ツインズ・リーフ   作:効果音

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打ち切りのその先で。

「あ、ごめん。ちょっと行ってきて良い?」

「本屋見て待ってる」

 

 弁当を食べ終えた双子は本日の目的地であるショッピングモールに到着した。

 が、早々に湊音が尿意を催したため、申し訳なさそうにトイレを指を差す。

 

(意外ときゅうりの水分でキタかもしれない……なんてね)

 

 あまり待たせてしまうのも可愛くないためさっさと済ませようと男子トイレに入ろうとすると背後から何者かに手首を掴まれた。

 

「うぇっ」

「ちょっと、そこ男子トイレなんですけど?」

 

 変な声が出ながらも後ろに向き直るとピンク髪の同じ年頃の女子がジト目で湊音を見ていた。

 見た目は女子同然の湊音が男子トイレに入ろうとしていると、大体は驚かれるもののスルーされるのだが、時折こういうことがある。

 

「あー、こう見えても俺は男の子なんだよね」

「むー……にしてもちょっと、女の子過ぎない?」

 

 慣れた手付きでフリル付きチョーカーを下ろして喉仏を見せても眼前の少女は納得してくれる様子はない。

 周囲からの視線が集まると些か面倒な事情もあるため、すぐに切り上げたいところではある。

 

「可愛いと言ってくれない? せっかくそういう服着てるんだからさ」

「どっちにしろヘンタイじゃん……!」

 

 これ以上踏み込んだ物理的な証拠を要求してしまうと逆セクハラをする羽目になってしまい、本当に男だった場合色々と不味い。

 そもそもの話。女子だったとしたらわざわざ男子トイレに入ろうとすることは余程のことがなければない。として少女は無理矢理飲み込んだ。

 

「まぁ、いいや……私も人待たせてるし」

「じゃ、また何処かで」

 

 一悶着ありつつも、ようやく便器に座った瞬間に湊音のスマホから着信音が響く。

 

『私もしてくる』

 

 睦から簡潔な文面の連絡が来た。

 湊音が戻った際にすれ違いにならないようにと思ったのだろう。

 適当に返信をして用を足して、男子トイレを出ると数分前のリプレイが発生していた。

 

「だーかーら! 女の子に見間違われやすくても男子が女子トイレに入るのは犯罪なんだよ!」

「……私……じゃない……」

「服まで着替えてって、お一人様限定個数を不正ですり抜けるみたいなやり方してさぁ!」

 

 先ほどのピンク髪の少女と女子トイレで鉢合わせてしまったであろう睦が問い詰められていた。

 湊音と睦、どちらと先に出会うかで印象は変わってしまう。

 湊音と先に出会ってしまったピンク髪の少女は正しく女子トイレを利用しようとした睦が服を着替えて入り込もうとした湊音にしか見えなかったのだろう。

 

「よっ、さっきぶり」

 

 自身の可愛さのあまり睦に迷惑を掛けてしまうのは可愛くない。

 慌てず騒がずに二人の間に割っては入って気さくに挨拶をする。

 すると睦はホッとしたようで、ピンク髪の少女の方は同じ顔が二つ並んだせいで、目をぱちくりさせて二人を見比べた。

 

「えっ? ええっ? どういうこと!? ドッペルゲンガー!? 私もしかして呪われてるぅー!?」

「三つ子ではないから、まだ世界三大可愛いは一つ空いてるから安心していいぞ」

「自分達を世界で一、二番だと思ってらっしゃる?」

 

 ピンク髪の少女が驚いてる隙に睦にアイコンタクトを送ってトイレに向かわせる。

 

「そういや名乗ってなかったな。若葉湊音。あっちは睦。多分昔テレビとかで見たことあるんじゃないか?」

「あ、あー!! 若葉の! え、じゃあ昔から全然男の子っぽくならずに成長したってこと?」

「宇宙一可愛い俺なら当たり前の事だね」

 

 芸人である父と女優である母の子供として、昔はメディアでピックアップされることもあり『若葉の双子(ツインズ・リーフ)』と呼ばれていた時期もあった。

 それも昔の話で芸能界としては過去の人扱いで、現在の若葉の双子(ツインズ・リーフ)を知る人は少ない。

 学校ではせいぜい昔テレビ出てたよね程度の認知でしかない。

 

