ツインズ・リーフ   作:効果音

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言った言ってない論争この世で三番目くらいに不毛

(……武道館ライブ。ねぇ……二、三ヶ月で行くとこまで行き過ぎな気がするけど)

 

 祥子の手腕のおかげか、何者かが敷いたレールの上を走らされてるかのような、それともその両方の相乗効果なのか。Ave mujicaの活動はトントン拍子で広まっていき、ついには武道館ライブが決まっていて、活動もそれに向けた宣伝と練習の活動がメインになっていた。

 

 湊音も一応スタッフとしてカウントされているものの、実際に動く睦達ほど忙しい訳ではないため、トラブルが起きないことを祈りながら、自室で髪型のセットに頭を悩ませていた。

 

「へぶらっ!?」

「ペアルックデート! しよ!」

 

 突如としてドアを壊さんとする勢いで部屋に入ってきた空が湊音の横っ腹に激突して、流石に座った状態で意識外からのタックルには身構える暇もなく椅子から転げ落ちた。

 

「……あのさ、せめて普通に誘えない?」

「普通だけど?」

 

 何とか受け身を取って大の字になった湊音を、椅子の上でうつ伏せになって覗き込むような姿勢で、不思議そうな表情を空が向けてくる。

 

「それよりペアルックしよ! その青いワンピもう一つない?」

「あー、睦のもあるはずだけど……確か色は薄黄緑だった気が……」

「えー、色もお揃いが良かったなー」

 

 空が表に出てきている時はいつもこうだ。

 何処かに行きたいと言い出して連れ回されたり、何が食べたいと言われて店を探す羽目になったと思ったら見つけた瞬間に別のが良いと言われたり、慣れてしまいたくもないことに慣れてしまった。

 

「まぁ、いいや、着替えて来るから終わったらメイクもよろしくね」

「……ワガママの好き放題過ぎる」

 

 目当ての服を自分の部屋に探しに出ていった空が部屋を出ていったのを確認してから湊音は少しだけ痛む頭を擦りながら起き上がる。

 

 ペアルック。というのであれば髪型も合わせた方が好ましいだろう。

 服装に合わせるのであれば、やはりストレートかそれに少しウェーブを掛けるゆるふわ系か。

 

(まぁ、どうせ動き回って崩れるんだよなぁ……)

 

 空の挙動を考えると何とも言えない気持ちになる。

 とりあえず自分を実験台にして、幾つかパターンを試した後に一番しっくりきたハーフアップで行くことにして、睦の部屋に向かって空を呼び出しに行く。

 

「空ー? 見つかったー?」

「見つかんない! 睦ちゃん自分の服に興味なさ過ぎ!」

 

 睦の服の管理にキレてクローゼットの中からハンガーに掛けられている服と服の間で蓑虫のように顔を出している空が不機嫌そうな表情をしていた。

 

「とりあえず、一枚だけ撮って、と……クローゼットと棚の中に無かった?」

「無い!」

 

 蓑虫やっている空が可愛かったのでスマホで写真を一枚撮ってから、軽くクローゼットの中身を覗くと本当に例のワンピースは無かったため有りそうな場所のアタリをつける。

 

「じゃあ俺の部屋かも。睦は他の服と取り替える時、俺の部屋に別の服を置いていく癖があるから」

 

 大人しいように見えてかなり気分屋の睦は着る服の選定もいつも同じ服を着ている時もあれば、たまに湊音の部屋から服を持っていくこともあり、双子故に人生と同じ時間の付き合いのある湊音ですら困惑させられる時がある。

 

「二度手間じゃん! 早く行こ!」

 

 再び湊音の部屋に向かってクローゼットを開くと衣替えした服のラインナップ中に探していたワンピースが見つかり、それを持って着替えに行った空をリビングで麦茶を飲みながら待つこと数分。

 

「じゃーん、どう?」

「可愛いんじゃない? 俺の方が可愛いけど」

「一言多いなぁ。とりあえずどっか行かない?」

「はいはい」

 

 着替えてきた空がドヤ顔でくるりと身体を一回転させながら見せびらかしてきたものの、ある意味見慣れているせいで新鮮味は無い。

 財布とスマホと水筒を入れたミニハンドバッグを持って二人で外に出る。

 外はもうすっかり夏ではあるものの、比較的過ごしやすい気温であったおかげで日傘は必要なさそうだった。

 

「色々気を遣うの面倒だから聞くんだけど、あの日、祥子ちゃんと何かあったよね?」

 

 駅前の商業区に着いた辺りで、単刀直入に湊音に問い質す。

 

