ツインズ・リーフ   作:効果音

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 紺色のベレー帽、白のブラウス、ロングのプリーツスカート、お気に入りのブーツ。

 コーデはバッチリ。朝の日課のジム終わりだけども、しっかりシャワーで汗を洗い流しているおかげで汗臭さもない。

 今日も今日とて──

 

「世界一、可愛い? 宇宙一、可愛い?」

 

 駅前の噴水広場で人と待ち合わせをしている湊音が鼻歌交じりにスマホを弄っていると、些か自己肯定感の強い女子高生にしか見えなかった。

 

「そこの可愛い彼女~」

「今暇なら俺達とお茶しない?」

 

 そのせいか、絵に描いたようなステレオタイプのチャラ男コンビにナンパをされる。

 別に彼らが同性愛者だとか、性自認が女性だとかいうことはなく。ただただ湊音が美少女にしか見えないがために起きた勘違いである。

 

「はぁ~……3点」

「は?」

 

 チャラ男達の顔と言動にうんざりとした湊音が溜め息を吐く。

 湊音は自分が可愛いことを自覚しているし、そんじょそこらの女子高生より美少女である自信もある。

 だからこそ、可愛いなどと()()()()のことしか言わない誘い文句に点数を付けた。

 

「あんたらのナンパの仕方。3点だ。

 世界一可愛い俺に対してなんだそのナンパの仕方はさぁ……品もないし、メリットもない。それに可愛くない」

「な、なんだこの女……」

 

 湊音が口を開いた途端にべらべらと上から目線で、とんでもなく自己評価が高い。そんな唐突な採点と言動にチャラ男達は呆気にとられる。

 

「残念、男でしたー」

 

 待ってたしたとばかりに湊音はフリル付きのチョーカーを少し捲って喉仏を見せながらべーっと舌を見せる。

 

「な、なんだ……こいつ、気持ちわりぃ……!」

「別のとこ行くぞ……!」

 

 湊音が男だとわかるとチャラ男達は得体の知れないモノを見て逃げるように何処かに行ってしまう。

 

「嗚呼……また、俺が可愛すぎたばっかりに」

「……普通に気味悪がってただけだと思う」

 

 自分自身の可愛さを嘆いていると、いつの間にか湊音の隣には少し大きめの包みを持った睦の姿があった。

 

「お待たせ。可愛くないナンパのせいで待ってた筈なのに睦を待たせちゃったな。ま、仕方ないか。俺が可愛いくてごめん」

「……湊音が良くても、私が良くない」

 

 てへぺろと謝っているように見せかけて自画自賛をしているだけである。

 そんな湊音の態度には十年以上も双子として同じ時を生きている睦でも思うところがあった。

 

「大丈夫。少なくとも本当にヤバい時はきちんと対処するから」

 

 恐らく、一定の性癖の人間に捕まった時のことを心配しての言葉だと微かに動いた睦の表情から湊音が読み取る。

 彼女の口下手にも慣れている彼だから成立するコミュニケーションである。

 

「なら……いい」

「じゃ、行くか」

 

 色んな意味で良くないことではあるものの、こうなってしまっている。

 フォローはするが、それ以上のことはしない。

 こればかりは睦がどうしたいか次第だとして、彼女に相談されない限りは湊音が動くことはしないと決めている。

 

「服買う前にどっかでお昼食べてからだな。流石に運動した後にお腹がペコちゃんなのは可愛くない」

「ん……」

 

 スマホに頼らず、ショッピングモールにあるフードコートか近場の飲食店に入ろうと歩き始めようとすると、睦が湊音の服の袖をちょこんと摘まんだ。

 

「流石、俺の双子可愛いことする。近くに食べたいものとかあった?」

「ん……」

 

 一緒に手を繋いで歩きたい。

 というには直接手を握れば良いモノなのに服の袖を掴んでいて、伏し目がちな表情の睦の視線の先には、触れるタイミングが無くスルーしていた包みがある。

 

(いや、ここで察するところではあるけど、敢えて睦に言わせる方が可愛いポイント高くないか?)

