総合評価も300越えてたり更新されてもないのにデイリーに乗ってたりしたっぽいのでウレシイウレシイジュルジュルジュル
あ、令和の人間関係グリーンスムージー回です。
(迷子には間に合ったよな? プログラムを見た二人からは間に合うって聞いたから大丈夫だと思うけど……)
湊音は走らない程度に急いでRiNGに向かっていた。
また迷子のバンドがライブに出ると聞いて、学校帰りに行くつもりだったのだが、急用のために下校が遅れて、そのまま電車の遅れにも巻き込まれてしまった。
元々先に到着する予定だった睦に二人分のチケットを渡していたため、合流した祥子とは無事に会場には入れているらしい。
「アレ……? さっちゃんは?」
湊音が会場に入ると、昔どこかで聴いた気がする迷子のバンドの曲が響いていて、中で睦を見つけて近づくと、祥子の姿が無かった。
「祥は……この曲始まってから、行っちゃった」
「この曲……?」
「春日影。CRYCHICの曲だから……」
睦にそう言われて、背筋が凍るような感覚に襲われた。
「ごめん……! 俺行かなきゃ!」
「うん。いってらっしゃい」
考える前に身体が動いてしまい、緊急であっても演奏中に声を張り上げないようにトーンを落として、睦に一言詫びを入れてから会場の外に出る。
(あんまり遠くには行ってないと思いたいけど!)
メッセージアプリで連絡は飛ばした上で、祥子に電話を掛けてみたが、返ってきたのは話し中のコールだった。
「別のとこ……!? また親父さんか? じゃあ、駅の方に……」
祥子の行動を先読みして、駅の方に走っていると、駅までの途中でスマホを片手にアイドルの広告を垂れ流す街頭広告を見上げている彼女を発見した。
「さっちゃん!」
彼女の目元は腫れていて、そのタイミングで傍に居てあげられなかった自分のことが嫌いになる。
告白すらできていない癖に、そう思うのは思い上がりでもあり、湊音の心が濁っていく。
「湊音……あぁ……貴方にも話しておかなければなりませんね……大事な話がありますので、家まで来てくださいます?」
大事な話。
こんなタイミングで言われることが浮わついた話であるわけがない。
言われるがまま、移動中は一切会話のない無言状態で祥子の家へと連れていかれて、明かりのついていない部屋で二人は正座で向き合う。
「……わたくし、バンドを始めますわ」
「え、バンド?」
唐突な祥子の宣言に思わず聞き返してしまう。
今までは双子が気を遣ってその手の話題を避けてきたが、ここに来ての心変わりに戸惑いを隠せない。
「仮面で顔を隠して、名を偽って……人形として舞台の上に立つ。
今までの過去は捨てて、新しいわたくしになります」
湊音の両手を上から被せるように、ピアノを趣味にしている者特有の祥子の両手が包み込む。
「……湊音もそのバンドに入ってください。わたくしと一緒に地獄に堕ちてくださる……?」
祈りのようで呪詛のような言葉で湊音の人生を捧げさせようと誘う。
湊音の手を掴む祥子の力が強くなり、彼は目を逸らしながら首を横に振る。
「可愛くないよ……そんなの……センスがない」
世界で初めて湊音を『可愛い』と言ったのは他の誰でもない祥子で、それを隠して捨てて世界で一番可愛い『若葉湊音』ではないモノとして舞台の上に立てというのは、あの頃の可愛くない自己嫌悪に塗れた『若葉湊音』になれと言われているようだった。
「わかりました……ごめんなさい……」
「……さっちゃんのやりたいことは応援してあげたいけど──」
湊音の言葉を聞いた祥子は素直に手を離して、目を伏せて諦めたような表情をする。
それを見た湊音がホッとした瞬間に祥子の目付きが鋭くなり、髪を結っているリボンを外して彼の両手を拘束した。
「さ、さっちゃん……?」
湊音が驚いている刹那に祥子に押し倒され、両手首掴んで頭の上に固定される。
「……覚悟が伝わっていないのなら、わたくしも湊音に全てを差し上げます。
そうすれば、貴方もわたくしに全てを捧げてくれますわね?」
片手で器用に祥子は湊音の服を剥がしていく。
シワにならないように、痛まないように丁寧に、無理矢理なのに湊音を気遣う歪な行為だった。
「本当にダメ、だって……!」
「声を上げてもらっても結構ですわ。その場合はわたくしも悲鳴を上げさせてもらいますので」
瞬く間に湊音の上半身を守るモノがブラジャーだけになった。
「それが本当にさっちゃんのしたいことなの? 苦しそうで泣きそうな顔でやりたいことなら……そんな可愛くないさっちゃんなら、俺は嫌いだ……!」
「──っ」
祥子の今にも心が壊れてしまいそうな表情を見ると、今ここで『そういう関係』になってしまうのは、お互いが幸せになれる未来を想像できない。
湊音の言葉に祥子は動揺して力を緩めてしまい、その隙に押し返されてしまう。
「……もう会うの止めよう。昔の思い出がさっちゃんを傷つけるなら、会わない方がいいよ。
ごめんね。付き合ってるわけでもないのに、構ったりして、会いに来たりして、助けられるわけでもないのにね。俺の思い上がりだったよ」
自分が彼女を苦しめてしまうのであれば、こんな歪んだ関係に踏み込ませてしまうのであれば、それらを受け止められないのであれば、彼女の隣に居る資格はない。
少し乱暴に祥子を退かして、緩んでいたリボンを手首から外して、最低限外を歩ける状態に整えて家を出ていく。
それからの記憶は曖昧で、何とかふらふらと家に帰ってきて、出迎えた睦すら無視して、ルーティンと化した行動だけを行って、気がついたらベッドの上で天井を見ていた。
(……馬鹿だ)
そう思うのも帰り道から何度目かわからない思考だった。
(……彼女の支えになりたいとか、時間が忘れさせるとか……結局、何もしないだけだったじゃないか)
思考が坩堝にハマっていく。
何も意味を成さない精神的な自傷行為が湊音の心を濁らせていく。
「──音……湊音……!」
「……睦?」
いつの間にか部屋に入ってきていた睦の存在にも気づかないほどに湊音の心は疲弊していた。
明らかに様子のおかしい湊音を心配して声を掛けていたのに、声が届いておらず不安そうな表情をさせてしまった。
「あの後、祥と何かあった……?」
ベッドの上に座った睦の隣に妙に重たく感じた腰を起こして湊音が座る。
「……バンド。やろうって言われた」
「……やるの?」
「やらない……可愛くないから……」
それ以上のことは話さなかった。話せなかった。
何があったか話さないだけで、隠そうとすらしない。いつものキャラ作りすら薄い湊音を見て睦は彼の頭に手が伸びた。
「……っ」
触れた瞬間にビクっと湊音の身体が震えた。
相手に合わせて話を聞いて落ち着かせる方法は睦にはできない。
できるとすれば、ギターに出会う前の睦か、睦ではない誰かになる。
「大丈夫」
湊音を抱き締めて背中をさする。
誰から教わったわけでもなく、世間ではそうすれば勝手に安心を得られるように人間はできていることを、周りを見て何となく知っていた。
「……」
言葉は交わされない。
ただ、お互いの体温を交換するだけのスキンシップが続く。
──このまま湊音が自分だけを見てくれるようになってくれれば良いのに。