リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います 作:七色レインボー
程なくしてグリーンがゼニガメの回復を終え、俺と向かい合うように立った。
「準備はいいかの、二人とも?」
オーキド博士が問い掛けてくる。
「ああ、いつでもいいぜ」
「わたしも大丈夫です」
答え、ボールをいつでも投げれるように構えつつ、ちらりとグリーンの様子を窺う。
先の一戦で勝利を収めたからか、グリーンは更なる自信と気迫に満ち溢れているように感じた。こんな風に向かい合ってみて初めて感じるこのプレッシャーは、きっと『リーフ』も体感したことが無いものだろう。
「……むう。本当に大丈夫か、リーフ? 体が震えておるぞ」
「……あ、あはは……」
そんな博士の指摘。
さっきは大丈夫なんて言ってみたが、実際のところはさっきから体が震えっぱなしだ。
だって、あんなに凄いものを見たのだ。どんなに頑張って抑えようとしても、この震えは止まってくれない。
「おいおい、そんなんでバトルできんのかよ。怖いなら別にやめたっていいんだぜ」
「リーフ、無理はしなくてよいぞ。これから先、機会はいくらでもあるんじゃからな」
二人がそう声を掛けてくれる。博士はもちろん、グリーンもあれで俺を慮っての発言なのだろう。わかりにくいしもう少し言葉を選べよと思うけど。
だけど。
「……うん、大丈夫。やろう、グリーン」
「……リーフ」
「大丈夫です、博士。緊張してるし不安もある。ちょっと怖いとも思った。だけどそれ以上に──」
胸をぎゅっと押さえる。
俺の中に溢れる感情。どうやっても収まらないこの震えの正体は。
「──ワクワクしてるんです。さっきの二人を見て、本当に凄いと思ったんです。だからわたしも、あんなバトルをしてみたいって!」
──不安や恐怖を塗り潰す高揚感!
「はっ! 手加減なんかしねえぞ、リーフ!」
「当然! 全力で来てよね!」
「うむ! ではグリーン対リーフ──始め!」
お互いに腕を振り被ってボールを投げる。中から現れるのは当然、グリーンのゼニガメと俺のフシギダネだ。
「さあ行くよ、フシギダネ!」
「だねぇ!」
「連勝と行こうぜ、ゼニガメ!」
「ぜにぃ!」
「「“たいあたり"!」」
指示は同時。互いのポケモンが相手目掛けて駆け出していく。
距離はどんどん縮まり、やがて二匹が激しく衝突した。ゼロ距離での競り合いが始まる。
「押し切れゼニガメ!」
「負けないでフシギダネ!」
「ぜ〜にぃ〜……!」
「だ〜ねぇ〜……!」
二匹の力はほぼ互角のようだ。力任せに押し切るのは難しいだろう。だったら!
「フシギダネ! 姿勢を低くして潜り込んで!」
「だねっ!」
「ぜにっ!?」
フシギダネは四足歩行故にゼニガメより頭の位置が低い。だから少し姿勢を低くすれば簡単に懐に潜り込めるはず。
果たして目論見は上手くいき、フシギダネは見事にゼニガメの懐に潜り込んだ。よし、いいぞ!
「そのまま後ろに流して!」
「だねぇ!」
「ぜにぃ!?」
ゼニガメが前に出ようとする力を利用して、下から突き上げるような形で後ろ方向に力を誘導してやれば、体勢を崩して地面に転がせる。よし、完璧だ!
「今よ! “たいあたり"!」
「だーねぇ!」
あれじゃすぐには動けないはず。さっきレッドにやったみたいな“しっぽをふる"での撹乱もこの状況なら使えない。ファーストアタックは貰った!
「ゼニガメ、砂をぶつけろ!」
「ぜにっ──がぁっ!」
「ふ、ふしっ!?」
「あっ!?」
これならいけると思ったのも束の間、グリーンの指示でゼニガメが砂を握り締め、それを接近するフシギダネに向かってばらまいた。
思わぬ反撃に驚いてフシギダネが硬直してしまい、横に転がって逃げるゼニガメを追えずに攻撃を外してしまった。まずい!
