リーフにTS転生しちゃったけどせっかくなので楽しみたいと思います 作:七色レインボー
レッドに別れを告げ、マサラタウンにさよならバイバイした俺は、1番道路を抜けてトキワシティに到着していた。
ゲーム内では最低限の施設しかない小さな町だったが、現実に見てみるとシティの名前が冠すくらいには広さがある。都会というにはいささか静かで寂しいが決して田舎ではない、といったところか。
ちなみに1番道路も相応の長さで、昼前にマサラを出たのに到着したのは三時過ぎだった。
俺の旅はのっけから波乱万丈で、複数のトレーナーに絡まれたりポケモンの群れに襲われた……なんてことはなく、平穏無事そのものな道のりだったが、野生のポッポやコラッタを見かけたときは感動したものだ。思わず観察に夢中になってしまった。
博士からボールももらっていたので捕まえようかとも思ったのだが、グリーンに追いつかなければならないことを思い出して我慢を選択。でも飛行要員は早めに捕まえておきたいところだ。
ともあれ疲れたのでどこかで休憩したいところ。というわけでまずはポケモンセンターを目指すことにした。
ここまでの道中でグリーンの姿は見かけなかった。マサラからトキワまでは一本道であるため、見ていないということはこの町、ないしこの先にいるということである。
どちらにせよグリーンだって一度はどこかで休みたいだろうし、そうでなくともポケモンセンターなら人が集まるだろうから、そこで聞き込みをすればグリーンの情報が出るかもしれない。
そんなわけで道行く人に尋ねながら辿り着いたポケモンセンター。中には疎らに人がいて、ポケモンを回復させに来たのであろう人や、備え付けのソファに座って休憩してる人なんかがいた。
残念ながらグリーンの姿は無さそうだ。まあとりあえずは受け付けの女性──ジョーイさんに話しかけてみよう。
「あの、すみません」
「はい、何かご用ですか?」
はっきりと聞き取りやすい優しい声と、親しみのある笑顔で対応してくれるジョーイさん。
うーん、美人だ。惚れっぽい設定だったとはいえ、アニメでタケシが度々ナンパしていたのもわかる。
「ここにグリーン……じゃなくて、茶髪のツンツン頭の男の子が来ませんでしたか? ちょっと生意気そうなやつです。その人を探してるんですけど」
「あら、その子のお友だちかしら。でもそうねえ……規則であまり他の人のことを教えちゃいけないのよ。ごめんなさいね」
「あ、そうなんですか……」
うーむ、そう来たか……。でも確かにこういう仕事でみだりに個人情報を他人に教えたりするのって良くないだろうしな……仕方ないか。
「なら、もしその人が来たら『リーフが探してた。博士も謝ってたから連絡しろ』って伝言をお願いしてもいいですか? あ、わたしリーフって言うんですけど」
「リーフちゃんね。うん、それならいいわよ。もし来たら伝えておくわね」
お願いは無事に承諾してくれた。これでもしすれ違いになっても大丈夫だろう。まあグリーンが博士に連絡を取るかはわからないけど。
「ところで、博士ってもしかしてオーキド博士のことかしら? あなた、オーキド博士の知り合いなの?」
ジョーイさんのそんな質問。隠すことでもないので素直に答えるとする。
「あ、はい。旅のついでに図鑑集めを手伝ってるんです」
「まあ! あのオーキド博士のお手伝いなんて凄いわ! きっと優秀なトレーナーさんなのね!」
キラキラした瞳でジョーイさんが言う。この反応からしても、やはりオーキド博士は尊敬される人物であるようだ。
そんな人の手伝いをしているとなると、それ自体が一種のステータスになるのかもしれない。
「ああいえ、トレーナーにはついさっきなったばかりというか……」
とはいえ、今日初めてポケモンを持って旅立った人間に優秀も何も無いだろう。実績は今のところ皆無なのだから。
「あらそうなの? ならカードの発行もまだかしら」
「カード?」
「ええ。身分証明書……つまり、私はトレーナーですって証になるもので、それがあるとポケモンセンターを無料で使えたりするのよ」
「へえ……」
そういえばゲームでも似たようなものがあったな。あれで身分証明ができるのか。
というか、どうやらまだトレーナーですらなかったらしい。ちゃんと証明書がいるんだな……。
「もし発行がまだならあそこのパソコンを使えば簡単に作れるわよ。やり方はマニュアルがあるからそれを見てね。もしわからないことがあれば聞きに来てもいいから」
「はい、ありがとうございます」
お礼を言ってジョーイさんに教えてもらった方へ行き、仕切りを閉めてからパソコンの前に座って操作を開始。
どうやら名前や住所なんかの情報を入れるだけでいいらしいので、画面の手順に従って必要な情報をぽんぽんと打ち込む。
そうしてしっかり確認作業をした後に『発行開始』のボタンを押せば、何やらガチャガチャ音が鳴った後にカードがスライドして出てきた。
