ツインズ・リーフ   作:効果音

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今日は実質二回目の更新です。
一回目はえっちなやつだから未成年は読まないように。


Mortis Awake

「湊音に何かした?」

 

 湊音からの散歩の誘いを断った睦は、羽沢珈琲店に祥子を呼び出して、最近の彼の不調を原因に直接訊ねていた。

 

「……何もありませんわ」

「嘘」

 

 祥子の欺瞞を睦が切り捨てる。

 露骨にテンションの低い湊音を見れば、睦にだって何かがあったことはわかる。

 

「……だとしても、わたくしと湊音の問題です。睦には関係ありませんわ」

「……また、私から──」

 

 湊音を取らないで。

 そんな言葉がか細い声として喉元まで出かけて口が止まってしまう。

 

 烏滸がましい。

 湊音を救えなかったくせに、ただ、そこに居ることしかできなかっただけの双子のくせに、形はどうあれ彼を救うことができた彼女に奪ったなんて烏滸がましいにもほどがある。

 

「何ですの?」

「……なんでもない」

 

 祥子には聞こえていない声量だったおかげで誤魔化すことはできた。

 

「……湊音をバンドに誘ったって聞いた」

「事実ですわ」

「……私がやる」

 

 これは祥子がCRYCHICを去り、雨の中で泣きながら歩いていた時に何もできなかったことに対する贖罪だ。

 自分にできることはないけれど、利用されるくらいのことならできる。

 唯一の取り柄のギターを弾くだけの人形になるしか睦の役割はないとしても、それしかなかった。

 

「最終的には睦にも入ってもらう予定でしたが……概要は──」

 

 祥子から詳細を聞きながらも、睦の出す答えは最初から決まっていた。

 

(バンドなら、また湊音に見てもらえる……)

 

 薄暗い欲求を満たす口実もできた。

 舞台の上で、今の祥子に湊音が惹かれることはない。

 ならば、『世界一可愛いギタリスト』の睦を見るはずである。

 

 だから、舞台の上では今度こそ彼の一番になれる。

 

「一つだけ……湊音を私専属のメイクアップにするメンバーにはしない。じゃなきゃやらない」

「……わかりましたわ。ですが、湊音との交渉は睦、貴女がやりなさい」

 

 祥子からの勧誘を蹴った以上、彼女から声を掛けても首を縦に振ることはないだろう。

 それならば、睦本人が直接交渉した方がまだ芽がある。

 

(……こんな形でも、手元に置けるのならまだマシですわね)

 

 祥子が立ち上げようとしているバンドは、全員が仮面を被って人形という役を演じる以上、匿名性は保たれなければならない。

 身バレ防止のために瓜二つの顔の双子は祥子の個人的な願望を除いたとしても、抑えておくべき人材である。

 

「……わかった」

 

 話はもう終わったと言わんばかりに、立ち上がって祥子の分まで会計を済ませて羽沢珈琲店から出ていく。

 

(……もう、あんな湊音見たくない。湊音に演技をさせるくらいなら私がやる。私が人形になる)

 

 舞台の上に立った湊音のあの冷たい視線を今でも覚えている。

 あの頃の湊音の目を正面から見たことはなく、あの時演じていた『桜』を介して見たあの視線に睦は震えた。

 

(湊音に一人になってほしくない……)

 

 思い出せば思い出すほど、息が荒くなっていく。

 自分の存在が湊音にあんな目をさせるのであれば『若葉睦』などという存在は生まれない方が良かった。

 大切な人に苦しんでほしい訳じゃなかった。

 何度も何度でも新しい自分になって、辿り着いた先でも湊音を救うことができなかった自分を肯定することはできなかった。

 

「おかえりー、って汗すご……! ちょっと暖かくなってきたにしてもすご……タオルタオル」

「……ただいま」

 

 嫌な汗にまみれた状態で帰宅したせいで、心配そうな表情でジム用のバッグからタオルを取り出した湊音が睦の顔を拭いてくれる。

 

「……シャワー浴びてくる。上がったら話したいこと、ある」

「ん。汗流しておいで」

 

 祥子にはああ言ったものの、バンドを組むことを拒んだ湊音に対して、どうやって誘うかを全く考えていなかった。

 勢いだけで行動していたのに、シャワーを浴びてクールダウンしてしまい、勢いが完全に止まってしまった。

 

(シャワー気持ち良かった……)

 

 軽く髪から水分を拭き取って、部屋着に着替えてからリビングに行くと睦のために湊音がヘアメンテの道具を用意して待っていた。

 

「ほら、やったげるから。座りな」

 

 湊音の隣に睦がぽすんと座る。

 慣れた手つきで睦の毛先に触れた湊音が彼女のヘアメンテナンスを始める。

 

「……やっぱりこれ、きもちいい」

「睦はこれ好きだな。気持ちはわかるけどさ」

 

 ホットアイロンブラシで仕上げのブラッシングから伝わる熱がほどよい温度で気持ち良い。

 汗を流してさっぱりしたおかげで、焦燥感とベタつく鬱陶しさから解放されてこのまま寝てしまいそうになる。

 

「今日なんか良いことあった?」

「……バンド、やることになった」

 

 ソファーの上で足をぶらぶらさせるレベルで上機嫌な睦を見るのは久しぶりかもしれない。

 

「それって……」

「うん、祥のバンド……」

 

 アレから一週間程度時が経った。

 それでも未だに祥子と顔も会わせず、言葉一つ交わさないまま時だけが経つほどには二人の関係に亀裂が入った。

 そんな状態なのに、また祥子とバンドをやることに湊音が良い顔をするわけがない。

 

「ふーん……一年くらいはギターソロしかやってなかったし、良かったじゃん」

「……うん。それで、パフォーマンスで劇をやるから……その時は私のメイクしてほしい」

 

 思っていたより反応が悪くなかった湊音から、睦の心配が杞憂だったのか、知らない所で消化したのか。

 どちらでも良かったが、これなら首を縦に振ってくれそうで安心した。

 

「いいよ。世界一可愛いギタリストにしてやるよ」

「ありがとう」

 

 その日のヘアメンテナンスはいつも以上に気持ち良く思えた。

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