リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います   作:七色レインボー

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冒険が始まるらしい

 グリーンとの壮絶な追いかけっこを終え、まだ渡すものがあるからと博士に連れられて研究所への帰路に就く間、俺はさっきのバトルに思いを馳せていた。

 やはりというか当然というか、時間の許す限りいくらでも考えられるゲームとはまるで違う。こちらが考えている間にも相手は動き続けるし、常に変わり続ける状況に対して適切な判断をしなければならない。

 更に実際に行動するのはポケモンである故、ちゃんと意味が伝わるように指示を出す必要があるのに、それを時間にして数秒の間に思考して行うのだから、難しいなんてものじゃなかった。

 今回なんとか形になっていたのは、事前にレッドとグリーンのバトルを見ていたことと、能力差の小さいポケモン同士で使える技も二つだけと、お互いに取れる選択肢が少なかったことが大きい。

 これが取れる戦法の増えた最終進化系同士の戦いならもっとボロボロだっただろう。最悪、何もできずにやられていたかもしれない。

 

「どうしたリーフ? 何ボーッとしてんだ?」

 

「え? いや、ちょっとさっきのバトルのこと考えてて……」

 

「ああ、あれか。まあそこの赤ちゃんはほっとくとして、お前はなかなかだったぜ。何せ卑怯な手を使ったとはいえ、このオレ様と引き分けたんだからな」

 

「は? あのまま続けてたらわたしが勝ってたんだけど? それに卑怯な手なんて使ってないし」

 

 どうやらこのツンツン頭は意地でも自分の敗北を認めたくないらしい。誰がどう見たって俺の勝ちは明白だったのに、筋金入りの負けず嫌いである。

 

「こりゃ、二人ともいい加減にせんか。それ以上続けるようならポケモンも返してもらうぞ」

 

「「うっ……」」

 

 そして再び口論が始まりそうになったところで博士の制止が入る。

 それだけは絶対に嫌だ。せっかくポケモンとの旅という夢が叶うところなのに。

 仕方ない、ここは大人しくしていよう。文字通りに俺は大人なのだから。

 

「全く、レッドは大人しくしとるのにお前たちと来たら……」

 

「そりゃそうだろ。レッドは普通に負けたじゃねえか。文句言える立場じゃねえよ」

 

「素直に負けを認められるのも大事なことじゃ。それに負けを引きずらず、切り替えられる強さも持っておる。案外、一番強くなるのはレッドかもしれんぞ?」

 

 確かにレッドは負けた直後こそ震えるほどに悔しそうにしていたが、その後は普通にフシギダネたちと遊んでいたし、こうやってレッドを見る限りでは無理をしているようには見えない。

 博士の言う通り、負けを引きずらないタイプなのだろう。こういう精神を持つことが大物になる秘訣なのかもしれない。

 

「レッドが? ははっ、ありえねー。最強になるのはオレ様って決まってんだよ」

 

 そんな博士の言葉を鼻で笑うグリーンだが、やがて来る未来で本当にそうなることを彼は知らない。嗚呼、いと哀れなり。

 

「……あん? 何見てんだよリーフ」

 

「いや、将来が楽しみだなって」

 

「おっ、わかってんじゃねーの。幼馴染のよしみで今のうちにサイン書いてやってもいいぜ?」

 

「いらない」

 

 博士の人を見る目って確かなんだなぁと思った。

 

「そうじゃ。強さで思い出したがリーフ、お前さんもよく勉強しとったな」

 

「え?」

 

 などと話していると、突然博士にそんなことを言われた。勉強なんて生まれてこの方まともにしたこと無いんだけど……。

 困惑している俺に博士が続ける。

 

「ほれ、泥を食らって追い詰められた時じゃよ。教えていないのに“つるのムチ"を指示したじゃろ? よくフシギダネの覚える技を知っておったのう」

 

「あ……ま、まあ、それなりに……あはは……」

 

 これは褒められているのだろう。だが俺はそれに対してはっきりと返事をすることができない。だって、その理由を答えられるはずがないのだ。

 俺が唯一グリーンより──いや、おそらくこの世界の誰よりも豊富に持っているであろうもの。それはポケモンの知識だ。

 といってもこの場合のポケモンの知識というのは生態とかそういう専門的な話ではなく、ゲームとしてのポケモン──特に対戦で使う知識を指し、つまりは覚える技や特性、種族値といったものがそれに当たる。