「ていうか……その自画自賛可愛いムーヴって素なんだ」

「可愛いことは事実だからな。可愛い俺が可愛いを自覚して可愛くなるのは義務だ。ところで世界で百番内に入ってそうな可愛いお前の名前は?」

「その言い方褒めてないでしょ……千早愛音」

 

 メディアに出ていた幼い頃の湊音と成長した実際の湊音にギャップがなく、芸能界特有の作られた仮面としてやっていたと思っていた言動が彼そのものだと知ってしまい、愛音はげっそりしながら名乗った。

 

 こんなことなら作られた仮面であって欲しかった。

 湊音が客観的に見てそこら辺に生息している女子高生より可愛いことだけは事実なのは変わりなく、なんだかやるせない気持ちにさせられる。

 

「じゃああっちが睦ちゃんかー、そういえば昔から気になってたけどどっちが上なの?」

「愚問だな。俺達は二人とも可愛い。だからどっちが兄だとか姉だとかは関係ない」

「あ、もう良いです。私も人と出掛けてる最中だったから待たせちゃうと不味いし」

 

 これ以上は話が長くなりそうだと直感した愛音は話を強制終了させた。

 

「近場に住んでるならまたどっかで会うかもな」

「……いや、最後に一つだけお願いして良い?」

「何?」

「写真撮らせて貰っても?」

 

 なんだかんだでミーハーな愛音は湊音との自撮りツーショットを希望した。

 そういうことなら湊音は普段から頼まれることもあってか慣れた手付きで携帯してる自撮り棒を取り出した。

 

「俺だけなら良いよ。睦はそういうの苦手だから」

「やったー! 今度りっきーに自慢しよ」

「そのりっきーとやらに俺の可愛いところちゃんと見せてやってほしい」

 

 二人でポーズを取って、せーので写真を撮る。

 写真映りには口煩いギタリストをやっている『ししょー』のお陰で湊音にとってはお手の物で一発撮りで終わることができた。

 

「じゃあ急いでるんでこれで失礼しまーす。あ、睦ちゃんにはごめんなさいって伝えておいてくれると……」

「俺からも睦に謝っとくから、友達をあまり待たせるなよ。可愛いポイントマイナスされるぞ」

 

 謎のポイントを引かれても困りはしないが、引かれるのも癪に思いながら愛音は自分が人を呼んだ集合場所へと向かっていく。

 

「さっきの人は?」

「友達待たせてるからってどっか行った。ごめんなさいだってよ。俺もごめんな。俺が可愛いばっかりに」

「……いつものことだからいい」

「なんかあった? 言ってくれないと、わっかんないや」

 

 睦が戻ってきて、これでようやくこれでデート再開と相成ったわけだが、何かを気にしている様子の彼女を察して湊音から睦に話すように促す。

 

「何、話してた?」

「ん? あー、若葉の双子(ツインズ・リーフ)だったんだーとか、どっちが上なのかとか、それくらい」

「そう」

 

 気になって聞いてみたものの、特に気にすることは無かったせいかすぐにその話題に興味をなくしたらしく、ボケーっと何処か宙を見上げる。

 

「服、買いに行くか。この時期は次のシーズンの服買って用意しておくのが吉だからな」

「ん」

 

 本来の目的であるショッピングに戻った双子は何軒か懇意にしているブランドの店を見て回る。

 

 こうして双子で服を買いに来るのは、同じ顔、同じ体格なら似合う服も必然的に近しくなる。

 もっと言えば湊音の判断で睦のコーディネートも決めるため、彼が全て自分で試着しているため一人ファッションショーが始まり、その最中に気に入ったものを選んで二人で分けるという形を取っている。

 

 ファッションそのものには頓着しない上に湊音が選ぶものなら間違いはなく、試着を面倒だとも思っている睦からしたらこれ以上に楽なことはない。

 

「これでまた可愛くなってしまう」

 

 ショッピングを終えた双子はショッパーを一つずつ持ってウィンドウショッピングに興じていると、睦がフードコート近くのキッチンカーに目を向ける。

 

「……クレープ」

「最近話題になってるやつか、運良く誰も並んでないし……食べる?」

 

