ツインズ・リーフ   作:効果音

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M2-因縁

「相変わらず、双子で仲良くやっているみたいね」

「役者は辞めても人間辞めるわけにはいかないんで、まぁ……」

 

 千聖から張りついたような笑顔を向けられた湊音は何とも言えない表情を返すしかなかった。

 ちらと空の方を見ると、千聖を感じ取って目覚めた睦と交代していた。

 

「席はここで良いわ」

「はーい。注文はいつもので?」

「えぇ、頼むわ」

「……そっち行く」

 

 千聖が双子と同じテーブルに座る旨をバイトに伝えると、睦が湊音の隣に席を移し、双子の対面に千聖が座った。

 好きなグループのメンバーが目の前にいるせいか、睦は相変わらず湊音以外の他人からはわからないが、少しだけ浮かれていた。

 

「双子水入らずのところに悪いわね」

「いや、ホントに……」

 

 売り言葉に買い言葉。

 湊音としては千聖が嫌いというわけではないのだが、わざわざ相席されて嬉しくはない。

 睦がファンでなければ断っている。

 

「あら、私も嫌われたみたいね。昔のことなんてもう、全然、気にしてないのに」

「それ気にしてる人の言い方じゃないですか」

 

 桜花嵐の全公演が終了した後、湊音にドラマや演劇のオファーが殺到したのだが、当時祥子に出会い、化粧やファッションについて勉強していた彼は、オファーを全て断っていた。

 

 一部のオファーは睦が受けていて、その中の役の一つは当時同じく子役であった千聖がオーディションで勝ち取っていた役だった。

 

 そのドラマの監督とプロデューサーがオーディションと役の選定が終わった後に話題性を優先した結果、キャスト発表前というのを良いことに急なキャスト変更をした結果、睦に役を盗られたということがあった。

 

「実力で私が劣っていただけの話よ。それにあのドラマも評判が良かったなら、当時のキャスティングが正しかったということでもあるし」

 

 問題は湊音が原因であるのに、その役を引き受けて成功させたのも睦であるということにある。

 

 ドラマが成功するにしろ失敗するにしろ。役を奪った本人が演じていれば、湊音の実力がそうだったという話なのだが、実際に演じたのは睦だったせいで、当時の千聖は感情のぶつける先を見失っていた。

 

 その結果、若葉の双子(ツインズ・リーフ)として出演していたバラエティー番組や睦のドラマの撮影に付き添いで現場に居た湊音に会う度、カメラの外でそこそこ当たりの強い対応をしてしまったせいで、彼から苦手意識を持たれてしまっている。

 

「俺は世界一可愛いので、同じ顔してる睦はその次に可愛いので……」

「そういうところよ」

 

 それはそれとして才能を腐らせている湊音のことは気に食わない。

 初演技であそこまでの話題性を出しただけの人間に負けたまま芸能界で生きていくことは千聖にとって屈辱でしかない。

 

(一緒に写真撮ってもらえるかな……?)

(睦ちゃんって結構図太いよね)

 

 睦は二人の話をただ聞いていたわけでも仲裁するでもなく、Pastel*Palettesの一ファンとして、何を話すか長考していた。

 Ave mujicaとは違う事務所所属でもあり、仮面バンドである以上、現場ですれ違ったとしても祥子がバンドの世界観を守るためにと接触できなかった。

 

(だけど……今は違う。ギュッ)

(何の音……?)

 

 モーティスではなく若葉睦であれば、いくらでもファンとして接することができる。

 とはいえ、普段から口数も少なく、表情の変化も乏しい睦にはテンションの上下はあまり関係ない話である。

 

「今の俺に演技は無理ですよ。あの頃の俺じゃなかったら桜は演じれなかったですし、あの演技を見て俺を使いたいって言うなら、それに応えることはできないので、ガッカリさせるだけかと」

「随分と弱気ね。世界一可愛いんじゃなかったのかしら?」

「──写真、いいですか?」

 

 二人が作ったヒリついた空気の中てようやく長考を終えた睦が放った第一声がそれだった。

 

「……え? えぇ、良いわよ。ただSNSとかお友達には広めないでね」

「む、睦? そんなにパスパレのこと好きだったのか?」

 

 二人は唐突なファン仕草に困惑する睦に困惑していた。

 それを全く意に介さない彼女は湊音にスマホを渡して千聖の隣にちょこんと座る。

 

「本当に撮るのね……」

「睦がすみません。世界で二番目に可愛いので……」

 

 千聖としては睦に湊音ほど面倒臭い感情は向けていないし、ただのファンとしてツーショットを求めてくるのは可愛いとは思うが、それはそれで複雑な気持ちにはなる。

 

