ツインズ・リーフ   作:効果音

16 / 42
好きな服装発表ドラゴンが~
好きな服装を発表します~


猫とネコと迷い猫

「ゆら・ゆら・ゆら・ゆら……ring-done……」

 

 鼻歌を歌いながら、今日の散歩用の服を着て上機嫌になる。

 やはり、自分の可愛い姿は気分が良い。

 

 上は胸元の大きめの黒いリボンがポイントの白いブラウス、二の腕辺りから固定された黒のオフショルダーのオーバーコート。

 下は黄色のワンラインが走る紺で膝上丈のコルセットスカート、黒のタイツとソールレザーのロングブーツ。

 

「うーん、可愛すぎる」

 

 袖とスカート丈から覗く白のフリルがお気に入りポイントだ。

 

「睦ー? どっか出掛けない?」

「無理」

 

 仕上げに黒いリボンでワンサイドアップにしてシルクのグローブを着けて睦を散歩に誘うとキッパリと断られてしまった。

 

「へ?」

「用事があるから無理」

 

 珍しいことがあるものだと思いつつも、大体は二つ返事で了承してくれる睦に断られると思わず、しゅんとしてしまう。

 

「あー……そっかー……うん、じゃあ俺もちょっと一人でぶらぶらする。ごめん」

「今度、行こ」

 

 それから睦と共に家を出て、普段は歩かない方角へ歩いていく。

 今日のコーデはお気に入り過ぎて気分が良い。

 何なら勝負服にしても良いくらいには気に入っている。

 

「お、猫ちゃん。しかも三毛」

 

 住宅街の近くを歩いていると、塀の上に三毛猫が居るのを見つけた。

 犬か猫か、キノコかタケノコか。そういう派閥意識はないが、強いて言うのであれば可愛い方が好きである。

 手を三毛猫の前に伸ばして差し出すと湊音には目もくれずにどこかに行ってしまった。

 

(ありゃ、フラれちゃった。今日はそういう日か)

 

 一人になると今はろくなことを考えないせいで、言葉が交わせなくとも誰かと一緒になりたかったのだが、どうにも今日は誰も釣れない。

 

(うーん、愛音でも誘う? いや、ないな)

 

 双子の睦はともかくとして、傷心中に全く関係のない愛音に声を掛けるのは、可愛くないと判断してスマホをさわる手を止めてポケットにしまう。

 

(また、猫……さっきの三毛と同じ方向に行ってるけど、集会とかやってるのかな?)

 

 小腹が空いてきてコンビニにでも向かおうかと考えていると、先ほどの三毛猫と同じルートで塀を歩く白猫を見た湊音はそれに釣られて白猫の後を追う。

 

「ミケ、タマ、マカロン、すあま……トラ……今日も元気ね」

 

 その先の公園に辿り着くと、猫の集会の中に異物が二人ほど混ざっているのが見えた。

 片や、猫に囲まれて座っている普段の鉄面皮からは想像できないほど表情が柔らかく見える友希那。

 片や、友希那に抹茶味のお菓子で餌付けされてながら下顎を撫でられている迷子のバンドのギターの要楽奈だった。

 

「いや、何してんのこの人」

「猫を愛でているのよ」

「人間混ざってるじゃないですか……」

 

 愛音から楽奈の生態系を聞いたことはあるが、本当に野良猫のような生態系をしているとは思っていなかった。

 

「この子も迷い猫みたいなものよ」

 

 ちょっとした縁もある以上、友希那は楽奈を放っておけない。

 決して、楽奈が猫っぽいからという理由ではない。

 

「あ、おもしれー男。の子」

「可愛いと言え。可愛いと」

 

 湊音に気付いた楽奈が観客の中に居たことをなんとなく覚えていて、その時の所感をそのまま口にした。

 どういうことか聞いてみたい気持ちはあったが、話の腰を折るわけにもいかず、湊音は訂正だけ求めた。

 

「というか、バンドやってるなら。練習行かなきゃだろ」

「バンド。やんないって言われた」

「休みってこと?」

「もうやんないって、つまんない」

 

 色々とあったせいで人とメッセージアプリでのやり取りをしていないこともあって、愛音からバンドがどうしているかの情報は得ていなかったこともあり、何かトラブルがあったという話も聞いていない。

 

 二度目だとしても、燈のバンドが解散したという話はできれば聞きたくない。

 とはいえ、直接会話したこともなければ、連絡先を知っているわけでもない。

 

(ああ……まただ。また、何もできないのか)

 

 何か問題が起きていることが知っても、どうにかできる立場ではない。

 それでも、話を聞いてしまった以上、気にしないことは無理だった。

 

「何かしたいのなら、後悔する前に行動した方が良いわよ」

 

 湊音のやる瀬なさそうな表情を見た友希那が経験則から出たアドバイスをする。

 何度も間違えて、踏み止まってを繰り返して、その度に手を取ってくれた暖かみを知っている友希那だから、そんな言葉が出てきた。

 

「俺は何も……」

「そうね。でも、何となく誰かに似ていたような気がしたから言いたくなっただけかもしれないわね。

 ……ところで、一つ頼みごとをしても良いかしら?」

「え、あ、はい。何ですか?」

 

 妙なタイミングで切り出されたせいで妙に驚いてしまう。

 

「抹茶味の何かを買ってきてくれないかしら……?」

「そろそろ抹茶切れそう……」

 

 そう良いながら抹茶のチョコを齧る楽奈がジト目で湊音を見る。

 抹茶で餌付けされている野良猫を離したくないがために湊音をおつかいに出そうというらしい。

 