 湊音が尋ねるとこくんと首を縦に振った睦と共にキッチンカーの前に行く。

 気分的には酸味が強い系。しかしレモンが良いというわけではなく、甘さの中に確かな酸味を感じれるものが良い。とラミネートされたメニュー表を手に取る。

 

「いちごとブルーベリー。一つずつ」

「珍しい……」

 

 メニュー表に目を通す前に、睦が二人分の注文と会計を済ませてしまった。

 二つ以上食べたいものがある時はシェアはするが、睦から言い出すことは少ない。

 余程、クレープが気になっていて予めリサーチもしていたのだろうと湊音は自己完結した。

 

「あっち」

 

 イチゴのクレープを手渡されて、二人掛けのベンチに座る。

 陽当たりも良くて眩しくもないちょうど良いところに座れてしまったせいで心地よさのあまり寝てしまいかねないと思える良い席だった。

 

「先にそっち、一口ちょうだい」

「はい。そっちのも一口もらう」

 

 クレープを一口ずつ食べさせ合う。

 昔はメディア用の写真でやることも多かったが、二人きりではないと滅多にこういうことはやらなくなったせいで懐かしい気持ちにさせられた。

 

「話題になるだけはあって美味しいな。あ、睦そのままでストップ」

「?」

 

 まだクレープに口をつけてる睦にスマホのカメラを向けて一枚だけ写真を撮る。

 

 あまり自撮りをしない睦のシャッターチャンスは逃せない。

 顔の良さや口の端から少し漏れているクリーム等のロケーションのお陰で加工せずとも可愛い写真が撮れる。

 自分の顔は自撮りでしか撮れないが、可愛いと確信したタイミングで自分と同じ顔を第三者の視点で撮れるというのは対象が湊音ではなく、睦だからできることである。

 

 湊音が撮る写真に限ってはあまりカメラを向けたがらない睦も素直に被写体となってくれる。

 

「あら、貴方達。奇遇ね」

 

 双子が仲良くクレープを食べていると、銀色の髪に全体的に黒を基調としたコーデの女子大学生が声を掛ける。

 

 湊友希那。

 大ガールズバンド時代初期に結成されたRoseliaのボーカルで、メジャーデビューを果たしてバンド活動に追われながらも大学生の二足のわらじを履く、かなり多忙な生活をしている。

 

 双子とはちょっとした縁で知り合った。

 たまにこうして街中で会うこともあるせいでたまにRoseliaのライブチケットをもらうこともある。

 

「湊さ──」

「今井よ」

 

 湊さん。と呼ぼうとすると「湊音と名前が被るから紛らわしい」と言い出し友希那は『今井』を都合良く名乗り出す。

 いつものことではあるものの、その執着の根源がわからず湊音は恐怖を覚える。

 

「え、でも、まだプロポーズされてないって、この前下北まで来て愚痴ってませんでしたっけ?」

「今井よ」

 

 こんな感じのせいで双子からは『様子のおかしい自称今井の3LDK一人暮らしお姉さん』として認知されていた。

 

「実は今井じゃなくて、今はまだ湊なの。まだ彼が大学受験中だし、そもそも付き合ってすらいないのだけど」

「それなら彼じゃないしプロポーズ以前の問題……」

「心は今井よ。双子水入らずのデートの邪魔はしないわ」

 

 深刻そうに告白をしてショッピングモールの中へと消えていった友希那を双子は見送る。

 露骨に誰かと住む予定の家で待ち構えられていると思うと、未だ知らぬ今井という男に憐れみを感じざるを得ない。

 

「……今井って人会ったことある?」

「いや、俺はない……」

「私もベースの今井さんとは会ったことあるけど、男の今井さんは見たことない」

 

 何年かの時を経ても湊友希那の恋の青薔薇はまだ咲いていないのかもしれない。




元企画に告白をするのは『第三者』ではいけないとは書いてないのと近親は倫理的に不味いですよ! なのでこうなりました。
わかる人にはわかれば良いネタ多数。
そりゃ禁止事項的に参加できるわけないやろがい!

一応リンク
https://x.com/Rhythm_Johannes/status/1847971081463726253?t=eO4HRubdkGJn509PaZVxOg&s=19
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