ツインズ・リーフ   作:効果音

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今回からムジカ編。


A corpse is buried under the cherry tree.
これから繰り広げられます物語は


 季節は巡り、東京の年々増していく猛暑に苦しめられ、服のチョイスも涼しげになった頃。

 祥子の立ち上げたバンドAve mujicaが初ライブを終えた翌日、湊音は事務所に呼び出され、用事は終わったのだが、猛暑のせいで帰りたくなくなったせいで事務所内にあるAve mujicaが使用している部屋で涼んでいた。

 

(タイミング逃したなぁ……今日はオフらしいから、待ってたところで来ることもないけど、外暑いしなぁ)

 

 タクシーでも使えば良いのだが、それはそれとして帰るのが面倒臭い。

 用事も二、三つ言葉を交わすだけで終わることのためだけに呼び出されて、そのまま帰ってしまうと、勿体ない気がして帰れないでいた。

 

 十分程度椅子の上でぼんやりとSNSを覗いていると、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。

 オフの日にまでAve mujicaのことで作業がある人間と言えば限られていたため、無意識に湊音の身体が強張る。

 

 気不味くなる前に逃げようとすると、部屋に入ってきたのはギターボーカルの三角初華だった。

 

「ちょっと待って! 睦ちゃんか湊音くんか当てるから! 当てたい……!」

「……」

 

 軽く顔合わせだけしたことがあるくらいの面識しかなかったが、湊音か睦か、どちら見分けられるか試したくなったらしく、口を抑えて声を出すのを止められた。

 

「えーと……うーん……湊音くんの方かな?」

「正解。よくわかったな」

「なんか……似てるなって」

 

 数秒観察した初華が湊音であることを当ててみせた。

 本当の自分とは違う自分になるためのコーティングをしていることに初華は一方的にシンパシーを感じている。

 その反面、自分のモノとは違う光を放つそれに一種の同族嫌悪も同時に抱いた。

 

「そりゃあ双子なんだし似てるだろ」

「それもそうだね」

 

 似ている。という言葉が何を指しているのか、まるで検討が付かない。

 普段の湊音であれば、初華の抱えているものの正体が何かわからないまでも、その輪郭程度は感じ取っていただろう。

 しかし、未だに祥子のことが尾を引いている状態では、そんなことを察する余裕もなかった。

 

「ところで、今日はsumimi?」

「そうだよ。今日はもう収録とか終わったんだけど、mujicaの部屋の電気付いてたから、誰か居るのかなって」

 

 初華は元々は純田まなと二人でsumimiというアイドルユニットとしても活動している。

 Ave mujicaとの二足のわらじを履いているせいで、完全オフの日はあまりなく大変そうだというのが湊音が初華に抱いている印象である。

 

「事務所に顔出すようになってから色んな人に出ないかって言われててさぁ……役者はもうやらないって言ってるんだけどな」

「桜花嵐の桜が芸能事務所に出入りしてたらそうなるよ」

 

 キャストでは無いものの、もう一度芸能事務所に出入りする湊音を見れば、復帰するのだと思われることは多少は仕方のないことかもしれない。

 

「あ、それはそうと、mujicaのデビュー前にRoseliaのライブにさきちゃんと一緒に行ったんでしょ? どうだったの?」

「なんか話違くない?」

 

 Roseliaのライブに行ったらたまたま席が祥子と隣だったことはあったが、一緒に行った訳ではない。

 そもそもの話として、湊音が祥子と自分から会うことしようとは思わなければ、祥子も必要がなければ距離を置いているのが現状である。

 

「えっ、違うの?」

「俺は湊さんからチケット貰ってだけで、行ってみたら偶然さっちゃんが隣の席に居ただけ」

「そうなんだ。でも、さきちゃん嬉しそうだったよ?」

 

 その日はスタジオでの練習があったのだが、睦すら見たことがないくらいには祥子は上機嫌だった。

 

「どういう情緒してんだよ……」

「さきちゃんと幼馴染って聞いたけど、あんまり仲良くなかったりする……?」

 

 祥子の口から湊音の話が出ることが多く、それを聞かされていた初華は二人は付き合っているのかと錯覚するくらいには仲が良いと思っていたのだが、彼の反応を見てるとどうやらそうでもないらしい。

 

「……前までは仲良かったと思う。思うけど、今はちょっとギクシャクしちゃって……あんまりちゃんと話してない」

「じゃあ何でmujicaに……?」

 

 初華にだって人には言えないが、それなりの理由があってAve mujicaに居る。

 それなのに、そんな状態で祥子の率いるAve mujicaに関わろうと湊音が思った理由が気になってしまう。

 

「睦がこういうことにやる気のあるってことが結構珍しいんだよ。

 前のバンドやってた時以外はずっと一人でギター弾いてるだけの子でさ。やっぱり家族としては心配な訳で……そんな睦がそうしたいなら、なるべく手伝ってあげたいって双子として思うのは変かな?」

「……なんか、湊音くんってお兄さんっぽいね」

 

 それらしいことを自分ができている訳でもない。

 そういう存在としては最低な行為をしている自覚もある。

 だから、初華はそうあろうと行動できる湊音が羨ましくて妬ましく思える。

 

「どうだろうね。俺も睦もそこんところ興味ないから気にしてない」

「ふぅん……あ、ごめん。私そろそろ次の仕事の時間が……」

 

 初華のスマホにまなから連絡が入り、次の現場に向かわなければならなかった。

 

「昔からの夢だったんでしょ。頑張りなよ」

 

 sumimiがデビューした頃、まるで自分の事のように自慢してきた祥子の顔をよく覚えている。

 夢があって、それに向かって行ける初華を湊音は純粋に尊敬していた。

 

 それはそれとして可愛いのは自分の方だと主張する。

 

 初華と別れた後、いい加減に帰る気になった湊音は少し歩きたくなって徒歩で帰宅することにした。

 

(……そろそろ、本当に空が姉なのか。みなみちゃんかたあくんに聞いてみないとなぁ)

 

 週に一回は二人きりの時に空が顔を出すようになっていて、それでも大した問題は起きていないせいで慣れてしまった感はあるが、いざ本人に聞こうとすると引っ込んで睦に変わってしまうため、本当のことは聞けずじまいだった。

 

 両親に訊ねようにも、睦が居る時に聞くことでもなく、それに、なんだか聞いてしまってはいけないような気がして踏み込めないで居た。

 

(……これも、立派な悪癖なんだろうなぁ。我ながらそう簡単には変われないもんだ)

 

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