 

 包みの中身が湊音の予想通りだったとしよう。

 今朝、湊音がジムに出掛けるタイミングで普段はまだ寝ている時間なのに起きていた睦が、わざわざ何も言わずに持ってきて、それを今このタイミングで自己主張が苦手なのに何かを言い出そうとしているこの状況を無粋に処理するのは、端的に表現するならば可愛くない。

 

「どうかした?」

「……作ってきたから……一緒に、食べてほしい」

 

 実際に動きはないが、オノマトペで言えばもじもじという擬音が付くであろう今の睦に点数を付けるのであれば──

 

「──100億可愛いポイント」

「……いこ」

 

 今日一番の良い顔で湊音的には最大級の賛辞を送られた睦はそれに対して無表情を返しつつ彼の手首を握って、予め調べておいた公園まで引っ張って連れていく。

 

 十分も掛かることもなく到着した公園の芝生の上に持参している敷物を敷いて靴を脱いで二人で座る。

 二人の間に置かれた包みを開けると紙製の使い捨て重箱のような弁当箱が二段も重なっていた。

 

「それで、睦の可愛いお弁当には何が詰まって……るの、かな……?」

 

 湊音が弁当箱の蓋をうっきうきで開けてみれば、中にはシンプルに輪切りされたきゅうり。ウサギの形に切られたきゅうり。門松の形に切られたきゅうり。

 きゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうり。

 

「今朝採れたてのきゅうり。飾り包丁頑張った」

 

 フリーズしている湊音に対して睦が微かなドヤ顔でふんすとでも言いたそうな表情を浮かべていた。

 普通の弁当であれば、素直に褒められるのだが、この内容ではあまりにも褒められない。

 

 ただひたすらにきゅうりまみれの弁当は可愛くない。

 

 睦の育てるきゅうりは矢鱈と出来が良い。

 正直売り物にできるほどに良い。河童が美少女だったら睦の姿なのだろうと思うくらいには出来が良い。

 

 しかし、美容や健康に気を遣っているとしても、湊音も男子である。

 昼にはガッツリした食事をしたいし、主食として米かパンか麺は欲しい。

 必要なカロリーは接種したい。そんな希望を胸に弁当箱の二段目の蓋を開く。

 

「ふー……」

 

 湊音から可愛くない安堵の息が漏れる。

 二段目には二人分の小さめのおにぎりとタコさんウインナーに綺麗に形の整えられた卵焼き。

 これでいい。こういうのが良いんだよというラインナップにパンドラの箱のそこには希望が眠っているということを実感させられる。

 

「こっちは手伝ってもらいながら作った」

「普段あんまり料理しないもんなぁ。ありがとう」

 

 可愛いとか関係なく、湊音は嬉しさのあまり睦の頭を撫でる。

 高校生なのにそういう褒め方はどうなのかとも思うが、自然手が伸びてしまったのだから顔を抜きにシスコンなことを自覚する。

 

「「いただきます」」

 

 じゃれあいもそこそこに、両手を合わせて食事を始める。

 最初の一口を何にするか、弁当箱を見て選択肢に悩む。

 食事もファッションも同じで、何をメインにするのか、どういう構成にするのか。

 何か一つ変えただけでも満足度が変わってくる。

 無難に初動をおにぎりから始めて、その後におかず類に手を伸ばすか。

 今回はきゅうりの物量が多いため、口の中をリフレッシュするには良いだろう。

 

「ん」

 

 あーだこーだと最初の一口を決めあぐねていると、睦がおもむろにきゅうりに使い捨てチューブの味噌を塗りそれを箸で湊音の口に運ぶ。

 

「睦?」

「あーん」

 

 有無を言わさない初手ではあるものの、味噌が塗られて無味じゃないだけマシと諦めて受け入れることにする。

 

「あーん……」

 

 弁当箱に入れられていたとはいえ、今朝の内に収穫されたものということもありフレッシュさと共に、味噌の風味が口全体に広がっていく。

 それが始めて食べる味だということもなく、何度か食べたことのある味ではあるものの、睦が何となく嬉しそうにしているのを見れれば、湊音的にはそれで良かった。

 

 きゅうりを嚥下した後は素直に米が欲しくなり、俵状に握られたおにぎりに箸が伸びる。

 一見海苔が巻かれたプレーンなおにぎりにも見えたが、昆布の佃煮が中に入っており、好物の登場に心が踊る。

 

(こういうので良いんだよ……こういうので)

 

 それから、タコさんウインナー、卵焼きとそれぞれ味わってからきゅうりに戻ろうとして一段目に目を戻すと、他のきゅうりより不器用に飾り包丁が入れられたきゅうりが目に入る。

 

 別に形で味が変わることもない。

 何より、少し形が崩れてる物の方が可愛いというものだ。少し不細工なピアノだが、それを作ろうとした心が可愛い。そう思い箸を伸ばすと、湊音が掴むより先に睦が自分の口へと運んでいってしまった。

 

「あ」

「?」

「狙いが被っちゃったか……仕方ない」

 

 迷い箸のようではしたないが、すぐ横にあったギター型のきゅうりに狙いを切り替える。

 

 この後一部のおにぎりに湊音が手を出そうすると全て睦にインターセプトされた。




後半へ続く。
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