ツインズ・リーフ   作:効果音

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重たい話書き続けてるとギャグ回挟みたくなるんですよね。

食らえ。


男子高校生なんてこんなもん

「お嬢~飯食おうぜー」

「じゃ、エスコート宜しく……って本職の執事がそれはどうなの?」

 

 高校での湊音は良くも悪くも男女問わずモテる。

 しかし、言動のせいで奇人変人として扱われることもまた少なくない。

 

「姉御はお嬢だけど、お嬢もお嬢だからな」

 

 四王天(しおうてん)田吾作(たごさく)

 高校生ながらに何処かの良い所の家の執事をしているらしいのだが、何処の誰に仕えているのか、そもそもなんでそんなことになっているのか全く聞いたことはない。

 共通の趣味があるわけではないが、湊音と田吾作は不思議とウマが合う。

 

「なるほどな。俺が可愛いなら仕方がない」

 

 湊音の身長153cmに対して田吾作の身長は185cmの身長が並び立つにはあまりにも大きすぎる。

 色んな意味でこの二人の組み合わせは校内で有名だった。

 

「でも、その身長は可愛くない」

「でも、可愛い湊音と並び立てばー?」

「俺は可愛いけど、田吾作は田吾作だよ」

「でもー?」

「だから、そういうの可愛くないって、早く行かないと学食混むんだからさ」

 

 実際のところ田吾作は顔の造り的に可愛いというよりはカッコいいという言葉の方が似合う。

 きっと変に着飾るよりかは、モノクルでも付けてシンプルな黒い執事服を着て突っ立ってるだけでも画になるだろうというのが湊音の見立てである。

 

「あだっ」

「あ、ごめん」

 

 二人が歩ていると周囲の視線は二分化される。

 デカすぎる田吾作を見上げるか、相対的に小さく見た目だけは絶世の美少女の湊音に見惚れるか。

 前者である場合は隣を歩ている湊音とぶつかる人間も少なくない。

 

「いや、大丈夫。俺が可愛いサイズなのが悪い」

 

 ただでさえ歩幅に差があるのに、ぶつかったり避けたりで湊音の進行スピードが遅くなって歩きにくいことに田吾作はイラついて来ていた。

 湊音本人は悪くはない。ぶつかる生徒も悪くない。田吾作も悪くない。

 

「お嬢。アレをやるぞ」

 

 わかりやすく切れる相手が居ないことに一番イラついた田吾作はある策を提案する。

 

「え、アレ? この前怒られたじゃん」

 

 別にそれを実行すること自体に文句はないが、そのせいで教師に怒られるのは可愛くない。

 

「いや、あんまし遅いと今日限定の『カツカレーハンバーグラーメン』無くなるだろ」

「よし、やろう」

 

 男の子が好きなやつ全部盛り付けましたという発案者もそれを通した管理者も脳を髄までカロリーでクレンジングされてしまった末の狂気の産物が、この学校が誇る名物だった。

 あまりにも意味の分からないメニューなせいか、年に一度しか学食で提供されないが、カルト的な人気を持っているため、その日の学食は戦争になる。

 食券の転売が見受けられるほどには地獄である。

 

「うおおおお!!! 合体!!」

 

 田吾作が湊音を持ち上げてそのまま肩の上に座らせるように担ぐ。

 要するに肩車である。

 

「お嬢かっる……ちゃんと飯食ってる? 筋トレでちゃんと筋肉付いてる?」

「一日に完全な栄養バランスで3000キロカロリーを摂取した上で適切な運動はしてる。でも、軽い。つまり可愛い。違う?」

「なるほどな?」

 

 支離滅裂ではあったが、胃袋は立派に男子高校生だったらしい。

 肩車をしながら歩いていれば生活指導の教師に見つかるのも時間の問題であるため、田吾作ができる限り早足で人の波を掻き分けて食堂に到着する。

 

「毎回これやる度に思うんだけどさ。降りる時が一番怖くない?」

「約2メートルから降りるのが怖いのはそう」

 

 田吾作が膝立ちして屈んでもらってから湊音が肩の上から降りる。

 慣れてしまったせいで乗り降りをひょいひょいとやっているが、153cmの視界に慣れている湊音からしたら普通に怖い。

 

