこは安心して。レベル差がありすぎるとお互いのためにならないしね。戦績次第ではジム戦でのトレーナー戦をパスしてもいいわよ」

 

「うん……って、ええっ!?」

 

 そうしてもっともらしい理由を述べた後に、カスミはとんでもないことを言い出した。

 

「い、いいの? それってわたしに得しかないんじゃ……」

 

 一見すればカスミが外部からの刺激を取り入れようとこちらに協力を頼んでいる図に見えるかもしれないが、その実態は一方通行ではなく両者両得の関係になっている。

 だって確かにジム生も刺激を得られるかもしれないが、俺だって相手のレベルを合わせてくれるならバトルの経験を積めるのだ。むしろこちらからお願いしてもいいレベルである。

 その上でジム戦時のトレーナー戦をパスできるなら、それはもはや頼み事ではなく俺が得するだけの提案でしかない。

 

「いいのよ。元々トレーナー戦は挑戦者の力量を見極めるためのものだからね。ここでリーフの実力が見られるのなら省いても問題無いわ」

 

「それは……そうかもしれないけど……」

 

 だというのにカスミはあっさりとそう言ってのけた。

 どうしよう。コイキングの育成法を教えてもらい、ジムの設備を使わせてもらった上に、水泳の指導をしてもらった挙句ジムトレーナーとのバトルまで斡旋してくれるとは。

 あまりにも俺に都合が良すぎる展開になんだか怖くなって、冗談混じりにカスミに問うてみた。

 

「……ねえカスミ、もしかしてわたしを贔屓してる?」

 

「ええ、してるわよ。それがどうしたの?」

 

「……ええ……?」

 

 すると返ってきたのはそんなセリフだった。この女、全く悪びれもせずに言い放ちやがった。

 

「だ、ダメでしょそんなの。ジムリーダーがジム生でもない人を贔屓するなんて」

 

 ジム生たちはお金を払ってカスミに教えを乞いに来ている。そんな中でふらっと立ち寄った旅の人間が贔屓されていると知ればジム生たちにしてみれば面白くないはずだ。俺だって同じ立場にあれば不満の一つや二つは吐き出しているだろう。

 

「そもそも、なんでカスミはわたしをそんなに気にかけるの? わたし別に何もしてないのに」

 

 したことと言えば張り紙のことを教えたくらいだが、それについてもカスミは既に知っていたし、俺以外にも伝えに来る人間はそれこそジム生の中にもいただろう。だからそれ自体はカスミの好感度を稼ぐ要因にはならないはずだ。

 であれば一体何がカスミの琴線に触れたのか。そんな疑問をぶつけると、カスミは疑問の答えを口にした。

 

「簡単よ。わたしは頑張る子が好きなの。ほら、リーフは朝イチで来たじゃない。それだけやる気があったってことでしょ? 贔屓とは言ったけど、わたしはリーフのやる気に対して同じだけのものを返しているだけ。……まあ、リーフに関してはちょっとだけ甘くしてる自覚もあるけど……」

 

 果たしてそれが本当に()()()()なのかについては疑問が残るところだが、そこで口を挟まず続きを聞く。

 

「とにかく、別にリーフだけを依怙贔屓してるわけじゃないのよ。他のジム生にだって同じ熱量を感じれば、今のリーフみたいに付きっきりで教えたりするわ。本当に学ぶ気があるなら自分から動くはずだもの。今朝のリーフみたいにね」

 

 要するに尋ねられれば全て答えるし、希望すればいくらでも付き合うが、そうでなければ自分から教えることは無い、ということだろうか。

 それも一つの指導の形なのかもしれないが……。

 

「……なんか、ちょっと厳しいんだね」

 

 少しだけカスミのイメージが変わった。俺にそうしてくれているように、他の人にももっと親身になっているものかと思っていたから。

 

「……ねえ、もしかしてわたしがやる気を感じられなければすぐに放置する冷たい人間だって思ってない?」

 

 そんな俺の心を読んだのか、カスミがジト目でこちらを見てくる。す、鋭い……。

 

「い、いや、そこまでは……」

 

「やっぱり! 違うのよ!? うちのジム生に関してはもう教えられることは大体教え終わってるの! わからないことがあればいつでも聞きに来ていいって言ってるし、今日はたまたまそれが無いだけ! 普段はもっと頼られてるから!」

 

 必死の形相で捲し立てるようにそんな言い訳をするカスミ。それだけ先程俺が抱いたイメージはカスミにとって耐え難いものだったらしい。

 

「はぁ……大体、わざわざお金払ってジムまで来てるんだからみんな学ぶ意欲は十分あるわよ。それに何か困ってそうなら声くらいかけるし、リーフにだって色々提案したじゃない。完全放置なんてしないわよ」

 

「そ、そうだよね。ごめんね、変な勘違いして……」

 

 まあ実際のところ、本当にカスミがそんな人間なのであれば今頃ジムリーダーなんてやっていないだろう。

 タケシがそうであったように、ジムリーダーという職業は人から慕われる人間でなければ務まらないはずだ。

 理由がどうであれ、カスミの面倒見の良さは身をもって体感している通りであり、そこに疑問の余地は無い。

 

「……でも、わたしに甘くしてる部分もあるんだよね?」

 

 それはそれとして、俺を贔屓している部分も間違いなくあるようだが。

 

「だって、リーフってなんだか放っておけないんだもの。歳の割に結構しっかりしてるように見えるのに、変なところで無防備というか……一目見て『わたしが守ってあげなくちゃ』って思ったのよねぇ」

 

「……何それ……」

 

 聞いてもいまいちよくわからない理由だった。

 これでも一応中身は成人男性で独り立ちしていたし、精神的に歳下の少女に心配されるような謂れは無いはずなのだが。

 ……まあ、この世界に来る以前から何故か歳上に好かれやすい方ではあったが、まさかそれが関係しているのだろうか。カスミから見れば『リーフ』は歳下なのだろうし。

 だとしたら一体俺の何がそこまで気に入られる要因になっているのか。特別なことはしていないと思うのだが、不思議なものだ。

 

「ま、それはいいじゃない。それより少し早いけどお昼にしましょ。リーフは何かお弁当とか持ってきてるの?」

 

「うん、一応おにぎりとか買ってきてるけど」

 

「そう、なら一緒に食べましょ。わたしもお弁当持ってきてるから」

 

「へえ、もしかして手作り?」

 

「……そうよ! ……作ったのはアヤメ姉さんだけど

 

 後半は小声でよく聞こえなかったが、ともあれ弁当は持ってきているらしい。それなら一緒にお昼を済ませてしまおう。

 ……あれ? でも昼食を取るためにはまた更衣室に入らないといけないのでは? しかもよく考えたら帰りも……。

 

「ほら、行くわよリーフ」

 

「……はぁい……」

 

 ……一旦今は考えないようにしよう。さっと取ってさっと出れば大丈夫なはずだ。多分。

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