「今だゼニガメ! “たいあたり"!」
「ぜにっ! ぜにぃ!」
「ふしぃっ!?」
「ああっ、フシギダネ!」
俺の指示も間に合わずフシギダネにゼニガメの“たいあたり"がヒット。体力を削られてしまった。
いや、それよりも抗議だ抗議!
「ちょっと博士!? 今の見ました!? ズルよズル!」
「はっ、何言ってんだリーフ! あれくらい環境利用の一環だぜ? そうだろじいさん!」
一時バトルを中断して
あんなの反則だ! ゼニガメは“すなかけ"なんて覚えないのに!
「ううむ……確かに行儀の良いプレイではないが、禁止行為とまでは言えんのう……。野良試合ならよくあることじゃし……」
「そんな!?」
「っしゃあ!」
しかし無情にも博士の判定的には無罪だったらしい。あ、あれが許されるの!? 孫だからって贔屓してない!?
「ちょっとグリーン! そこまでして勝ちたいの!?」
「ああ勝ちたいね! 勝負なんだから何をしてでも勝利を目指すのは当然だろ?」
クッソ、開き直りやがって……!
とはいえ、こういうなんでもアリなのがこの世界のポケモンバトルか。アニメでも度々環境利用はやっていたし、そういうのが許される世界なのだろう。
それにしたってちょっとダーティプレイだと思うけどな……!
「くっ……! フシギダネ、目は大丈夫?」
「だ、だねっ!」
「よし、じゃあいくよ! しっかりよく見て“たいあたり"!」
「狙いを付けさせるな、ゼニガメ!」
試合を再開し、なんとかさっきの分を取り返そうとするも、ちょこまか走り回るせいで攻撃が当たらない。
やっぱり闇雲に攻撃してもダメだ。なんとかして隙を見つけないと。そのためには……。
「攻撃一旦やめ! 相手の動きに合わせるよ!」
「だね!」
落ち着いて相手の出方を見る!
大丈夫、グリーンのカウンターへの対処法もさっき見た。俺は同じ手は食わない!
「お、そう来るか。んじゃこっちも──水を撒け、ゼニガメ!」
「ぜに!」
しかしグリーンもまた、俺の行動を見てゼニガメに指示を出した。
それは“みずでっぽう"──とまではいかないくらいの水の噴射で、ゼニガメの周囲はみるみるうちにぬかるんでいき、水を吸った土は泥に変わっていく。
……おい、まさか。
「さあ、お楽しみの時間だぜ! そいつを投げつけてやれ!」
「ぜに、ぜにぃ!」
「やっぱりぃーっ!?」
だからなんでさっきからそういうことばっか! 技を使え技を! ズルいぞちくしょう!
「ふ、フシギダネ! 頑張って避けて!」
「ふしっ!? だ、だねっ!」
あんまりにも雑な指示にフシギダネもさすがに一瞬困惑した様子だったが、それでもすぐに動いてくれるあたりとてもいい子だと思う。
にしても、お互い攻撃技が“たいあたり"しかないから遠距離攻撃は無いと思ってたのに!
「いい歳してまだ泥遊びしたいわけ? 子どもねグリーン!」
「お前に合わせてやってんだよ、泥んこリーフ! ありがたく受け取りやがれ!」
軽く挑発してみるも特に効果は無し。そりゃそうだ、相手だけ一方的に攻撃できる有利状況なのだから、こっちに取り合う必要が無い。
とはいえ、泥の攻撃も無限に続けられるわけじゃない。水の量は大したことなかったし、フシギダネも思いの外上手く避け続けてくれている。このままいけば泥の方が先に尽きるはずだ。
その時こそ攻撃のチャンス。頼む、頑張ってくれ……!
「ぜにっ、ぜにっ、ぜにっ、ぜにぃっ!」
「だねっ、だねっ!」
避けて、避けて、避け続ける。
泥の量も残り少ない。あと少し、もう少しだけ頑張れ……!
