知能全損して書いてます。
『おかえりなさいませ。お嬢様』
教室の戸を開くと、メイド服に身を包んだ湊音と燕尾服に身を包んだ睦が祥子を出迎える。
(これは夢ですわね……)
脳がショートする前に戸を閉めて天を仰ぐ。
自分が月ノ森女子学園の廊下に居ることも、その制服を着ていることも本来はあり得ないのだから、これは夢でしかなかった。
(……ちょっとだけ、ちょっとだけですわ)
それはそれとして、自分の中に無くはない欲望が疼いてしまって、戸に手を掛ける。
決して、湊音のクラシカルメイドを見ておきたいという邪な感情ではない。
『おかえりなさいませ。お嬢様』
雑念を振り切ったつもりで雑念まみれの手で戸を開けると先ほどの光景が繰り返された。
(クラシカルメイド……いつものチョイスならミニスカートを選びそうだと思いましたが、なるほど、本格的にやるのであればヴィクトリアンですが、それでは事務的、といいますか、屋敷に使える一人という感触が否めません。
そこを現代風メイドかつ改造の幅が広いクラシカルメイドにピアノとギターの意匠と豊川の家紋を入れて、わたくし専属のメイドに仕上げてきているのが、憎いですわね……横の男装執事の睦がピアノと桜の花の意匠なのは双子従者としてもGOOD……!)
夢の中とは言え早口でべらべらと自分の癖をひけらかす訳にはいかず、脳汁ドバドバで熱く語るだけで留めておくために一言をひねり出す。
「……両手に華ですわ」
全然隠せてなかった。
「……? お嬢様?」
「最近、夜遅くまで作曲してるからって寝不足になるのは可愛くないなー」
芸能人家族の双子の顔面パワーの暴力に興奮して、迂闊な口のせいで双子から心配の表情と言葉を向けられてしまい、慌てて平静を取り戻してこの双子従者に挟まれても恥ずかしくない主人であるために表情を取り繕う。
教室の戸を跨ぐと夢特有の謎空間で中は屋敷の一室のようになっていた。
「問題ありませんわ」
学校なのか屋敷なのかいまいちわからないが、そんなことは祥子にとって正直どうでも良かった。
優雅に豪奢なソファーに座り、その両横に双子の従者を侍らせる。
「お嬢様。紅茶を……」
「俺からはクッキーを、さっき焼いてきたから出来立てだよ」
「もう一生これで良いですわ……!」
睦からは紅茶を、湊音からはクッキーを提供されて、それらの味とこの幸せ空間を噛みしめて言葉が漏れる。
こんな夢で彼を手に入れたところで意味が無いと頭でわかっているものの、これを悪夢というには幸せ過ぎる。
しかし、所詮は夢は夢。足掻いた今でも、戻れない過去でも、望んだ未来ですらない。
朝日が差し込むと同時に、祥子は夢から醒める。
「……クソみたいな夢で、クソみたいな現実ですわね」
起床してすぐに鏡で自分の顔を見て、酷い顔をしている自分を罵る。
一過性の奇妙な夢の中ではなく、どんな現実でも手に入れたいモノがあるのに、満たされかけた自分に反吐が出る。
(……やっぱり、欲しいですわ)
父親の汚いいびきを聞きながら登校の準備を終えて家を出た。
こんな家であんな夢を見るくらいなら、外に居た方がマシである。
(そろそろ、もう一度くらい湊音を勧誘してみて……ダメだったらまた手を考えましょう)
寝ても覚めても、考えることは一つだった。