(マイペースだとしても、こんなにだったかな……)

 

 どうにも最近の睦は空に引っ張られているというか、変わってないようで変わった気がするような。

 そんな言語化できない感覚に襲われながらも、湊音は睦のスマホのカメラ機能でシャッターを切った。

 

「はい、可愛い」

 

 その後は余程嬉しかったのか、スマホで撮った写真を食い入るように見つめる睦を見て、二人は毒気を抜かれたのか普通に憎まれ口を叩き合うこともなく普通にお茶をして解散となった。

 

「じゃあ俺達はそろそろ行くんで……」

「そう。会計は私が済ませておくわ。この後は二人でどこかおでかけ?」

 

 湊音の中でカテゴライズするのであれば、なんだかんだで千聖は良い人という判定ではあるため、苦手であっても嫌いにはなれない。

 

「ありがとうございます。特に目的地はないんでどっかぶらぶらするとは思います」

 

 睦もお辞儀をしたのを見てから遠慮なく会計は千聖に任せて双子は喫茶店を出た。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 同時刻。

 祥子は裏方業務もなく、完全オフの日として、噴水のある公園のベンチで青空の下で読書に没頭していた。

 今日は比較的涼しい気温で、日影に居ればあまり夏の暑さも気にならない。

 茶菓子と紅茶と、可愛い話相手がこの場に存在すれば完璧だったのだが、どれも用意するのが今は厳しい。

 

「あのアパートに居たくないのなら、御屋敷に戻られてはいかがでしょうか?」

 

 背後のベンチの対角線上に座った背広を着た男が、新聞紙のテレビ欄右上を捲りながら祥子に顔を向けずに声を掛けられて、顔をしかめる。

 

(声に覚えはありますが、名前はわかりませんわね)

 

 昔、豊川家の一族が開いたパーティーに連れていかれた時に聞いたような気がする声ではあったが、恐らく直接会話したことはないことだけは覚えていた。

 

「何の派閥か知りませんが、ただの高校生を担いだところで何にもなりませんわ」

「敢えて名乗るなら、そうですね……『純血派』とでも言えば伝わりますか?」

 

 現在、豊川の本家を取り仕切っている祥子の祖父である豊川定治も、追放されてしまった父の清告も婿養子であり、血筋の祖母も母も既に亡くなっている。

 女子高校生一人を持ち上げている組織など、たかが知れており、かなり弱っている派閥である。

 

「令和の日本で貴族主義でもやるおつもりで? ナンセンスですわ」

 

 背広の男としては、祥子が小娘だろうがなんだろうがどうでも良い。

 そんなことよりか、家に帰っての食事と明日の朝に今日の件をどう報告するかの方が大事で憂鬱そうな溜め息が漏れ出た。

 

「私だってそう思います。今日は軽くご挨拶しにきただけですし、誘拐して無理矢理神輿に担いで傀儡に。というわけではありませんので、御安心を」

「胡散臭いですわね」

「これは手厳しい……逆の立場なら私も同じことを言いますがね」

 

 純血派もやろうと思えば、黒いことをやってもいくらでも揉み消すことは可能ではあるが、それをやるのは今でもなければ、できれば未来でもあってほしくはない。

 

「あの若葉の湊音の方ですが、まだ執着されるおつもりなら、しっかりとした首輪をお着けになられた方が良いかと。

 最近、定治(じじい)の手のモノが嗅ぎ回ってるとの噂ですので、では、私はこれにて」

 

 この忠告に嘘ではないが真実でもない。

 確かに豊川の家の人間が湊音の回りをうろちょろしていることは確かで、最悪の場合彼に手を出すことを伺っている人間が居るのも確かである。

 が、それはイコールでもない。

 

 この情報を流したことは男の独断で完全な思い付きによるものだが、何かあったらしいが話だけは聞いてて純血派内でもそれなりに話題性のある恋路が邪魔されないのであればそれで良い。

 男は新聞紙のテレビ欄の右上を少し破って、それ以外の部分を丸めて目の前にあったゴミ箱に捨ててその場を後にした。

 

(……やはり、家から逃れられない運命(さだめ)ならば……わたくしは……)

 

 同じ地獄を歩いてくれないのであれば、巻き込むこともないと安堵と、それでも彼が隣に居てくれたらという執着が、祥子の心をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。




あんまり気にしても仕方ないんですが、評価10が取り消されてるのそこそこ悲しい。
なんか思ってたより気にしてた自分に驚いたのもありますが。
なので高評価とか感想とか諸々されると喜びます(承認欲求のアバレモード)
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