「ぜにっ! ぜにぃ!」
「だねっ、だねっ──ふしっ!?」
「あっ、フシギダネ!?」
そうして、もう残り二、三発というところで不運がフシギダネを襲った。地面に落ちた泥を踏んずけて滑ってしまったのだ。
「よっしゃ! チャンスだゼニガメ!」
「ぜ──にぃ!」
「だねっ……だねぇっ!?」
体制を崩して倒れ込んでしまうフシギダネ。そこに目掛けて放たれる泥の塊がべちゃべちゃとフシギダネの顔に張り付いて視界を奪う。
運が悪い……いや、グリーンのあの顔。さてはここまで見越して──!
「これでやつは無防備だ! 思う存分“たいあたり"を叩き込んでやれ!」
「ぜにぃっ!」
「くっ……避けてフシギダネ!」
「だね……だねっ!?」
避けろ、なんて言ってみても相手が見えないのだからどうしようもない。横に飛んで逃げようとしたものの、それを追うようにしてゼニガメの“たいあたり"が直撃した。
吹き飛ばされ、受け身も取れずに地面に蹲るフシギダネ。
「もう一度だゼニガメ!」
「ぜにぃ!」
再度ゼニガメの攻撃。これもまた対処が間に合わずまともに受けてしまう。
まずい、このままじゃ負ける! 何かないか、グリーンみたいに何か──!
「次でトドメだ! いけゼニガメ!」
「ぜーにぃ!」
迫るゼニガメ。動けないフシギダネ。
ここから何か、俺ができること──そうだ!
「フシギダネ、“つるのムチ"!」
「だねっ!?」
「──っ!? 下がれゼニガメ!」
「ぜにっ!?」
俺の言葉を聞いて即座に撤退を指示するグリーン。ゼニガメも困惑しながら、少し遅れてその指示に従い後ろに下がった。
そしてフシギダネはといえば──
「……チッ、ハッタリか」
そう。グリーンの言う通り、ただのハッタリだ。
そもそも俺が博士から教えてもらったフシギダネが今使える技は“たいあたり"と“なきごえ"だけであり、“つるのムチ"については言及されていない。
もちろんグリーンもその話は聞いていたが、それでも反射的に動いてしまったのだろう。
グリーンが優秀なのはこれまでに見てる通りだ。当然タイプ相性なんかの知識も頭の中にあるだろうし、多少なら御三家が覚えるタイプ一致技も知っているだろうと予想した。
だからこそ、このハッタリが効く。優秀であるが故に万が一を想定し、反撃に効果抜群の技を受けることを恐れ、ゼニガメに回避行動を優先させた。
グリーンの優秀さを逆手に取ったギリギリの作戦だったが、なんとか上手くいってよかった……!
「フシギダネ、今のうちに泥を落として」
「だ、だねっ!」
距離が空いたことでフシギダネが泥を落とす時間が生まれ、なんとか視力は取り戻せた。これでもう少し戦える……けど。
「やるじゃねえかリーフ。だがハッタリに頼るなんざ、そろそろ限界が近いんじゃねえか?」
グリーンの言う通りだ。
フシギダネの体力は残り少ない。対してゼニガメはまだまだ余裕といったところ。
本気でやってるのにこれだけの差だ。ポケモンはともかく、トレーナーとしての能力に開きがありすぎる。
だが、それでも──。
「──だから何?」
フシギダネはまだ立っている。戦おうとしている。相手を倒す気でいる。
だから。
「──ポケモンが諦めてないのに、トレーナーが諦められるわけないでしょうが!」
俺は最後まで戦う。トレーナーは、ポケモンの思いを汲んでこそだ!