「……それは睦にも言ったけど、バンドに誘われただけで──」

「そういうの良いから。バンド誘われただけならあんなにギクシャクしないでしょ……あそこのカフェ入ろっか」

 

 睦から相談されていて、大体のことは知っているが、何かがあったことはわかるだけで、その何かが何かわからない以上はどうしようもない。

 たまたま空の目に付いた渋めのおじさんがマスターをやっていそうな趣の店に湊音を連れ込む。

 

「いらっしゃいませー」

 

 店の中に入ると、若干癖っ毛の茶髪の学生バイトの男性店員が出迎えてテーブル席に案内された。

 

「あの人、名札の名前学生バイトだったね」

「コンビニとかでもハケンとか書いてあることあるし、そんなもんなんじゃない?」

 

 注文した炭酸ドリンクが届いた後、空が一口だけ飲んでみたが、炭酸が口の中で弾けるのが苦手ですぐにストローから口を離した。

 

「まぁ、それはどうでもいいんだけどね。で、祥子ちゃんと何があったの?

 いや、聞き方変えるね。何かされたの?」

 

 どうでも良いことで話題を流そうとした湊音だったが、空がそうはさせまいと話を戻す。

 

「それは……」

「……わかった。もう聞かない。言えないくらいのことなら、無理に話さなくていいよ」

「なら、最初から聞くなよ……」

 

 一分ほど沈黙が流れ、湊音が祥子にされて嫌なことで、他人に言えないようなこととなれば、大体の察しは付く。

 

「じゃあ、待ってれば話してくれたの?」

「それは……違うけどさ」

 

 性的に襲われかけた。

 と、口にしてしまえば、口にしてしまえることなら、どれだけ楽だっただろうか。

 他人に話せずに、自分の中で抱えておくしかないからこそ、トラウマはトラウマなのであって、ここでおいそれと話せてしまうのなら、湊音は睦に打ち明けている筈である。

 

(この感じなら、本命の話は聞けるかな?)

 

 湊音と祥子の間にあったことが気になっていたのは空の個人的なことで、睦が気にしていたことの方が本題である。

 

「何で睦ちゃんのこと、手伝ってくれてるの? 前の、CRYCHICの時はノータッチだったじゃん」

 

 世界で一番可愛いギタリストやら、世界で二番目に可愛いと褒めてくるものの、睦が専属メイクに指名したとはいえ、今まで彼女のバンド活動に一切手を貸してこなかった湊音の心変わりが引っ掛かる。

 

「そりゃ……まぁ、CRYCHICがああいう終わり方しちゃったし……」

「ふーん……なるほどねー」

 

 自分でも何がしたいのか。湊音自身にも理解できてはいない。

 

 祥子のことを見守れる範囲の立ち位置で、それらしい理由を付けられれば、何でも良かったという話で、言ってしまえば自分の都合で睦を言い訳に使っているだけに過ぎない。

 言動だけは少しずつ不調から回復しつつあるが、そういうところからまだ本調子ではないことを示していた。

 それを薄々勘づいていた上で、受け入れている睦も睦だが、本人がそれで良いなら空がしてやれることはない。

 

「まぁ、いいや……ところでさ、これ、飲んでくれない? 私炭酸ダメっぽい」

「……ホントにさぁ。両方炭酸頼んじゃったじゃん」

 

 最初の一口から一切手を付けていないと思ったら予想通りダメだったらしく、呆れながら湊音が二つ分のドリンクを飲み切って、新しく別のドリンクを注文した。

 

「このペア専用ジンジャーエールってやつ、追加で頼んでみて良い?」

「炭酸ダメって話でしょ! 他のにしなさい他のに! 俺一人で飲むのは流石にきついって!」

 

 その場のノリで飲めもしないモノを頼もうとする空に呆れながら彼女の持つメニュー表を取り上げていると、店のドアが開いて鈴の音が鳴る。

 

「いらっしゃいませー……って、うわ出た」

「あら、結構な言い分じゃない。このバイト先をあの人にバラされたいのかしら?」

「冗談きついですって、サービスしとくんで黙っててくださいよ?」

 

 どうやら店の常連らしく、バイトと軽く雑談しながら席に通される。

 その通り道で湊音と空の座っているテーブルを横切ってしまったせいで、その人物の顔が見えてしまった。

 

 双子の顔に気づいたその人物もここで会ったが百年目。といった表情を浮かべる。

 

「……珍しい顔ぶれに会うものね」

「お知り合い?」

「子役時代にちょっと、ね」

 

 白鷺千聖。

 湊音が願わくば会いたくない人間を、可愛くないが敢えてランキング化するのであれば、今の祥子より上に来る人物である。

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