「今年は生徒手帳と顔認証で来たか……」

「は? なんて?」

 

 二人が食券機待ちの行列に並ぶと、巨体故に先頭まで視界が届く田吾作が食券を購入する生徒が生徒手帳と本人の顔を照合してから支払いをしている姿を見て、感嘆の声を上げる。

 

「『カツカレーハンバーグラーメン』は転売屋まで出るせいで、基本的に治安が悪い。その結果、簡単に貸し借りできる生徒手帳だけじゃなく、理事長お抱えの天才プログラマーが作ったアプリで指紋や顔で認証すると聞いていたけど……本当だったとは」

「色々突っ込みたいけど、俺からしたらそこまで詳しい田吾作の方が不思議だよ!」

 

 そんなものはさっさと販売中止しろと言いたいが、『カツカレーハンバーグラーメン』を理由に進学を希望する生徒まで居るという。

 それ以外にも別にいい所はあるのだが、もう学食スタッフ側も後戻りできない。と七不思議レベルの与太話として噂されている。

 

「というか、こんだけ居たら何人かはテーブルで食べてそうなのに、誰もそれらしいのは食べてないね」

「ああ、普通に食べられるとスティールされるからな。基本的に追加料金を払ってテイクアウトするらしいぞ」

「田吾作の謎の情報網はなんなの?」

 

 年に一回とはいえ、たかだか学食の限定メニューにそこまでのことをしなければならない覚悟と情熱は湊音には理解出来なかった。

 最初は興味があったが、徐々に面倒くささの方が勝っていく。

 

「昔ちょっと、な」

「一年生で昔も何もないでしょ……」

 

 どうせ何かしらは注文するのだから、大人しく並んで待っていると湊音の番になった瞬間に校内放送が流れ始める。

 

『ただいまを持ちまして販売が規定数に達したため『カツカレーハンバーグラーメン』の販売を終了いたします。生徒の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解ご協力をお願いいたします』

 

 そのアナウンスを聞いた瞬間に湊音達の後ろにならんでいた生徒達の七割以上が『カツカレーハンバーグラーメン』を食べられないのであれば、並んでいる意味などないと言いたげな表情で何処かに行ってしまった。

 

「そこまでされると気になりはするけど……」

 

 そこまでの熱量を持ち得ない湊音は気分でカツカレーを選んだ。

 通常メニューを注文していれば、特に警戒することもなく、何も支障なくテーブル座ることができた。

 

「そういやさぁ。お嬢はお嬢との交際は続いてんの?」

「あー……たまに一緒に出掛けてたりはするけど」

 

 恐らく祥子とのことを聞いているのだろう。

 湊音と祥子は正式に付き合っている訳ではない。とはいえ、お互いにお互いへの好意は隠していないこともあって、『告白していないだけで付き合っている』と言える関係である。

 睦ほどではないものの、幼い頃から共有した時間はそれなりに長く、双方の親から実質公認されている仲でもあったため、『そういうタイミング』は逃したままでもある。

 

「良いよなぁ。俺もそういう出会いどっかに転がってないかなぁ」

「執事やってるならそういう繋がりの出会いとかないの?」

「無理無理無理無理。姉御の友達とも会うけど、そういうんじゃないし、姉御のおやっさんは見た目からして怖いんだぞ」

 

 冷や汗を掻きながらぶんぶんと首を横に振る田吾作を見ると向こうは向こうで大変なのだろうなぁとしみじみとカツカレー付属の箸休めのらっきょうを二個咀嚼する。

 

「ほへー、まぁ……こっちも怖い大人にちょっと睨まれてるから、もしかしたら、もしかしたらだけどね」

「ありゃ、そっちもそっちで大変そうね」

「俺の方は良いとして、田吾作は実際どうなの?」

 

 友人にそういう浮ついた話があるのであれば、湊音も気にはなる。

 うんうんと数分唸り続ける田吾作が渋い顔で口を開く。

 

「いや、好きだけどさぁ……なりゆきとはいえ執事になってラッキーとは思ったけど! おやっさんが怖いんだよなぁ……」

 

 田吾作の静かな慟哭は食堂の喧騒に掻き消されて、湊音以外には届かなかった。

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