「──いいぜ、上等だリーフ! これで終わりにしてやるよ!」
「ぜにぃ!」
ゼニガメが最後の一撃を与えるためにフシギダネへと猛進する。対してフシギダネの取れる選択肢は少ない。
不安げな瞳がこちらを向く。それに大丈夫と視線で返せば、相棒は頷いてゼニガメを真っ直ぐ見据え、迎撃の構えを取った。
グリーンは柔軟な思考と的確な判断力を持ち合わせている優秀なトレーナーだ。そしてその基盤になっているのは、周りの状況をよく見る観察眼にある。
グリーンの場合、この時の観察で得られる情報量が人より優れているのだろう。だからこそ素早い判断と優れた指示が行える。
生来の才能か、それともどこかで培われてきたものか。だがそれは今はどうでもいい。重要なのは、グリーンの戦略が観察から始まるということだ。
成功するかは賭けだがそれでも一つ、ここから逆転する起死回生の一手を思いついた。あとは俺が覚悟を決めるだけ。
「……よし、行くぞ」
息を吸い込み、そして一気に全てを吐き出すようにして声を張り上げる。
「グリーン!!」
「はっ、威嚇のつもりかよ! そんなもんで止まるわけが──」
大声を上げたことでグリーンの視線がこちらに向く。
そう、『何かしてくる』と思わせれば、グリーンの意識は少なからず俺に向けられると踏んだ。
だから──。
「えいっ」
「──は?」
スカートの裾を摘んで軽く捲り上げる。ゼニガメがフシギダネの目前に迫った。
グリーンの指示が無いことにゼニガメが困惑しながらも“たいあたり"を繰り出すが、直線で来るとわかっていれば避けるのは容易い。
攻撃を避けられたゼニガメがつんのめる。その後ろをフシギダネが猛追して。
「“たいあたり"!」
「だ──ねぇぇっ!!」
「ぜ──ぜにぃっ!?」
無防備を晒したところに渾身の“たいあたり"が直撃し、それでも起き上がろうとしたゼニガメに素早く近付いてマウントを取った。
これでゼニガメは動けない。動こうとしてもこっちの攻撃が先に当たる。
いわゆる詰み状況というやつだ。これでどうだ!
「──うむ。勝負あり、じゃな。グリーンもそれで良いな?」
「………………ハッ!? ち、ちょっと待てよじいさん! あんなの反則だろ!?」
ようやく正気に戻ったらしいグリーンが博士に詰め寄る。全く、何を言ってるのやら。
「何言ってるのよグリーン。あんなのバトルしてれば技の余波とかでも起きることでしょ。そうですよね、博士?」
「お前たちは全く……」
博士が呆れている。グリーンの抗議が見当違い過ぎて失望しているのだろう。
「こんなん無効に決まってんだろ! バトルじゃオレが圧勝してたんだからオレの勝ちだ!」
「バカなこと言わないでよ! 何をしてでも勝ちを目指せって言ったのはグリーンでしょ!? わたしの勝ちよ!」
「ふざけんな! お前はトレーナーどころか女としてのプライドもねえのか!?」
お互いに勝ちを譲る気は全く無い。やいのやいのと言い合いは続く。
「何よ、だいたいあのくらいで動揺する方が悪いでしょ! ちょっとスカート捲っただけで、別に中が見えたわけでもあるまいし──」
「…………」
「……え? 何その反応。ちょっとグリーン、こっち見なさい。ねえ! 見えてないわよね!? ちょっと!?」
見えない程度に軽く持ち上げただけのつもりなんだけど!? 本当に見せてたら痴女じゃないか!
「あーもううるせえ! そもそもお前、お淑やかがどうのとか言ってたじゃねえか! やってることが真逆なんだよ!」
「それは今関係無いでしょ!? 何顔赤くしてんのよこのむっつりスケベ!」
「んなっ!? んだとこの露出狂が! レディを目指してんならお子様パンツなんか履いてんじゃねえ!」
「なっ……! 見たのね? やっぱり見たのね!?」
実のところ、俺が今どんな下着を着けているのかはいまいちよくわかっていないのだが、記憶の中の『リーフ』はそういう下着を持っていなかったようなので、グリーンからそういう感想が出るということは俺の下着を見たというのは間違いないだろう。
消す。確実に消す!
「わかった、今すぐ記憶を消してあげるからそこを動かないで!」
「はっ、結局暴力か! 所詮ギャラドスはギャラドスだな!」
「あっ、逃がすか! 行くわよフシギダネ──あれ?」
「だねだね♪」
「ぜにぜにぃ!」
「…………」
そんな口論が続き、逃げるグリーンを追いかけようとフシギダネの方を見れば、あれほど激しいバトルを繰り広げていた二匹はとっくに俺たちを離れ、レッドと遊んでいるのであった。