「……いや、自分で行ってくださいよ」

「……痺れてるのよ」

「はい?」

 

 脚を動かそうとすると、友希那は脚の痺れのせいで苦痛に顔を歪める。

 意味がわからないというより、困惑の方が勝る。

 

「脚が、痺れてるのよ」

「……今度、何か奢ってくださいね?」

 

 どうせ小腹を満たすためにコンビニに行く予定だったのだから、それくらいなら断る理由はない。

 ないのだが、パシられているというのも可愛くない。

 

 スマホで近場のコンビニを検索して、迷うことなくコンビニに入ると見知った桜色の髪が見えた。

 

「湊音くんってこういうとこ来るんだね」

「便利だからな。コンビニ」

 

 若葉の双子(ツインズ・リーフ)としてテレビに出ていたり、睦もお嬢様学校に通っているくらいには裕福な家庭の人間が

 

「なんでこう、愛音と会う時はバッタリが多いんだろうな。三度目必然って感じだな」

「ないない。一から三まで偶然でしょ」

 

 注文の抹茶味のお菓子とホットスナックのチキンを頼んだ湊音は、新商品のチーズ入りのチキンを頼んだ愛音と並んで買い食いを始めた。

 

「というか、本当にそういうの似合う顔してるよね」

 

 今日の湊音のコーディネートを頭からつま先までを観察すると、本当に男なのか改めて疑わしくなってくるほどに似合っている。

 正直ちょっと悔しいまである。

 

「ふふん。俺は世界で一番可愛いからな」

「はいはい。というかそんなに気合い入れてどっか出掛けるの? 睦ちゃんとデートとか?」

「誘われたらフラれた」

「ふーん。いつも一緒に居るのかと思ってた」

 

 一度だけテレビではなく歌舞伎に出ていた時と、バンドのチケットのやり取り以外ではずっと双子一緒に居る印象があったため、少し驚きだった。

 

(後悔する前に、かぁ……)

 

 祥子のことで、後悔したばかりの湊音に友希那の言葉は深く刺さっていた。

 何かできることはないと、割り切るのではなく、何かできなくてもと、何かしたくなってみた。

 

「バンド、何かあった?」

「メンバーの一人……いや、二人? と音信不通になっちゃってさぁ。りっきーは何かいつもよりカリカリしてるし」

 

 片方の音信不通者に覚えがあるどころか先ほど会ったばかりの湊音は何とも言えない表情で空を見上げて息を吐く。

 

「それ、片方楽奈だったりしない?」

「そうだけど……そんなに楽奈ちゃんのこと話してたっけ?」

「いや、さっき会った。というか何ならパシられてるのもそのせい……行く?」

「勿論!」

 

 想定外のことに驚きながらも即答した愛音を連れて、友希那と楽奈が居る公園へと向かった。

 

「あら、ようやく戻ってきたのね……そちらは?」

「ろ、Roseliaの湊友希那!? え、どういうこと!? 湊音くんの人脈そういうとこに伸びてる感じ!?」

 

 公園に戻ると変わらず友希那が猫達と楽奈が戯れている姿があった。

 ガールズバンド時代最初期を支え、現在プロとして活躍しているバンドのボーカルとこんなところでエンカウントするとは露にも思わず、愛音は探していた楽奈そっちのけで大声をあげる。

 

「いや、湊さんとは偶然というか──」

「今井よ」

「へ? 今井? 今井ってベースのリサさんのこと?」

「そっちじゃない今井よ」

「あー、これはあんま気にしないでいいから。なんか今井って男の人の苗字勝手に名乗ってるだけだから」

「えぇー……?」

 

 いつもの『様子のおかしい自称今井の3LDK一人暮らしお姉さん』の顔を覗かせた友希那に二人はドン引きする。

 本題は友希那ではないことを思い出した愛音は湊音達には興味無さげに猫と戯れている楽奈の手首を握って確保に成功する。

 

「それより、楽奈ちゃんようやく見つけた! メッセージも見ないしどこ行ったのかと思えば!」

「?」

「スマホ! 持ってるでしょ?」

「見た」

 

 愛音に掴まれていない手で楽奈がスマホを取り出して通知画面を見せると、彼女を呆れさせた。

 通知画面では既読を付いたことにはならず、そもそも返事すらしないのであれば、スマホは本来の目的を果たせていないただの液晶の板に過ぎない。

 

「とりあえずRiNG行くよ! 湊音くんありがとう! 今度なんかお礼させてね!」

「あーれー」

「あ、これ、餌付け用のお菓子」

「どうも!」

 

 強引に楽奈を連れていった愛音にコンビニで買った抹茶菓子を袋ごと投げ渡して、彼女の背中が見えなくなるまで見送る。

 

「……というか、本当にリサさんじゃない今井さんって誰なんです?」

「……この後、五時間くらい空いてるかしら?」

「じゃあいいです。帰ります」

 

 何に使うか知らないが、それに頷いてしまった瞬間、希望を封入し忘れたパンドラの箱を開いてしまいそうだったことと、その時間には家に居たい湊音は丁重にお断りした。

 

「そう、私はまだこのにゃーんちゃん達と遊んでから帰るから気をつけて帰りなさい」

「湊さんも、お気をつけて。さようなら」

 

 背中から「だから、今井よ」と聞こえた気がしたが全力を持ってしてスルーした。




コルセットスカート
袖先フリルブラウス
ロングブーツ
なーんか肩から着てるオーバーコートぽいやーつ
正式名称がわからない服も好き好き大好き
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。