そこには
どうやらこのカードはポケモンリーグが運営している施設──例えばポケモンセンター等──で提出すれば多様なサービスを受けられる他、パソコンでボックス操作をする際にも使うらしいので、失くさないように大切になければならない。
そうして作業を終えたのでカードをバッグの中にしまいつつ仕切りを開けると、いつの間にかセンター内に人が増えているのに気付いた。特に
これ以上用も無くここにいると邪魔になりそうだし、混雑する前に外へ出るべきだろう。入ってくる人たちとぶつからないように気を付けながら、出口に向かって外に出る。
さて、これからどうしようか、というところで。
──グウゥ〜。
「……そういえばお昼ご飯まだだった」
センター内にいる時に鳴り出さなくてよかった。危うく大恥をかくところだ。
さておき、緊急ミッション発生だ。何か美味しいものを食べて空腹を満たさなければならない。
任務を達成するべく、俺はトキワシティをうろつくことにした。
◓
「──ん?」
トキワシティを歩いている途中で、何やら人だかりができているのが見えた。しかも結構盛り上がっている。何かイベント事でもやっているのだろうか。
少し気になったのでそちらへ近付いてみると、話し声や大きな音が聞こえてきた。断片的に聞こえる内容から察するに、どうやらポケモンバトルをしているらしい。この人だかりはその観客だろう。
そうして一際大きな歓声が上がる。決着がついたようだ。
『くそっ、僕の負けだ……』
『おおー、あいつやるな! これで七連勝目だ!』
どうやら相当強いやつがいるらしい。
にしても七連勝とはまた凄まじいな。連戦での消耗もあるだろうに、よほどバトルが上手いと見える。
さて、一体どんなやつなんだろうか。ちょっと覗いてみよう。
『おいおい、スクール生っつってもこんなもんか? 手応えねえなあ』
『くっ……! 他に誰かいないか! このままじゃトキワスクールの名折れだぞ!』
人混みを掻き分けて進む間にも声は聞こえる。しかしなんだろう、この強烈に聞き覚えのある声は。
ようやく人混みを抜け、中心にいた人間が見えるようにところまで来た。
一人は眼鏡をかけた男の子。そしてもう一人は。
「でもここにいる中で一番強いテッちゃんも負けたしなぁ」
「なんだ、もう出て来ないのかよ。張り合いねー」
「……何してるの、グリーン」
「あん? お、リーフじゃねえか」
クソ生意気そうなツンツン頭の少年が、そこにいた。
「なんだ? お前もバトルするか?」
「いい。それより何してるの?」
「ああ、ちょっと修行をな。つってももう終わるところだが」
「ふーん」
修行ねえ……あ、もしかしてポケセンに人が増えてたのって、グリーンが全滅させてたからか? またはた迷惑なことを。
しかし本当に強いな。七連勝っていったらバトルタワーとか、そんな感じの──。
──グウゥ〜。
「……あ? なんだリーフ、まさか今の──」
「もーしょうがないなあグリーンは! そんなにお腹減ってるんだったら一緒にご飯食べに行きましょ! ね!」
今すぐグリーンをここから引っ張り出す。早急に。迅速に。光の速さで。
「いや、今のはお前の」
「い・く・の!」
「あー、はいはい。つーわけで、オレ様は失礼させてもらうぜ。あばよ!」
グリーンを連れて足早にその場を去る。クソッ、なんでよりによってあんなタイミングで鳴るんだ俺の腹は!
「もう! グリーンのせいで大恥かいたじゃない! 責任取ってよ!」
「なんでオレのせいなんだよ。お前が勝手にデカい音鳴らしたんだろうが」
「グリーン探してたせいでご飯食べてる暇無かったの! だからグリーンのせい!」
「んだよそれ……」
そもそもグリーンと博士がケンカなんかしなきゃ俺がこんなに気を揉む必要も無かったんだ。だからこれはグリーンと博士の二人に責任がある。当然の帰結だ。
「ま、いいさ。今のオレ様は最っ高に気分がいい。奢ってやるからありがたく思いな」
ニヤニヤ笑いながらグリーンが言う。
いい度胸だ。ドカ食いしてやるからな。
◓
様々な露店を吟味し、歩き回った先でようやく選ばれたのは揚げ物屋だった。
注文内容はポテトを一つとコロッケを二つ、そして唐揚げを五つ。最後に近くの自動販売機でコーラを買った。
空腹の体に揚げ物とコーラ。あまりにも犯罪的な組み合わせだ。
「ああ、
「お前マジで遠慮無く頼みやがったな」
人の機嫌を金で買えるなら安いものだろう。
……にしても、前にパンツ見られた時もだったけど、別にそこまで怒ることなかったな。
なんというか、この体になってから感情の制御が効きにくくなってる気がする。精神は肉体に引っ張られるとかいうらしいが、そういうものなのだろうか。
まあいいか。そのおかげでタダ飯食えたし。
「んぐんぐ……ごくんっ。で、グリーンは何してたの?」
