ツインズ・リーフ   作:効果音

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三日に一回更新途切れちゃった……
次回と連続させるか悩んだのと時間空きそうだったので、短めになったので色々ぐずぐずです。


桜の種を撒いて

「もうちょっと顎引いてみて」

「……こう?」

「そそ、そんな感じ……うん、完璧。世界で二番目、ギタリストで一番可愛い」

 

 化粧台の前で睦のメイクの仕上がりを確認した湊音が彼女と顔を並べて満足気に呟く。

 睦だけではなく、自分にも言っていそうで少しずついつもの調子に戻っているような気がした。

 

「ありがとう」

 

 睦が手に持った仮面を見つめる。

 祥子から渡されたそれはメンバーの中では一番顔を覆う面積が大きく、左目周辺以外は殆ど隠れてしまう。

 だから、折角施してもらったメイクもほぼ見えなくなってしまう。

 

「その仮面さ。口周り苦しくない?」

「……気にしたことなかった」

 

 睦が仮面を着けてモーティスになるところを見て、常々思っていたことを聞いてみる。

 普段、口を大きく開けることはない睦からしたら盲点だったらしく、仮面の上から口元を触ってハッとする。

 

「ご飯も食べられないし」

「……これ付けてるときは人形だから食べない」

「もう茶番は終わりまして?」

 

 時間が近づいたのか、仮面を着けた祥子、もといオブリビオニスが楽屋に入ってきてモーティスを呼び出す。

 

「若葉睦は貴方の双子ですが、モーティスはわたくしの妹ですので……モーティス、行きますわよ」

 

 仮面を着けている間は睦ではなく、モーティスであり、自分のモノだと主張するように双子の間に割って入った祥子が彼女の右頬を撫でる。

 

「オブリビオニスとモーティスじゃなくて、さっちゃんと睦でしょ」

 

 可愛くない人形にはならない。

 それだけの話なのだが、湊音は祥子の選んだAve mujicaというスタンスが気に入らない。

 バンドを新しくやるのであれば、特に言うことはなかったが、仮面を着けて心をひた隠しにするCRYCHICを否定するようなコンセプトのバンドをやろうということが、ただひたすらに可愛くない。

 

「Ave mujicaに加入するもしないも、お好きにどうぞ。ただし、わたくし達の邪魔だけはなさらぬように。モーティス、行きますわよ」

「……」

 

 仮面の下の表情は読み取れないが、睦が申し訳なさそうな目線を湊音に送って、二人は楽屋を出ていく。

 

(さて、どうしようかな。さっちゃんの動機はともかく、睦の邪魔はしたくないし、中で待ってるのが良さそうだよな……)

 

 適当な椅子に座ってスマホでSNSを見ているとにゃむちチャンネルの動画が流れてきた。

 どうせ今はこれと言って見たい動画も無いため、とりあえずその動画のサムネイルをタップして再生ボタンを押した。

 

(この挨拶、三日三晩寝ずに考えたのかな?)

 

 動画冒頭の挨拶を見ると、一度だけ子役をやっていた頃の睦と共演したことがある子役を見ている気分になる。

 売れるためにそういうキャラ付けをしていることが可愛くはない。そんな感じがした。

 

「お疲れ様ーって……湊音だけか」

「お疲れ様。そっちは別口で写真撮影だったっけ?」

「そ。じゃなくて、本人の目の前で動画見ないでってば」

 

 湊音の背後に回った若麦がスマホを取り上げて動画を停止させる。

 

「ムーコの専属スタッフとはいえ、タレントじゃない人間が楽屋で動画見てるのはどうなの?」

「俺と睦が同じくらい可愛いから仕方ない。俺の方が可愛いけどな」

 

 湊音にスマホを返した若麦が対面の椅子に座る。

 彼も彼で顔が同じだからという理由で時間を拘束されていることに同情する気持ちが若麦にもなくはない。

 

「アンタさぁ。こういうの、文句ないワケ?」

「別に? 俺がそれだけ可愛いってことだし、睦がバンド頑張るなら応援するのは当たり前じゃん」

 

 前にも似たようなことを初華にも言ったと思いつつ、ケータリングのおにぎりに一つ手を伸ばして頬張る。

 それを見た若麦は、こいつよく食うなと楽屋入りした直後も持参していたサンドイッチを食べていたことを思い出しながら呆れた顔をした。

 

「私さ。田舎から上京して、家に居るチビ達の世話とかも全部母親に押し付けて来てんの。

 失敗して帰るなんてダサい真似できない。

 だから、アンタがフラフラしてるくらいなら、私に協力してほしいんだけど」

 

 あの舞台の上で華やいでいた桜でないのなら、それをまた咲かせれば良い。

 だけど、本人のやる気がないのであれば、どこかでケチが着く。

 

「ふーん。鮭だ……」

 

 目的はともかくとして、要するに田舎から出てきて、親に対して負い目もあるから失敗できず、死にもの狂いで努力してきたこともわかる。

 おにぎりの具は鮭だった。上から六番目くらいに好きな具だった。

 

「にゃむちは好きじゃないけど、祐天寺若麦は可愛いんじゃないかな。まぁ、にゃむちを捨てろとは言わないけど。それひっくるめて可愛いって感じ」

「はぁ? 何それ。湊音語やめてくんない?」

 

 自分もそうだったから、世間的に可愛いと言われるために努力することは、ましてや専門知識を仕入れてそれを発信して活動するのは大変であることはわかる。

 

「そういえば、アンタそういう言動しててパスパレとか好きじゃないの結構意外だよね」

「パスパレかぁ。睦は割と好きみたいだけど、パスパレというより……」

 

 睦が子役をやっていた時のことが原因で、苦手意識を持っている人物が居る。

 湊音がAve mujicaに同行していて、その人物に出会ってしまうことが避けたいことの一つで不安なことだった。

 

「あ、ごめんちょっと電話……もしもし? お母さん。今ちょっと……うん、うん……いや、大丈夫だから! あー、チビ達には夜掛け直すって言っといて! 今外だから! じゃあね」

 

 若麦が電話に出ると、相手の言っていることはわからなかったが、良い姉をやっていることは何となく湊音には伝わった。

 

「そういうの、もっと出せば良いのに。勿体無い」

「うっさい」

 

 電話を切った若麦に対してジト目を向けながら、また一つおにぎりに手を伸ばす。

 

「高菜……」

 

 上から三番目くらいに好きな具だった。




湊音の苦手な人物は出るかもしれないし出ないかもしれない。
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