 さっきのバトルの例でいえば『フシギダネは“つるのムチ"を覚える』という知識を活かしてハッタリを仕掛けたわけだが、この知識の出処はこの世界を舞台にしたポケモンというゲームから来たものであり。

 元の世界ではひたすらポケモンをやり込んで対戦にまで手を伸ばしていたので、そこら辺の知識については自信があるのだが、そんなことを正直に告白してしまえば『頭のおかしいやつ』という扱いは免れないだろう。

特にグリーンからは盛大にバカにされるに違いない。故にここはお茶を濁すしかないのだ。

 

「いやはや、全く驚いたわい。もしかしたらわしの夢に一番近いのはリーフかもしれんな」

 

 幸い博士は俺の知識の出処を追求してくることはなく、感慨深そうにそう言った。

 まあどうあれ褒められて悪い気はしない。ここは素直に受け取っておくとしよう。

 

「……けっ。あれくらい当然の知識だっての」

 

 と、人がいい気分になっているところに、グリーンが不貞腐れた声で呟いたのが聞こえた。

 いやまあ、確かにあれくらいはこの世界でもちょっと調べればわかるくらいの知識だけど、何も人が褒められてる時に水を差さなくても……。

 というかもしかして。

 

「何、グリーン? もしかして拗ねてるの?」

 

「すっ……!? んなわけねえだろアホリーフ!」

 

 わかりやすく動揺してるなぁ。

 まあどんなに強がったって所詮は11歳の子どもだ。自分の祖父が周りばかり褒めて自分の相手をしてくれないとなると、拗ねたくなっても不思議は無い。

 わかる、わかるぞグリーン少年。

 

「その目やめろ。不愉快極まりねえ」

 

 グリーンの目に殺意が灯る。何かが逆鱗に触れたらしい。さて、何が原因なのやらさっぱりわからないなぁ。

 

「ああそうじゃ。グリーン、お前にも言いたいことはあるぞ」

 

「! なんだよじいさん、だったら最初から言えっての! まあオレ様くらい天才のバトルを見たら言葉に迷うのもわかるけどな!」

 

 ……本当にわかりやすい。

 でもまあ実際グリーンの試合運びは天才的だったし、何か褒めるにしても絞り切れなかったといったところ──。

 

「お前はその捻くれた性格を直すべきじゃな。それと言葉にも気を付けておけ。これから旅に出るというのにそんなことではいかんぞ」

 

「……………………」

 

 ……流石にちょっとかわいそうだなと思った。

 

 

 ◓

 

 

 研究所に戻った後もまた怒涛の展開だった。

 渡し忘れたもの──すなわちポケモン図鑑をグリーンが受け取り……というか、ほぼ奪い取るようにしながら『じいさんなんか簡単に超えてやるからな! 見とけよバーカ!』と捨て台詞を吐いてさっさと出ていってしまったのだ。

 その姿を見てまた追いかけようとした博士だったが、流石にグリーンを不憫に思ったので『そんなことより図鑑について教えてください!』とか適当なことを言いながら、レッドと二人がかりで博士をその場に留めておいてあげた。マジで感謝しろよグリーン。

 

「全くあいつは……! 本当に誰に似たんじゃ……!」

 

「ま、まあまあ……。でもあれは博士も悪いと思いますよ? グリーンの欲しかった言葉がわからなかったわけじゃないでしょうに」

 

「…………」

 

「む……」

 

 レッドもこくこくと頷き、博士が言葉に詰まる。

 実際、あの流れで自分だけ説教されたらグリーンでなくとも面白くないだろう。それが本当にわからなかったのだとしたら、博士のグリーンへの愛情を疑わなければならない。

 

「……はぁ。わかっておるよ。わかっておる。確かにグリーンのバトルセンスはこの中でも頭一つ抜き出ておった。若くしてチャンピオンの座に着いた者も何人か知っておるが、孫という贔屓目を抜きにしてもグリーンの才能はそれに並ぶかもしれん」

 

 おおう、予想外の高評価。

 でもそれも当然というか、実際一瞬とはいえグリーンはチャンピオンになるわけだから博士の勘は当たっている。

 流石の慧眼だ。横のが規格外過ぎるだけで。

 