「さっきも言っただろ、修行だよ。トキワにはトレーナーズスクールがあるからな。そこそこいい経験になると思って勝負を仕掛けたのさ」
「ふーん」
そういやそんなものもあったな。さっきスクール生がどうとか聞こえたのはそれか。
「ま、思ったほどじゃなかったけどな。あれならレッドの方がよっぽど──」
「ふーん?」
「……やっぱ今のナシ」
嫌そうな顔をしてグリーンがその先を口にするのをやめた。
どうやらあんなことを言ってても、心の中ではレッドのことをある程度認めているらしい。ツンデレってやつか。
それにしても、スクール生というからにはそれなりにバトル慣れもしてそうなものなのに、それでもグリーンが勝つのか。
連戦というハンディキャップを背負っていても余裕そうだったし、やはりグリーンの才能は凄まじい。
「……っと、そうだ。グリーンに言っておかなきゃならないことがあるんだった」
「ん? なんだよ?」
「うん。あのねグリーン、実は──」
「──っ」
「あ、こら、ドロボウめ! 待て、誰かそいつを捕まえてくれ!」
と、博士の言葉を伝えようとすると、さっきの揚げ物屋の方から悲鳴が上がった。
泥棒とはまた穏やかじゃないな。しかもこんな白昼堂々と。
「泥棒だって、グリーン──あれ? どうしたの?」
「いや別に……誰だよ、邪魔しやがって……」
なんだか凄く不機嫌そうな顔をしている。まあ確かに話の途中だったけど、泥棒が出たなら仕方ないんじゃないだろうか。
「んで? どこのどいつだその泥棒ってのは」
「んー……ん? もしかしてあれ……かな?」
見ればそこには、紫色の小さなネズミのようなポケモン──コラッタがおり、口にじゃがいもが咥えて走っていた。
てっきり人間かと思ったけど、犯人はポケモンだったらしい。
「なんだ、コラッタかよ。さっさと捕まえて店主に突き出してやる」
「なんかやる気だね、グリーン」
言いながら立ち上がってゼニガメを出すグリーンはいつもより積極的に見えた。なんとなくこういうことには『知るかよ、オレ様にはカンケー無いね』とか言いそうなイメージだったのに。
まあ、でもそれなら俺も。
「わたしも手伝うよ。ここの唐揚げ美味しかったし」
「要らねーっての。オレ様一人で十分だ」
無視してフシギダネを出す。一人より二人でかかった方がより確実だろう。
「いくよフシギダネ。あのコラッタを止めるよ!」
「だね!」
「ゼニガメ、さっさと終わらせるぞ」
「ぜにぃ!」
「らぁった!」
コラッタに止まる気配は無く、スピードを緩めずこちらへ突っ込んできた。
まずは俺が先行して攻撃を仕掛ける!
「フシギダネ、“たいあたり"!」
「だぁね!」
「らぁっ!」
コラッタに向かってフシギダネが突進する。しかしコラッタは非常に素早い動きで見事に“たいあたり"を避けた。
なかなかやる。でもそれならそれで好都合!
「グリーン、今よ!」
「ゼニガメ、“あわ"だ!」
「ぜーにぃ!」
仮にフシギダネの攻撃が避けられても、その隙にゼニガメが攻撃するコンビネーション。
まさかもう“あわ"を覚えているとは思わなかったけど、とにかく上手くいってよかった。
あとは弱ったコラッタを捕まえて店主に引き渡すだけ──。
「──らあぁっ!」
突如、コラッタの姿が加速する。
目前に迫った“あわ"の隙間を縫うように回避し、そして無傷でやり過ごしてみせた。
「な──!?」
そのままコラッタはゼニガメとグリーンの脇をすり抜けて逃走していく。
ち、ちょっと待てよ!? なんだあの動き!?
「に、逃げられちゃった……」
まさかコラッタにあんな動きができるなんて思わなかった。完全に“あわ"の軌道を見切ってたよな。
それに今のは“でんこうせっか"か? もしかしたら相当強い個体なのかもしれない。
「凄かったね、今のコラッタ。……グリーン?」
「……悪いなリーフ、話はまた今度だ」
言うが早いか、グリーンはゼニガメをボールに戻してコラッタの逃げていった方向へ走っていく。
「ち、ちょっとグリーン!? どこ行くの!?」
「決まってんだろ! あいつを捕まえる! あいつはオレのだ、誰にも渡さねえ!」
「捕まえるって……ああ、行っちゃった」
そうしてグリーンの姿はすぐに見えなくなってしまった。
そりゃ今のコラッタを捕まえられたら頼りになるだろうけど、そんなに上手くいくんだろうか。いくらグリーンでもなかなか骨が折れそうだけど……。しかも結局博士が謝ってたこと伝えられなかったし。
まあ一通り落ち着いたらグリーンもポケセンに寄るだろう。その時にジョーイさんに伝えてもらえばいいか。
とりあえず今は。
「──これ、もったいないし食べてもいいよね。フシギダネも食べる?」
「だね♪」
グリーンの残していったポテトと唐揚げを消化することにした。
フードロス削減は大事だからね。仕方ないね。