ツインズ・リーフ   作:効果音

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勘のいい人はサブタイのアレコレとか気付く。


Beyond the flowers blooming

 湊音が喫茶店で食事を終えた後、そのままRiNGに向かい人を探していた。

 

(確か、ここでバイトしてるって話だったよな)

 

 ライブもなければバンドも組んでいないのにRiNGに来た湊音は併設されたカフェのカウンターで目的の人物の顔を見つけた。

 

(居た)

 

 他の客が使っていた食器を洗っている立希に湊音が近づいて、分かりやすく目の前のカウンター席に座ると彼女が気がついて顔を上げる。

 

「いらっしゃいま……む、睦?」

 

 顔が同じで、声も出しておらず、湊音の存在も覚えてなかったため、睦がこの一年ほどでお洒落に目覚めたようにしか見えず、立希は素っ頓狂な声を出してしまった。

 

(そこまで綺麗に間違われるとちょっとふざけたくなるな)

 

 ここまでベタな反応をされると魔が差してしまう。普通に声を出せば、一発でバレてしまうだろう。

 

「立希……」

 

 なので、声を絞ってひっくり返りすぎない程度に声を裏返して喋ってみた。

 

「……何しに来たの?」

(これ、思いの外バレてないな?)

 

 変に成功してしまったせいで、このおふざけを継続するべきか一瞬悩んだが、そもそも目的があることを思い出して、咳払いして喉を戻す。

 

「そんなに綺麗に騙されてくれるとはちょっと驚き」

「……は?」

 

 いつも通りの声で湊音が声を出すと、またしても素っ頓狂な声が出る。

 

「ごめん。俺、睦の双子の湊音。前にバンド組んでくれてた椎名さんだよね? 初めまして」

「……いや、何なの? こっち、一応仕事中なんだけど」

「それはホントにごめん」

 

 変な思い付きでバイトの邪魔をしてしまって申し訳ないと思いはしたが、それはそれとして思いの外弄り甲斐がありそうな雰囲気を感じ取った。

 

「それで、何の用?」

「バンド。何かあったの?」

「……アンタには関係ない」

 

 立希の言う通り湊音には全く関係のない話だった。

 良くてもたかだか一人の燈の歌のファン。

 だけど、バンドメンバー全員が見知った顔であって、何かトラブルが起きているのなら手伝えることはやっておきたかった。

 

「関係ない、ね。確かにそうだよ。だから、心配だけしに来た」

 

 握られた手を握り返せなかった湊音にとってやれることは、それくらいしかなかった。

 

「何か勘違いしてるみたいだけど、もうあのバンドは解散したから、何かしてもらう必要も、してほしいこともない」

「は……?」

「はぁ……そこからか……そよがCRYCHICを復活させるために利用してただけなんだよ」

 

 湊音が関わる関わらない以前にもう迷子のバンドは解散していた。

 解散していたのなら、そこからの彼女らの再起に自分が手を貸すのはなんだか違う気がして、気持ちが宙ぶらりんになってしまった。

 

「でも、まぁ、気持ちだけはありがたく貰っとく……コーヒー飲んでいく?」

「……一応」

 

 そもそも悪癖をすぐに完治することなど、できるわけはなく、一歩一歩その歩みが間違えではないことを確かめるしかなかった。

 湊音も立派な迷子であった。

 

 コーヒーを飲んで一服する。家に帰ったところで今日は睦も用事があって少し遅くなると聞いているため、ゆっくりする時間だけはあった。

 

 少しでも思考に余白があると、祥子のことを考えてしまう。

 本人と対話もしない癖に、考えたところで出した答えは頭の中の空想上の彼女で産み出したモノになる。

 そんなモノに意味はないとわかっているからこそ、溜め息が漏れる。

 

「そういうの湊音的には可愛くない。と言うんじゃないかしら?」

「湊さん……」

「今井よ」

 

 いつもより少しだけ気合いの入った服を着た友希那が湊音の対面に座る。

 

「……俺は何時だって可愛いに決まってるじゃないですか」

「そういうことにしておいてあげるわ……ところで、この後時間あるかしら?」

「……また使いっ走りは嫌ですよ」

「今回はあの時のお礼。みたいなモノよ」

 

 この前のことを思い出すと、どうせ暇なことには変わりはないが自然と渋い表情になってしまう。

 懐からチケットを取り出した友希那がそれを湊音の前に置く。

 

「今日私達が出るライブのチケット。本当は渡す相手が居たのだけど、断られてしまったから貴方に渡しておくわ」

「じゃあありがたく貰っておきます……」

 

 Roseliaのライブと言えば、プロ入りしてからはチケットの競争率も跳ね上がり、かなりレアなモノであるはずである。

 それを蹴るというと、その人物は余程大事な予定が入っていたのだろう。

 友希那の気合いの入った格好にも納得が行ったが、それを断るというのは可愛くないとも思う。

 