「そこまで評価してるなら、そう言ってあげればよかったのに」

 

 俺がそう言うと、博士は苦々しそうな顔をして。

 

「……お前たちならわかると思うが、グリーンはあの通り調子に乗りやすいからのう……。身内だからこそ厳しくせんといかんと思ったんじゃが……」

 

「あー……」

 

 確かに素直に褒めたら天狗になる──否、ダーテングになるどころの話じゃなかったかもしれないけど。

 

「……まあ、だとしてもタイミングが悪いですよ。あんな一人だけ除け者にするみたいのは酷いと思います」

 

「…………!」

 

「む、むう……それを言われると痛いのう……」

 

 博士がバツの悪そうな顔をする。

 多少なりとも自分のしたことに自覚があったのだろう。どうあれ、博士に悪気があったわけじゃないってことがわかってよかった。

 

「とにかく、わたしたちもグリーンと会えたらフォローしておきますから。だから博士もちゃんと話してあげてください」

 

「…………」

 

「わ、わかった。そうするとしよう」

 

「はい。そうしてください」

 

 もう一度釘を刺して話を区切る。

 とりあえずはこんなもんか。俺もちょっと煽っちゃったし、これが原因で仲違いとかされても気分悪いからな。最低限のフォローくらいはしておこう。

 

「……しかし、こうしてみるとリーフが一番お姉さんみたいじゃのう。ひょっとしてレッドと生まれが逆だったりせんか?」

 

「……茶化したってダメですよ、博士。ちゃんと反省してください」

 

「む、むう……本当にお姉さんみたいじゃのう……」

 

 もちろん博士は冗談のつもりで言ったのだろうが、実際にその考察は部分的に当たっているので思わず言葉が口をついて出てしまった。

 ほ、本当に慧眼だなこの人……。

 

「…………」

 

「ん? 何レッド──なんでそんな不安そうな顔してるの。心配しなくてもレッドが兄だから安心して」

 

 そんなことで彼らの両親も嘘をつかないだろう。そもそも双子なんだから兄も妹も大差無いだろうに。

 

「ああもう! この話終わり! それより早くグリーン追いかけたいから図鑑ください!」

 

「お、おお。そうじゃ、そうじゃったな。ほれ」

 

 とにかく、これ以上湿度の高い空間にいたくなかったので強引に話を打ち切り、博士からポケモン図鑑を受け取る。

 おお、これが本物のポケモン図鑑か。実際に持ってみるとこう、感動するものがあるな。ちょっと古臭さは否めないけど。

 

「その図鑑はポケモンに向けると、色んな情報をデータとして表示してくれる。きっと冒険にも役立つじゃろう」

 

「ありがとうございます、博士」

 

 といっても、俺は大半のデータは大まかに覚えてるんだけども。まあレッドやグリーンには大いに役立つだろう。

 

「うむ。その図鑑はわしの夢そのもの。いずれはこの世界の全てのポケモンを記録した完璧な図鑑を作るのがわしの夢なのじゃ。二人には──いや、三人にはその手伝いをお願いしたい。やってくれるかの?」

 

 博士の夢はあまりにも壮大で、そしてとても難しいものだ。

 だって現実でいえば、博士はこの世の生き物を全て図鑑に記録したいと言っているのに等しいのだから。

 今現在判明している種にしても別の姿(リージョンフォーム)が見つかったり、そもそも全く新しい種が見つかることもザラだ。

 これは博士にとっては夢か、それとも悪夢か。どうであれ、おそらく博士が生きている間に完璧な図鑑が完成することはおそらく無い。

 それでも。

 

「──もちろんです、博士! 精一杯やらせてもらいます!」

 

「…………!」

 

 俺もレッドも力強く頷いた。

 それがどんなに困難な道であれ、夢を諦める理由にはならない。博士の人生をかけた研究を手伝えることを、俺は誇りに思う。

 

「うむ。ありがとう、二人とも。──では行くがいい! 夢と冒険と! ポケットモンスターの世界へ! レッツゴーじゃ!」

 

「「はい!」」

 

 俺の冒険はここから始まる。

 行ってみたいところ。やってみたいこと。片っ端から全部やって、この世界を最高に楽しんでやる!

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