「俺は可愛い」
ほっぺに煌めき。
人形のような顔にチークを頬に塗ると、彼女が生来から持つその輝きが増す。
彼を見た人間の十人中十人が男であることを見抜けない。
「つまり、同じ血を半分に分けた双子の睦も可愛い」
リップはキュートに。
小指につけたリップを唇に塗ると、未成熟な顔にほんの少しの大人の色香が上乗せされる。
「QED……」
「……どういう理屈?」
彼は、
双子であるのだから、当たり前のことではあるのだが、その前提は捨て置いて、世界で一番可愛いという自負がある顔が二つあることに満足気な笑みを浮かべる。
「そう、可愛さに理屈はない。可愛いという概念を詰め込んで世界に産まれた。それが俺……」
睦と服装を揃えれば、直接身体の一部を触る以外は黙っている限りは見分ける方法は存在しない。
それは湊音の努力と顔面の賜物である。
自分の可愛さを磨くためならば、睦の仮面バンドの活動も手伝うことも吝かではない。
「そういうことだから、睦は大丈夫。行ってこい」
睦が活動しているバンド、Ave mujicaはメンバーの全員がステージネームを持ち、仮面を着けた人形として舞台劇とパフォーマンスを行う。
湊音もメンバーとしての誘いを受けたが、仮面で自分の顔を隠すなどナンセンスでしかないと言って断った。
「うん。行ってきます」
自分と同じ顔で、自分と同じ時を生きた彼が施してくれた化粧と言葉をお守りにして、それを隠すように睦は今日も仮面を被る。
「さて、俺も行くか」
睦が、ave mujicaがステージの上に立つのを見送った湊音は楽屋から出て関係者席へと向かってライブを見守りに行く。
湊音は顔が顔だけに、周囲に人が居ない特等席を用意されていた。
(やっぱり、可愛くないモノは嫌いだ)
席に座ってAve mujicaのライブのライブを見る度に湊音は自分の嫌いなモノと好きなモノの差を思い知らされる。
(見た目は良い。だけど、それ以外は0点だ)
視線が幼馴染でAve mujicaの総指揮を執る豊川祥子に向かう。
顔こそ仮面で隠れているが、彼女の素顔も上位に位置している。それも少し前までの話で今はそうでもないと湊音の腹の底が冷えていく。
(……だからってしてやれることは何一つないけどな)
湊音は今の祥子を見捨てるほど冷血でもなければ、困っている幼馴染に考えなしに手を差し出すほどのお人好しでもなかった。
「オブリビオニス。我、忘却を恐れるなかれ」
「さっちゃんだろうが、バーカ……」
舞台上の祥子の口上に対して、どうせ誰も聞いておらず、届くことはない文句を吐き捨てた。