「……怒ったりとかしてないんですね」

 

 化粧やお洒落は自分を良く見せるための手段で、その先の結果を求めているはずで、普段からそういうことに力を入れていない友希那がそのアクションを起こすのなら、かなり大事な相手だったはずである。

 

「怒る必要あるかしら? 昔の私なら、口喧嘩の一つや二つしていたかもしれないけど、今はそうじゃないもの……そろそろ行くわね」

「って、俺も行かないと」

 

 友希那を見送ってチケットの時間と場所を確認すると移動時間を考えると、開場まであまり時間が無かった。

 タクシーを呼んで会場まで送ってもらう。

 

(ギリギリに渡してくれる辺り、気にしてたんじゃ……)

 

 益々友希那のことがよくわからなくなった湊音はそのまま会場に入って指定された席に着く。

 開場から開演までの暇な時間に何となくSNSでRoseliaのことを調べていると、あるアカウントが目についた。

 

(イケナシエルって……どっかの天使の名前?)

 

 そのアカウントの書き込みを見ると今回のライブのS席を確保しているらしいが『約束と礎の花冠はやってほしい』『陽だまりロードナイトはギリギリ許せないけどSong I amとLOUDERはギリギリ許せる』など、厄介ファンであることがわかる。

 

(こうはなりたくないなぁ……)

 

 祥子が準備しているバンドに対してこういう形でインターネットで発散する人間にはなりたくないと心に反面教師として留めておくことにした。

 

「……音信不通になったと思ったらこんなところに居たのですね」

「──」

 

 隣の席に祥子が座った。

 彼女と一切の連絡を絶っているのに、こんなところで鉢合わせるとは思わず絶句する。

 

「今日はこの箱の視察に来たようなものなので、湊音をどうこうしようとは思いませんので、ご安心を……」

 

 嫌な汗を流しながら祥子から目を離せない湊音に対して、祥子は湊音を一瞥もせずにステージの上にだけ視線を注いでいた。

 

「……そう」

「でも、私はまだ──」

 

 諦めてはいない。

 そう呟いた祥子の言葉は開演と同時に響いた演奏に掻き消されて届かなかった。

 

『誰にも譲れない居場所があるんだと、逃げる言い訳を燃やすたび強くなれた』

 

 歌が、音が空間を支配した。

 その音に縛られていた湊音の心と視線がステージの方へ向く。

 

(これがプロの生演奏……ステージの幕が空いた瞬間にガラッと雰囲気が変わった……)

 

 こういうライブハウスではなく、アリーナレベルでのライブに来るのが初めてではないが、普段の知っている湊友希那ではなく、ノーブル・ローズと称されたRoseliaとしての湊友希那の実力に圧倒される。

 

『この先どんなに長い道のりだろうと、何を恐れることがある? 選ぶ先は正解しかないんだ!』

 

 自分達は頂点を目指すバンドとして止まるつもりはない。

 まずは自分達の音楽を聴け。話はそれからだと言わんばかりに、MCも挟まずに数曲立て続けにRoseliaという五つの音の集合体をその身に叩き込まれ、湊音が個人的に好きな燈の歌の『温かさ』ではなく、また別種の『熱』を身体に灯される。

 

 そのままRoseliaの奏でる音以外の他の音が耳に入らないほどに魅入られたまま、いつの間にかライブが終わっていた。

 

「湊音」

「……何?」

 

 それなのに、閉幕した直後の余韻すら突き破って祥子の声が心を冷ます。

 今度は先ほどまでRoseliaの居たステージの上から視線が離せない湊音と、伝えるべきを口にするために祥子は湊音を真っ直ぐ見据える。

 

「愛してほしいとも、許してほしいとも、手を伸ばしてほしいとも、わたくしがそう乞うことはしません。

 ですが……見ていてください。そして、いつか──いえ、今はそれだけですわ」

「わかった」

 

 その言葉を聞いた湊音は祥子の覚悟を確かめるように彼女の瞳を見る。

 顛末がどうなるかわからない。湊音にできることは本当にただ見るしかないのかもしれない。

 濁流に流されて、断絶する未来であっても、それを見届けることにした。

 

 かくして、舞台の幕は閉じて、次の演目の幕が開かれた。




これにて第一部。MyGO編もといムジカ結成編完結。
この回から第一話に繋がる形ですね。

というわけで今までぼかしてきた時系列の整理。

5→6→2→3→(今ここら辺)→1→4

たった千文字くらいを雑に書いたモノから良くもまぁここまで来たなと。

次回からムジカ編だけど、某シスコンと友希那のアレコレとか書きたいけど、それはただのガチ勢では? というお気持ち。
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